▼2014年の映画を振り返る(9月・10月編)
<9月6日公開>

イン・ザ・ヒーロー
特撮ヒーローを陰で支える「中の人」にスポットをあてた熱血ドラマ。
ブルース・リーに憧れ、いつか自分も顔出しでスクリーンにと夢見るうちに
25年が過ぎてしまった中年男が大きなチャンスを掴むまでの話。
スーツアクター経験のある唐沢寿明が熱い芝居を見せてくれたかと思えば
今年大ブレイクした福士蒼汰も唐沢に感化されてゆく青年役を好演。
しかし、CGなし&ワイヤーなしのため誰も引き受けない
危険なアクションシーンを命懸けて引き受ける話で
最初から最後までワイヤーもCGを使いまくったのは大失敗。
ましてタイには本当にそれをやってしまったトニー・ジャーがいるわけで。
<9月13日公開>

舞妓はレディ
「周防監督も焼きが回ったな」が確信に変わった記念碑的作品。

海を感じる時
『愛』と『恋愛』と『性欲』の間で揺れ動く
若い二人の心模様を淡々とした筆致で描いたドラマ。
今年だけで何本の映画に出たか分からない池松壮亮と
本作で久々に映画主演を務めた市川由衣がほぼ二人芝居で演じ切る。
母子家庭で厳格な母に育てられた娘は、愛は要らないからと言いつつも愛を求め
欲望の処理が最優先だった高校生男子は、
関係を続けていくうちに愛とも情とも言えぬ感情を抱く。
言い回しがやたら古臭いのは本作が70年代の設定だからだが
これはむしろ現代劇として再構築すべきではなかったか。
色々と惜しい点が多く、はっきり言って市川由衣は脱ぎ損。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
大人向けに照準を合わせたアメコミ映画が花盛りの状況に風穴を開ける1本。
リブート版の「スター・トレック」を初めて観たときのようなわくわく感と
”会いに行けるヒーロー”的な親近感は、近年のアメコミ映画の中でも上位に位置する出来。
私の世代にはドンピシャの懐かしいヒット曲の数々も嬉しかった。
いずれ「アベンジャーズ」本編とも絡んでくるであろうし、続編にも期待。
<9月19日公開>

猿の惑星:新世紀(ライジング)
「創世記(ジェネシス)」に続く新シリーズ第2弾。
前作から10年が経過し、人間と猿の力関係は大きく変化。
人間に裏切られ、人間と決別して作り上げたはずの猿達のコミュニティで
英雄として君臨するシーザーが気付いてしまうある悲劇。
それは、「猿もまた人間と同じ過ちを犯してしまう」という哀しい事実だった。
猿と人間との駆け引きを通じて、我々は闘いや裏切りから
永遠に逃れることはできないのか、という人間社会の問題を描き出す。
アクションも特撮も文句なしで、130分があっという間に過ぎる。
後半のあるシーンで、ビデオカメラの映像を愛しげに見つめるシーザーに泣けた。

NY心霊捜査官
霊感を持つと言われている現役のNY市警巡査部長ラルフ・サーキの手記を
「エミリー・ローズ」のスコット・デリクソンが映画化。
オカルトを除霊だけで終わらせないデリクソンだけあり着眼点が素晴らしく
モキュメンタリー+POVで量産されるB級C級ホラーとは一線を画す作り。
「エクソシスト」から受け継がれる悪魔払いシーンは
「エミリー・ローズ」の壮絶さに迫る強烈なインパクト。
「死霊館」がお好きなら絶対にお薦め。
<9月26日公開>

劇場版 零~ゼロ~
ゲーム版とは別物だと割り切ることができれば、あと一歩で良作にもなれた惜しい作品。
ゲーム版至上主義者にはお薦めしない。

アバウト・タイム ~愛おしい時間について~
「ラブアクチュアリー」のリチャード・カーティス監督の3作目にして引退作。
『人生は愛している人々と一緒に過ごすべきだ。
お金を稼いで、成功する必要はない。平凡な毎日を楽しんで。』との
メッセージそのままの引き際も美しいが、作品がまた輪をかけて素晴らしい。
音楽好きのカーティスらしく、劇中で流れる曲がまたどれもいい。
人生にはわずかな判断ミスによって取り返しのつかなくなることがたくさんある。
だから、瞬間瞬間を大事に生きていかなくてはならないと
主人公が気づき、実践するための装置としてタイムリープを使っているのが新しい。
何も良いことのない、ついてなかった一日も
自分の行動次第で変えられたのかも知れない。
映画のようにやり直しが利かない私達の人生は
成功も失敗も全てを経験として積み上げながら前に進んでいくしかないのだ。
映画を観終えた後の、劇場から出た瞬間からの私達の人生に向けられている大傑作。
主演のドーナル・グリーソンは今年大活躍。来年以降にも期待。

ジャージー・ボーイズ
トニー賞も受賞した大ヒットミュージカルを
クリント・イーストウッドが映画化した音楽ドラマ。
ミュージカル版の大枠はそのままに、貧民街から這い上がってきた人々の
絆にスポットをあてた伝記ドラマへと生まれ変わらせている。
浮き沈みの激しいショービズ界に呑み込まれていった若造達が
強過ぎるスポットライトの下で何を見失い、何を最後まで手放さなかったのか、
丁寧にすくいあげてゆく老練な技はイーストウッドならでは。
エンディングで「ちゃんとしたミュージカルだってやろうと思えば出来たさ」と
言わんばかりのサービスをしてくれるあたりも気が利いている。
音楽モノでは「恋するリベラーチェ」や「最後のマイ・ウェイ」らと並ぶ良作。
<10月3日公開>

悪童日記
亡命作家アゴタ・クリストフのベストセラー小説を映画化した骨太のドラマ。
第二次大戦下に鬼のような祖母に預けられた双子の少年が
過酷な生活の中で心身ともに逞しく鍛えられていく姿を描いている。
食い物や金に貪欲な大人達に囲まれ、逞しくならざるを得なかった少年の瞳は
月日と共に濁りを増すが、決して生を諦めない。
その力強さを想う時、彼等が双子であったことがどれほどの力になったか分からない。
鑑に映した我が身を叱咤激励するように、互いを支え合っていた兄弟は
終盤で別々の道を選択するのだが、その後がどうなったのか気になる。
原作はもっと長編らしいので、これは是非ともシリーズ化して欲しい。
双子を演じたアンドラーシュ・ジェーマント&ラースロー・ジェーマントを
見つけてきただけでこの映画は8割がた成功したと言っていいだろう。
それぐらいの逸材。

FRANK -フランク
マイケル・ファスベンダーが劇中でほとんど素顔を見せることなく
かぶり物なしでは平静を保つことができない天才を演じた話題作。
瞬時に浮かぶ歌詞やメロディが聴く者の心を虜にする天才フランクと、
世に出たい一心でPCとにらめっこしてメロディをひねり出す凡人ジョン。
歴然とした才能の差を真正面から描いているので
こと音楽を志す者にとっては目も耳も痛いドラマかも知れない。
大らかな愛で不安定さを受け止めて、創造力の邪魔になることは極力排除する。
天才肌の人間を生かすも殺すも周囲の人間次第なのだ。
観終わって妙にしんみりしてしまったのは、
私がジョン(凡才)の側の人間だからだろう。
己の才能の限界を認め、可能性の翼をそっとたたむ時の辛さは良く分かる。

アンダー・ザ・スキン 種の捕食
「LUCY」は大ヒットしたのにこちらはほぼ無名のスカヨハ主演作。
不気味さと滑稽さを併せ持つ世界観は初期の円谷作品を思わせる。
SFでもホラーでもない、「怪奇作品」という言葉がぴったりの掘り出し物。
スカヨハは謎の生命体役なのだが、
食料調達の効率を考えて女性の形をしているだけで性別は不詳。
耳障りなスコアとわずかな台詞、物語の起伏もラストまでは淡々としたものだが、
いつ何が起きても不思議でない緊張感のせいで全く目が離せない。
かなりマニアックな作品。好きな人はとことんハマるはず。
<10月11日公開>

ニンフォマニアック Vol.1
過激な題材とは裏腹にラース・フォン・トリアーの優しさがにじみ出た良作。
過去作品から比べれば手心が加えられているし、映像面も随分ソフトになっている。
今回ラースはかなり確信犯的(誤用と言われても他に的確な表現がない)に
コメディ寄りに振っているし、タイトルの「色情狂」を特別視していない。
買い物依存症がコメディ映画になるなら、男根狂いだってコメディにしていいじゃんと、
兎角セックスを特別視し、見てはいけないものとして処理してしまう
私達の道徳観こそを笑っているように私には思えた。
聴き手として登場するステラン・スカルスガルドは
ジョーの奔放な身の上話に「まぁ、はしたないわね」と眉をひそめながら
服の下ではちゃっかり濡れたり勃起したりしている、観客の分身と言えるかもしれない。
<10月17日公開>

誰よりも狙われた男
「ラスト・ターゲット」のアントン・コルベイン監督が
残念ながら本作が遺作となってしまったフィリップ・シーモア・ホフマンの
主演で撮ったスパイ・サスペンス。
ハンブルクに密入国したひとりのチェチェン人青年を巡り
様々な組織の思惑が複雑に絡み合う緻密な脚本に唸らされる。
「ザ・マスター」でハリウッドを蝕む宗教組織を槍玉に上げた
ホフマンらしい作品選びだが、毎作これほどタブーに切り込んだ
濃密な作品にばかり出ていれば疲弊してしまうのも当然かとも思ってしまう。
ラストの咆吼は彼自身の魂の叫びにも聞こえる。
もっともっと色んな作品で楽しませてもらいたかった。

まほろ駅前狂騒曲
THE・ドラマの延長線。

泣く男
ウォン・ビンの「アジョシ」のキャラ替えバージョンだが
チャン・ドンゴンでは少々魅力に欠けるか。
<10月25日公開>

小野寺の弟・小野寺の姉
人気脚本家・西田征史が原作・脚本・監督の三役を務めた姉弟ドラマ。
姉・小野寺より子に片桐はいり、弟・小野寺進に向井理。
早くに親を亡くした姉弟が、慎ましく支え合いながら
日常を生きるコメディタッチのドラマ。
故・森田芳光監督の「間宮兄弟」を彷彿させる演出は
実写初監督とは思えない落ち着きぶり。
片桐はいりへの依存度が荻上直子監督のもたいまさこクラスであることと
落ち着きのないカメラが難点。あと数本で名作を撮りそうな監督。

イコライザー
「トレーニング・デイ」のアントワーン・フークア監督と
デンゼル・ワシントンが再タッグを組んで描くハリウッド版・「必殺仕事人」。
元CIAの凄腕エージェントが、経歴を隠してひっそりと暮らしながら
日々出会う悪を退治してゆくというもの。
最初の仕事が発動するまでの所要時間が(体感で)30分ほどと短く、
主人公ロバートのやる気スイッチが思いの外早く入ってくれるのでテンポが良い。
デンゼル・ワシントン演じるロバートの能力は超人レベルで
敵側は戦闘能力だけでなく戦略面でも無能と来ればピンチに陥ることがほぼ無い。
最後まで全戦全勝のワンサイドゲームで進むことを
爽快と取るか物足りないと取るかは観る人次第か。
<10月31日公開>

ドラキュラZERO
ブラム・ストーカーの小説「ドラキュラ」のモデルとして知られる
ヴラド・ドラキュラを主人公にしたダーク・ヒーローもの。
古典としてのドラキュラ像を守ったり壊したりしながら新味を追求するのが
2010年代のドラキュラ映画のトレントになっているが
本作は表向きクラシックスタイルを守りつつも
中身はルーク・エヴァンスの魅力に重心を置いたアイドル映画であり
「300 / スリーハンドレッド」のレジェンダリー・ピクチャーズらしい
ゴリゴリの力押しアクション大作でもある。
ルーク・エヴァンスは「悪魔城ドラキュラ」のシモン・ベルモントそのもの。