すったもんだありまして。映画「シン・シティ 復讐の女神」 | 忍之閻魔帳

忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

映画 シン・シティ 復讐の女神


▼すったもんだありまして。映画「シン・シティ 復讐の女神」



フランク・ミラーとロバート・ロドリゲスの2枚看板制を採用し
タランティーノまでがゲスト監督として参加したことで
アメコミファンを中心に大絶賛された大ヒット作「シン・シティ」の続編が
前作から10年もの歳月を経てようやく登場。
降板や交替のニュースが出る度に二転三転してきたが
結局はロバート・ロドリゲスが音楽・監督・製作の3役
(前作は製作・脚本・撮影・監督・音楽・編集の6役を兼任)を、
フランク・ミラーは脚本・監督・製作総指揮・原作の4役を兼任し
前作に比べると原作者であるフランク・ミラーの発言力が強まった形で落ち着いた。

ストーリーは原作のエピソード2本+書き下しの追加エピソードを加えた半オリジナル。
法も秩序も及ばない無法者達の街「シン・シティ」で巻き起こる
極悪非道&情け無用のクライム・アクションである。
ミッキー・ローク、ジェシカ・アルバ、ロザリオ・ドーソン、ブルース・ウィリスなど
前作からの続投組にジョシュ・ブローリン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、
エヴァ・グリーン、ジェイミー・チャンら新規参加組が華を添えている。



ゲームでも映画でも、延期に次ぐ延期の果てに登場した作品が良作だった試しはない。
残念ながら本作もそのパターンにハマってしまっているが
前作よりも格段に制約の多かったであろう環境下において
ロドリゲスなりの遊び心や工夫が精一杯込められているのも事実で
これを「つまらん」の一言で切り捨てるにはあまりにも惜しい。
贔屓を承知で言うなら、『善戦した続編』と言って良いのではないか。

何と言っても、続編では主役になるはずだったドワイトが
整形したとの触れ込みでクライブ・オーウェンから
ジョシュ・ブローリンにバトンタッチしてしまったのが痛い。
カッコつけ過ぎの二枚目とエロ過ぎな美女という
「シン・シティ」の美学が崩壊してしまっている。
(ジョシュ・ブローリンが良い役者であることとは別の話)
さらにマヌートはマイケル・クラーク・ダンカンの急逝により
デニス・ヘイスバートに交替し、
殺人兵器ミホを演じたデヴォン青木も妊娠を理由に降板と
インパクトの強かったキャラクターが軒並み変更になっているのだ。
もともとお飾り的な扱いだったジェシカ・アルバが残ったところで
フレッシュさが薄れた今となっては劣化した印象だけが残り
彼女をヒロインに仕立てた復讐劇に舵を切った時点で
前作超えが不可能であることはほぼ見えていたのだと思う。

マーヴ(ミッキー・ローク)もジョン(ブルース・ウィリス)も
前作で一応カタが付いているのでメインには据えられない。
ナンシー(ジェシカ・アルバ)ひとりでこの物語を背負うには荷が思い。
ということで白羽の矢が立てられたのが、
ジョニー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)と
エヴァ・ロード(エヴァ・グリーン)の二人。
父の座を脅かすべく街にやってきたジョニーと、
欲望達成のためならば愛の言葉も身体もいくらでも大安売りする悪女エヴァこそが
本作の事実上の主役であろう。

パートパートで見て行けば楽しい部分もたくさんあるのだが
脚本の粗さは隠しようもなく(特にジョニーの展開は投げやり過ぎ)、
前作のように諸手を挙げて大絶賛できないのはファンとして哀しい。
親の目を盗むように仕掛けられたロドリゲスの小さなお遊び
(「マチェーテ・キルズ」に続きレディー・ガガがまた出ていたり)を
楽しめる方ならば、及第点をあげられるぐらいには楽しめるのだが・・・。
前作でもお気に入りだったゲイル(ロザリオ・ドーソン)ももっと活かして欲しかった。

タランティーノと出会ったが運の尽き。
「グラインドハウス」以降、怒濤のB級バイオレンス道を爆走している
ロドリゲスを私は最後まで応援していきたい。

映画「シン・シティ 復讐の女神」は現在公開中。




発売中■COMIC:「シン・シティ 1 / フランク・ミラー」
発売中■COMIC:「シン・シティ 2 / フランク・ミラー」
01月29日発売■COMIC:「シン・シティ 3 / フランク・ミラー」
03月21日発売■COMIC:「シン・シティ 4 / フランク・ミラー」

アメコミ界で絶大な人気を誇るフランク・ミラーの原作コミックが
昨年(2014年)より日本版単行本シリーズとして順次発売中。
オリジナル全7巻を4冊にまとめたもので、今月末に3巻が、3月に最終巻が発売予定。
映画版前作、今作のストーリーも一気に楽しめるのでアメコミファンは要チェック。




発売中■Blu-ray:「シン・シティ」

モノクロを基調とした映像に時折使われる
ペンキをこぼしたような原色が印象的なアメコミ映画の最高峰のひとつ。
「男の美意識」を、3つのエピソードからなるオムニバス形式で見せてくれるのだが、
1章のミッキー・ロークも、2章のクライヴ・オーウェンも、
3章のブルース・ウィリスも、皆腹が立つほどカッコいい。
主人公ではないが、「21g」のベネチオ・デル・トロも
キレたキャラクターを実に楽しそうに演じている。
イライジャ・ウッド、ジェシカ・アルバ、ジョシュ・ハートネットなど
今では表舞台からやや遠ざかっている若手も多いが
当時既に枯れていたはずの役者達は皆未だに最前線で活躍中とはなかなか皮肉。

様々なキレキャラが登場する本作で特に強烈な印象を残すのが、
デヴォン青木とイライジャ・ウッド。
デヴォンは無表情の殺人マシーン「ミホ」を、
イライジャも殺人鬼ケビンを演じているのだが、
イライジャ・ウッドは本作で根っからのオタク気質を全開にしてしまい
「ロード・オブ・ザ・リング」のイメージを見事に打ち消したはいいものの
本作以降目立った作品の大半がB級サスペンスやサイコモノになってしまった。

今見ても文句なしに楽しめる絶対お薦めの作品。




発売中■Blu-ray:「マチェーテ」

乱暴カイリキー(私が付けた)ことマチェーテが活躍する
ウルトラB級バイオレンスアクション大作。
もともとは「グラインドハウス」の幕間に挿入された
フェイク予告編だったものを、本当にフルサイズの映画にしてしまった
「噓から出た実」的な作品。
ロドリゲスを『その道』にハメた張本人であるタランティーノが
「イングロリアス・バスターズ」を撮っている頃、
ハメられた側のロドリゲスは、まだ「グラインドハウス」熱が冷めていなかったのだ。

捜査官とは思えない汚らしい身なりのマチェーテが、
大鉈を振り回しながら悪党共の首や腕を刎ねまくる豪快なアクションに冒頭から痺れまくり。
マチェーテなら、「300<スリーハンドレッド>」のジェラルド・バトラーすら
あっさり片付けてしまうに違いない。
およそモテ筋とは思えないマチェーテに群がる女達には、ジェシカ・アルバ、
ミシェル・ロドリゲス、リンジー・ローハンと三者三様の美女揃い。
ロバート・デ・ニーロやスティーヴン・セガールが嬉々として悪役を演じていたり
腰が砕けそうになるギャグが所々に盛り込まれているのも楽しい。
特にマチェーテのパスワード解析能力の高さには大笑い。

観客の生歓声入りで本編を鑑賞出来る「リアル映画館モード」が搭載されていたり、
Blu-ray版にもロドリゲスらしい遊び心が満載。
これを観ずしてB級好きを名乗ることなかれ。




発売中■Blu-ray:「マチェーテ・キルズ」

そして、さらにその続編。
映画初出演のレディー・ガガをはじめ、ミシェル・ロドリゲス、
アントニオ・バンデラス、ジェシカ・アルバ、メル・ギブソン、
カルロス・エステベス(=チャーリー・シーン)と
B級とは思えない豪華キャストを揃えたにも関わらず、
前作とは比較にならないほど破綻したC級映画へとクラスチェンジした。
前作以上に人を選ぶだろうが、前作を見た人も相当な好き者であろうし
どうせなら思いのままに暴走していただきたい。

ダニー・トレホはパッケージにまででかでかと載っているくせに
あっさり中盤で死んでしまう「最強ゾンビ・ハンター」の
腰抜けポジションから無事復帰し、アクション全開で楽しませてくれる。
エンディングでは「次は宇宙だ」的なことを言っていたが
果たして本当に行ってしまうのだろうか。
いや、ロドリゲスなら、ダニー・トレホならきっとやってくれるはず。
どうでもいいが、スリーブのデザインはもう完全に「猿の惑星」だな。




発売中■Blu-ray:「プラネット・テラー」
発売中■Blu-ray:「グラインド・ハウス U.S.A.バージョン プラス」

『インパクト』という点だけで言えば
2007年度公開作品の中でも断トツで1位だったのがこちら。
「ハリウッド最高のオタク監督」として知られる
クエンティン・タランティーノの家では、
彼と親交がある映画人を集めた上映会が定期的に開かれているらしい。
タランティーノが特に愛しているのが、
低予算を「セクシー」と「バイオレンス」でカバーした
1960~70年代のB級アクション映画群。
タランティーノ邸で「観客を喜ばせたい」というサービス精神に溢れた
「グラインドハウス映画」に惚れ込んだロバート・ロドリゲスが
「こんな映画を二人で作れないか」と話を持ち掛け、
タランティーノ×ロドリゲスによる夢の競演が実現した。

タランティーノが監督を務めたのが「デス・プルーフ」。

カースタント用に改造された「デスプルーフ」車を乗り回すマイクは、
女を誘ってはわざと事故を起こすイカれた中年スタントマン。
ある日、スタント・ウーマンとして映画の撮影に参加中のゾーイは、
映画「バニシング・ポイント」に登場した70年代型の
ダッジ・チャレンジャーが売りに出されていることを新聞広告で知る。
彼女の夢は、ダッジ・チャレンジャーのボンネットに乗って
スタンドライドを楽しむこと。
早速、友人を引き連れ売り主の元へ出向くゾーイ。
試乗させてもらえることになり最高潮に盛り上がるゾーイ達だが、
そんな彼女達を見つめるマイクの不気味な視線があった。

前半でキレた中年男・マイクの異常性を際立たせ、
後半でマイクの行動にキレた女達の逞しさを見せる演出の上手さや
吹き替え無しの派手なカースタントであっという間に終わってしまう。
爆笑必至のエンディングといい、タランティーノの悪ノリ加減は
「キル・ビル」をも上回ったのではないかと思う。

ちなみに、主人公ゾーイを演じたゾーイ・ベルは、「キル・ビル」で
ユマ・サーマンのスタントを務めた現職のスタント・ウーマン。
「キル・ビル」で見初めたタランティーノが
「君のために書いた」と本作の台本を持って口説き落としたらしい。
イカれた中年スタントマンのマイクを演じるのはカート・ラッセル。
強い女にボコボコにされるラッセルの情けなさが実に良い。

ロドリゲスが監督を務めたのが「プラネット・テラー 」。

極秘裏に実験が行われていた軍の生物化学兵器が、突如流出してしまった。
ガスを浴びた人々は次々と凶暴なゾンビへと姿を変え、
テキサスの静かな田舎町は一瞬にしてパニック状態に。
ゴーゴーダンサーのチェリーも必死に逃げ回ったが、
ゾンビに襲われ、片足を喰いちぎられてしまう。
チェリーの元彼であるレイは彼女の足にマシンガンを装着。
ゴーゴーダンサーの道と決別したチェリーは
片足のセクシーコマンドーへと生まれ変わり、
ゾンビ相手にぶっ放し始めるのだった。
主演は「ブラック・ダリア」のローズ・マッゴーワン。
軍のお偉方役でブルース・ウィリスも出演している。

「片足マシンガン」と聞いただけで
どんな映画になるのか薄々予感はしていたものの
ここまで吹っ切れた快作に仕上がっていたとは。
「シン・シティ」では割と真面目にアメコミしていたロドリゲスだが、
本作ではおもちゃ箱をひっくり返したように遊びたい放題。
嬉々として変人を演じるタランティーノや
見るも無惨なブルース・ウィリスなど
撮影現場の盛り上がりが伝わって来るような娯楽大作になっている。

B級映画好きはもちろん、
「シン・シティ」や「300」などのアメコミテイストな作品が好きな方、
「バイオハザード3」や「アイ・アム・レジェンド」などの
ホラー・ゾンビ系が好きな方にも是非お勧めしたい。
ただし、セクシーもバイオレンスも容赦無しなので、お子様は大人になってから。