『しのゼミ』 -36ページ目

『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

ハニーさんは,この大学病院でも数少ない女性外科医。

医師になって8年目くらいで,専門は乳腺外科。

たまに病理へ用事がある時には,ちゃんと挨拶してくれる。

自分たち病理に寄りついて?くれる,数少ないドクターだ。



自分の印象だが,女性外科医は一般に勝気で男っぽいヒトが多い。

キャピキャピしていないというか,ナヨナヨしていないというか,サバサバしているというか,あたしゃ我が道を行くというか・・・・・

まだまだ徒弟制度の色合いが濃いこの「外科」な世界。

この世界で,堂々とメスを握るにはこんな男勝りな性格が必須なのか?

ハニーさんもこの例外にもれず。

かわいらしい顔して,主張する時にはビシッと言う性格だ。

そのビシッが,言わんでもいいようなシチュエーションでも出てしまうのが玉に瑕。

以前にも,医局会でやってしまったらしい。

当直などのデューティー割り振りで,自分たち乳腺外科グループがあまりにも不公平で虐げられた案だったようだ。

っで彼女,その案を見るや否や,堪忍袋の緒がブチッと切れた音が聞こえたらしい。

「え~~こんなんじゃあ,乳腺の手術はできません!」

また言わんでもいいことを,大ボスである教授・准教授先生の前で言ってしまったらしい。



「はぁ~~~なんで乳腺って,みんなやってくれないんでしょう?」

今日もハニーさんのボヤキから始まる。

聞けば,ハニーさんの医局は消化器外科が専門なため,乳腺外科を専門としてやってくれる医師が少ない。

少ないだけならまだしも,乳腺外科をけっこうバカにしている風潮を感じるらしい。

自分の素人考えだが,外科医たる者,お腹を掻っ捌いてでっかいガンの手術をするのが醍醐味。

乳腺のような体の表面に位置するチマチマしたガンの手術など魅力ないわ・・・ってな感じがあるのか?

ホントの理由はこんな単純じゃないとは思うけど・・・・・

「・・・こんなんじゃあ,ホント仕事が回りませんわ~」

「どこも同じで苦しいなぁ」

「今度手が足りなかったら,ウチの教授に応援頼んでみよっかな」

「オイオイ・・・」

「そう言えば,この前の〇〇の症例ですけど・・・してくださいって〇×先生が言ってましたよ」

「ああ,あれね・・・・・わかったわかった」

「それじゃ,また来ますね」



こんなふうに,言いたいことだけ言い終わると,さっさと去っていく・・・・・

まるで清涼飲料水のような一陣の風の如し。





思わぬ訪問者があった。

とある女性。

そのお父さんが先日に亡くなったと,わざわざ報告にみえた。



話は二か月ほど前にさかのぼる。

外科医の先輩からの電話がコトの発端だった。

病理部に保存中のとある患者さんの胃癌組織で,遺伝子発現を検索してくれないかという話だった。

その遺伝子が「HER2」と呼ばれる受容体。

これは乳癌でよく調べられる遺伝子だ。

HER2とは,乳癌で過剰に発現 → ガン組織の増殖を促進していることがある。

これに対する分子標的薬である「ハーセプチン」は,HER2受容体をブロックすることで癌の増殖を抑える。

こういうメカニズムで抗腫瘍効果が証明されているが,それはあくまでもHER2遺伝子の過剰発現のある乳癌組織という前提がある。



簡単に言えば,そんな乳癌に使う薬を,胃癌で使うことはできないか?と言う相談だ。

そのとある女性のお父さんは,数年前に胃癌で手術を受けた。

っで,数年経ってから再発。

今となっては,転移病巣が全身に広がってしまっていて,再手術は不可能。

残る治療は抗がん剤か放射線かということになるが・・・・・

頼みの抗がん剤を試すも無効と分かり,次の手を探しあぐねていたようだ。



「・・・っで相談やけど,手術した胃癌の標本でHER2を調べてくれんやろか?」

「はぁ・・・染色するだけなので,やろうと思えばできますけど・・・」

「万が一,HER2が過剰に発現してたとしたら,たとえ胃癌であってもハーセプチンが効くかもしれんし・・・」

「かもしれませんね」

っということで調べてみると,その胃癌ではHER2が+2だった。

+2というのは説明が要る。

HER2遺伝子の発現は,免疫組織化学という特殊な染色をして,その染色の強さで評価する。

発現が強ければ濃く染まり,弱ければ薄い。

+2というのは+1(陰性)と+3(陽性)の間。

いわゆるグレーゾーン。

こういうケースは,FISHという方法でもう少し詳しく調べるんだが・・・それはあくまでも乳癌だったらばの話。

そもそも胃癌でHER2なんて調べたの初めてやし・・・・・

その染色評価の仕方も,乳癌のものを真似してるだけで,ホントに正しいのかどうか・・・・・

その上,+2だからといって,さらにFISH法で詳しく調べる意味があるか・・・・・

イヤ,意味などないかもしれん・・・そうする価値があるかどうか・・・・・

それに,このような実験的な治療が倫理的に許されるのかどうか・・・・・



先輩先生に,この結果をもってブッチャケ相談する。

「・・・っという結果で,+2ということはHER2が効くかどうか微妙です」

「そうか・・・ありがとう」

「ちなみに,たとえ乳癌の+3でも,薬の奏効率(効き目がある可能性)は30-40%程度しかありません」

「そんなに低いんか?」

「+2だと奏効率は10%もないかもしれません・・・・・乳癌でこの程度なので,胃癌だったらさらに低いと考えるべきでしょう」

「そうかもしれんな」

「それに,もしも薬を使うとしても,それは保険適用外でメッチャ高額ですし,そもそも実験的な意味合いもありますし・・・」

「その実験かもという件やったら,大学の倫理委員会にちゃんと相談して,治療の可否を決めてもらってからするつもりやけど」

「そうですか・・・ならばちょっと安心です」

・・・・・

どっちかと言うとハーセプチン投与にネガティブなニュアンスで意見をしてしまった自分。



っで,結局はハーセプチン投与は見合わせたと外科医先輩から漏れ聞いた。

その後,そのお父さんはホスピスに転院。

先日に亡くなられたと,ご丁寧にも自分にまで報告にみえた女性。

「先日は,ホントに無茶なことを頼みまして・・・」

「こちらこそすいません・・・何もできなくって・・・」

・・・・・

あの時。

効くかどうかは微妙ですが,試す価値はあります・・・

可能性はゼロではありません・・・

そう言おうと思えば言えたかもしれん。

ホントにあれでよかったのかと自問が続く・・・・・





本日は,大学入試の前期日程の監督。

今年はセンター試験の監督を免れて,メッチャうれしかったんだが。

やっぱ両方を免れることなんてあり得んか・・・・・



とにかくじっとしていることが仕事であるこの「試験監督」。

こんな非創造的・マニュアル的な仕事をするには,なにかで気持ちを紛らせないとやっとれん!

そうは言っても,やることはし~~っかりやらしてもらいますけど。

っということで,試験監督という「右脳ノー回転」な時間をフル活用。

今年度我が大学医学部受験者の,「見た目」的な判断のみによる「入口調査」をやってみた。



自分の監督受け持ち教室は,化学生物選択受験者でちょうど50名。

ちなみに理科選択(物理・生物・化学の3科目から2科目選択)の割合は,物理化学57%,物理生物2%,化学生物42%。この結果からは,ほとんどのヒトが化学を選択していることになる。

さて,その「見た目のみ」調査結果は以下。

▼ 男女比 ♂:♀=30:20(これが以下の率の分母になる)

コメ;自分の同級生は大体25%ほどだった女性率。ちょっと女性率はアップしているのか?あるいは物理化学選択は男子が多いので,結局は平均すると30%程度の女性率に落ち着くか?

▼ 一見すると性識別困難率 ♂ 2名,♀ 0名

コメ;男女がよくわからん人物が二名。その二名は男子にもかかわらず長髪+髪留め付き。既存概念(髪留めなどのヘアーアクセサリー=女子)に囚われて,性別診断に迷う。この二人,服も中性的やし・・・・・ニュータイプでワケ分からんわ~。

▼ おじおば率 ♂ 2名,♀2名

コメ;たぶん25歳以上はいっとるなぁ・・・という「老け顔」なヒトは,全部で4名。ちなみに自分の同級生では1割弱だったので,あんまり変わらんか?

▼ 現役率 ♂ 15名,♀ 13名

コメ;受験票の写真が制服姿で撮影されている人の数で代用。私服の高校もあるだろうから,実際にはもうちょっと多い?かもしれん。意外に現役生って多いなぁ。

▼ 制服を着て受験率 ♂ 2名,♀ 5名

コメ;制服を着て受験するというのは,そこまで高校の規則が厳しいんだろうか?ひょっとして母校愛?あるいは,私服選びが面倒なただのズボラか?いずれにしてもやっぱ制服ってええなぁ・・・決してヘンな意味ではなく。もう二度と着れへんで。

▼ イケメン率 こりゃあ分からん

コメ;極めて個人的感性に依るのでわからんが,嵐の松潤似が一人いた?

▼ 美女率 これも分からん

コメ;つり目気味になった長澤まさみ似が一人いた。

▼ メガネ率 ♂ 10名,♀ 3名

コメ;男子に多い。これが医師になる頃には,50%以上にはなるだろう。

▼ マスク率 ♂ 1名,♀ 6名

コメ;顔面の2/3以上を覆うようなマスクをしながらの受験者が散見される。病人には見えんので,風邪防衛的な意味合いが強そうだ。ちなみに真顔が見えんので,受験票チェックがしづらい。

▼ 受験票写真に問題アリ率 ♂ 0名,♀ 2名

コメ;この二人の女性ともにどう見ても25歳以上な外見(失礼!)だが,写真の中では20歳くらい?で若い。ちょっと画像的にサバ読んでる(昔の写真?)かもしれん・・・・・でもこれって指摘しづらいことではある。ヘタすると,セクハラだのなんのって言われ兼ねない。証明写真なんだから,普段の顔してパチリと撮ればええのに・・・・・女心は複雑?



受験生の行動として監督中に気になったこと。

一つ目が,危機感がないヒトがいる。

受験日なんだから,念には念を入れて1時間,イヤ2時間早めに来るのが当然だと思うけど?

それをギリギリに試験場に飛び込んでくるヒトが結構いる。

これは大きな意味で準備不足!

それに,「解答欄に・・・してください」と問題冊子にも書いてあるし,前もって口頭でも注意するし,試験終了後にも再確認するんだが,そんなに何度も注意喚起しても出来ていないヒトがいる。

こういう危機感のないヒトは,自分的にはダメだなぁ・・・

それから,試験中にうつらうつらしたり机に突っ伏すヒト。

問題が難しいのかあきらめてしまって,粘りのないヒトも自分的にはダメだ。

そもそも試験問題なんて難しく作ってある。

スラスラと解けるヒトなど皆無。

そんなドングリの背比べ状態なんだから,一点でも稼ぐような精神的な粘りが大事だ。

それがないと,合格など覚束ない気がする。



なんやかんやあったものの,本日の試験監督業務は無事に終了!

それにしても,今年度の正確な倍率は知らないが,担当したこの50人の中のほんの一握りのヒトしか合格しないという現実がある。

実際にこの50名を目の当たりにすると,選抜=選んで抜いてくるという意味の重みを実感する。

そして,その選ばれたヒト達が次世代の医療を担っていく。

・・・・・なんとも厳かなる気持ちを思い出させてくれた本日の仕事だった。






せっせと病理診断している胃生検の患者さんに,懐かしい名前があった。

その名前の主は,自分の実家の隣町出身の同級生。

その「彼」とは,特に親しくしていたワケではない。

通う学校も違ったし,進路にも接点がない。

だったら他人じゃん・・・って言われれば確かにそうだ。

たとえばいま顔を合わせても,「・・・お久しぶり・・・って誰だっけ?」となるハズだ。

しかし,自分にとっては懐かしい名前。



・・・話は自分が中学生の時にさかのぼる。

その地区の中学校対抗陸上大会なるものが開かれた。

たとえば100メートル走だったり,走り幅跳びだったり,高跳びだったり,リレーだったり・・・

学年別に選ばれたそれぞれの中学校の代表が,体力というか種目の技を競い合う。

いちおう学校の名誉のため,それなりに練習を積んで望む。

現在の状況は知らないが,昔はいろんな地区にこんな催しがあったろうと思う。



中一の自分は,砲丸投げの代表。

なんで砲丸投げやねん・・・

地味や・・・

走り幅跳びあたりにしとけばよかったんだが・・・

あんまり華麗さはないかもしれん砲丸投げには,ゴッツイ体つきのツワモノどもが勢ぞろい。

そんな中に「彼」はいた。

彼はツワモノの中に於いてもすでに異彩を放っていた。

なんでも柔道をやっていて,地区でも断トツの強さなんだとか。

そんな背景があるので,彼は戦う前から自分の優勝と信じていたのかもしれん。

当時の自分はというと,ローレル指数135くらいの中肉中背。

ゴッツイ輩の中では自分はまったくパッとせえへんというか,むしろ華奢と言ったほうがいい。

ただ野球で鍛えた肩は強かった。

っで,結果はなんと自分が優勝。

そして,「彼」が二位だった。



っで,その後だ。

「彼」は柔道で有名な某高校に進学。

全国大会でも上位に食い込むような優秀な成績を残したらしい。

それによって,進学した大学でも柔道漬け。

っで,たゆまぬ努力の結果,嘉納杯やら全日本柔道体重別選手権でなんと優勝!

その後,世界選手権でもなんと優勝!

なんともまぁ,飛ぶ鳥落とすと言うか上がり馬と言うかトントン拍子と言うか・・・とにかくものすごい勢いだった。



そんな「彼」がマスコミに出る度に,「オレは彼に砲丸投げで勝ったことがある!」と繰り返す自分。

アホのひとつ覚え。

また始まったオッサンの自慢話。

やっぱこの手の話は,誰も聞きたくて聞く話ではない。

シノ妻などは,気の毒にもこの話をイヤになるほど聞かされている。

最近は若干省略して,「オレは彼に勝ったことがある!」となっている。

これは少し詐欺かもしれん。



しかしその生検の患者さんの年齢を見たら,随分と年上。

結局,同姓同名だったようだ。

でも,懐かしいヒトを思い出すきっかけをもらえて,少し得した気がした。

さぁ~て今度は,誰にこの自慢話をしようか・・・・・





「ミクロトーム」

病理標本を作るために組織を薄切する器械のこと。

手術やら生検やらで病変から頂いてきた組織があるとする。

それをHE染色標本にするためには,組織をメッチャ薄く切る必要がある。

この器械を使えば,パラフィン蝋に封じ込めて固めた組織を,鋭利な刃でスパッと薄く切ることができる。

その薄さはこの業界では約4マイクロ。



▼ 耐用年数∞です

そもそも病理で使う器械には,耐用年数があるのかないのか分からんものが案外多い。

このミクロトームしかり,顕微鏡もまたしかり。

このミクロトームというものの耐用年数はどれだけか?

自分の見聞きしてきた経験から想像すると,丁寧に使った場合,だいたい20年くらいか?(あるいはもうちょっと長いかもしれん)

どの病院に行っても,置いてあるミクロトームはだいたいにおいて古い!

その多くがヤ〇ト社製。

考えて見れば,頑丈なステージに組織をセット,鋭利な刃の付いたホルダーを前後に滑走させる・・・といういたって単純な構造。

しっかりした作りだったら,壊れにくそうだ。



▼ いらぬ心配?

我が病理部で使用中のミクロトームの滑走部分がガタついてきたらしい。

こうなるとどうしようもないようで,新規購入になりそうだ。

ちなみにこのミクロトームも,購入後20年以上経っていて,どれくらい古いのか分からないほどだ。

早速,購入に向けて資料集めなどをしてもらうが,今時のミクロトームはいろんな「自動化」を盛り込んだ機種が主力になっている。

こんなミクロトーム業界というメッチャ狭い世界にも,デジタル化の波は押し寄せている。

「壊れにくいし,信頼性はあります!」と胸を張る営業マン。

おっしゃる通りで,長持ちなのは想像できるけど・・・・・

どこで儲けるの?・・・といらん心配をしてしまう。

買ったら20年は平気で持つような器械。

需要もそんなに多くはないだろう。

そんな商売の仕方でやっていけるの?ヤ〇トさん?



▼ 商売下手?

その点,IT業界はうまい。

自動的に需要が起こる仕組みがあらかじめ作られている。

PCなどは,5年くらいで壊れるように・・・というと語弊があるが,まぁ5年程度の寿命を目安に設計されている。

ソフト業界もしかりで,MSオフィスなんかは4~5年でメジャーなバージョンアップ。

プリンターは,インクの減りが早くて高い。

こんなふうに儲けどころが作ってある。

けれど,このミクロトームだ。

一体どこで儲けてんねん?

一番の儲けどころと思われる消耗品であるところの替え刃は,他メーカーの独壇場。

信頼性(=壊れにくさ)を高めれば儲からないというジレンマ。

・・・なんか気の毒に思えてくる。

そこで提案だ。

「壊れやすいミクロトーム」を作ってみてはどうか?

値段は安いけれど,申し訳ないが5年くらいしか持ちません!という業界の常識を覆す画期的なミクロトーム!

話題沸騰でマスコミにも取り上げられるかもしれんが・・・・・ゼッタイ売れんわな・・・・・