【日経新聞1面】「合意なき離脱」対応で英経済指標堅調も実は危うい
2019/4/15 8:15 FISCO
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「合意なき離脱」対応で英経済指標堅調も実は危うい
在庫が隠すBrexit危機 、「偽りの安定」で政治が弛緩
「偽りの安定」が英国の景気や市場を覆っている。EUからの離脱議論が迷走し、不測の事態に備えて企業が在庫を積み増した結果、景気が実態以上に押し上げられ、政治家の危機感が薄れてしまうという皮肉な構図だ。EU離脱の期限は2019年10月まで延びたが、時間の空費が続き、「合意なき離脱」に突き進むようなら、危機のリスクが現実味を帯びる。
EU離脱の期限まで2週間を切り、英議会は混迷の度を深めていたが、4月1日に発表された3月の製造業の購買担当者景気指数(PMI)は意外にも55.1と前月比で3.0ポイント改善した。PMIは企業の担当者への景況感に対するアンケートで、50が好不況の節目。経済に悪影響は及んでいないように見えるが、実態を読み解くカギは「在庫」にある。
トヨタ自動車<7203>の英中部工場は、通常4時間分の在庫を臨時に倉庫を借りて3日分に積み増す「合意なき離脱」のリスクに備えた異例の措置。新たな通商関係などの合意がなく離脱すると物流が混乱し部品などの調達が難しくなる。英ロールス・ロイス・ホールディングスも航空機エンジンの部品を英国内で余分に保持。「何が起きても操業を続けなければならない」とウォーレン・イーストCEOは危機対応に万全を期す構えだ。
こうした動きは全英に広がり、製造業PMIを構成する購買品在庫指数は急伸し3月は前月比6.3ポイント上昇し66.2で、1992年以降の最高を3カ月連続で更新、主要7カ国では前例のない高い水準にある。GDPの計算上、在庫は「投資の一種」で増加はプラス要因。3月の生産活動が2月並みなら、英国の1~3月の実質GDP成長率は0.5%の見通しで経済統計が大崩れしない。株価指数は昨年末比で10%超上昇、ポンドも底堅い動きを保っている。
EUが10日の臨時首脳会議で英国の離脱期限を再延期したが、11日の英議会では「惨めな降伏」「外交的な敗北だ」と与野党議員がメイ首相を批判、新たに得た時間を前向きな議論に生かそうとする機運は乏しい。経済・市場の表面的な安定が、政治を弛緩させている。
英経済の実態は冷え込み始めている。仮に在庫指数が50の中立水準なら、3月の製造業PMIは2ポイント近く下振れしていた計算。サービス業も含んだ総合PMIの3月分は50ちょうどだが、「実力ベースでは40台でもおかしくない」(IHSマークイットのクリス・ウィリアムソン氏)。今後は「短期間に在庫を積み増した反動が出る」(SMBC日興証券の田坂圭子氏)うえ、企業が英国を去る動きが本格化する恐れもある。
英国の経済規模は世界で5番目。政治が現実を見つめないまま「合意なき離脱」に突き進めば、楽観に浸っている金融市場に与えるショックは大きく、世界は新たな混乱に陥りかねない。「Brexit(英国のEU離脱)」が危機に転じるリスクは燻り続けている。
在庫が隠すBrexit危機 、「偽りの安定」で政治が弛緩
「偽りの安定」が英国の景気や市場を覆っている。EUからの離脱議論が迷走し、不測の事態に備えて企業が在庫を積み増した結果、景気が実態以上に押し上げられ、政治家の危機感が薄れてしまうという皮肉な構図だ。EU離脱の期限は2019年10月まで延びたが、時間の空費が続き、「合意なき離脱」に突き進むようなら、危機のリスクが現実味を帯びる。
EU離脱の期限まで2週間を切り、英議会は混迷の度を深めていたが、4月1日に発表された3月の製造業の購買担当者景気指数(PMI)は意外にも55.1と前月比で3.0ポイント改善した。PMIは企業の担当者への景況感に対するアンケートで、50が好不況の節目。経済に悪影響は及んでいないように見えるが、実態を読み解くカギは「在庫」にある。
トヨタ自動車<7203>の英中部工場は、通常4時間分の在庫を臨時に倉庫を借りて3日分に積み増す「合意なき離脱」のリスクに備えた異例の措置。新たな通商関係などの合意がなく離脱すると物流が混乱し部品などの調達が難しくなる。英ロールス・ロイス・ホールディングスも航空機エンジンの部品を英国内で余分に保持。「何が起きても操業を続けなければならない」とウォーレン・イーストCEOは危機対応に万全を期す構えだ。
こうした動きは全英に広がり、製造業PMIを構成する購買品在庫指数は急伸し3月は前月比6.3ポイント上昇し66.2で、1992年以降の最高を3カ月連続で更新、主要7カ国では前例のない高い水準にある。GDPの計算上、在庫は「投資の一種」で増加はプラス要因。3月の生産活動が2月並みなら、英国の1~3月の実質GDP成長率は0.5%の見通しで経済統計が大崩れしない。株価指数は昨年末比で10%超上昇、ポンドも底堅い動きを保っている。
EUが10日の臨時首脳会議で英国の離脱期限を再延期したが、11日の英議会では「惨めな降伏」「外交的な敗北だ」と与野党議員がメイ首相を批判、新たに得た時間を前向きな議論に生かそうとする機運は乏しい。経済・市場の表面的な安定が、政治を弛緩させている。
英経済の実態は冷え込み始めている。仮に在庫指数が50の中立水準なら、3月の製造業PMIは2ポイント近く下振れしていた計算。サービス業も含んだ総合PMIの3月分は50ちょうどだが、「実力ベースでは40台でもおかしくない」(IHSマークイットのクリス・ウィリアムソン氏)。今後は「短期間に在庫を積み増した反動が出る」(SMBC日興証券の田坂圭子氏)うえ、企業が英国を去る動きが本格化する恐れもある。
英国の経済規模は世界で5番目。政治が現実を見つめないまま「合意なき離脱」に突き進めば、楽観に浸っている金融市場に与えるショックは大きく、世界は新たな混乱に陥りかねない。「Brexit(英国のEU離脱)」が危機に転じるリスクは燻り続けている。
関連銘柄 4件
・トヨタ自動車(7203)東証1部
国内1位・世界3位、英中部バーナストン工場で約15万台を生産
自動車世界大手。傘下に日野自動車、ダイハツ工業など。マツダと業務資本提携。車載用角形電池事業でパナソニックと協業検討。日本は堅調。原価改善策や輸出台数の増加等が寄与。販管費減少。19.3期2Qは2桁増益。 記:2019/01/22
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・本田技研工業(7267)東証1部
国内2位・世界7位、英南部スウィンドン工場の生産の21年終了を発表
自動車大手。二輪車は世界首位。自家用小型ジェット機でもシェア高い。自動車の8割強を海外で生産。利益の多くを北米とアジアで稼ぐ。四半期配当を実施。配当性向は30%目安。19.3期3Qは増収ながら利益足踏み。 記:2019/02/16
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・DMG森精機(6141)東証1部
工作機械の世界大手、欧州最大手を連結子会社化・欧州地域5割強
日系四大工作機械メーカーの一角。NC旋盤・マシニングセンタでトップ級。欧州における高いマーケットシェアが強み。海外売上比率が高い。受注高は2桁増。CELOSなど自動化需要が増加。18.12期は業績堅調。 記:2019/02/21
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日系四大工作機械メーカーの一角。NC旋盤・マシニングセンタでトップ級。欧州における高いマーケットシェアが強み。海外売上比率が高い。受注高は2桁増。CELOSなど自動化需要が増加。18.12期は業績堅調。 記:2019/02/21
・マキタ(6586)東証1部
電動工具トップメーカー、世界100カ国以上で販売・欧州売上構成比42%
電動工具最大手で国内シェア約60%。世界電動工具市場シェアは20%で2位。海外比率は80%超と高く、売上高の約40%を欧州地域に依存。園芸用機器にも注力。19.3期3Q累計決算は、増収・営業増益。 記:2019/03/11
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電動工具最大手で国内シェア約60%。世界電動工具市場シェアは20%で2位。海外比率は80%超と高く、売上高の約40%を欧州地域に依存。園芸用機器にも注力。19.3期3Q累計決算は、増収・営業増益。 記:2019/03/11