▼成熟したインド映画の決定版。映画「きっと、うまくいく」
今度のインド映画ブームは本物だ。
脈絡なく歌い踊る様を珍味としてウリにした第一次インド映画ブームは
案の定短命で終了し、ペンペン草も生えない禿げ山となった。
ボリウッドのパワーが注目されるきっかけになったのが「スラムドッグ$ミリオネア」。
ハリウッド式の映画製作に行き詰まりを感じていたダニー・ボイルが
ボリウッドのパワーを借りて作った「スラムドッグ」は瞬く間に世界を席巻し
2008年度のオスカーでは作品賞以下8部門を獲得する大成功を収めた。
経済的にも技術的にも急成長を遂げたインドの勢いは映画にも及び
2010年の「ロボット」はアジア全域で累計興収100億円を越える大ヒットを記録。
上映館こそ少なかったが、日本でもかなり話題となったのは記憶に新しい。
日本でもブーム再来の兆しは確実に見られたのだが、配給元は冷静な姿勢を崩さない。
干支が一周するほどの長い暗黒期を経て再びやってきたチャンスを
今度こそ短命で終わらせないために、買い付ける作品選びはクオリティを重視し
歌や踊りだけに依存しない、厳選された作品だけが輸入されている。
今回紹介する映画「きっと、うまくいく」は「ロボット」よりも1年前の
2009年に公開され、インド映画の歴代興収No.1を獲得した作品。
鮮度よりも中身を優先して配給された本作は
歌も踊りもCGも、インド映画らしさは全て兼ね備えた上で
現在のインドが抱えている深刻な社会問題にも言及し
かつ観賞後はとんでもなく爽やかな気分になれるというスパイス豊かな仕上がり。
紹介のタイミングを逃してしまったのでこのままBlu-ray化を待つかとも思ったのだが
巷の熱は冷めるどころかさらに加速しているようなので敢えて取り上げてみた。
おそらく今後も上映館は拡大を続け
最終的には2013年度の「最強のふたり」に匹敵するヒットとなるのではないか。
ストーリー自体は、わりとオーソドックスな青春映画。
仲良し三人組の中のひとり(ランチョー)は天才、
残る二人(ファラン、ラージュー)は落ちこぼれ。
校長からは『3バカ』として睨まれるが、三人の友情は固く楽しい学園生活を送っていた。
しかし、卒業と共にランチョーは行方をくらまし、それきり音信不通になってしまう。
10年後、社会人として過ごす二人のもとに、ランチョーの消息を知る人間が現れ・・・。
何故この作品がインドの歴代No.1作品に成り得たのか。
それは、急成長の陰で増加を続ける自殺問題に一石を投じているからだろう。
病死よりも自殺の方が多いとまで言われる現代のインドの若者事情は
高度成長期の日本が抱えていた問題に良く似ている。
上昇気流から振るい落とされた若者が「その他」という選択肢を与えられないままに
自らの命を絶つしかない現状に対し「Aal Izz Well」(大丈夫、上手くいくよ)と
明るく笑い飛ばしているのだ。
相変わらず長い(170分もある)ことを除けば
伏線を張って後半で全部回収する、ミュージカルシーンとストーリーが乖離しないなど
映画の文法をきっちり守って作られていることにも驚き。
普通よりは大盛り、大盛りよりは特盛りが喜ばれると信じて疑わない、
娯楽の物量作戦で観客を押し倒してくる、かつてのインド映画のパワーを
60%ぐらいにまで抑えつつ、残った40%をトータルバランスに費やしている。
本作が日本でもウケているのは、私たちが忘れかけていた
昔ながらの味わいを提供してくれるからだろう。
ドラマにハマったからでも前売り特典が欲しいからでもなく
1本の作品を観終えて「映画って本当にいいもんですね」(@水野晴郎)と
しみじみ感じる良さがこの映画にはある。
現在上映していない地域でも、7月から8月にかけてさらに拡大するようなので
ご近所で上映予定があるなら是非。(上映劇場一覧はこちら)
映画「きっと、うまくいく」は現在公開中。
余談。
主人公を演じたトビー・マグワイア風な顔立ちのアミール・カーンは
撮影当時なんと44歳だったらしい。学生姿に違和感を感じないのもすごい。
インドはアンチエイジングの魔法も研究しているのか。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
タイトル:きっと、うまくいく(3バカに乾杯!)
配給:日活
公開日:2013年5月28日
監督:ラージクマール・ヒラニ
出演者:アーミル・カーン、シャルマン・ジョシ、他
公式サイト:v
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

発売中■Blu-ray:「ロボット 完全豪華版」
ボリウッド版の「マトリックス」として知られるのが「ロボット」。
主演は「ムトゥ」で世界的にも知名度を上げたインド映画界の大スター、ラジニカーント。
ヒロインにはミス・ワールドにも選出された経歴を持つアイシュワリヤー・ラーイ。
音楽は「スラムドッグ~」「127時間」も手掛けたA・R・ラフマーン。
還暦を過ぎて科学者とロボットの二役をこなす
ラジニカーントのお元気ぶりといい、インド映画のパワーは相変わらず桁違いである。
昔よりもずっと洗練されたCG技術といい、
伝統を残しつつ最先端のものを生み出そうとするA・R・ラフマーンの音楽といい、
ぶっ飛んだ世界を勢いだけで見せようとしていた昔からずっと進化している。
香港映画のようなアクションも、ハリウッドSFの演出法も、
日本のアニメのようなストーリーも、刺激を受けた全ての要素を呑み込んで
でもガラム・マサラだけは絶対に忘れない。
憧れる作品は世界に数多あれど、これはインド映画なのだ。
インド映画こそが最強なのだと信じて疑わないエネルギーが全編を貫いている。
コメディタッチのSFアクションで3時間オーバーは正直やり過ぎだが
この盛り過ぎなほどのサービス精神こそ、インド映画ならではの
「装飾過多の美学」と言えよう。
良い博士の時は藤岡弘、悪いロボットの時は梅宮辰夫にしか見えない
ラジニカーントが還暦を過ぎてこれだけ活躍しているのを見ると
生身の爺さんが張りぼてのロボットに入って活躍する映画「ロボジー」や
松平健の「マツケンマハラジャ」など、準備体操のレベルである。
後半はやや失速し、尻すぼみになってしまった感は否めないが
とにかく客を楽しませようというエンターテイメントに溢れた快作。

発売中■Blu-ray:「スラムドッグ$ミリオネア」
偶然の上に偶然が重なっているようで、
全てが予め定められていた運命のように思わせる展開は
私の敬愛する今敏監督の「東京ゴッドファーザーズ」に少し似ている。
今監督はパンフレットの中で(うろ覚えで申し訳ないのだが)
「何かにつけて非現実的だ、非科学的だと言われる時代だからこそ
奇跡というものをもう一度信じられるような作品にしたかった」と語っていた。
本作の主人公であるジャマールも、いくつものピンチを奇跡的にくぐり抜け、
ついには番組史上最高額の2000万ルピーを手にする。
彼を支えたものは、稀に見る幸運と、ラティカへの一途な愛だけ。
大スターにも、マフィアのボスにも、スラム育ちの青年にも、
奇跡は誰の上にも等しく訪れる可能性があるのだ、という希望こそが、
オスカーを受賞した最大の理由であろう。
エンドロールの楽しさでハッピー指数がさらに倍。
出来過ぎたおとぎ話も、たまには心地良い。

発売中■Blu-ray:「サニー 永遠の仲間たち デラックス・エディション」
08月07日発売■Blu-ray:「横道世之介 スペシャル版」
演出面で泥臭さが抜け切れなかった「サニー」(韓国)よりお洒落で
誰からも愛される主人公の存在感は「横道世之介」(日本)のよう。