ハリウッドをも呑み込む韓国テイスト。映画「スノーピアサー」紹介、他 | 忍之閻魔帳

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ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)



▼ハリウッドをも呑み込む韓国テイスト。映画「スノーピアサー」

・キム・ジウン(「悪魔を見た」「グッド・バッド・ウィアード」)
・パク・チャヌク(「オールドボーイ」「親切なクムジャさん」)
・ポン・ジュノ(「殺人の追憶」「グエムル漢江の怪物」「母なる証明」)

韓国映画界を牽引する人気監督三人が、昨年から続々とハリウッドに進出している。
まずはキム・ジウンはアーノルド・シュワルツェネッガーと
フォレスト・ウィテカーを迎えて痛快なアクション「ラストスタンド」を発表、
続くパク・チャヌクはミア・ワシコウスカとニコール・キッドマンを母娘にした
サスペンス「イノセント・ガーデン」を送り出した。
そして、三連発の真打ちとして登場したのがポン・ジュノの「スノーピアサー」である。
立て続けにハリウッド進出した三人の中で
一番そつなくやっていきそうなのはキム・ジウンではないかと思うが
いずれオスカーに名を連ねる可能性があるのはやはりポン・ジュノだろう。
改めてそう思わせる娯楽大作である。


「スノーピアサー」の前日憚を描いたSPアニメーション(YouTube)

原作はフランス産のコミック(バンド・デシネ)らしい。
温暖化対策に失敗し人類が死滅してしまった近未来を舞台に、
生存者を乗せたまま猛スピードで走り続ける
高性能列車「スノーピアサー」の車内で起こるドラマ。

出演は「キャプテン・アメリカ」のクリス・エヴァンス、
「少年は残酷な弓を射る」のティルダ・スウィントン、
「ミッドナイト・イン・パリ」のアリソン・ピル、
「ヘルプ 心がつなぐストーリー」のオクタヴィア・スペンサー、
さらにジョン・ハート、エド・ハリスまで配する盤石の布陣。
この豪華キャストにポン・ジュノ作品には欠かせない
名優ソン・ガンホが飛び込むことで、本作の持つ混沌とした世界観が
さらに重厚なものになっている。
ガンホの娘役で出演しているコ・アソンは、ポン・ジュノの代表作のひとつである
「グエムル 漢江の怪物」でも父娘として共演していた。


映画「スノーピアサー」予告編(YouTube)

カラッとしたウェスタンの世界観にシュワちゃんを置き、
コミカルな演出で「ラストスタンド」を撮ったキム・ジウンや
「親切なクムジャさん」的な世界観を引き継ぎつつ
サイコ・サスペンスの王道「イノセント・ガーデン」を撮ったパク・チャヌクは
共にハリウッドテイストを意識した作りであったが
大トリのポン・ジュノはちょっと違う。
これほどの豪華キャストを揃えて作られたフランス発のコミックが
見事なまでに韓国映画になっている。

緻密な世界観よりもドラマとしてのインパクトを重視し
シリアスかつ残虐な表現の合間にコミカル演出を挟み込んでくる緩急の付け方は
SF作品として観ると興醒めする方もいるかも知れないが
これこそがポン・ジュノの持ち味であり、最大の魅力なのだ。
ハリウッド進出第1弾でも臆することなく得意分野で勝負してきたことが
古くからのファンとしてはとても嬉しかった。

ストーリーは、高層ビルや巨大施設など、閉ざされた舞台
(本作の場合は列車)を用意し、そこで格差社会を描いて見せる良くあるパターン。
生態系の維持、食事の供給、発電、果てはファッションまで
車内だけで衣食住にまつわる全てを供給できる「スノーピアサー」は
止まることなく地球を周り続ける最先端技術を搭載した列車であり、
ここに居る限り富裕層ならば何も心配することはない。
ただし、後方車輛に住む貧民層の人々はこの限りではなく
供給される謎のプロテインバーだけを食し、過酷な労働を強いられている。
映画は、生活に疲れた貧民層が蜂起し、先頭車輛を目指す過程を描いている。
水槽、キッズルーム、植物園、ヘアサロンと、車輛ごとに
くるくると景色が変わり、段々と豪華になってゆくのが面白い。
豪華になればなるほど、末端で生活していた者達の怒りゲージは上昇し
血走った眼光がさらに鋭くなってゆく。

出演者で目を引くのがティルダ・スウィントン。
瓶底眼鏡とニタニタ笑いで誰だか分からないほどの美人崩壊ぶりは
「コンスタンティン」の天使ガブルエルや
「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」のヴァンパイアとは全くの別人。
そうか、彼女はこんな役も出来るのか。

クリス・エヴァンスは主人公ながら影は薄く
物語を引っ張っているのは、やはりソン・ガンホ。
スクリーンいっぱいに映し出されるクリスの表情よりも
その後方で小芝居を続けるガンホに目が行ってしまうほどの存在感。
英語を話さず、自動翻訳機だけでその他大勢とやり取りをする設定は
苦肉の策なのかも知れないが、そのことがかえって
誰とも群れない孤高の技師ナムグン・ミンスのキャラを際立たせる結果となっている。

3行でまとめるならば、「復活の日」(深作欣二監督)と
「海底超特急マリン・エクスプレス」(手塚治虫)を足して
現代社会への暗喩を盛り込んだSF風味の寓話といったところ。

私的には、血まみれの争いを繰り広げた直後に
寿司屋のカウンターに座り皆で食べているシーンが良かった。
そういえば「グエムル」でも、外で怪物が暴れ回っているのに
家族で仲良く食事をするシーンがあったな。
ああいう遊び心がいかにもポン・ジュノらしい。

映画「スノーピアサー」は現在公開中。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:スノーピアサー
    配給:ビターズ・エンド
   公開日:2014年2月7日
    監督:ポン・ジュノ
   出演者:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、テッィルダ・スウィントン、他
 公式サイト:http://www.snowpiercer.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


▼ポン・ジュノ監督作品


発売中■DVD:「殺人の追憶」

韓国で実際に起こった連続殺人事件をベースにしたサスペンス。
事件が迷宮入りしてしまうまでに何があったのか、
警察はどこまで追い詰めていたのかを
緊張感たっぷりに描いたポン・ジュノの出世作。
主演はソン・ガンホ。
本作が大ヒットした後にも警察の杜撰な捜査を批判した作品が多数公開され
「チェイサー」や「トガニ 幼き瞳の告発」は大ヒットとなった。

ちらりと見える犯人の残像、取り逃がしたと気付いたときのガンホの表情、
犯人が今もどこかに潜んでいるのだと思わせる余韻まで、
全てがきっちりまとまった非の打ち所のない作品。




発売中■DVD:「グエムル-漢江の怪物-」

「殺人の追憶」に続いて発表されたのは、まさかの怪獣映画。
アメリカに「キングコング」があるように、日本に「ゴジラ」があるように、
韓国にも代表作となるような怪物映画をと思ったのかどうかは知らないが
「グエムル」には、ポン・ジュノの怪物映画に対する強い憧れが
過去の作品で見せて来た彼ならではのエッセンスと共に散りばめられている。

深海からやって来るわけでも、空の彼方から飛来して来るわけでもなく
登場までに1時間近く引っ張るような無粋な真似もしない。
開始5分程で、当たり前のように「そこ」に居る。
蓮の花に似た形状の口を持つ巨大なムツゴロウといった風貌の怪物が
新体操の如きアクロバティックな動きをする様は何ともアンバランスで、
恐ろしいというより、むしろ愛らしくさえある。

一方、見た事もない異形の怪物を迎え撃つこちら側はと言えば、
何の変哲もない、どこにでもいる、日本で言えば磯野家のような家族。
特殊な武器など持っているはずもなく、さらわれた娘を救い出す計画も
どこか行き当たりばったりで、用意した武器も心許ない物ばかり。
戦闘機も必殺技も持たない、もちろん巨大化するわけでもない
中流家庭の一親父が怪物相手にどうやって娘を奪還するのか。
この映画は、グエムルの動きや戦闘シーンではなく、
娘のために手を取り合い奮闘する家族の姿こそが見所であり、
だからこそ、これはやはり正統派の「韓国映画」なのである。




発売中■Blu-ray:「母なる証明」

兵役を終えたウォンビンの5年振りにスクリーン復帰作。
子鹿のような澄んだ瞳を持ち、純真無垢なまま大人になった
青年トジュン(ウォンビン)と、彼に対し溺愛という言葉でも足りないほどの
愛情を注いできた母親(キム・ヘジャ)との関係が
ひとつの事件を境にして大きく揺らぎ始める物語。

オープニング、だだっ広い野原で疲れた表情の母親が突如踊り出す。
もうそのシーンを観ただけで
「とんでもない作品に出会ってしまった」と身震いがする。

忘れた記憶を取り戻すため、トジュンが頭をグリグリと揉んでいる。
闇で鍼灸師の真似事をしている母親は、忌まわしい記憶を消し去るツボを伝授する。
「バカ」という言葉を聞くとキレたように激昂するトジュンと
息子のことになると我を忘れ、時に法をも犯す母親との関係は
「マザコン」「子離れ出来ない母」などという言葉では到底追いつかない。
そして強過ぎる愛情は、時に人を狂気に駆り立てる。

私的には、2009年度公開作品の中で「グラン・トリノ」に次ぐNo.2作品。
敢えて点数をつけるとすれば95点。



▼キム・ジウン監督作品


発売中■Blu-ray:「ラストスタンド」
発売中■Blu-ray:「ラストスタンド Premium-Edition」

シュワちゃん10年振りの映画復帰はやはりアクション。
田舎町でひっそり暮らす老保安官が、街の住民と協力して
国外逃亡を企てている麻薬王をやっつける痛快なストーリー。
監督は本作がハリウッドデビューとなる
「グッド・バッド・ウィアード」「悪魔を見た」のキム・ジウン。
大スターを迎えても臆することなく
どぎつい笑いや残虐過ぎて逆にコミカルになる演出が冴え渡る。

タランティーノの撮るウエスタンが古き良き作品へのオマージュなら
こちらは「本物ではありません」と但し書きをつけながら
しっかりオリジナリティもある野心作。




発売中■Blu-ray:「悪魔を見た プレミアム・エディション」

「オールド・ボーイ」などで知られる実力派俳優のチェ・ミンシクと
ハリウッドでも活躍するイ・ビョンホンの共演によるかなり過激な復讐劇。
執着と憎悪の権化を演じる「黒い悪魔」のチェ・ミンシクと
惨殺された婚約者の敵討ちのため、人間の心を捨てようと決意した
「白い悪魔」のイ・ビョンホンとの闘いを描いたサスペンスで
2時間半観終わるとぐったりしてしまうほど密度の濃い作品。
園子温監督の「冷たい熱帯魚」あたりに近い。




発売中■Blu-ray:「グッド・バッド・ウィアード コレクターズ・ボックス」

「続・夕陽のガンマン」をベースに
1930年代の満州を取り入れた痛快なマカロニウエスタン。
主演の3人は、グッド(良い奴)に「私の頭の中の消しゴム」のチョン・ウソン、
バッド(悪い奴)に「甘い人生」のイ・ビョンホン、
ウィアード(変な奴)に「殺人の追憶」のソン・ガンホ。
韓国映画を代表する3大スターの共演も見物だ

要するに、宝の地図で一儲けを狙うコソ泥(ソン・ガンホ)と
それを追う殺し屋(イ・ビョンホン)と、彼等の首を狙う賞金稼ぎ(チョン・ウソン)が
ドンパチやり合うだけの映画なのだが、キム・ジウン監督らしいマニアックな演出が多い。
原作へのオマージュというよりは、タランティーノの「キル・ビル」や
三池崇史の「スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ」へのオマージュが強く、
しかも空振りな印象が強かった「ジャンゴ」の100倍は面白い。
後半のアクションシーンは拍手喝采モノのカッコ良さ。
ロープを使って移動しながらの射撃や、馬に跨がった状態でのくるくる射撃など、
様々なアクションを魅せてくれたチョン・ウソンがMVP。



▼パク・チャヌク監督作品


発売中■Blu-ray:「イノセント・ガーデン」

「プリズン・ブレイク」で主演を務めたウェントワース・ミラーの書き下し脚本。
主演は「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカ。
共演はニコール・キッドマン、マシュー・グード、ジャッキー・ウィーヴァー。
猟奇的な犯罪に手を染めた叔父の来訪により
それまで押え込まれてきた「隠された血」が覚醒してしまうサスペンスドラマ。

背筋の冷たくなるような自慰シーンで根性を見せつけたミア・ワシコウスカに
美しいだけの嫌な母親であるニコールと、女優ふたりが大熱演。
「オールド・ボーイ」でも話題になったどんでん返しも健在だが
今回は序盤で読めてしまったのが残念だった。

パク・チャヌクらしさを残しつつ、
ハリウッドでウケるサスペンスとは何かが良く研究された良作。




発売中■DVD:「オールド・ボーイ プレミアム・エディション」

昔ながらの骨太な韓国映画と新しく洗練されたセンスが融合した、
韓国映画の黄金期到来を告げた傑作。
原作は96~98年にかけて漫画アクションで連載された
土屋ガロン×嶺岸信明の同名コミック。
この原作にいち早く目をつけ、パク・チャヌクに映画化を勧めたのが
ポン・ジュノであり、この二人と仲が良いのが、キム・ジウン。
「オールド・ボーイ」の公開された2004年公開から約10年で
仲良し三人組が揃ってハリウッドに進出したわけだ。

倫理や法律では絶対に許されない間柄の愛が生んだ悲劇と、
純粋過ぎた故の狂気を見事に描いた本作は、日本生まれながら日本では映画化不可能。
日本人として歯痒い思いはするが、中途半端な規制をかけられて
台無しにされるよりずっといい。

ちなみに今年(2014年)6月には、ハリウッドリメイク版の公開も決定している。
舞台をアメリカの架空の都市に変更し、原作とも韓国版とも異なる展開になるとか。
監督は「マルコムX」「インサイド・マン」のスパイク・リー。
主演は「L.A.ギャングストーリー」のジョシュ・ブローリン。
共演はエリザベス・オルセン、シャールト・コプリー、サミュエル・L・ジャクソン。
タイトルもそのまま「OLDBOY」。
チェ・ミンシク→ジョシュ・ブローリンはなかなかナイスなキャスティング。
公開が楽しみ。