<ヨーデルは夢をみる(Die Wiesenberger・スイス・2012> ★★★★



こんな映画見ました-ヨーデルは夢を見る

東京国際映画祭でスイスのドキュメンタリー映画<ヨーデルは夢をみる>をみました。原題の<Die Wiesenberger>はこの映画に登場する村のヨーデ)ル・クラブの名前であり、その村の名前でもあります。


私は中学生の時の英語の時間に書いた手紙が偶然、同年のスイスの中学生のところに届き、それ以来、“文通”(最近はE-メイルになりましたが)を続け、2度彼の家を訪れ、一緒にユングフラウヨッホに登ってアルプスの壮大な光景を楽しんだりしました。彼も2回日本にやって来ました。しかもその最初の来日が大阪万博の時でしたが、この映画はスイスのアマチュア・ヨーデル・クラブが上海万博のスイス・パビリオンに出演するという構成なので、どうしても見たい作品でした。




>スイスの荘厳なアルプスの山々を背景に、美しく鳴り響くヨーデル。誰もが心を奪われる音色を奏でるのは、農業や酪農を営む地元のヨーデル・クラブだ。20年以上も前に発足し、当初は仲間の結婚式や誕生日会が活動の中心だった。しかしコンテストで優勝したことをきっかけにテレビ番組などの出演オファーが相次ぎ、彼らはスイス国内でも人気者になっていく。ついには、遥か遠い上海からの依頼が舞い込んできたのだった。突然訪れた大きなチャンスだが、大事な牛の世話や収穫作業を行う代わりの人間などいない。“本業”をこよなく愛する彼らに、エンタテインメントの世界は魅力を放つ。やがてグループは大事な決断を迫られる。本作は、彼らの活動の一部始終を収めたドキュメンタリーである。20人が奏でる完璧なハーモニーと澄みきったヨーデルに身を委ねれば、大自然が心の中に広がるはずだ。

(公式HPより)




ヴィーゼンベルガー村のヴェルニ老人が村のヨーデル好きの20人程の男達を集めて、毎週末に小学校の音楽教師の指導でクラブを始めたのは1988年のことでした。当初は村の結婚式や誕生日パーティで歌っていましたが、国内のヨーデル・コンテストで優勝したのをきっかけに人気が爆発し、人気歌手のポロとの共演も実現し、国中のあちこちから引っ張り凧になりますが、それぞれが農業、林業、牧畜業と仕事を持っている身なので、余りの忙しさに不満も出て来て、出演の諾否はその都度、皆で協議するようになります。2009年、翌年の上海万博のスイス・パビリオンへの出演依頼が舞い込みます。全額を負担してくれるので願ってもないチャンスと喜ぶ団員もいますが、1週間も家を空けられないと反対する団員もいて、二転三転して翌2010年、13人が中国へ旅立ちます。公演は大成功で、町で市民との交流もありましたが、帰国すると今まで通りの生活が始まります。その年のクリスマス・イヴ、村の教会でコンサートが終わると、22年間リーダーを務めて来たヴェルニ老人が引退を表明し、クラブは新しいリーダーを決めて歌い続けることになります。




英語のタイトルはマリリン・モンローとエセル・マーマンが主演した1955年のハリウッド映画のタイトル<There’s No Business Like Show Business (ショーほど素敵な商売はない)>に引っかけて<No Business Like Show Business>となっています。ヨーデルが大好きという理由だけで歌い続けていた村人達が、ひょんなことから売れっ子になり、アマチュアからセミ・プロのようになってしまって、ショー・ビジネスの世界に引きずりこまれてしまいそうになりますが溺れることなく、アマチュア精神を取り戻します。


深い山中の村なので共同体意識が強く、団員達が思いがけないブームで留守がちになっても、誰かしらが応援してくれるのですが、それも程度問題で、外の世界を知ることによって、自分達の故郷の素晴らしさを再認識して清々しい雰囲気で終わります。上海万博出演以外では、元団員が亡くなり、葬儀の席で追悼のヨーデルを歌う以外はこれと言った事件もなく、背景音楽は一切なく、彼らの歌声と自然音だけで、ドキュメンタリー映画としては単純素朴ですが、壮大なスイス・アルプスの風景と、そこに暮らす人々の厳しい生活ぶりが堪能出来て全く飽きることはありませんでした。