10倍返しホラー「サプライズ」&J・ワンの決定打「死霊館」 | 忍之閻魔帳

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▼10倍返しの爽快ホラー。映画「サプライズ」

映画 サプライズ YOU'RE NEXT ホラー
(C)2011 SNOOT ENTERTAINMENT, LLC

かつてハロウィンシーズンと言えば「ソウ」だった。
年に1本必ず新作を届けてくれていた「ソウ」が完結してからというもの
残虐な割には怖くない、軽めのホラーの後継者として
「ソウ」よりも長寿な「ファイナル・デスティネーション」シリーズや
「パラノーマル・アクティビティ」シリーズその穴を埋めてきたのだが、
今年は何と寂しいことにその枠が空いていた。
ロブ・ゾンビの「ロード・オブ・セイラム」は新境地を切り拓き
ジェームズ・ワンの「死霊館」はまさかの感動系で、どちらも味わいが違う。
ハロウィンにはもっと単純で馬鹿みたいなホラーが観たいのだ!
そんな願いを知ってか知らずか、「ソウ」を配給してきたアスミック・エースから
素敵な(安っぽい)プレゼントが届けられた。
それが今回紹介する「サプライズ」である。
「YOU'RE NEXT」(次はお前だ)の邦題が何故「サプライズ」なのかと思ったら
確かにこの映画には驚くべきサプライズが隠されていたのだった。

監督はアダム・ウィンガード。
日本からは井口昇監督が参加したオムニバスホラー「ABC・オブ・デス」や
当BLOGでも少しだけ取り上げた「V/H/S」が今年相次いで公開された
ホラー界の新鋭である。
本作は2011年開催のトロント映画祭が初お披露目の、いわば出世作。
11月30日からは、本作よりもさらに古い2010年に製作された
「ビューティフル・ダイ」が日本公開されるなど
2013年だけで4本ものアダム・ウィンガード作品が日本で公開される。
ホラー好きならば、今後のために名前を覚えておいて損は無い。



粗筋をざっと紹介すると、両親のために集まった合計10人の大家族が
食卓を囲む団欒に、突如として動物のお面を被った3人組が乱入。
相手の目的も分からないまま次々と殺されてゆく家族達。
果たして犯人の目的は、最期に生き残るのは誰なのか?というサスペンス・スリラー。

最初のうちは「ファニーゲームU.S.A.」のような
不条理な暴力にいたぶられる家族の様子を描いたタイプかと思いながら見ていたのだが
ものの20分ほどで「これはどうも違うな」と分かってくる。
「ドッグヴィル」も真っ青の過剰防衛がカタルシスへと変換され
振り下ろす武器に込めた力が強ければ強いほど
観る者のドーパミンが噴き出してくる、やり返し過ぎ系・爽快ホラーである。

ホラー映画でありながら笑いどころが満載なのもいい。
矢が刺さったままで徘徊し、辺り一面に天然オーラを振りまく男や、
家の外にどんな危険が待っているかも分からないのに
わざわざ助走をつけて全力で飛び出そうとする女。
悲惨な目に遭いながら、何故か笑えてしまうポップさはB級ホラーに欠かせないスパイス。
防御策として仕掛けた原始的な罠(お手製)にまんまと引っ掛かる
覆面ボーイズの間抜けさといい、突然「ターミネーター」化する某人物といい、
突っ込みどころが満載で非常に楽しい。
夜間に襲撃するには邪魔でしかないのに、お面を被って顔を隠す意味が
ほぼ無いという大胆過ぎるオチも、この手の映画らしくて良かった。
真面目に作らないと決めたなら、遊んだモン勝ちでいいのだ。

ターミネーターがターミネーター化した理由もあってないようなものだが
それにしてもこのターミネーターは容赦がない。
判別不能になるまで殴るなんてのは序の口、
果てはジューサーミキサーまで使って強烈な10倍返しをお見舞いする。

「ソウ」や「ファイナルデッド」や「パラノーマル」がお好きな方ならハマること請け合い。
今年のハロウィンはB級ホラーを観ずに終わって寂しいと思っていた方は
是非とも本作でその渇きを癒していただきたい。

映画「サプライズ」は11月14日より公開。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:サプライズ
    配給:アスミック・エース
   公開日:2013年11月14日
    監督:アダム・ウィンガード
   出演者:シャーニ・ヴィンソン、ニコラス・トゥッチ、他
 公式サイト:http://surprise.asmik-ace.co.jp
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


▼1作ごとに高まるジェームズ・ワンの決定打。映画「死霊館」

映画 死霊館
(C)2013 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

「ソウ」で彗星の如くホラー界に新風を巻き起こしたジェームズ・ワン。
「ソウ」シリーズのファイあるまでを製作として見届けた後に
「インシディアス」を発表し、これまたヒット。
次に送り込んできたのが、この「死霊館」である。
超常現象研究家のウォーレン夫妻(妻のロレインが霊視し、夫のエドが研究)の
実体験を元にしたサスペンス・ホラーで
陳腐な邦題からは想像もつかないほどクオリティの高いA級ホラーである。
出演は「エスター」「ミッション:8ミニッツ」のヴェラ・ファーミガ、
「ヤング≒アダルト」「インシディアス」のパトリック・ウィルソン。
パトリック・ウィルソンは来年1月10日より公開の
「インシディアス 第2章」にも出演する。



本作は「心霊現象の大半は科学的に解明できる」と豪語する
ウィルソン夫妻が、その長い経歴において唯一「本物」と認めた
1971年の症例がベースになっている。
念願のマイホームが悪魔憑きの家だった、という設定は
ホラー映画においては使い古された題材なのだが、それでもコレはとびきり怖い。
本作が過去の同系作品よりも一枚も二枚も格上に仕上がった要因は
「実体験がベースになっていること」と
「映像ではなく緊張感(空気)で恐怖を演出していること」の2点。
ちなみに、本当に実体験かどうかはさほど重要ではない。
「実体験がベース」との触れ込み、100%の造り事ではない(かも知れない)という前置きが
作中で展開する全ての要素に不確定な恐怖を持たせているのだ。

出血量や残虐表現に頼らず、緊張と弛緩の繰り返しだけで
観客をジワジワと絞め上げてゆく演出法と
母性をキーワードにした感動系のオチは
かつて世界に影響を与えていた頃のジャパニーズ・ホラーにも通じる上質な怖さ。

「予告編でここ(拍手のシーン)を見せては映画の目玉がなくなるのでは」と
要らぬ心配をしたのだが、本編にはその何倍も恐ろしいシーンや
涙腺を刺激する素晴らしいラストシーンが用意されているのでご心配なく。


発売中■Blu-ray:「デッド・サイレンス」
発売中■Blu-ray:「永遠のこどもたち」

ジェームズ・ワンの歴史から言えば、本作は「ソウ」や「インシディアス」ではなく
2008年に公開された「デッド・サイレンス」に近い。
古典ホラーへのオマージュを下敷きに、呪われた腹話術人形(ここでも人形が鍵)と
過去に秘められた哀しい事件を解いてゆく「デッド・サイレンス」も
かなりしっかりと作られた力作だったが、ラストのどんでん返しなどの部分で
まだ「ソウ」シリーズのファンへのサービスも込められていた。
今回の「死霊館」では「ソウ」の残像に縛られることなく、
ベテラン監督のような余裕すら漂わせながら見事なエンディングへと導く。

もしかすると今後、「永遠のこどもたち」の次に「インポッシブル」を撮った
J.A.バヨナのように、ホラーからも飛び出して名作を撮るのかも知れないと
そんな予感すらさせる秀作。

紹介するのが遅れてしまったので、もう終了した地域もあるかも知れないが
ホラー好きなら劇場で観ておかなければ絶対に損。

映画「死霊館」は現在公開中。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:死霊館
    配給:ワーナー
   公開日:2013年10月11日
    監督:ジェームズ・ワン
   出演者:ロン・リヴィングストン、リリ・テイラー、他
 公式サイト:http://www.shiryoukan-movie.jp/
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