斉藤由貴の32年を歌詞と共に振り返る | 忍之閻魔帳

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50歳の大台を迎えて再ブレイクしていた
斉藤由貴の人生が、また揺れている。

auのCM、ドラマ「カンナさーん!」、映画「三度目の殺人」など、
話題作に立て続けに出演しているので、
若い方にとっては女優のイメージが強いのだろうが、
2015年に開催された松本隆の作詞家45周年記念イベント
「風街レジェンド」で歌った「卒業」を始め歌手としてのヒット曲も多く、
シングル・アルバム共に1位記録を持つトップクラスの人気を誇っていた。
アイドルらしく初代「スケバン刑事」で主演を務める一方で、
自身で作詞をしたり「月刊カドカワ」で連載を持ったりと
文学少女の側面も持ち合わせており、
(多少の語弊はあるが)元気良く笑っていればオールOKとされた
当時のアイドル事情においては異端とも言える存在だった。
そんな彼女が雑誌の企画で出逢ったのが尾崎豊である。

東宝の抱える若手トップ女優として、
アイドル歌手としてもヒットを連発していた斉藤由貴は、
谷山浩子や武部聡志ら才能豊かなブレーンに恵まれて独自の世界観を構築していた。
自身の手掛ける歌詞ではしばしば内省的な歌を書き、
尾崎豊との不倫が世間を騒がせていた1991年発売のアルバム「LOVE」では
表向き沈黙を貫いた斉藤の心情を全て吐き出したかのような
とてつもなく濃密なアルバムでファンの度肝を抜いた。
尾崎の愛用していた白シャツをまとったジャケットとストレートすぎるタイトル、
二人の馴れ初めから別離までをこの1枚に込めるように
1曲1曲の歌詞・言葉が研ぎ澄まされ、曲ごとにコロコロと表情を変える
変幻自在な歌いっぷりはまさに”女優”のそれだった。

以下に収録曲の歌詞を一部抜粋して紹介する。




発売中■CD:「LOVE 25周年記念 紙ジャケット仕様/ 斉藤由貴」

「Yours」

あなたと初めて 出逢った頃の
無防備さとか お気楽さとか
T-シャツみたいに 自由な私は
一体何処に いったのかしら

「朝の風景」

もし二人が 別れることがあるとして そしたら
想い出さないわ 多分あなたのこと・・・
ひどいねって?いいえそうじゃないわ
だって想い出す為には、一度忘れなきゃ、ね?
忘れることないんだもの 私・・・。

「誰のせいでもない」

いつの日か お互いにわかりあう日が来る
皆 歴史繰り返すと 誰もそう教えるけれど
二人には二人だけよ 今はわかりたくない
静かな 終りの時間に 抱きしめられる
ごめんなさい 愛してます 今でも

「このまま」

雪が止み 何故かしら怖くなり しがみついた
寄り添ってこのまま 死んでしまえたらよかった
捨てられた子犬になり うつむいてじゃれあった
惨めな程それだけで 嬉しくて心震えた

"世界が終ろうとしてる なのに
僕らは 別々の家に帰る"

もう 何もかも 私達あきらめたのだから
もう 何もかも 許し合おうよ
だってお互いなしじゃ やって行けないよ
もう 何もかも 捨ててしまおう
もう 何もかも 何もかも 何もかも 何もかも 何もかも 何もかも

「LETTER」

拝啓 元気ですか 私は変わりありません
逢えない日々 吐息ばかり

Longing for You 言葉などもう
Caring for You 雲の彼方
Longing for You ただ元気でと
Caring for You 願っています 今日も

一体何をすれば あなたの為になるのでしょう
Longing for You, Caring for You
その思いで 生きています

「意味」

ふりあおぐ 青い青い空に 涙が
たまらなく 溢れてくる その意味教えて
孤独の意味を 教えて 命の意味を教えて
どうして ひとり これから 生きてゆけるだろう





発売中■CD:「moi 25周年記念 紙ジャケット仕様/ 斉藤由貴」

尾崎は1992年4月に多くの謎を残したまま他界し
斉藤由貴は黙して語らぬまま月日が流れる。
さらに2年後、久しぶりにリリースされたアルバム「moi」は
筒美京平の書き下し5曲とスタンダードカバー6曲の構成。
1曲目にはバート・バカラックの「The April Fools」のカバーが収録された。

『これはApril Fool 四月が仕掛けた嘘』

そう歌い、斉藤由貴は過去にけじめをつけて
アルバム発売と同月の1994年12月に同じモルモン教徒の夫と結婚したのである。
「moi」の内容から察するに、1993年に不倫騒動になった川崎麻世については
ただの火遊びであり、結婚まで尾崎の影を引きずっていたことがうかがえる。

結婚してからの斉藤由貴は、
まるで憑き物が落ちたかのように「普通の人」になった。
トーク番組で家庭の話しもするようになり
「運命の女」を執筆していた頃とは別人のような筆致で
「赤ちゃんあいしてる-斉藤由貴の妊娠・出産はじめて日記」を出版した。
まるで止まっていた時間を倍速で取り返すように加齢が加速して、
斉藤由貴は瞬く間に「普通のおばさん」になっていった。

小公女セーラ 斉藤由貴
*「小公女セイラ」出演当時の斉藤由貴(当時42歳)

決定的だったのが2009年放送のドラマ「小公女セイラ」。
斉藤は志田未来演じる主人公の通う女学院の古文教師役であり
樋口可南子演じる院長の妹役だった。
何かにつけ樋口に「だらしないわね」と叱責されては
「ひどーい、おねえさまー」とボヤくだけの典型的なオミソ役で、
斉藤由貴がこんな役をやるようになったのかと
激しく落胆したことを良く覚えている。
もうこのまま和泉雅子のようにどんどん肥えていって
いずれはヤマト運輸のCMに出て歌い踊るようになるのでは、と。



しかし、翌2010年に現在噂になっている男性と知り合うことで
斉藤由貴は再び「女優」へと戻っていく。
すっきりと痩せた彼女が「徹子の部屋」に出演した時に
「厳格な父から『最近のお前は見るに堪えない。痩せろ』と
命令されたから痩せた」と言っていたのだが、
今にして思えば新しい恋の効果だったのだろう。




発売中■CD:「何もかも変わるとしても / 斉藤由貴」

2011年、斉藤のデビュー25周年を記念して
久々のアルバム「何もかも変わるとしても」がリリースされた。
傑作と名高いアルバム「チャイム」の1曲目に収録された
「予感」から始まるこのアルバムは、子供や家族といったテーマの曲が並ぶ。

「永遠のひと」

子どもたちに伝えよう
ここにいることが
それだけで、大きな奇跡だと

何かに秀でてても
何もかもが不得意でも
あなたは代わりのいない
ひとりのいとしいひと

他には代わりのいない
尊い永遠のひと


なんだ、幸せなんじゃないかと思ったらこの曲は自作詞ではなく、
彼女が書いたのは

「折り合いはつかない」

朝から晩までちまちま
つばぜり合いは続く
イヤになるけど
今日もまた一日
まぁ無事に生きられるなら好しとしよう
ひっかかるトコが2コ3コ
あっても見ないふり

でもまた一日
まぁ無事に生きられるなら好しとしよう
ひっかかるトコが5コ6コ
あってもとりあえず


もちろん、これだけで現状に不満を持っていたとするのは早計だ。
私も当時は他愛のない愚痴が彼女らしいなと思いながら聴いていた。
生活する上で、小さな不満は誰にでもある。
満点でも赤点でもないけれど、これを幸せと思って生きていこうと、
彼女は自分に言い聞かせていたのかも知れない。




発売中■Blu-ray:「若者たち2014 ディレクターズカット完全版」

女優としての再ブレイクを強く印象付けたのが
「若者たち2014」「ごめんね青春!」に立て続けに出演した2014年。
「若者たち2014」では、尾崎の数少ない友人である
吉岡秀隆と夫婦役で共演した。
ドラマ内で斉藤は、吉岡と不倫関係にある満島ひかりに向かって
「相手が既婚者だった時点で、それはもう運命の人じゃないのよ」と告げた。
このキャスティングは狙ったものだろうし、
斉藤も吉岡もこの台詞が当て書きされたものだと気づいていたに違いない。
斉藤由貴が本妻を演じ、不倫相手を諭すとは随分な設定だが
やきもきする昔のファンをよそ目に、斉藤は正妻を演じ切った。




発売中■CD:「ETERNITY / 斉藤由貴」

ドラマに舞台に、一気に露出が増えた2015年。
デビュー30周年を迎えてリリースされた記念アルバムが「ETERNITY」。
洋楽のスタンダードカバーが中心だが、ラストには斉藤の音楽活動を支えてきた
武部聡の作曲による「永遠」が収録されている。
この曲を聴いた時に、私はもう夫婦仲がそれほど円満でないことは気付いていた。

「永遠」

作詞:斉藤由貴
作曲:武部聡志

ふ、と目が覚めたの
静かな夜明け前
夢を見たの あなたの夢

もう二度と逢えない
ふいに怖くなって
涙ひとつ 闇に溶けた

故知れず
行く先も知らず
永遠の海に漕ぎ出した二人

小指を絡めて
心に囁いた
ずっと一緒 愛してるよ
ずっと一緒 愛してるよ


斉藤由貴の歌は30年間変わらずに日記公開で来たのだから
この曲の主人公も間違いなく本人であろうが、
「あなた」とはさて、どちらなのだろう。
2年前は尾崎一択だと思っていたのだが、改めて今読み返すと
現在噂になっている男性との関係が世間にバレてしまい
別れさせられてしまう日が来ることを恐れているようにも取れるし、
やはり自分にとって運命の人は尾崎ひとりなのだと言っているようにも読める。
いずれにせよ、この曲に出てくる「あなた」が夫でないことだけは確かだ。

ここ最近の猛烈なバッシングを見ていると
斉藤由貴が何故今こんなにも叩かれているのかが正直良くわからない。
勘違いされると困るのだが、決して擁護しているわけではない。
デビュー当時から(音楽活動も含めて)知っている私としては
「彼女はずっとこんな調子ですよ?」というだけである。
尾崎との出逢いと別れを歌にし、諦観の果ての結婚も歌にしてきた彼女は
2年前に心情を吐露していたのである。

それだけに、一連の報道を聞いて
「なんだ、やっぱり斉藤由貴は死ぬまで斉藤由貴だな」と
得心したファンは案外多いのではないかと、
そう思ったというだけでこれだけの長文を書いてしまった。


発売中■CD:「ゴールデン☆アイドル 斉藤由貴」
発売中■CD:「斉藤由貴 SINGLESコンプリート」

斉藤は10月6日より開催の「風街ガーデンであひませう 2017」でも
2日目のレジェンドゲストになっているのだが、
このタイミングで「初戀」だの「卒業」だの歌えるだろうか。
風は相当アゲインストだぞ。