夕方まで歩いて、道後温泉の手前の
第五十一番石手寺(本尊・薬師如来・おん ころころ せんだり まとうぎ そわか)大師堂(南無大師遍照金剛)をお参りした。
受付で、テントの張れそうなところを尋ねたら、受付の人は、「ちょっと待ってください」と言われて、泊まるだけの場所をお接待してくださった。そこは、別棟の二階の広い部屋で、大きなストーブがついいていて、歩きのお遍路さんが、いつも泊まられているようだ。私は一人で、しかも部屋は妙に静かなもんだから、ストーブのファンの音がブンブンと響いている。私は、三十畳はあるような部屋のストーブの前に、『寒い夜に助かるなぁ』と思いながら、ちょこんと座っていた。
そこへ、小さなおばあさんが入ってきた。彼女は、低めの声でこちらを見ずに、「今晩は。」と言うから、私も「こんばんは」と返す。おばあさんは、頭にタオルを巻き、白い遍路服にジーパン姿で、少し丸くなった背中にリックサックを背負っている。彼女は、部屋を斜めに横切り、私の荷物とは反対側の隅の方に荷物を下ろした。
私は、この人と室戸岬で出会っている。その時は、逆うち(逆回り)で、お参りされていた。私が、
「おばぁさん、室戸で見たよ。」と言うと、おばぁさんは、
「そうだったかねぇ。」と、言って、ストーブのそばに来て座った。それがきっかけで、長い話を始める。・・・つづく。