<来るべき世界(Things To Come・英・1936)> ★★★★

来るべき世界


最近、デジタル・リマスター版でCATVで放映された「宇宙戦争」で有名な英国の小説家H・G・ウェルズの原作のモノクロSF映画です。80年も前の作品ですから、映画技術に関して批評するのは見当違いで、第一次世界大戦と第二次大戦の中間にあたる1936年(昭和11年)の作品としては驚くほど予見性のある内容でした。

1940年のクリスマスの日に戦争がはじまり、英国の架空の都市エヴリイタウンが突然、爆撃を受けて戦争が始まりますが、現実にヨーロッパでな1939年にドイツのロンドン爆撃で第二次大戦が始まっています。以後、25年に及ぶ同市への空襲とバイオ攻撃による疫病の蔓延による荒廃、復興と独裁政治の勃興、石油資源確保のための再度の戦争準備最中の化学兵器による再度の壊滅と復興、2036年の月面探査機の打ち上げまで120年間に亘る壮大な物語でした。第一次世界大戦では飛行機、戦車、毒ガス等が初めて戦争に使われ、ドイツは敗北しますが、その反動でヒトラーが率いるナチスが台頭を始めた時代の作品だけに、その悲惨な経験と次なる戦争への危惧が色濃く出ていて、決して単なる空想映画ではありませんでした。

>1940年のクリスマスの夜、エヴリイタウンは突然、爆撃を受けて戦争が始まり、以後20年続いた結果、街は廃墟となり、更にバイオ兵器の使用による「徘徊病」が蔓延しますが、医療施設も壊滅して患者を殺害する以外に抑える手段はありません。そんな中、ルドルフ(ヒトラーの名前アドルフをもじったものと思われます)が独裁者として台頭し、街は一応復興しますが、石油が枯渇して飛行機も飛ばせない状況で、アドルフは他国の鉱山侵攻を計画します。しかし、いち早くそれを察知した敵国はエヴリイタウンに毒ガス弾爆撃を行い、ルドルフは死んでしまい、街も壊滅します。20世紀になり、新たなリーダー・カベルの下で科学技術の発展を最優先して超高層ビルの林立する新たな人工都市が建設され、遂には月面探査のための“宇宙砲”の発射も現実のものとなります。しかし、一方で科学の急激な進歩により人間性が失われて行くことに反対するグループもいて、2036年の発射の日、大挙して宇宙砲破壊に押し寄せます。しかし、一瞬早く、カベルの娘とその恋人を乗せた砲弾は発射されて月に向かって飛び去って行きます。それを見送りながら、カベルは「人間は卑小で弱い動物だけれど、小さな幸せに満足しているだけでは他の動物と変わらない。全宇宙か? 無か? どちらを選ぶ?」とつぶやきます。

毒ガスは第一次大戦で初めて使用されましたが、その余りの悲惨さから国際法上禁止となり、第二次大戦においても殆ど使われなかった代わりにバイオ兵器が開発されました。さすがにこの映画では原子爆弾とか放射能被害は出て来ませんが、未来戦(製作当時から見て)の予測がかなり正確に行われているのはヴェトナム戦争の後遺症による自然破壊や奇形児の多発等を考えると納得出来ます。しかし、H.G.ウェルズは科学技術の悪用を危惧するものの、最終的には科学技術の発展が人類を支えてゆくという科学至上的な考えを持っていたことが、彼自身が脚本も担当して、映画の最後にカベルにつぶやかせているモノローグから察しられました。


”宇宙砲”が登場しますが、さすがにロケットという発想はまだなかったようなのは仕方ないにしても、21世紀の人類がコダイローマ人みたいな衣装なのは少々違和感を持ちました。

<第三の男>とか<超音ジェット機>等の製作者として記憶のあるアレキサンダー・コルダとか、レイモンド・マッセイとかラルフ・リチャードソン等、タイトルや内容は覚えていませんが、私が学生時代に見た映画に出演していた記憶のある俳優が出演していて、時の移ろいの速さを改めて感じました。