大幅な改変でも良かったのでは。映画「リアル 完全なる首長竜の日」 | 忍之閻魔帳

忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

★元記事はこちら。



▼大幅な改変でも良かったのでは。映画「リアル 完全なる首長竜の日」

1989年公開の「スウィートホーム」を観てから、かれこれ24年になる。
故・伊丹十三監督が「若いけどすごい才能の持ち主なんだ」と力説していた頃の
黒沢清監督はまだ34歳だった。
その後、「CURE キュア」(1997年)「回路」(2000年)
「アカルイミライ」(2002年)「LOFT」(2005年)「叫」(2006年)と
独特の世界観を持った作品を発表し続け、2008年公開の「トウキョウソナタ」では
カンヌ映画界の「ある視点部門」で審査員賞を獲得。
海外ではもともと知名度の高かった黒沢監督が、これでいよいよ国内でも
メジャー作品に進出するのではと多くの映画ファンが期待した。
それから5年を経て登場したのが、今回紹介する「リアル 完全なる首長竜の日」である。

第9回「このミステリーがすごい!」の大賞を受賞した乾緑郎の小説の映画化で
昏睡状態の続く恋人のため何度も相手の精神世界にダイブするという
ちょっとSFチックなラブストーリー。
主演は「るろうに剣心」の佐藤健と「ひみつのアッコちゃん」の綾瀬はるか。
製作がTBSなので、「とんび」の佐藤健と「JIN」の綾瀬はるかといった方が良いか。
共演は中谷美紀、オダギリジョー、小泉今日子ら黒沢作品経験者が顔を揃えている。



自殺未遂を起こしてから昏睡状態の続いている恋人の精神世界に
センシングなる医療技術を使ってコンタクトし、なんとか説得して連れ戻そうとする。
これだけを聞くと、古くは「幻魔大戦」や「ザ・セル」、
近年ならば「パプリカ」や「インセプション」などを想起する方も多いことと思う。
しかし、実際に映画を観ると分かるのだが、SF的な要素は薄く進行もゆったりめ。
「回路」「ドッペルゲンガー」「叫」などで培われてきた
日常のすぐ側、薄いドア1枚隔てた向こうに広がる非日常の世界を
淡々と描いてゆく手法は黒沢演出の真骨頂。
孤独や静寂や怨念というものが、台詞以外の部分に染み込んでいて
ふっと背筋が凍るような思いをさせてくれる。
黒沢清がメジャーに取り込まれてしまうのではとの心配は序盤で消え
黒沢清が逆にメジャーを浸食し始めたのだと嬉しくなった。
見えているのに心を持たないフィロソフィカル・ゾンビの描き方が特に秀逸。

しかし、丁寧に織り上げられてきた物語は
後半から急にお子ちゃま向けSFへとシフトする。
全編を覆っていた非日常の薄気味悪さは、御都合主義的に発生する奇跡と
首長竜によって舞台袖へと投げ飛ばされ、貞子もびっくりの安いプレゼントで一件落着。

原作未読の立場から敢えて乱暴なことを書かせてもらうが、
黒沢監督の演出力があれば、他人の精神に何度もダイブするうちに
徐々に現実世界が浸食され始める、というコンセプトだけで1本作れたはずである。
環境破壊も少年の悲劇も首長竜も全部削って、
中盤までの展開で最後まで突っ走って欲しかった。

私的には「クロユリ団地」などより100倍楽しめたが
佐藤健や綾瀬はるかといったキャストだけで観に行くか決めるのは危険。
これまでの黒沢作品がお好きなら(中盤までの限定で)かなりお勧め。

映画「リアル 完全なる首長竜の日」は6月1日より公開。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:リアル 完全なる首長竜の日
    配給:東宝
   公開日:2013年6月1日
    監督:黒沢清
   出演者:佐藤健、綾瀬はるか、他
 公式サイト:http://www.real-kubinagaryu.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


発売中■DVD:「トウキョウソナタ」

黒沢監督の中で私が一番好きなのが、この「トウキョウソナタ」。
監督が敢えて避けてきた、家族をテーマにした作品。

外へ外へと向かう長男と、内へ内へと向かう母親。
私物と共にプライドをゴミ箱に放り捨て、ジタバタと足掻く父親。
次男は、逃避のために選んだピアノ教室で思わぬ才能を発掘される。
外へと向かった長男は、さらにその先へと手を伸ばし、
家庭を守り続けた母親は、自分の人生がリセット出来るかを試みる。

小泉今日子、香川照之の芝居はどちらも絶品で、
長男役の小柳友と次男役の井之脇海もまた素晴らしい。
次男が奏でる「月の光」は、闇夜を抜け出した家族の再生を告げる「朝の光」。
黒沢作品が苦手だった方にもお勧めできる作品なので、
是非多くの方にご覧いただきたい。