<風にそよぐ草(Les Herbes Folles・仏/伊・2009)> ★★★☆



風にそよぐ草
 
 

 

 

今年3月に亡くなった<去年マリエンバートで>で知られるアラン・レネ監督の遺作となった作品で、妻子のいる初老の男が偶然の出来事から知りあった女性に恋してしまった騒動をコメディ・タッチで描いた作品ですが、ラストが意外でハッピー・エンドにはなっていません。この作品でレネ監督はカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞したそうですが、作品そのものよりも87歳になってこういう作品を完成させた監督への功労賞の意味もあったのではないかと思いました。

 

 

 

 >歯科医のマルグリットは買い物の途中、現金、カード、IDカード、小型飛行機の操縦免許証等が入ったバッグを引ったくられてしまいますが。犯人は現金だけを抜き取り、財布はショッピング・センターの駐車場に捨ててしまいます。それを拾ったのは初老の男性ジョルジュでした。彼はマルグリットの写真を見て彼女に人目惚れしてしまい、電話しようかと迷いますが、結局、警察へ届けます。間もなく、マルグリットからジョルジュにお礼の電話がかかって来て、彼は彼女を誘いますがすげなく断られてしまいます。しかし、彼は諦めきれずにストーカーもどきに彼女を追い回し、警察に注意されるまでになります。しかし、彼女も次第に彼の一途さに親近感を抱くようになりますが、あくまでもジョルジュの妻スザンヌも入れての交際にこだわります。失望したジョルジュと何度かもめ事や行き違いがありますが、奥さんと一緒に、というマルグリットからの誘いを受け入れたジョルジュは、スザンヌと共に彼女の操縦する軽飛行機でのクルージングを楽しみますが、勧められたばかりにジョルジュが操縦した飛行機は墜落してしまいます。

 

 

 

日本でも最近はストーカーから殺人に至る事件が頻発していますが、この映画の主人公のジョルジュはそんな危険性はないように見えますが、執拗さはかなりのものでした。お礼の電話を待ち構えたり、町で追い回したり、彼女のかなり高級車らしい愛車のタイヤに穴を開けたりとだんだんエスカレートして行きます。追われた彼女も当初は通り一遍のお礼しか言いませんが、中年独身の寂しさからか次第に彼に興味を抱き、奥さんから彼が映画を見に行っていると聞くと映画館の入り口で待ち伏せしてカフェに誘ったりします。ジョルジュの妻スザンヌがなかなか出来た女性で、普通だったら夫に知らない女性から電話があったら夫の浮気を疑うのですが、天衣無縫に受け答えします。マルグリットが彼に関心を持っていても、あくまでも2人だけの関係ではなく、自分も含めての付き合いを望んでいることを女性の勘で察知したからでしょう。

 

 

 

しかし、それが結局、とんでもない悲劇となりますが、このラストが極めて象徴的で良く判らず見直してしまいました。飛行場のトイレでジョルジュはズボンのファスナーが壊れて閉まらなくなります。廊下で当惑しているところへマルグリットが捜しに来て2人は衝動的に抱擁してしまいます。3人を載せた軽飛行機が上空へ飛びあがり、安定したところでマルグリットは隣のジョルジュに操縦をさせますが、そこでジョルジュのファスナーに気付き、狼狽した彼の操縦が曲芸飛行のように滅茶苦茶になり、林の向こうで黒煙が上がります。しかし、画面は墓場の俯瞰からと或る民家に入りこみ、幼い女の子が母親に「猫になれば猫の餌を食べられるの?」と尋ねて突然終わります。

 

 

 

これをシュールとか不条理とかで片づけるにしても何とも後味の悪い終わり方でした。シュールと言えば、或るカットがブルーや赤一色に染まって不穏や官能の上昇を象徴しているようですが余り効果的には思えませんでした。レネ監督の遺作ということで見ましたが、余り私好みの作品ではありませんでした。