畳み掛ける中継ぎ。映画「ホビット竜に奪われた王国」、他

▼畳み掛ける中継ぎ。映画「ホビット竜に奪われた王国」

「ロード・オブ・ザ・リング」の前日憚として描かれる
ピーター・ジャクソン監督の新たな三部作「ホビットの冒険」。
本来ならば昨年末に「スマウグの荒らし場」なる邦題で公開予定だった本作は
前作「思いがけない冒険」が興行的に苦戦したためか年末興行からは外されて
2月公開になり、さらにその余波を受けて完結編である
「ゆきて帰りし物語（仮）」も日本公開は2015年春へと延期されている。
海外での大ヒットとは裏腹に、洋画不振の続く日本では
17億円に止まってしまったため仕方ないか。

出演はガンダルフのイアン・マッケラン、ビルボ・バギンズのマーティン・フリーマン、
トーリンのリチャード・アーミティッジら続投組に加えて
「ロード～」シリーズからオーランド・ブルーム扮するレゴラスが参戦するほか、
エヴァンジェリン・リリー、ルーク・エヴァンスといった新キャラクターも。
スマグウの声はベネディクト・カンバーバッチが担当。
ベネディクトの出世作と言えば英国ドラマの「SHERLOCK（シャーロック）」であり
マーティン・フリーマンは「SHERLOCK」ではワトソン役。
つまり、ホームズ演じる竜とワトソン演じるドワーフの共演となるわけだ。

前作でも話題になったHFR（ハイフレームレート）3D方式の映像は
PS3からPS4へ代替わりが始まったコンシューマーゲーム機のように
これまでの3D映画からもう一段階上の映像世界を観客に見せてくれる。
高画質の恩恵をストレートに受けて映える部分と
高画質がかえって仇になってしまう部分が共存する問題は解決されておらず
この課題が完結編でクリアされるのか気になるところ。

起承転結で言うところの「承転」にあたる本作では
ドワーフ王国から財宝を奪い去り、今も民衆に恐怖を与え続けている
恐ろしい竜”スマウグ”とビルボ・バギンズとの出会いまでが描かれている。
前作同様序盤がもたつくかと心配したが割と良いテンポで話が進み、
相変わらずの長尺もさほど気にならなかった。
中盤以降は水に炎に金塊にとHFRを駆使した映像に圧倒されっぱなし。
スマグウとの出会い、駆け引き、闘いまで全てが見どころになっている。

人間が演じているのだから避けようがないとはいえ
前日憚のはずがレゴラスが随分と老けているのはご愛嬌。
「LOST」のエヴァンジェリン・リリーや
「インモータルズ」のルーク・エヴァンスら
伸び盛りの俳優を起用したということは、次回作でも見せ場があるのだろうか。

どのシリーズに限らず、三部作の真ん中は苦戦するもの。
配給会社がやたらとベタな売り文句を付けて宣言していることを非難する
ファンもいるようだが、前作が苦戦した日本では
背に腹はかえられない事情もあるのだろう。
「それで客が増えるなら」と許容するのが真のファンと言えよう。

完結編に向けての「仕込み」が前作以上に明確になり
「ロード・オブ・ザ・リング」への橋渡しも見え始めた本作は
ストーリー上の盛り上がは言うに及ばず
映像も演出も前作より確実にパワーアップしている。
「こんなところで終わるのか！」と、観客の期待を最大限に膨らませて突入する
エンドロールとそこで流れるテーマソングがまた素晴らしく
中継ぎとしてこれ以上のものは望めないほどの完成度である。

前作未見の方も「ホビット思いがけない冒険」で予習すればすぐに追いつけるので
是非とも劇場でご覧いただきたい。

映画「ホビット竜に奪われた王国」は明日2月28日より公開。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
　　タイトル：ホビット竜に奪われた王国
　　　　配給：ワーナー
　　　公開日：2014年2月28日
　　　　監督：ピーター・ジャクソン
　　　出演者：イアン・マッケラン、マーティン・フリーマン、他
　公式サイト：http://wwws.warnerbros.co.jp/thehobbitdesolationofsmaug/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

発売中■Blu-ray：「ホビット思いがけない冒険」

「ロード・オブ・ザ・リング」三部作をヒットに導いた
ピーター・ジャクソン監督が「王の帰還」から9年の時を経て再び三部作を製作。
「ロード」へと繋がる前日憚を描いた「ホビットの冒険」は
ガンダルフに協力を求められ、13人のドワーフたちと共に旅に出た
ホビット族のビルボ・バギンズの物語。
出演はマーティン・フリーマン、イアン・マッケラン、
ケイト・ブランシェット、イライジャ・ウッド、アンディ・サーキスなど。

「ロード」三部作を撮影時には40代だったピーター・ジャクソンも今や50代。
いくらかは落ち着きのある作品を送り出してくるのかと思いきや
映画少年のオタク魂がそう簡単に枯れるはずもないのであった。
序章ということもあり、ストーリーは非常にゆったりとした流れ。
冒険に旅立つまでの出会いや準備に1時間ぐらい費やせてしまうのは
最初から三部作が決定している一作目ならではの贅沢さだが
それにしてもやや冗長かなとは思う。

その代わり、2時間を超えたあたりからストーリーは加速度的に面白さを増し
映像もアクションも見逃せない名場面が洪水のように押し寄せる。
観る前は170分は長いと思っていたが、
終わってみればあっという間だったようにも思える不思議さ。
顔見せ程度で終わった各々のキャラクターが個性を発揮するのは次回作までのお預け。

Blu-rayはちょうど2月上旬に廉価版が発売になったばかり。
1,500円で何度でも楽しめるならファンは買いか。