▼現代キャストのお蔵出し映画。「春を背負って」
降旗康男監督の右腕として多くの名作で撮影監督を務めてきた
木村大作監督の第2作が6月14日より公開。
(木村監督曰く)配給元の東宝がプロモーションに乗り気ではないからと
作品とともに全国47都道府県を巡って試写会を開催し舞台挨拶も行った。
来場者ひとりひとりに宣伝部長と書かれた名刺を手渡すなど、
監督の意気込みはかなりのものである。私も一枚いただいた。
映画「春を背負って」は、笹本稜平の同名小説の映画化。
立山連峰で山小屋「菫小屋」を営む父が救助活動の途中で亡くなり、
都会でエリートサラリーマンとして働いていた息子が
父の遺志を継いで山小屋を経営するというもの。
主演は松山ケンイチ、共演は蒼井優、檀ふみ、新井浩文、安藤サクラ、小林薫、豊川悦司。
木村監督のデビュー作「劔岳 点の記」は
日本地図を作った人々を厳しい山々の映像と共に綴った良作だった。
監督の信念である「嘘のない絵を撮る」を第一に
大自然が教えてくれる山の雄大さや険しさが物語を引っ張っていく
記録映像とも言える作品だが、本作は「北の国から」のような人情劇であり
前作のように美しい風景が主役では成立しない。
監督には申し訳ないが、今回は原作選びの時点で間違ってしまったように感じる。
木村監督はやはり、日本映画界が誇る撮影監督であり、映画監督ではないのだ。
どんな過酷なシーンも俳優を現場に立たせて撮られただけあり
どのシーンも掛け値無しに美しいが、残念ながらその努力が報われていない。
「木を見て森を見ず」ならぬ「山を見て人を見ず」になっている。
ストーリーは田舎の山村が抱える後継ぎ問題をベースにしたシンプルなもの。
都会を引き払い父の遺志を継ごうとする息子と、彼を支える周辺の人々との交流を描いた
ベタな人情劇なのだが、都会で暮らしたことがないのか現場取材をしなかったのか
冒頭の金融会社のシーンからしてもうSF映画のような違和感がある。
会社の風景も異次元なら、そこで交わされる会話も何もかもが上滑りで
開始5分で早くも暗雲が立ち籠めてくる。
そもそも、主人公にとって父親がどんな存在だったのかが描き足りないため
上司からも嘱望された未来を蹴ってまで山小屋を引き受ける理由が良く分からない。
母親との関係もどこかよそよそしく、蒼井優や豊川悦司が何故そんなにも
親身になって助けてくれるのかも分からない。
(蒼井優については一応後半で明かされるが、取って付けたような印象しか残らない)
過去も理由も問わず、けれど絶対なる信頼を持って形成されたコミュニティを
「田舎ならでは」で押し切ろうとするのは時代錯誤というものだ。
ここはムーミン谷か。トヨエツはスナフキンか。
浮世離れした人々の中で唯一人間臭い魅力を放っていたのが新井浩文と安藤サクラの夫婦。
あの二人から全体を作っていくべきではなかったか。
後半の山場も風景こそ厳しそうだが、いかんせん人間同士が繋がっていないので
肝心のドラマが一向に立ち上がって来ない。
そしてラストには「アルプスの少女ハイジ」かと思うほど衝撃的なシーンが待ち受けている。
お手て繋いでクルクル回転する二人を交互に真正面から捉え
「アハハ」「アハハ」の合唱で幕を閉じる。これには度肝を抜かれた。
こんな思いきったシーンを撮る監督が2014年に居たとは。
同じ山を題材にした映画で比較するなら
小栗旬で映画化された「岳」の方が何倍もまっとうなドラマとして作られていた。
映像面では圧勝だが、映像以外の全ての面が時代遅れで見劣りする。
古き良き伝統は遺しても、単に古いものは捨てていかなくては。
山田洋次監督も、少しずつ時代の風を取り入れ、代謝を繰り返しながら
「小さいおうち」まで辿り着いたのだから。
映画「春を背負って」は6月14日より公開。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
タイトル:春を背負って
配給:東宝
公開日:2014年6月14日
監督:木村大作
出演者:松山ケンイチ、蒼井優、豊川悦司、他
公式サイト:http://www.haruseotte.jp
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

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本作は、黒澤明監督、深作欣二監督、降旗康男監督といった
名匠達の絶大な信頼を受け、長年撮影監督を務めてきた
木村大作の記念すべき初監督作品である。
浅野忠信、香川照之、松田龍平、仲村トオル、宮﨑あおい、小澤征悦、
鈴木砂羽、笹野高史、石橋蓮司、國村隼、夏八木勲、役所広司と、
日本映画界を代表する役者がずらりと揃ったのも、
監督が一人一人に直接オファーをしたのだとか。
「日本沈没(1973年版)」「八甲田山」「復活の日」「駅 STATION」
「居酒屋兆治」「火宅の人」「あ・うん」「極道の妻(おんな)たち」
「鉄道員(ぽっぽや)」「ホタル」「単騎、千里を走る。」と、
歴史に残る作品を撮り続けてきた監督のこだわりは、「嘘のない絵を撮る」こと。
スタッフ、キャストが劔岳、立山連峰各所でロケを敢行し、
測量隊とほぼ同じ行程を辿りながら、圧巻の映像美で作品を作り上げている。
CGも空撮も使わず、肉眼で見える風景だけを使った撮影方法は、映画作りの原点と言えよう。
作品全体としては、史実に忠実に描いているので
物語に起伏は少なく、山の険しさ・美しさで観客を引っ張っている。
登山マニアにはたまらない映像ばかりであろうが、
山に興味のない方にとっては、尺の長さ(139分)もあり、少々冗長に感じるか。
ただ、この映画で描かれた人々の姿は、紛れも無く明治を生きた人々の姿であり、
彼らの偉業のおかげで、今の日本地図があると言っていい。
私たちが今生きている位置を正確に知る事ができること、
それは、自分たちの生きる意味を知ることと同じである。
日本地図が隈無く記されているということは、そこがどんな険しい土地であろうと、
かつて人が足を使って訪れ、手を使って三角点を築いた証。
その小さな石標には、その土地を知るための多くの想いが込められているのだ。
柴崎をはじめとする測量隊の功績は、歴史の教科書には載っていない。
(載っているのかも知れないが、少なくとも私は覚えていない)
しかし、例え歴史に名を残さない仕事だったとしても
後世の人々のためになるのであれば、私はそれを偉業と呼びたい。

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石塚真一の同名コミックスを、小栗旬と長澤まさみで実写映画化。
山岳救助隊の知られざる活動の裏側に迫りつつ、
山の厳しさや素晴らしさを描いたヒューマンドラマに仕上がっている。
共演は佐々木蔵之介、石田卓也、尾上寛之、光石研、渡部篤郎、市毛良枝、他。
監督は「ヒート・アイランド」の片山修。
小栗旬&長澤まさみの共演で山岳救助をテーマにしたドラマと来れば
「海猿」の後釜として定着させたいという東宝の思惑もあるのだろう、
作品はまさに山を舞台にした「海猿」として作られている。
展開の読めるストーリーと人間ドラマ、過剰な演出と音楽は「海猿」とコンパチの仕様で
「そういう映画なのだ」と理解した上で観るなら期待を裏切らない。
遺体の腐敗を防ぎ、一刻も早く家族のもとに還すために
亡くなった遭難者を崖の上から雪渓へと投げ捨てる「フォール」という行為には
驚かされたものの、この映画で山の本当の厳しさを知ることが出来るかと言うと
それには少々疑問が残る。
体温低下や凍傷を無視したかのような三歩のスーパーマンぶりは
山に関する知識が豊富だけでは説明がつかないし、
女性初の山岳救助隊員として配属された久美の風貌は
特別勉強したようにも、厳しい訓練を受けたようにも見えない。
救助した人々に向かって「また山においでよ」と笑いかける時の三歩の笑顔と、
三歩を見守る山荘の女将・文子の笑顔。
二人の笑顔は、決して楽しいことばかりではない、泣いたことも多々あったであろう
歴史の数々が刻まれているようでとてもリアル。
特に市毛良枝の芝居が素晴らしいと思ったら、趣味は山登りで
ご自身もトレッキング協会の理事をしているのだとか。なるほど。
造り物でない山々の荘厳な美しさを堪能したい方には不向き。
そういう方は素直に「劔岳」をお薦め。

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第143回直木賞を受賞した中島京子の同名小説を読んだ
山田洋次監督が読了と共にすぐさま原作者に打診をし、映画化が決定した作品。
主演は「告白」「夢売るふたり」の松たか子。
共演には山田洋次監督作品には欠かせない倍賞千恵子、
話題作への出演が続いている伸び盛りの黒木華、
片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、室井滋、橋爪功、吉行和子、中嶋朋子、林屋正蔵など。
映画は、平井家で働いていた女中タキの回顧録になっていて
回想シーンのタキを黒木華が、現代のタキを倍賞千恵子が演じている。
この組み合わせがまず素晴らしい。
二人の女優が同一人物を演じる時に必ず生じるズレ(違和感)が無く
布宮タキの人生が一本に繋がっているのだ。
すっかり白髪になったタキが小さな背中をさらに小さく丸めながら
「長く生き過ぎたの」とさめざめ涙を流すその向こうに
愛する平井家のために誠心誠意務めてきた若き日のタキの姿がはっきりと見える。
1940年に開催予定だった東京オリンピックが
日中戦争の勃発で流れてしまうとは夢にも思っていなかった時代。
時子の恋路とそれを見守り続けたタキの奇妙な三角関係は、
昭和モダンで彩られた背景の中で
山田洋次作品らしからぬ艶かしさを放ちながら進行する。
時子に対し主従関係以上の想いを抱きながら生涯独身を貫いたタキは
身分相応の幸せだけを願っていたはずだが
戦争はそんな細やかな希望を、日常を根こそぎ奪い去ってゆく。
こうしたアプローチは黒木和雄監督の「TOMORROW 明日」や「紙屋悦子の青春」、
新藤兼人監督の「一枚のハガキ」などでも用いられた手法で
直接的な表現を避けることで、戦争の愚かしさや悲惨さをより際立たせている。
教科書に記された歴史がその時代の全てではないように、
甥の健史(妻夫木聡)はタキの昔話に付き合いながら
歴史の裏に埋もれた当時の暮らしぶりを少しずつ学んでゆく。
事の成り行きを最後まで見届ける健史は、映画を観ている私達だろう。
タキや恭一が健史に語り聞かせる昔話は、これからの日本を生きてゆく
私達への遺言であり、タキの「長く生き過ぎたの」は山田監督の嘆きにも聴こえる。
描かれる時代は全く異なるが、前作「東京家族」と地続きの作品であることは間違いない。