<アメリカン・スナイパー(American Sniper・米・2014)>★★★★☆
久しぶりに試写会でクリント・イーストウッドの新作を見て来ました。前作<ジャージー・ボーイズ>も試写会で見ましたが、題材が私好みでないせいもありましたが、正直言ってイーストウッド監督も80歳を越して老いたなと失望したので余り期待せずに行きました。しかし、この作品を見て、彼の”硫黄島”2部作以来の迫力と真摯な内容に私の杞憂は吹っ飛び、彼の健在ぶりを感じました。
イラク戦争に際して、直接攻撃を行う海兵隊の防衛のために海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員として過酷な訓練を経て派遣され、米軍史上最多の160人の敵を射殺し、自軍からは”レジェンド”として賛美される一方、その存在は敵方にも広まり、彼の射殺に多額の懸賞金を懸けて狙われた実在のスナイパー(狙撃手)クリス・カイルの自伝を映画化した作品で、ブラッドリー・クーパーが主演しています。
2003年、クリスはネイビー・シールズ隊員として訓練を受けている最中、タヤと知り合い結婚しますが、折しも9.11事件が発生して戦場に赴きます。以後、2009年までの間に4度に亘ってイラクに派遣されて輝かしい戦功を挙げますが、その間に2人の愛児も生まれます。しかし、留守がちな上、家庭にあっても心は戦場にあり、妻との間にも次第に溝を生じます。彼もそれに気付き、4度目の帰還を果たした後退役しますが、家庭にも世間にも馴染めず、虚無感や罪の意識に襲われ、彼と同じように心に傷を負って退役した元軍人達との交流に辛うじて自分のいる場所を見出しますが・・・・・・・
テキサスで育ったクリスは、幼時、父親から「弱い羊を襲う狼にはなるが、弱い羊を守る牧羊犬になれ」と育てられて射撃の手ほどきを受けます。父の教えを忠実に守って、戦場では”レジェンド”と渾名されるほどの正確無比な射撃で味方の命を守りますが、守り切れなかったケースも多々あり、その後悔が次第に彼の心をむしばんで行く経過がリアルに描かれていました。戦闘は小部隊同士の射撃戦で決して大規模な戦闘ではありませんが、殺すか殺されるかの緊迫感は見事でした。
ネイビー・シールズは過酷な任務だけに、戦場に長期間滞在することはなく交替制のようで、カイルも4度の出陣・帰還を繰り返しますが、幼い子供達は淋しがり、妻は彼が危険な任務についている不安から次第に心配から苛立ちに変わって行きます。このあたりは、ヒューマン・ドラマも多く手掛けてきたイーストウッド監督らしくきめ細かく描いていて、単なるアクション映画に終わらせていませんでした。ただ、彼が妻を心から愛しているとは言え、眼前に敵がいて狙いを定めている最中にも衛星電話で妻と会話しているのは、そんな事をしていたら逆に相手に撃たれてしまうだろうと思い、少々作り過ぎの感じがしました。又、彼が単なる射撃の猛者ではなく、普通の若者であることを表現したかったのでしょうが、内地における彼のシーンにちょっとくどさを感じるところもありました。
戦場に於いて、カイルだけでなく米軍は敵を”野蛮人”と呼んでいました。イラクに勝手に踏み込んでおいて、主義主張はともかくとして自国を守ろうとして抵抗しているイラク民兵とどっちが野蛮人かとは思いましたが、命を懸けて戦っていれば相手方を憎むのは仕方ないし、それが事実だったのだろうと思います。しかし、この映画の良質な点は、そうした殺し合いでの伝説的英雄の単純な伝記映画ではなく、そんな彼が輝かしい戦功を挙げながらも次第に心に傷を負って行く姿を描いているところにありました。
イーストウッド監督は”硫黄島”2部作でも日・米双方の苦悩を平等に描いていましたが、この作品でも米軍の攻撃に晒されるイラク市民の姿も描いていました。その意味で、この作品は愛国的英雄を讃えた伝記映画でも戦闘の凄まじさを描いたアクション映画でもなく、戦争の不条理と悲劇を訴えた反戦映画だと思いました。
