「エンジェル・ミズキーック!!」
止めの一撃を刺し華麗に着地した少女は、倒れ呻いている男たちを見てはっと我に返った。
「…やっちゃった!!」
電子産業が発達した、近未来大都市スペリオル。の、高層マンション街を通るモノレール。
その中で。
「あの、本当に…誰にも言わないから…えっと、その」
首をつかまれ、無理矢理座らされている少年と
「うるさい」
同い年くらいの少女。
少年は、名を中御門恋といい、少女の方は葉室蒼子という。
「見られたからにはタダじゃ生かしておけないのよ、中御門君」
恋は震え上がった。たった今、彼女の恐ろしさを目の当たりにしてきたばかりだったからだ。
時刻は半時間前にさかのぼる…
葉室蒼子にとって、今日という日は人生を変えるかもしれない(蒼子称)大事な大事な日だった。
彼女の、人生のバイブルというべきマンガ「エンジェル学園」(略してエン学)最新刊の発売日だったのだ。
放課後、蒼子は喜びに顔を弛緩させきって校舎を出た。そのまま裏手の門へと向かう。
何故、裏門か。
容姿端麗、成績優秀、ミステリアスな高嶺の花、というイメージを努力して周囲に植え付けた蒼子にとって、今のこの顔は見られてはならない顔であったのだ。
…それもこれも、ある「秘密」を隠し通すためで。
(うふふー。三浦ミズキの新しい必殺技、どんなのかしらーん…)
ドンっ
「いてっ!!」
うっとりしていた蒼子には、足下に気を配る余裕はなかった。
「おいおいねーちゃん、この学校のボスに向かってぇ、今のケリはひどくなーい?」
(チョップかなー、エルボーかしら…)
「タテついてるって思われてもぉ、しょうがなくない?」
(あん、ついにビームとか編み出しちゃったりして?)
「おい、聞いてんのかクソ女!」
彼女の本性は決して温厚ではない。楽しい妄想の時間を醜い男たちによって阻まれてしまった蒼子の理性はぷっつんと音を立ててキレてしまった。
「……ごちゃごちゃうっさいのよウザオ共!!」
そして冒頭に戻る。
つまり葉室蒼子の「秘密」とは
訳あって幼い頃より磨きに磨きをかけた、その高すぎる戦闘能力だった。
大の男10人ほどなら素手で1分、といったところだろうか。通常では考えられないバトル少女。
しかし、そんな姿を一般人の目にさらすわけにはいかない。私は普通の女の子になるのよ!!…そんな誓いをたてて高校に入学し、約2年間、破られることはなかった。
その時。
「ひ、ひっ!!」
どさっ、と音がして蒼子がそちらを見ると
カバンを地面に落とし、怯えきった表情でこちらを見ているクラスメイト。
「…中御門君」
中御門恋は見てしまったのだ。
クールビューティーとウワサのクラスメイト、葉室蒼子が上級生の番長グループを相手にケンカしていた。
しかも、こてんぱんにノしていた。
「…………」
彼をじっと見つめていた蒼子は何を思ったか、突然恋の襟首をつかんでずんずんと歩き出した。もちろん本屋に立ち寄り、エン学を購入することも忘れない。恋はその間ずっと蒼子に振り回されっぱなしだった。
さすがにモノレールに乗せられるときは多少の抵抗は見せたものの、蒼子のひと睨みで大人しくなってしまい。
…そして今に至る。
(ええーっ、僕、結局どこに連れてかれるの…?)
恋の不安を乗せ、モノレールは行く。
オンタリオ、というステーションで、蒼子は立ち上がった。恋も、引っ張られて立ち上がるハメになる。
「降りるわよ」