2019年は「老後2000万円問題」をきっかけに老後資金に対する投資家の関心が高まったほか、定率分配型のファンドが相次ぎ設定された2018年に続き一部ネット証券で定率の取り崩しサービスが開始されるなど、老後資金の取り崩しに注目が集まった年だった。
米国でも「リタイアメント・インカム」(退職後の収入)をどのように確保するかについての議論が盛んに行われ、その中で投信を活用した手法も選択肢となっており、すでに活用されている。いまのところリタイアメント・インカムの問題を解決する上で決定打となる商品は登場していないものの、日本にはない独自の商品もあり、2020年以降の老後資金をめぐる動向を見る上で参考になる。
<リタイアメントファンド、株式比率の低さが課題に>
米国でリタイアメント・インカムのニーズを満たす代表的な商品となるのが、リタイアメントファンドと呼ばれるタイプの投信だ。米国では、退職年に向けて資産配分を自動的に変更するターゲットデートファンドと呼ばれるファンドが確定拠出年金を中心に急速に普及している。リタイアメントファンドは、退職年到達後のターゲットデートファンドの資産の移管先として選ばれることが多い。
米モーニングスターではリタイアメントファンドをターゲットデート関連のカテゴリーの一つとして区分している。米国籍投信のうち、2019年11月末時点で米モーニングスターのターゲットデート関連カテゴリー(リタイアメントファンド含む全12)に属するファンドの純資産残高は1.3兆ドル(約146兆円)となる。うち、退職後向けのリタイアメントファンドの残高は451億ドル、全体に占める比率は3.4%にとどまる。リタイアメントファンドの残高は5年前の261億ドルから大きく増えているものの、ターゲットデート全体も5年前の0.7兆ドルから大幅に伸びているため、全体に占める比率は3%台で伸び悩んでいる状況だ。
ターゲットデートはバランス型の一種で、株式・債券など複数資産に分散投資し、退職年に向けて株式などリスク資産の比率を低減させていくのが一般的だ。これに対して、リタイアメントファンドは資産配分を固定させるものが多く、典型的なタイプは3分の2以上を債券で運用する。
こうした債券比率の高さは安定的な運用を可能にする一方、長生きリスクを考慮して資産寿命をより伸ばすという観点では課題が多いとも言われている。米モーニングスターの調べでは、2020年に退職を迎えるリスク許容度中立の投資家に適切な株式比率は46%だが、リタイアメントファンドの典型的な株式比率は27%しかないとされ、長生きを想定した場合には株式の比率が低すぎる可能性がある。
また、リタイアメントファンドは定期的に払い出しを行うことで、退職者のインカムニーズに応える点が特徴の一つだが、米モーニングスターの試算では平均的な利回りは約2.4%で、仮に比較的裕福な投資家で100万ドルを運用している場合を想定すると年間で2万3800ドルしか受け取れないことになる。より運用額が少ない投資家やその他の収入がない場合は、リタイアメントファンドのみでは老後資金として十分ではないと考えられる。(2)へつづく
<米国でも定率取り崩し商品>
退職後の運用先として、リタイアメントファンド以外で候補となるのが「マネージドペイアウト」と呼ばれるタイプのファンドとなり、バンガードが運用する「Vanguard Managed Payout Investor」が代表的なファンドとなる。目標分配率を年率4%として分配金は毎月支払われ、目標分配比率を達成するため分配金の一部は元本を取り崩して支払われる。いわゆる定率取り崩しの商品だ。
同ファンドは株式が52.76%と約半分を占めるが、オルタナティブの比率が24.63%と高い点が特徴で、コモディティやマーケットニュートラルといったヘッジファンド戦略への分散も行う。もっとも、同タイプのファンドの中では最大規模となる当ファンドでも2019年11月末時点の純資産残高は18億ドルで、同社のファンドとしては、運用規模は小さい。
また、その他では、フィデリティが提供するSimplicity RMDシリーズと呼ばれるファンドがある。米国では、確定拠出年金で積み上げた資金について、70.5歳に達した後に最低引き出し額以上を毎年引き出さなければならないRMD(Required minimum distributions:最低引き出し義務)と呼ばれるルールがある。引き出し率は、IRS(内国歳入庁)が公表する平均余命に基づく計算式によって決定され、例えば70歳であれば余命27.4年で、引き出し率は3.65%となる。最低引き出し額に達しなかった場合には不足額に対してペナルティとして課税が行われる。こうした中で、Simplicity RMDでは、RMDで適切な引き出しが行われるよう自動的に計算が行われ、年齢に応じた資産配分で運用を行う点がメリットとなっている。
上記のようにリタイアメントファンドを中心に退職後のインカムニーズに対応するための商品開発が行われているものの、支出の傾向や寿命、リスク許容度など個人差が大きいことなどが課題となっており、模索が続いている状況だ。老後の資金問題が日米で関心を集める中、今後の展開に引き続き注目したい。
出典:モーニングスター社
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