<キムチを売る女(芒種・中/韓・2006)> ★★★★
5年程前に見た映画ですが、今回、GYAOでアップされていたので、又見ました。原題の「芒種(ボウシュ)」は陰暦の24節気の一つで6月6日頃を言うそうですが、映画もその頃で、半袖になり扇風機を回す時期となっています。中韓合作映画ですが、中国に住む朝鮮族の母子が主人公で、セリフも中国語です。
>中国東北部・吉林省で、32歳で朝鮮族のチェ・スンヒは、夫が殺人犯として逮捕され、住み慣れた延吉市を離れて小さな田舎町の駅裏の粗末な2軒長屋に幼い息子のチャンホとひっそりと住み、母国の味キムチを手作りして路上で売って生計を立てていますが、民族の誇りは失わず、息子にはハングルの読み書きを教えています。気丈なスンヒですが、鼠には弱く、大量の殺鼠剤を買い込み退治しますが、死んだ鼠の処理はTVを買ってやるという条件でチャンホに任せています。或る日以来、自分も朝鮮族で自動車修理をしているというスという男が毎日のようにキムチを買いに来て、何かと好意を示します。
別に自動車運転教習所の食堂を任されているという中年の男からは、彼女のキムチを毎日のメニューに加えるというおいしい話が舞い込みますが、彼はその”見返り”を求めます。或る日、スンヒはワンという警官に無許可営業という理由で、商売道具の自転車とリヤカーを没収されてしまいます。途方に暮れている彼女の前にスが現れて慰め、2人は結ばれます。やがて、彼女の商売道具が路上で売りに出されているのを発見し、彼女はそれを買い戻しますが、営業再開には許可証が必要ですが、ワンが便宜を図ってくれます。
> そんなとき、スとの密会が彼の妻にバレてしまいますが、スは彼女に好意を寄せていたことを隠すため、スンヒを金で買ったと嘘をつき、妻は彼女を売春婦だと警察に通報したため逮捕されてしまいます。しかし、ワンは彼女の手錠を外して”見返り”を求めたうえで釈放します。晴れて営業を再開したスンヒの前に若い女性が現れ、ワンと結婚することになり、祝宴を開くのでレストランに大量のキムチを届けて欲しいと注文します。若くてハンサムなワンに密かに想いを寄せていたスンヒはショックを受けますが、その矢先、最愛の息子チャンホが事故死してしまいます。ワンの結婚式の当日、スンヒはキムチの中に殺鼠剤を混入してレストランに届けます。やがて、何台もの救急車がレストランに急行する最中、町外れの荒野に向ってノロノロと歩んで行くスンヒの姿がありました。
キムチ中毒の現場は一切描かれておらず、何台もの救急車とすれ違うスンヒだけが描かれて映画は終わり、スンヒがどうなったかは観客の想像に委ねられています。
スンヒは孤独と貧困に耐えながらも朝鮮族であることを誇りにして、息子を1人前の朝鮮族に育て上げることに生甲斐を見出だしていますが、そんな中で同じ朝鮮族の男に優しい言葉をかけられるとつい同胞意識が働いて、たちまち深い関係になってしまいます。しかし、2人の不倫が発覚すると、男は裏切って妻に彼女を金で買ったと言い訳し、妻は彼女を警察に告発します。ここで彼女は朝鮮族としての誇りを失い、息子にハングルを教えることをやめてしまいます。更に、彼女に声を掛けてくる男達はどれも彼女の体目当てで自己嫌悪に陥るばかりです。そんな中で最愛の息子を失ったとき彼女の怒りは一挙に爆発して、理不尽な大量殺人に走ります。シンプルで静謐な映像の中に、スンヒの深い哀しみと怒りが鮮やかに表現されていました。
この映画では音楽は一切使われず(予算のための苦肉の策かも知れませんが)、実際音だけしか聞こえて来ませんが、それが極めて効果的で、物語に現実感を生み出していました。カクテキを作るために彼女が大根を刻む音が響くだけのシーンからも彼女の孤独感が窺えました。スンヒの運命とか息子の死因とか、幾つかの点で疑問を残したままの作品ですが、私個人の好みにはピッタリの作品でした。

