<インドシナ激戦史1954-要塞ディエン・ビエン-フー

       ( c Đin Biên・ヴェトナム・2004)> ★★★☆


ディエン・ビエン・フー

 

ディエン・ビエン・フーの戦いは1954年3月から5月にかけて、ヴェトナム北西部の同地で戦われた第一次インドシナ戦争中最大の戦闘で、戦死者はベトナム軍8000人とフランス軍2200人に及び、フランス平万人以上が降伏して、フランスはヴェトナム撤退を余儀なくされ、同年7月にジュネーヴで平和協定が締結されてフランスはインドシナ半島からの全面撤退へと繋がりました。この作品はそのディエン・ビエン・フーの戦いをヴェトナム側からの視点で描いたということ稀少価値がありました。但し、原題(ディエン・ビエンの思い出)で判るように、大袈裟な邦題から想像される壮大な戦争スペクトルではなく、本格的戦争ドラマというよりもヒューマン・ドラマに近いような内容でした。

 

 

 

>ハノイに住む元ヴェトナム軍兵士バンを元フランス軍兵士ベルナルドが訪ねて来て50年ぶりに再会します。ディエン・ビエン・フー戦争の最中、バンはフランスの脱走兵ベルナルドを逮捕します。ベルナルドはフランス軍基地の見取り図を描くなど協力的なため、後方本部に移送するよう命じられます。しかし、途中でフランス軍機の襲撃でベルナルドが脚を負傷し、居合わせた別のヴェトナム軍の女性衛生兵でフランス語を話せるメイが同行することになります。移動の最中、男2人と女1人という関係の中で微妙な友情や嫉妬が芽生えて来ます。密林の中を彷徨しているうちに方向を見失い、結局、原隊に舞い戻ってしまいます。ヴェトナム軍は有利に戦闘を続けていましたが、バンの属する中隊は“A1”と呼称されるフランス軍の要塞攻略に手を焼いていて、1km近い地下トンネルを掘って地中から爆破することにします。マイは負傷兵の看護にあたり、ベルナルドも懸命に彼女を助けますが、そんな2人にバンは心を傷め、隊の中でもあらぬ噂が広まり、隊長はベルナルドを本部付けにします。遂にA1総攻撃が開始され、要塞は陥落してフランス軍は投降し、ベルナルドも一緒に本国へ送還されます。戦後、バンはマイと結婚しますが早く病死し、バンは戦友の遺児ソンを引き取って暮らしていました。ベルナルドの尽力でソンはパリの舞踊学校に留学、晴れの卒業発表会の会場にはバンとベルナルドの姿がありました。

 

 

 

ヴェトナム軍が軍規が厳しい半面、捕虜であるベルナルドの処遇が非常に寛大なうえ、ベルナルドに「信念の強いヴェトナムにフランスが勝てる筈がない」と言わせるなど、政治プロパガンダ色が濃厚なのは仕方ないとしても、偽装投降したスパイかも知れない敵兵をバンが何の捕縛もせずに1人で護送したり、その使命を帯びたバンがベルナルドとマイを一足先に行かせて自分は1晩遅れて追いかけるなど不自然さが気になりました。3人の道行でマイが同志のバンと敵兵のベルナルドの双方に心を惹かれて揺れ動く描写もうまく表現されていませんでした。全体が現代のハノイでの再会と思い出で構成されていますが、現代の方で生前のメイの悪夢とかソンのダンスとか本題とかけ離れたエピソードが出て不必要に思えました。

 

 

 

肝心の戦争シーンは邦題のような“激戦史”というような大仰なものではなく、局地戦のような小規模な戦闘ですが、塹壕網や地下道等のヴェトナム軍の得意とする戦法や、突撃に際しては大太鼓を叩いて鼓舞するなど、チープさは否めないものの、戦争の当事者ヴェトナムが作った映画らしさが出ていました。

 

 

 

戦争映画とも戦場ラブ・ロマンスともつかない中途半端な内容でしたが、復興著しく経済も発展しているヴェトナムが被植民国としての過去の重い歴史を振り返った作品としての価値は認められました。