▼今週発売の新作ダイジェスト

11月12日発売■Blu-ray:「中島みゆき「縁会」2012~3」
11月12日発売■CD:「問題集 / 中島みゆき」
11月12日発売■Blu-ray:「L’Arc~en~Ciel LIVE 2014 at 国立競技場」
11月12日発売■Blu-ray+DVD:「オール・ユー・ニード・イズ・キル デジタルコピー付き」
11月12日発売■Blu-ray:「ホビット 竜に奪われた王国 エクステンデッド・エディション」
11月13日発売■WiU:「進め! キノピオ隊長」
11月13日発売■WiU:「Wii U マリオカート 8 セット クロ」
11月13日発売■WiU:「Wii U マリオカート 8 セット シロ」
11月13日発売■PS4:「CoD アドバンスド・ウォーフェア 字幕版 初回特典付き」
11月13日発売■PS4:「CoD アドバンスド・ウォーフェア 字幕版 初回+STEEL BOOK+DLC7種付き」
11月13日発売■PS3:「CoD アドバンスド・ウォーフェア 字幕版 初回特典付き」
11月13日発売■PS3:「CoD アドバンスド・ウォーフェア 字幕版 初回+STEEL BOOK+DLC7種付き」
11月13日発売■XB1:「CoD アドバンスド・ウォーフェア 字幕版 初回特典付き」
11月13日発売■XB1:「Halo: The Master Chief Collection 限定版」
11月15日発売■DVD:「Peeping Life -WE ARE THE HERO-」
▼もうひとりの梅澤梨花は稀代の悪女だった。映画「紙の月」
「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」「パーマネント野ばら」と徐々に評価を上げ
2012年公開の「桐島、部活やめるってよ」で日本映画界にその名を知らしめた
吉田大八監督の最新作が今週末より公開。
「空中庭園」「八日目の蝉」の角田光代の原作を映画化した「紙の月」で
主演を努めるのは、映画出演は7年振りという宮沢りえ。
今年1月にはNHKでドラマ化もされていた(主演は原田知世)ので
そちらで視聴した方もけっこう多いのではないか。
共演は、今年一番忙しかった若手俳優であろう池松壮亮、
小林聡美、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司など。
エリート会社員を夫に持つ梅澤梨花(宮沢りえ)が
夫の許しを得て銀行の契約社員として働き始めた。
梨花の清楚な佇まいと人当たりの良さは顧客からの受けも良く
続々と契約を取ってくるため行内での評価もうなぎ上りだった。
正式に資格も取得し、仕事も任せられるようになった
ある日、訪問先の大口顧客・平林孝三の家で孫の光太と出会う。
満たされない夫婦生活を埋めるように光太との密会を重ねるようになった梨花は
失いかけていた女性としての自信を取り戻し、高級化粧品コーナーに立ち寄るが
購入手前で手持の現金が足らないことに気付き、
つい軽い気持ちで顧客から預かった現金で払ってしまう。
「すぐ返すんだから」
しかし、この事が梨花を破滅への道へと導くきっかけとなったのだった。
「It’s Only A Paper Moon」
<歌詞>
Say, it's only a paper moon
Sailing over a cardboard sea
But it wouldn't be make believe
If you believed in me
<訳詩>
それはただの紙の月
厚紙の海を照らしながら帆走する
だけど、君が信じてさえくれれば
月は偽物なんかじゃない
「どんな映画か」と聞かれて一言で説明するなら、
中年の女性銀行員が若い男に入れあげて巨額の横領事件を起こす話。
と答えるしかない。
だが、手垢のついた題材のベタな映画と思わないで欲しい。
本作は犯人逮捕までの過程を追った2時間ドラマ的な作品ではない。
ひとつの事件を通して、社会からはみ出すことなく生きて来た女性が
丸裸の自分を見つめ直し、本能に従って生きようとする様を描いた
非常に力強いサスペンスである。
吉田大八監督は原作に対し、「誤読を許される余白を持った作品」と語っていた。
(言葉は正確ではないが、そういったニュアンスだった)
ヒロイン梨花の心情について、読み手によって幅広い解釈ができるように
書かれていることに目を付けた監督は
原作やドラマ版とは違う梅澤梨花を作り出している。
宮沢りえの演じる梨花は、阪本順治監督の傑作「顔」の藤山直美に匹敵する悪女であり、
その鮮やかな生き様は、犯罪者でありながら多くの観客を魅了してしまうだろう。
映画版「紙の月」では、私の知らないもうひとりの梅澤梨花が生きていた。
原作やドラマ版は梨花の犯行理由について情状酌量の余地ありとしているが
映画版はそういった箇所をおそらく意図的に、徹底的に削っている。
さらに、梨花を駆り立てる存在として、原作には登場しない
相川恵子(大島優子)、隅より子(小林聡美)の二人を追加し
人間関係をほぼ銀行内だけに絞る大胆な改変を実行。
壁をぶち破ろうとする梨花が、頑に壁の中で生きるより子にとって
ある種の憧れを抱く存在に映るように組み立てられている。
梨花とより子は、実は深いところで繋がっている「同じ女」なのかも知れない。
原作を読んだ方、ドラマ版を見た方も、
映画版の梨花がとったラストの行動にはあっと驚かされることと思う。
「梅澤梨花の生き様」に焦点を絞ったために
転落のきっかけを作った若い男や梨花の夫の存在が希薄になってしまった弊害もあるが
ドラマほどのボリューム(全5話)をかけず2時間に収めるならばこの方向しかあるまい。
何より、ラスト10分、梨花とより子のやり取りは
「桐島、部活やめるってよ」に匹敵するインパクトがあった。
ここ最近「格言っぽいことを垂れ流しながら料理する女」ばかり演じていた
小林聡美が久しぶりに女優魂を発揮してくれて、それだけでも私は嬉しい。
本作を観て梅澤梨花に興味を持った方は、是非原作やドラマ版もチェックしてみて欲しい。
ひとりの人生が、照らす方向を変えただけで
ここまで変わるのかという驚きを体験できるはずだ。
映画「紙の月」は11月15日より公開。
*なお、核心部分を含むドラマ版との比較もこの下に掲載。
公開前に読みたくない方はここで止めておくことをお薦め。

発売中■BOOK:「紙の月 / 角田光代」
発売中■CD:「紙の月 オリジナル・サウンドトラック / little moa、小野雄紀、山口龍夫」

発売中■DVD:「紙の月」
配信中■iTMS:「NHKドラマ10「紙の月」オリジナルサウンドトラック/ 住友紀人」
*映画版との比較のため、ストーリーの核心に触れています。
ドラマ版をこれから見る予定の方や、映画版を見る前の方は読み飛ばし推奨。
NHKで放映されたドラマ版。
主人公の梅澤梨花を演じているのは原田知世。
原作に沿ったストーリーになっているため
現在の梨花は既に海外に逃亡しており、回想録として進行する。
(映画では海外の部分はほとんど描かれない)
梨花の同級生である岡崎木綿子(水野真紀)や中条亜紀(西田尚美)も登場し
浪費癖や夫の浮気など、それぞれに悩みを抱えながら生きている。
梨花の犯した犯罪部分については、ドラマ版も映画版とほぼ同じ展開だが
ドラマ版では梨花が何故1億円もの大金を横領するに至ったのか、
その理由付けにかなりのボリュームを割いているのが特徴。
夫の正文(光石研)は高給取りであり、生活には何ら不自由していない。
しかし、夫婦の間に子を授かることはできず、
会話の節々には女性蔑視とも取れるようなニュアンスが含まれている。
決して悪い人間ではないのだが、無神経な言葉の数々が少しずつ梨花を疲弊させ、
やがて毎日夫を待ちながら家事をするだけの生活に疑問を持ち始める。
この「そこそこ恵まれた主婦の贅沢な悩み」がドラマ版の物語の起点である。
仕事を始め、夫以外の人間に正しく評価され求められることで
自信をつけた梨花は、平林光太(満島真之介)に出会ったことで
忘れかけていた「女」を呼び覚まされる。
枯れつつあった心が潤い、万能感を抱いた梨花は
人生をもう一度輝かせてくれた光太のためなら何でもするほどに入れ込む。
映画では、ストーカー紛いの行動をとる光太を
梨花が逆ナンに近い形でホテルに連れ込むような描かれ方をしているが
ドラマでは二人の出会いがとても清らかで美しいものであったとされている。
梨花は贅沢な暮らしや若い男とのロマンスを望んでいたわけではない。
人生を輝かせてくれた光太を幸せにしてやりたい。
光太が気を遣わないように、自分が超大金持ちの婦人だと信じ込ませるために
大金を使わざるを得なかったのである。
ドラマ版では随所にモノローグが挿入され
梨花がその時にどんな心境であったのかが分かり易く説明されている。
犯行を重ね、金額が膨れ上がっていっても
「絶対に返すのだ」という信念を変えない。
「誰かのためになりたい」「正しくありたい」あまりに
学校内で問題を起こしてしまうほどの梨花の潔癖さは映画版では見られないものだ。
大口の顧客である平林孝三(ミッキー・カーチス)や
名護たま江(冨士眞奈美)との関係も随分と印象が違う。
映画では彼等はただのカモに過ぎないが
ドラマ版では平林もたま江も、梨花を最後まで好いている。
指名手配後に聞き取りにきた刑事に向かって
たま江は「彼女は天使だ」と答えるほどである。
角田光代は「紙の月」が映像化されるとニュースになった時に
「主人公の梨花は、清潔感が仇になるような人」だと述べた。
まさに、ドラマ版で原田知世が演じていた梨花がそれである。
しかし映画版の梨花には、「清潔感が仇になるような人」の面影はない。
若い男を貪り、大金をばら撒き、事件発覚を防ぐためなら女すら使う。
本能に従って生きるために横領し、プロジェクト続行のためには上司すら脅迫する。
「世間知らずのお嬢様が道を踏み外してしまった物語」は
「稀代の悪女が、堅苦しく生きる市井の人々の前を
颯爽と駆け抜けてゆく物語」にしてしまった。
この梨花の鮮やかな転身ぶりこそが、吉田大八監督の真骨頂と言える。
原作やドラマでは光太と梨花が同じ台詞を吐く。
「私(僕)をここから連れ出して下さい」
しかし、映画版の梨花は他人に頼むような女ではないので
原作やドラマのラストシーンで使われているこの言葉を使わなかった。
頼むどころか、より子を巻き込んで連れ出そうとすらするからだ。
リアリティーや人間関係の厚みに重きを置いたドラマ版と
最も美しい横領犯・梅澤梨花というセンセーショナルな部分を前面に出した映画版。
どちらが上かを比較するのは野暮な話。
映画を観て興味を抱いた方は、ドラマ版も見て補完することをお薦め。