戦争版の「ALWAYS」。映画「少年H」 | 忍之閻魔帳

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▼戦争版の「ALWAYS」。映画「少年H」

1997年のアニメ化、1999年・2001年のドラマ化に続いてついにスクリーンへ。
妹尾河童の自伝的ベストセラー小説を映画化したのは
高倉健と共に多くの名作を世に送り出してきた降旗康男監督。
戦火の拡大と共に軍国主義が加速してゆく戦時下の神戸を
ある家族の視点で描いてゆく。
出演は主人公の妹尾少年に「カーネーション」の吉岡竜輝、
両親には、父親役を「相棒」シリーズの水谷豊、
母親役は、本作が22年振りの映画出演、夫の水谷豊とは30年振りの共演となる伊藤蘭。
その他には小栗旬、早乙女太一、原田泰造、佐々木蔵之介ら。



私が子どもの頃は、図書室には必ず「はだしのゲン」が置いてあった。
過去の歴史や資料に触れることがまだ難しい子どもにとって
戦争の何たるか、その片鱗を知るには最適な入門編として使われていた。
1988年に「となりのトトロ」と同時に「火垂るの墓」が上映されてからは
その役割を「火垂るの墓」が果たすようになった。
映画版「少年H」は、「はだしのゲン」「火垂るの墓」が担ってきた
「戦争とは何か」を、実写映画の形で子ども達にも提供出来る作品である。
時代考証の杜撰さや著者の政治的な思想など批判が多い原作であることも事実だが
戦争を経験した者が直接子や孫に語り継ぐことが出来るのも
せいぜいあと十数年であることを思えば
今後は映画や書物など形に残される作品がその役割を担ってゆかねばならない。
今年で69歳になる降旗監督にも、そんな思いがあったのではないか。

少年の視点から見た戦争をそのまま本に起こしているからか
夏休みに家族で観ることの出来る戦争映画を意識してなのか
本作は非常に淡白な演出がなされている。
うどん屋の兄ちゃん(小栗)も、オトコ姉ちゃん(早乙女)も
過酷な運命に翻弄されているのだが、少年からしてみれば
いずれの出来事もそれほどの大事ではなさそうに見える。
父親が取り調べで拷問を受けたことも、家を焼け出されてしまうことすら
非常に不謹慎な言い方をすると、どこかノスタルジックな記憶に
浸っているかのように淡々としている。
あれほど厳しかった鬼教官が終戦後に豹変してしまうことを
劇中の少年は「変だ」と感じるが、映画はそれ以上の言及も補完もしない。
家族全員が僅かな配給で糊口をしのいでいるのに、
母はせっかく手に入れた貴重な白米を隣の家族に分け与えてしまう。
当然少年は理解できないが、ここでも父親は軽く詫びるだけで明快な説明をしないままだ。
映画「少年H」は少年の見えていた範囲内での出来事をまとめた記録であり
誰かに向けたメッセージというものは、あまり含んでいないのである。
リアルである反面、物足りなさも残る。

暗い出来事が続くにも関わらず笑いの絶えない家庭は
当時の平均的な一般家庭よりは恵まれていたからなのか、
それとも性格の成せる業なのか、随分と浮世離れしているのだが
このおかしな妹尾家の両親を夫婦揃って浮世離れしている水谷豊と伊藤蘭が好演。
伊藤蘭は長いブランクを感じさせないほど良い芝居だった。

最初から最後までどこか「ALWAYS 三丁目の夕日」っぽいなと思いながら
観ていたのだが、なんと本作の脚本は「ALWAYS」の古沢良太だった。
我ながら勘の鋭さにびっくりした。

戦争映画としては、取り立てて目新しいエピソードも切り口もなく凡庸。
戦争を背景にした家族ドラマとして楽しむべき作品だろう。
夏休みも折り返し地点、「ポケモン」や「モンスターズ・ユニバーシティ」だけでなく
たまにはこんな作品を家族揃ってご覧になっては如何か。

映画「少年H」は10日より公開。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:少年H
    配給:東宝
   公開日:2013年8月10日
    監督:降旗康男
   出演者:水谷豊、伊藤蘭、他
 公式サイト:http://www.shonen-h.com
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



発売中■Blu-ray:「7回忌追悼記念 黒木和雄 戦争レクイエム三部作」
発売中■Blu-ray:「7回忌追悼記念 TOMORROW 明日 Blu-ray BOX」
発売中■Blu-ray:「7回忌追悼記念 父と暮せば Blu-ray BOX」
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発売中■DVD:「紙屋悦子の青春」

戦争の悲劇を様々な形で描き続けた故・黒木和雄監督の名作群。
日本映画史に残る傑作(だと思っている)「TOMORROW 明日」、
原田芳雄と宮沢りえがほぼ二人芝居で火花を散らす「父と暮せば」、
監督の幼少期の体験を題材にした「美しい夏キリシマ」の3作が
3作セットのボックスと単独で発売中。
ボックスについては、「美しい夏キリシマ」を外してでも
遺作の「紙屋悦子の青春」を入れて欲しかった。

「父と暮せば」は、井上ひさし原作の映画化。
宮沢りえと原田芳雄のほぼ二人芝居で展開する舞台色の強い作品で
原田芳雄をも圧倒する宮沢りえの名演が見物。
広島への原爆投下から3年が経過した今も、
自分だけが生き残ってしまった後ろめたさから解放されない美津江と、
そんな娘を励ますべく現れた父・竹造とのやり取りを描いている。
「夕凪の街 桜の国」がお好きな方なら。

「Tomorrow」は、1945年8月9日、
長崎に原爆が投下される直前までを描いた作品。
原爆投下を知らずに何事もなく日々を過ごす人々を淡々と描き続け、
最後の最後で、長崎を「光」が包んで終了する。
光った後の姿を一切描かないことによって、
その瞬間、全てが「無」になってしまったことを強烈に印象づけるのだ。
私としては、本作が戦争を描いた邦画のNo.1だと思っているのだが
不思議なほど知名度が低いのが残念でならない。
戦争モノが苦手な若い世代も、せめてこれだけは観ておいて欲しい。

「紙屋悦子の青春」は黒木監督が生涯をかけて行ってきた
「戦争への静かな抵抗」をテーマにした最終作。
昭和20年の鹿児島を舞台に、一組みの男女のひたむきで静かな愛を描いている。
群衆劇のスタイルをとっていた「Tomorrow」からさらに焦点を絞ったような脚本を
「父と暮せば」のような演劇的なセットで描いた秀作だが
残念ながら本作が黒木監督の遺作となってしまった。




発売中■DVD:「一枚のハガキ」

日本人監督の最高齢である99歳で新藤兼人監督が撮った作品。
同じ部隊に所属した100人の兵士が、戦地に赴くか、それとも掃除夫として働くかを
上官の「くじ引き」によって決められ、人生の明暗を分ける。
夫を亡くし、唾を吐きかける場所すら持たないひとりの未亡人(大竹しのぶ)と
偶然「当たり」のくじを引いて命を繋げた男(豊川悦司)。
二人の交流を新藤監督らしいユーモアを交えつつ描いていく。

監督の実体験を元にしていながら語り口はとても穏やか。
まるで監督から昔話を聞かされているような感覚に陥る瞬間が何度もあった。
全てを受け入れて、次の世代への遺言として作品を遺す。
スクリーン一杯に黄金に輝く稲穂が映し出された時、
私達はこの光景を守っていかなくてはならないのだ、と強く思った。
哀しいことに、こちらも監督の遺作となってしまった。

戦争を経験する年寄りの多くは、あまり戦争について語りたがらない。
映画「ひめゆり」にも出演している、ひめゆり学徒の生存者・宮城氏も
戦後40年間は戦争について語る事が出来なかったと言っている。
亡くなった友人の死が重過ぎて、戦場跡に出向いたのすら30年後だったという。
ようやく語る気力を取り戻した時には、少女は「おばあ」と呼ばれる年齢になっていて
語り継ぐための時間もさほど多くは残されていない。
私達に出来ることは、戦争を経験した人々の声や作品に少しでも触れることだ。

Coccoも言った。
「しゃべる勇気に比べたら、観る勇気なんて鼻くそなわけ」と。





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戦争を題材にしたスペシャルドラマの中から、高い評価を受けたものをいくつか。