私は、この青年に何かお接待したかった。少しでも慰めになると思ったからだ。しかし、気の利いたものを私は持ち合わせていない。それで、取りあえず、先にお参りすることにした。

第三十二番禅師峰寺(本尊・おん まか きゃろにきゃ そわか)大師堂(南無大師遍照金剛)で、お経をあげて、納経所に寄り、ベンチの近くまで帰って来た。すると、彼が、ストンと立っていた。手には、錦の札を二枚持っている。錦の札は、お四国を百回以上お参りした人が持っているものだ。彼が、

「お参りにこられた人にもらったんですけど、お守りになると言われて。」どういう事なんだろうと言わんばかりに、私に声をかけてきた。彼の綺麗なお札には、お四国百六回満願と書いてあった。私が、

『ちゃんと彼にも御加護があったんだ。』と密かに思って、黙っていると、彼が、

「このお札ってお守りになるんですか?。」と聞いてくる。私は、

「私も、始めて見るんだけれど、そう言われているよ。凄いね。おめでとう。」と言った。彼が不思議そうに、ほほを緩ませて、少し喜ぶ。私は、

「いいものを見せてもらった。」と彼に言った。さらに「真面目に生きている人に、いい事があるのはいい。」と言うと、彼が、「うん。」と言った。コツコツとやるしかないんだよね。

 それから、青年は、さっきの海の見えるベンチに腰をおろして、お札を見ていた。波が遠くで、鳴っていた。

 私は、禅師峰寺を出て、長い橋を渡って、

第三十二番雪蹊寺(本尊・薬師如来・おん ころころ せんだり まとうぎ そわか)大師堂(南無大師遍照金剛)を、お参りする。今日は、この隣の神社にテントを張らせてもらう。さすがに、足が痛む。

 コツコツと 痛むる足に 杖の音    南無大師遍照金剛。・・・・・つづく。