らんまん、観ていますか? 

 

 万太郎は、仙台に立ち寄っていた。北海道帝国大学の講演の帰りに、彼は、東北大学の招きを受けたのだ。肩書がついて理学博士になったので、万太郎は、あちこちの大学から呼ばれている。世間は肩書きで動くんだね。

 仙台の山の中で、万太郎は、笹の葉の新種を見つけた。寿恵子へのお土産ができた。

 

 翌年の4月、竹雄と綾が万太郎の家を訪れた。彼らは、新種の酒を持って来た。

 その酒は、爽やかで明るい甘口の酒である。今で言うところのフルーティーなお酒だ。女性が好む酒だね。綾は、やっと自分の思い描いてた酒を作ったのだ。酒の名前は、「輝峰」。

 皆の衆から「女だてらに・・・」、と言われ続けた綾は言う、「今日も生きて暮らして行く。そういう人の営みと共にある酒が作りたかったがよ」。

 (そうですね、じゃぁ、朝から「輝峰」を飲んでもいいのかな?・・いいともー。そりゃー、酒飲みには嬉しいね。)

 と言うことで、早速みんなで試飲をした。下戸の万太郎まで飲んでいる。ジュースみたいな酒だ。寿恵子は、晴れた空みたいな酒だと、表現した。

 現代では、「勝山・䴇(レイ)」と言う仙台の酒があるけど、これがなかなかの日本酒で、メロン風味の香りがして、甘口で、美味しいんだよね。つまみのいらない酒だね。食事に合うと言うよりは、この酒だけをなめてるのがいいね。和至のところにも、たまに、こういう特別なお供えがあるのだ。

 第二次世界大戦後の日本酒は、GHQの力によってめちゃくちゃにされたけど、平成・令和になって、やっと本来の日本酒が復活して来た。新しい日本酒は、爽やかな液体果実になっていた。いいことだ。

 日本植物図鑑は、ほぼ完成している。しかし万太郎は、今からもう1種類だけ、仙台で採取した新種を加えることにした。今回の旅で見つけた笹竹である。

 万太郎は、その笹竹の和名を「すえこざさ」と命名した。イネ科の笹属である。

 その年の夏になって、日本植物図鑑が完成した。万太郎は、縁側でひなたぼっこをしている寿恵子に、

「わしらの図鑑じゃ」、と言って見せた。

 この日本植物図鑑を完成するにあたって、影に日向に、関わってきた人たちの名前も、しっかりと記載されている。もちろん、寿恵子と子供たちの名前もだ。虎鉄の名前もある。

 図鑑は、「白梅堂」の思い出の和菓子、牡丹の花から始まって、園子が好きだった姫スミレ、そして、最後のページには、新種の「すえこざさ」が載せられていた。

 全部で、3260種類の草花が記載されている図鑑だ。寿恵子は、

「らんまんですね」と言って涙を流した。

 夫婦は園子に、その、らんまんな日本植物図鑑を捧げた。

 寿恵子は、「この図鑑がある限り、私は万太郎さんと、万太郎さんの花と、園子と一緒に居られるんですね。永久に咲いていられるのですね」と言った。万太郎は、

「そうだよ、寿恵ちゃん、わしを信じてくれてありがとう。寿恵ちゃんは、いつじゃちぃ、わしを照らしてくれた。植物にしか取り柄のないワシじゃが、寿恵ちゃんは、わしの命の華の太陽じゃっ。暖かい懐に入って、二人でいつまでも純粋に咲いていようね」と語った。

 寿恵子は、図鑑の「すえこざさ」を愛おしく撫でながら、万太郎の暖かさにに寄り添った。

 寿恵子の頭の中に、現実と闘いながら、それを受け入れて過ごした、二人の冒険人生、その思い出がよぎる。彼女は、

「万さん、私が死んでも、園子ののところにいるんだからね。いつまでも泣いてちゃだめですよ。私だって忙しいんだからね。」と言う。万太郎は、

「寿恵ちゃ、・・・愛してる、愛してる、・・・・愛してる」と言葉が湧き出て、寿恵子を抱きしめた。寿恵子は、

「あなたは、花と万さんだけ。私はそのそばにいます。命の光が照らす暖かい場所です。」と言いながら、彼女は、この世を照らす全ての愛を感じた。万太郎は、寿恵子を抱きしめたまま、「わしらはいつも一緒じゃ」、寿恵子は「はい」と言った。

 そして、温かい気持ちのまま、寿恵子はあの世の園子の所へ行った。

 

 それからも万太郎は、いつものように、山で植物を採集している。植物仲間も増えた。

 ある山の中では、花と一緒にいる寿恵子に会えた。彼女は、日本中の植物を探しに行くようにと告げていた。植物は変化が激しいから、万太郎は、生きているうちに次の新種を見つけないとね。

 今日は、「らんまん」最終回の1席でした。空気体瞑想のことについては、労いと敬意を表して、控えさせていただきます。

 

         「らんまん」 完