またまた私が10年前に読んだ九州にある南蔵院住職、林覚乗和尚さんの感動するお話をご紹介させていただきます。
私(住職)は、日本航空のサービス担当の講師をしています。
ある時、ベテランの機長さんに「今日は新人の若いパイロットの人たちに話をしに行くんですが、伝えたいことはありますか?」と聞きました。
機長さんは、「我々がどんなに訓練を積んでも、汗と油にまみれて整備をしてくれる整備士の人たちを尊敬し、信頼することができなければ安心して空を飛ぶことはできないんです。
整備士の人たち対する感謝の気持ちは絶対に忘れないように伝えて下さい」とおっしゃいました。
15年間、客室乗務員をされてきた方に「心に残る出会いはありますか?」とお聞きしました。
その方は、涙を浮かべられながらこういうお話をして下さいました。
4年ほど前の成田発バンクーバー(カナダ)行きの機内での話です。
ある中年の男性が、寂しそうな、不安そうな、複雑な顔をして窓の外を見つめていた。
「カナダに大きな仕事があって不安なのだろうか」「単身赴任で家族と離れ離れになって寂しいのだろうか」と思い、食事のサービスの時に「○○さん、どうぞ」と、名前を呼んでサービスをしようと思い、乗客名簿を広げました。
するとその席は「ミスター&ミセス」になっていたそうです。
「あれ? 奥様がいらっしゃるんだ」と思ったけれども、奥様の姿は見えない。
「上昇中でまだシートベルト着用のサインが出ているのに、奥様はトイレに行かれたのかなあ?」と思い、あわてて自分のシートベルトを解いてその座席のところに行き、「奥様はどこに行かれたんですか?」と聞こうとした瞬間、言葉が出なくなってしまいました。
空いた座席には黒いリボンをした遺影が飾ってあり、その遺影にシートベルトがしてあったんです。
でも、座席のところまで来てしまったので、本当はプライベートなことは聞いてはいけないんですけれど、「綺麗な女性ですね。これは奥様ですか?如何されたんですか?」と思わず聞いてしまいました。
するとその男性は、「25周年の銀婚式のお祝いに、家内と2人でカナダ旅行に行く予定でした。
ところが脳内出血で1カ月前に亡くなってしまったんです。
旅行をやめるつもりだったのですが、子どもたちから『お母さんが待ち望んでいた旅行なんだから、自分たちが一番好きだったお母さんの写真を大きくして連れていってあげて』と言われたんです」とお話されました。
その客室乗務員は、機内電話で「何かいいアドバイスはないですか?」と機長に聞きました。
機長は「そこに今、奥様が生きて座っていらっしゃると思ってサービスをしてあげて下さい」と言いました。
その男性に聞くと、「女房は赤ワインが好きだった」と言われるので、そのことを報告すると、「私からのお祝いで、一番いい赤ワインを1本出してあげて下さい」と機長が言われました。
赤ワインを注いだグラスを遺影の前に置き、もう一つをご主人に持たせ、「これは機長からのお祝いのワインです。どうぞ乾杯してお飲み下さい」と言いました。
料理も、ちゃんとレンジで温めて持っていきました。
奥様の遺影に向かって、「これはこういう料理です。これはこういう料理です」と説明しながら出しました。
最後に乗務員みんなで機内から花を集め、20本ぐらいの花束を作り、「これは、私たち乗務員すべてからの銀婚式のお祝いです」と言って渡しました。
ご主人は、カナダに着くまでずっと泣いておられました。
飛行機から降りていかれる時に、乗務員に向かって、 素晴らしい銀婚式の旅立ちになりました。本当にありがとう」とおっしゃったそうです。
「その姿を、私は今でも忘れることができません」と、彼女は話して下さいました。
「あなたたちは素晴らしい供養をしましたね」と私は言いました。
亡くなった方が生きてそこにいるという気持ちで供養をするというのは、よっぽど心が豊かじゃないとできないし、後で褒めてもらえるだろうとか、これで出世しようという損得が入ったらできません。
「あなたたちはそういう損得で考えなかったからできたんですね」と言いました。
すばらしいお話ですね。
天国にいる奥様もきっと必ず喜んでいたと思います。
亡き方を供養するというのは、残された方の心が沈んでいる気持ちをほぐし、天国にいる最愛の人に心配をかけないことが一番の供養になるのではないでしょうか。