<扉をたたく人(The Visitor・米・2007)> ★★★★☆
都民劇場では毎年2回、優秀映画鑑賞会が開催されて前年に公開された内外の作品の中から1本がスポンサーであるP化粧品会社の文化映画と2本立てで招待上映されます。前々回は<善き人のためのソナタ>、前回はイタリア映画<湖のほとりで>を見ました。今回見たのは「初老の大学教授と移民青年との心の交流を描いた感動ヒューマン・ドラマ」という<扉をたたく人>でした。
9.11事件以降非常に厳しくなった移民政策を背景に、妻を亡くして心を閉ざしてしまった孤独な老教授が偶然知り合ったシリアのドラム奏者との友情を通じて次第に自分らしさを取り戻していくという内容で、監督は俳優でもあるトム・マッカーシー。主人公を演じたリチャード・ジェンキンスは、本作品でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたそうです。ただ原題は<The Visitor>ですが、<扉をたたく人>というのは余り良い邦題ではないと思いました。この作品が内容が良いのに余り話題にならなかったのもタイトルが良くなかったからのような気がしました。私自身が公開時にさして気に留めなかったのもそのせいだと思います。
> コネティカットの大学教授で62歳になるウォルターは愛妻を失ってから心を閉ざしたまま惰性的に孤独に生きてきましたが、学会出席のためニューヨークへ行き、彼の別宅でもあるアパートを訪れると見ず知らずの若いカップルが住み込んでいました。シリア人青年・タレクとセネガル人の恋人・ゼイナブですが、彼らは悪質不動産屋に騙されていたと知ります。2人は永住許可証を持っていないために警察沙汰になると国外追放になるので素直に部屋を出て行こうとしますが、ウォルターはあてのない2人を見過ごせず、暫くの間の滞在を認めます。感激したタレクはアフリカン・ドラムのジャンベの奏法を彼に教え、ウォルターの閉ざされた心が次第に開かれてゆきます。
> しかし、タレクは地下鉄構内で不審尋問されて不法残留がバレて拘置されてしまいます。ウォルターは弁護士を頼んで釈放に尽力します。連絡の途絶えたタレクの母もミシガンからやって来ますが、同じ身の上のため拘置所へ面会に行くことは出来ません。ウォルターは、久しぶりに生きる目的を見出して大学へ戻るのを延期してタレクの釈放に奔走します。しかし、結局、タレクは突然、シリアへ強制退去させられてしまいます。彼の母も後を追って去って行きます。
> ウォルターはアメリカの移民制度の不当さを移民管理局の担当官に訴えますが受け流され、心頭からの怒りを地下鉄駅構内でジャンベを乱打して爆発させます。
9.11事件後、アメリカがアラブ人に過度に神経質になったことは理解出来ますが、アラブ人の中でもテロリストは本の一部で、殆どは自由に働ける国と憧れてアメリカにやって来た人達です。それが一様に不当な弾圧を受けることに脚本・演出のトム・マッカーシーは鋭い疑問を投げかけています。しかし、それを露骨に描くのではなく、妻を失って生き甲斐も失っていたウォルターが本来の正義感を取り戻して解決しようと奮闘しますが、リチャード・ジェンキンスが熱演していました。最後の方で、タレクの母がNYにやって来て、息子を心配しながらも、家族を失った者同士として次第にウォルターと惹かれ合ってゆく気持ちもうまく描かれていました。母親を演じるヒアム・アッバスは先ごろ見た<シリアの花嫁>にも出演していましたが、ジェンキンスと互角に組んで好演でした。
派手さはありませんが、主義主張のしっかりした佳作で見応えがありました。

