地雷ではないけれど。映画「魔女の宅急便」 | 忍之閻魔帳

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▼地雷ではないけれど。映画「魔女の宅急便」

好意的に受け入れられることの少ない『実写映画化』という企画において
本作ほど拒絶反応が大きかったのは近年では「黒執事」ぐらいか。
日本人なら誰でも知っている宮崎駿監督の大ヒットアニメを
アニメ版の配給も担当した東映が実写化を企画・実現させた。
宮崎監督が原作を手掛けていない数少ない作品である
(「ハウルの動く城」との2本のみ)ことから
本作も宮崎駿の原作だと思っている方が多いのだが、
原作は角野栄子の児童文学である。
1985年の第1作から現在まで25年の歳月を費やして6作品が発売されている。

命知らずな企画を引き受けた監督は、何と清水崇。
Jホラーの代表作である「呪怨」でハリウッド進出まで果たした清水監督が
少女の成長期を描いたファンタジーを撮るとは。
脚本は「時をかける少女」「おおかみこどもの雨と雪」「八日目の蝉」の奥寺佐渡子。
出演はキキに小芝風花、おソノに尾野真千子、とんぼに広田亮平、
キキの両親には筒井道隆と宮沢りえ、その他にも浅野忠信、新井浩文など。



「戦慄迷宮」の時だったか、ティーチインで登壇した清水監督は
「次はアダルトを撮りたい」と言っていた。
3D映画の可能性を探るならアダルトが一番面白いと。
なるほどホラーの次はアダルトか、制限の少なさやファンの柔軟さにおいて
案外ジャンル的に近いかも知れないと思いながらそのお話を聞いていたのだが、
出来上がったのは児童向けのファンタジー。
監督曰く「ファンタジーとホラーは近い」らしい。
童話の世界は意外に残酷で、残酷さの影には時にエロティシズムも潜む。
話をまとめると「ホラーとファンタジーとエロは全て密接」ということになろうか。
深イイ話だ。

冒頭で述べた通り、今回の実写版はジブリ版ではなく
角野栄子の原作に準拠した作りになっている。
アニメ版の公開当時、原作からの大幅な改変で角野氏と揉めたと報じられていたが
本作のプロモーションに角野氏が積極的に参加し絶賛されているのを見る限り
ジブリ版によって植え付けられた世間の認識(=宮崎駿作品)を
いくらかでも書き替えたい気持ちがあるのだろう。
登壇された角野氏は「この作品はそんなに現実離れしたお話じゃなくて
生活に密着した場所で起こっている。それがすごく良く出ていた」と満足げだった。
ナレーションまで担当したり、ノリノリの御歳79歳。いや、お若い。

確かに、この実写版ではキキの両親が多く登場したり
クリーニング屋を手伝ったり運送業に精を出したりと、生活に根ざしたシーンが多い。
ほうきの代わりにデッキブラシを使ったりもしないし、
大掛かりな事故が発生したりもしない。
魔法が使えなくなってもジジとの会話は継続して行えたりもする。
後半の見どころは、嵐の中を病気のカバを運ぶミッションとこれまた地味である。

しかし、ストーリーを原作に忠実になぞっても、
キャラクターの演出はどこからどう見てもジブリ版を踏襲していて
アニメ版を一度頭の中から追い出すべきなのか、
アニメ版の実写化と受け止めて観るべきなのか
観客は最後まで悩まされることになる。
迷いは俳優陣の芝居(ジブリ版に登場しない新井浩文や浅野忠信は除く)や
清水監督の演出にも散見され、製作陣と観客が揃って
「忘れるべきか、居直るべきか」を逡巡しながら観るという
何とも不思議な感覚の映画になってしまった。
観る前から分かっていたこととはいえ、ジブリ版のイメージがやはり強過ぎる。

実写版ならではの良かった点は、キキを演じた小芝風花。
オスカーの期待の星らしいので、今後は剛力彩芽(ゴーリキーさん)や武井咲のように
あちこちのドラマや映画に押し込まれてくるかも知れないが
誰がやっても異論が出るであろう「魔女の宅急便」のキキ役を
予想以上に上手く演じていたと思う。
未だに「あまちゃん」の磁場から離れられない能年玲奈よりは重宝がられそうだ。

見どころの飛行シーンも含め特撮は全体的に今ひとつ。
製作費が最低でもあと3倍ぐらいあれば稚拙さは随分と隠せたろうし
そこに金をかけるだけで作品全体の見映えも全く変わっていたはず。
ジブリ版の呪縛から解き放つためには、洋画のファンタジー大作に匹敵する
製作費を投入し、日本発のファンタジーとして世界に発信すべきだった。
ちゃんと作っていれば、そうなれる可能性はあったのでは。
清水監督は「ラビットホラー3D」で撮影にクリストファー・ドイルを起用したほど
映像にかけてのこだわりが強い監督。
本心ではもっと金をかけたかったに違いない。

地雷と呼ぶほどのマイナスはなく、かと言って傑作・良作と付けるのも躊躇する。
ジブリ版を愛して止まない方には勧め辛いし
かと言ってジブリ版を知らない・見ていない人が日本にどれほどいることか。
あくまでも原作のファンであり、ジブリ版に不満を持っていた方なら、か。

映画「魔女の宅急便」は3月1日より公開。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:魔女の宅急便
    配給:東映
   公開日:2014年3月1日
    監督:清水崇
   出演者:小芝風花、尾野真千子、浅野忠信、宮沢りえ、他
 公式サイト:http://www.majotaku.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



発売中■BOOK:「魔女の宅急便(角川文庫)」
発売中■BOOK:「魔女の宅急便 2 キキと新しい魔法(角川文庫)」
発売中■BOOK:「魔女の宅急便 3 キキともうひとりの魔女(角川文庫)」
発売中■BOOK:「魔女の宅急便 4 キキの恋(角川文庫)」
発売中■BOOK:「魔女の宅急便 5 魔法のとまり木(角川文庫)」
発売中■BOOK:「魔女の宅急便 6 それぞれの旅立ち(角川文庫)」

原作は25年に渡り続き、6巻でようやく完結。




発売中■Blu-ray:「魔女の宅急便」
発売中■DVD:「魔女の宅急便」

うーむ、やはり私はこちらが好きだな。




02月26日発売■CD+DVD:「Wake me up 限定盤 / 倉木麻衣」

主題歌はお久しぶりの倉木麻衣。
どことなく「ネバーエンディングストーリー」っぽいが
歌を聴いても誰だか一瞬分からなかった。こんな声だったかの。