風に乗せ、未来に託す。映画「風立ちぬ」宮崎駿 | 忍之閻魔帳

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▼風に乗せ、未来に託す。映画「風立ちぬ」

「崖の上のポニョ」から5年。
宮崎駿監督の最新作「風立ちぬ」がいよいよ20日より公開される。
宮崎作品で初めて実在の人物を題材にした本作は、関東大震災や戦争が
相次いで発生した激動の1920年代を生きた、ひとりの男性の物語。
実在の人物と言っても生き様を振り返る伝記ドラマではなく
1982年に亡くなった航空技術者・堀越二郎と
昭和初期に活躍した作家・堀辰雄の人生をミックスしたフィクションになっている。
原作・脚本・監督は宮崎駿。
プロデューサーは鈴木敏夫。
音楽は久石譲、主題歌は荒井由実の名曲「ひこうき雲」。
色彩設定には「ポニョ」の完成後現役を退いていた保田道世が
宮崎監督の熱烈なラブコールを受けて復帰し花を添えた。

出演声優は以下の通り。

庵野秀明  堀越二郎
瀧本美織  里見菜穂子
西島秀俊  本庄季郎
西村雅彦  黒川
スティーブン・アルパート カストルプ
風間杜夫  里見
竹下景子  二郎の母
志田未来  堀越加代
國村隼   服部
大竹しのぶ 黒川夫人
野村萬斎  カプローニ



オープニングからエンドロールまで、風の止むことのない映画だった。
震災直後に燃え上がる東京で吹いていた烈風に
清らかな水辺を渡る微風に
帽子をさらい、二人を出会いに導く突風に
神風が吹くと信じて飛び立ってゆく零戦に
様々な逆風にさらされながら、それでも前を向いて生きねばと立ち上がる人々に。
風は時代を映し、登場人物の感情を何倍にも増幅させる。

映画「風立ちぬ」は、ジブリであってジブリでない。
精緻を極めたアニメーション技術や、これまで以上に品格のある背景画は
まぎれもなくジブリ作品なのだが、本作は宮崎駿が抱く
堀越二郎への私的な憧れと共感が下敷きにされており
同時に、これからの日本を生きてゆく若者達へのメッセージにもなっている。
声高な戦争反対でもなければ戦闘機への礼讃でもない。
困難な時代の中で、逃れられない現実と向き合いながら未来を素描し
叶えるために全力を尽くす。一分一秒を惜しむように直向きに生きる。
口下手で不器用だが信念だけは貫き通す、そんな二郎の生き様が
「この30年間、ずっと時間が足りてない」と語る宮崎監督の姿とダブって見えた。
本作は、ジブリ史上最も「宮崎駿監督作品」の冠が相応しい作品と言えるのではないか。

軽くて速く、そして美しい。
そんな飛行機が作りたい。
しかし、類い稀なる才能を期待され入社した会社では
人を殺めるための『兵器』として飛行機を設計しなければならない。
高性能であればあるほど、より多くの人命を奪うことが出来てしまう。
会議で「機関銃さえ載せなければもっと軽くできるんですけどね」と
大真面目に語る二郎と、その姿を見て部下達が笑うシーンは
「美しい夢」が「おぞましい悪夢」を生み出すかも知れない葛藤と闘いながら
真白な夢だけを追いかけようとした当時の若者達を象徴している。

「父はゼロ戦の設計者として有名ですが、ゼロ戦はテスト飛行中に
2人のパイロットが亡くなり、最後は特攻機として、多くの若者の命とともに散りました。
そのことを父は亡くなるまで悔いていました。
今回の映画にゼロ戦がほとんど登場しないのは、宮崎駿監督が父の心を
深くくんでくれたからでは、と感じました」 (堀越氏の長男・雅郎氏)





発売中■DVD:「一枚のハガキ」
発売中■DVD:「紙屋悦子の青春」
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マスコミ向けの完成披露試写では絶賛の連続だった本作は
一般試写を始めた途端に賛否両論が渦巻いている。
私は「賛」の側だったのだが、「否」の反応が多かった理由も想像はつく。
トトロのようなキャラクターも出てこなければ
ほうきに乗って空を飛ぶような演出もない。
ファンタジー要素と呼べるものがあるとすれば
二郎が夢の中で出会うカプローニとのシーンぐらいだが
それとてハウルやポニョの幻影を追いかけるファンの欲求を満たすものではないだろう。
高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」が地上波ではほとんど放送されないことからも分かる通り
多くの方にとって、ジブリブランドにリアリティ重視の作品は求められていないのだ。

私が本作にいたく感動したのは、物語の紡ぎ方や演出法に、
新藤兼人監督や黒木和雄監督の作品に通じるものを感じたからである。
残念ながらお二方とも既にお亡くなりになってしまったが
遺作となった「一枚のハガキ」や「紙屋悦子の青春」に両監督が込めた想いと
「風立ちぬ」に宮崎監督が込めた想いは、おそらくそう遠くない。
鈴木敏夫プロデューサーが本作を観て「宮崎駿の遺言である」とコメントしたのも
それに近いものを感じたからだろう。



では、本作は完全に大人向けと割り切った作品なのだろうか?
私はそうは思わない。
吹き渡る風に乗せた宮崎監督の想いは
二郎のように表向きは無愛想かも知れないが、とても大きな愛がある。
大地震で崩れ去る街並に
国民病と呼ばれていた結核の恐ろしさに
生きたいように生きることがままならなかった息苦しさに
「だから、お前たちは今の幸せを守っていくんだよ」という父性を感じる。
子を持って初めて親の気持ちが分かるように
今は分からなくても、10年後、20年後、30年後に分かってくれればいいと。
エンドロールの最後に出てくる文字は、いつもの「おしまい」だった。
やはり、大人向けと割り切った作品では無かったのだ。



庵野秀明の主演については、初登場時の違和感さえ過ぎてしまえば
かなり良いキャスティングだと思った。
テクニックだけで判断する方には分かり辛いのだろうが
一見無愛想(失礼)で、普段は口下手なのに趣味のことになると饒舌。
そんな二郎の人となりが、庵野氏の朴訥とした口調と上手くマッチしている。
お世辞のひとつも言えない二郎だからこそ、
ストレートな言葉を用いた愛の告白が胸に迫るのだ。

私の中では、宮崎駿作品の中でも3本に入るフェイバリット作品。
是非とも劇場でご覧いただきたい。

映画「風立ちぬ」は7月20日より公開。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:風立ちぬ
    配給:東宝
   公開日:2013年7月20日
    監督:宮崎駿
   出演者:庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、野村萬斎、他
 公式サイト:http://kazetachinu.jp
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ひこうき雲 iTMS 荒井由実
配信中■iTMS:「ひこうき雲 / 荒井由実」
配信中■Amazon MP3:「ひこうき雲 / 荒井由実」
発売中■CD:「風立ちぬ サウンドトラック / 久石譲」

荒井由実の名曲「ひこうき雲」がiTune Music Store、Amazon MP3ストアで
本日より配信開始された。価格はどちらも250円。
ユーミンにはそれほど思い入れがなくて、ジブリソングを集めている方ならお薦め。
ジャケットアートにはジブリ作品では史上2回目となるキスシーンが採用されている。

久石譲の劇中音楽を収録したサウンドトラックCDも発売中。
特典CDは同アルバムのモノラル音源バージョンCD。
これは1920年代を描いた映画本編ではモノラル音声が採用されているため。
久石譲の音楽はいつも必要以上に饒舌で、
時に物語の進行の妨げになったりもするのだが今回はとても良かった。




07月20日発売■BOOK:「風立ちぬ ビジュアルガイド」
07月20日発売■BOOK:「風立ちぬ」
07月24日発売■BOOK:「ジ・アート・オブ 風立ちぬ」
07月31日発売■BOOK:「風立ちぬ スタジオジブリ絵コンテ全集 19」
08月19日発売■BOOK:「フィルムコミック 風立ちぬ(上)」




配信中■Kindle:「風立ちぬ / 堀辰雄」(61ページ/無料)
配信中■Kindle:「風立ちぬ / 堀辰雄」(64ページ/150円)

昭和初期に活躍した小説家、堀辰雄の小説。
Kindle版が配信中で、無料版と150円の有料版があり。
どう違うのかは不明だが、表紙だけの問題であれば無料版で充分か。



▼荒井由実「ひこうき雲」が40周年記念盤で復活


07月31日発売■CD+DVD:「ひこうき雲 40周年記念盤 / 荒井由実(松任谷由実)」
08月14日発売■CD+DVD+LP:「ひこうき雲 40周年記念盤 / 荒井由実(松任谷由実)」

公開日が7月20日に決定、主人公の声優には庵野秀明を起用、
劇場では4分間の長尺を使った予告編も開始と
常に話題を提供してくれているスタジオジブリの最新作「風立ちぬ」。
その主題歌に、荒井由実の名曲「ひこうき雲」が起用されたことは
当BLOGでも以前お伝えしたが、「ひこうき雲」を収録した同名アルバムが
発売から40周年の節目を迎えることを記念して、
スタジオジブリとのコラボレーションによる特別企画盤として
再リリースされることが決定。
細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆らが参加した本作は
ポップス史上に燦然と輝く名盤として知られている。

・2013年デジタルリマスタリングされたCD
・アルバムのラストには「ひこうき雲(RE-MIX)/ 荒井由実×松任谷由実」を特別収録。
 松任谷正隆プロデュースによる新アレンジ&ボーカルの2013年版。
・LPサイズ絵本仕様
 鈴木敏夫編集&宮崎駿の絵18枚で構成された絵本仕様の豪華ブックレット
・特典DVDには「ひこうき雲」のミュージッククリップを収録。
 40年を経て初めて製作されたMVの監督は、是枝監督の助手として活躍し
 初監督作品の「エンディング・ノート」で話題を集めた砂田真美監督。

7月31日にCD+DVDが発売され、
2週間後の8月14日にはアナログ盤も同梱された超豪華盤も発売される。
アナログにもそそられるものがあるが、
CD+DVDもLPサイズ絵本仕様となっているので今回はそちらで我慢するか。
いやでも世紀の名盤でもあることだし、うーむ。
などど悩んでいる間にあっさりとアナログ盤付きは完売し
今や定価の数倍に高騰。買っておけば良かった。

山下達郎のベストアルバムが発売された時だったか、
日本におけるポップスの父親が達郎なら母親はユーミンだと書いたことがある。
ちなみに祖父は細野晴臣。
大瀧詠一は数枚出しただけで半隠居してしまったので
DNAとしては偉大な存在だが、子育てを放棄した時点で私的には父母とは言い難い。
(と言いつつ、来年発売されるであろう「EACH TIME」の30周年記念盤には期待大)
ユーミンが登場するまでは、日本にポップスと呼ばれる音楽は無かった。
フォークとロックと歌謡曲と演歌が、ヒットチャートを騒がせる日本の音楽の全てだった。

はっぴぃえんどやキャラメル・ママ(ティン・パン・アレー)によって
芽吹き寸前まで来ていた日本の音楽に、フォークの常道であった
日記公開とは全く違う言葉(歌詞)を操る天才少女が現れたときの衝撃は
音楽ファンなら未だに忘れられないはずだ。
山下達郎、南佳孝、大貫妙子、矢野顕子、吉田美奈子ら
ポップミュージックという大輪の花を咲かせた立役者達は今もバリバリの現役である。
ほんの数年だけ話題になっては、同系列の若手に押し出されるように
ポイ捨てされてゆく現在のミュージシャンに比べて何という安定感だろう。
音楽家として生きていくことの心構えが根本的に違うのだと思う。

サニーサイドポップスの代表のように思われているユーミンだが
「ひこうき雲」だけでなく、椎名林檎もカバーした「翳りゆく部屋」を始め
「ツバメのように」「雨に消えたジョガー」「コンパートメント」など
死にまつわる歌がけっこうある。共通しているのは、死というものへの
甘美な思いが少なからず含まれていることだが
死との距離の測り方が、歳と共にゆっくりと変化しているのが興味深い。