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■グロース株優位で米株価急回復も、油断禁物
昨年末にベア(弱気派)一色だった米国株マーケットは、19年の年明け以降に怒涛の切り返しを見せ、史上最高値圏を回復。背景には、金融引き締めを断行したFRB(米連邦準備制度理事会)がハト派姿勢に転じたことや、米中貿易摩擦に対する過度な警戒感の後退がある。足元で米企業の決算シーズンが本格化する中、有望銘柄や出遅れ銘柄を物色する動きが勢いづきそうだ。
米国株の年初来の動きを見ると、グロース株(成長株)の復権が鮮明。主要株価指数では、ハイテク株比率が高いナスダック総合指数の上昇率がNYダウ、S&P500をアウトパフォーム。さらに、半導体銘柄で構成されるSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は、主要株価指数を上回る騰勢を示した。業種別の騰落率では、「国民皆保険制度」への警戒感が重しになったヘルスケアをはじめ、公益事業、生活必需品と、景気変動の影響を受けにくい代表的なディフェンシブ・セクターが低位にとどまったのに対し、米国株の上昇をけん引してきた情報技術などの好調ぶりが際立つ。期間中、投資家は米企業の成長性を選好した格好で、リスク回避的に注目されたバリュー株(割安株)回帰の動きは、ややトーンダウンした印象だ。
もっとも、年初来の米国株の快進撃は過度な悲観論の修正、18年末の過剰反応ともいえる暴落局面からのリターン・リバーサルといった側面も否定できず、急落前水準をおおむね回復したことで、割高感が改めて意識されだしたのも事実。景気循環調整後の株価収益率であるCAPEレシオは30倍台超と再びITバブル期をうかがう水準に戻り、米国株はきっかけ一つで調整局面入りする可能性をはらむ。
IMF(国際通貨基金)は先ごろ19年の世界経済見通しを1月時点の予測から下方修正し、中国、欧州の景気減速への懸念も払拭されてはいない。また、米中に続き米欧の貿易摩擦懸念まで浮上。米中通商協議をめぐっては閣僚級協議を再開し、5月下旬以降にもトランプ米大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談で最終合意を目指すとの観測だが、期待外れに終われば一転して株価の下押し材料になり得る。目先的にもFOMC(米連邦公開市場委員会)、米4月雇用統計といった重要経済イベントが控え、米企業決算も相次ぐ中、思わぬ方向に株価のトレンドが傾く恐れもある。慎重姿勢は崩さず、年央以降に向けた投資戦略を練りたい。
■5G、動画配信サービス、エネルギーをピックアップ
日本の大型連休中、この先決算発表を予定している米国の有力企業は、グーグル親会社のアルファベット(GOOGL)、イーライリリー・アンド・カンパニー(LLY)、メルク(MRK)、マクドナルド(MCD)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、マスターカード(MA)、ファイザー(PFE)、ゼネラル・モーターズ(GM)、アムジェン(AMGN)、モンデリーズ・インターナショナル(MDLZ)、アップル(AAPL)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、クラフト・ハインツ(KHC)、CVSヘルス(CVS)、クアルコム(QCOM)、アンダーアーマー(UAA)、ダウ(DOW)、ダウ・デュポン(DWDP)、ケロッグ(K)、ギリアド・サイエンシズ(GILD)など。
中でも最大の注目は、やはりアップル(現地4月30日に決算発表予定)。スマートフォン市場の熾烈な競争環境が意識される中、現在でも同社売上高の過半を占めるiPhoneの売上動向が、同社株およびハイテク株、ひいては米国株全体に対するセンチメントを左右しかねない。一方、バイオ大手の決算が並ぶが、2020年の米大統領選挙への出馬を表明しているサンダース米上院議員が「メディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)」実現に向けた法案を提出して以降、ヘルスケア企業の経営に影響が及ぶとの懸念が広がっている。経営陣のコメントなどには十分注意したい。
アップルは直近で半導体大手クアルコムとの特許訴訟が和解に至り、次世代通信規格「5G」への対応遅れへの疑念が後退した。「5G」とは第5世代移動通信システムを指し、大容量、多接続、高速化、低遅延といった特長を持つ。IoT(モノのインターネット)や自動運転、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)など革新技術の実現への寄与が期待され、米国株の最有望テーマの一つ。クアルコムの他、「5G」基地局向け集積回路を手掛けるザイリンクス(XLNX)、「5G」利用の通信ネットワークのためのソリューションを提供するシスコシステムズ(CSCO)、米通信大手のAT&T(T)、ベライゾン(VZ)ほか、関連銘柄の裾野は広い。
年後半にかけては「動画配信サービス」も注目テーマの一つとなる。アップルは端末以外のサービス部門による収入強化にまい進中で、定額制の動画配信サービス「アップルTV+」を今秋投入予定。先行するネットフリックス(NFLX)を追撃する。また、ウォルト・ディズニー(DIS)は独自の動画配信サービス「Disney+」の米国でのサービス開始日を19年11月12日に決定。ディズニーはじめピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナルジオグラフィック等の魅力ある有力コンテンツが続々と提供される見通しで、群雄割拠の様相を呈してきた。
ハイテク以外ではエネルギーを選好したい。米政府は一部の国・地域にイラン産原油の禁輸を適用除外としてきた猶予措置を、5月2日の期限をもって延長しない方針と伝わり、年初から続いた原油先物価格の反騰に弾みが付く可能性がある。今後、米中貿易摩擦の緩和や世界経済の思わぬ底堅さが確認された場合にも市況が押し上げられそう。シェブロン(CVX)、エクソンモービル(XOM)などエネルギー株の動向に注目。シェブロンは直近で同業アナダルコ・ペトロリアム(APC)の巨額買収を発表しており、業界再編の思惑もくすぶる。早くもオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)は、シェブロンに対抗しアナダルコへの買収案を提案した。ただ、資源高が続けば、他の事業会社の業績圧迫要因として意識される場面も出てきそうだ。 (松尾 繁)
昨年末にベア(弱気派)一色だった米国株マーケットは、19年の年明け以降に怒涛の切り返しを見せ、史上最高値圏を回復。背景には、金融引き締めを断行したFRB(米連邦準備制度理事会)がハト派姿勢に転じたことや、米中貿易摩擦に対する過度な警戒感の後退がある。足元で米企業の決算シーズンが本格化する中、有望銘柄や出遅れ銘柄を物色する動きが勢いづきそうだ。
米国株の年初来の動きを見ると、グロース株(成長株)の復権が鮮明。主要株価指数では、ハイテク株比率が高いナスダック総合指数の上昇率がNYダウ、S&P500をアウトパフォーム。さらに、半導体銘柄で構成されるSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は、主要株価指数を上回る騰勢を示した。業種別の騰落率では、「国民皆保険制度」への警戒感が重しになったヘルスケアをはじめ、公益事業、生活必需品と、景気変動の影響を受けにくい代表的なディフェンシブ・セクターが低位にとどまったのに対し、米国株の上昇をけん引してきた情報技術などの好調ぶりが際立つ。期間中、投資家は米企業の成長性を選好した格好で、リスク回避的に注目されたバリュー株(割安株)回帰の動きは、ややトーンダウンした印象だ。
もっとも、年初来の米国株の快進撃は過度な悲観論の修正、18年末の過剰反応ともいえる暴落局面からのリターン・リバーサルといった側面も否定できず、急落前水準をおおむね回復したことで、割高感が改めて意識されだしたのも事実。景気循環調整後の株価収益率であるCAPEレシオは30倍台超と再びITバブル期をうかがう水準に戻り、米国株はきっかけ一つで調整局面入りする可能性をはらむ。
IMF(国際通貨基金)は先ごろ19年の世界経済見通しを1月時点の予測から下方修正し、中国、欧州の景気減速への懸念も払拭されてはいない。また、米中に続き米欧の貿易摩擦懸念まで浮上。米中通商協議をめぐっては閣僚級協議を再開し、5月下旬以降にもトランプ米大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談で最終合意を目指すとの観測だが、期待外れに終われば一転して株価の下押し材料になり得る。目先的にもFOMC(米連邦公開市場委員会)、米4月雇用統計といった重要経済イベントが控え、米企業決算も相次ぐ中、思わぬ方向に株価のトレンドが傾く恐れもある。慎重姿勢は崩さず、年央以降に向けた投資戦略を練りたい。
■5G、動画配信サービス、エネルギーをピックアップ
日本の大型連休中、この先決算発表を予定している米国の有力企業は、グーグル親会社のアルファベット(GOOGL)、イーライリリー・アンド・カンパニー(LLY)、メルク(MRK)、マクドナルド(MCD)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、マスターカード(MA)、ファイザー(PFE)、ゼネラル・モーターズ(GM)、アムジェン(AMGN)、モンデリーズ・インターナショナル(MDLZ)、アップル(AAPL)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、クラフト・ハインツ(KHC)、CVSヘルス(CVS)、クアルコム(QCOM)、アンダーアーマー(UAA)、ダウ(DOW)、ダウ・デュポン(DWDP)、ケロッグ(K)、ギリアド・サイエンシズ(GILD)など。
中でも最大の注目は、やはりアップル(現地4月30日に決算発表予定)。スマートフォン市場の熾烈な競争環境が意識される中、現在でも同社売上高の過半を占めるiPhoneの売上動向が、同社株およびハイテク株、ひいては米国株全体に対するセンチメントを左右しかねない。一方、バイオ大手の決算が並ぶが、2020年の米大統領選挙への出馬を表明しているサンダース米上院議員が「メディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)」実現に向けた法案を提出して以降、ヘルスケア企業の経営に影響が及ぶとの懸念が広がっている。経営陣のコメントなどには十分注意したい。
アップルは直近で半導体大手クアルコムとの特許訴訟が和解に至り、次世代通信規格「5G」への対応遅れへの疑念が後退した。「5G」とは第5世代移動通信システムを指し、大容量、多接続、高速化、低遅延といった特長を持つ。IoT(モノのインターネット)や自動運転、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)など革新技術の実現への寄与が期待され、米国株の最有望テーマの一つ。クアルコムの他、「5G」基地局向け集積回路を手掛けるザイリンクス(XLNX)、「5G」利用の通信ネットワークのためのソリューションを提供するシスコシステムズ(CSCO)、米通信大手のAT&T(T)、ベライゾン(VZ)ほか、関連銘柄の裾野は広い。
年後半にかけては「動画配信サービス」も注目テーマの一つとなる。アップルは端末以外のサービス部門による収入強化にまい進中で、定額制の動画配信サービス「アップルTV+」を今秋投入予定。先行するネットフリックス(NFLX)を追撃する。また、ウォルト・ディズニー(DIS)は独自の動画配信サービス「Disney+」の米国でのサービス開始日を19年11月12日に決定。ディズニーはじめピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナルジオグラフィック等の魅力ある有力コンテンツが続々と提供される見通しで、群雄割拠の様相を呈してきた。
ハイテク以外ではエネルギーを選好したい。米政府は一部の国・地域にイラン産原油の禁輸を適用除外としてきた猶予措置を、5月2日の期限をもって延長しない方針と伝わり、年初から続いた原油先物価格の反騰に弾みが付く可能性がある。今後、米中貿易摩擦の緩和や世界経済の思わぬ底堅さが確認された場合にも市況が押し上げられそう。シェブロン(CVX)、エクソンモービル(XOM)などエネルギー株の動向に注目。シェブロンは直近で同業アナダルコ・ペトロリアム(APC)の巨額買収を発表しており、業界再編の思惑もくすぶる。早くもオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)は、シェブロンに対抗しアナダルコへの買収案を提案した。ただ、資源高が続けば、他の事業会社の業績圧迫要因として意識される場面も出てきそうだ。 (松尾 繁)