【ネタバレ有】真の死者は中田秀夫。映画「クロユリ団地」 | 忍之閻魔帳

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▼【ネタバレ有】真の死者は中田秀夫。映画「クロユリ団地」

秋元康が凝りもせずまたホラー映画を手掛けると聞いて
おそらくこんなもんだろうと思いながらそれでも観に行く自分が嫌になる。
先週末より公開された映画「クロユリ団地」は
「着信アリ」「伝染歌」の秋元康が企画を担当し
「リング」の中田秀夫を監督に迎えて製作されたホラー映画である。
元AKB48の前田敦子と「逆転裁判」の成宮寛貴のW主演で
共演は勝村政信、西田尚美、岩松了、手塚理美。



*今回の紹介はネタバレを含みます。

「着信アリ」(1のみ)では三池崇史を、「伝染歌」では原田眞人を監督に迎えながら
評判がさっぱりだったのは、ストーリーの辻褄だの演出だの以前に
恐怖の連鎖を生み出した「リング」の亜流から離れられない
秋元康のプロットに問題があったと私は考えている。
「全8章仕立てだ」と壮大な構想を発表しながら
3作であっさり打ち切った「着信アリ」の後に
ブレイク前のAKBメンバーを使って「伝染歌」を作りこれも失敗。
「●●を使って恐怖が連鎖する」ことに限界を感じたのか
今作では本家「リング」を撮った中田秀夫の力を借りて、
「仄暗い水の底から」の亜流を仕掛けてきた。
根本のアイディアが手垢に塗れた二番煎じでも、中田秀夫が撮っていれば
本家の血筋であるかのように見せかけられると思ったのだろう。
しかし、ここで秋元はひとつ大きな読み間違いを犯してしまった。
肝心の中田秀夫の源泉がすっかり涸れていたのである。

ストーリーは、古い団地に引っ越してきた主人公・二宮明日香(前田敦子)が
次々と怪現象に見舞われるJホラーの定番。
現在深夜枠で放送中のドラマ「クロユリ団地 序章」は
明日香の越してきた団地でこれまでにどのような事件が起こってきたのか
(要するにミノル君の悪行三昧)を2話1エピソードの形式で描いているが、
ドラマと映画がクロスする部分は少なく、ドラマを観ていなくても
映画単体で楽しめるようになっている。

だが、団地内で起こる怪奇現象や恐怖演出のほぼ全てが
既視感の強いものばかりで、はっきり言って恐怖はほぼゼロに近い。
「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」という
これまた既視感の強い作品を押し付けられた中田監督は
もう引き出しの中を覗き込むことも、アイディアを絞り出すことも
止めしまったように思える。
『「リング」の中田秀夫』という看板さえあれば
あとは惰性でも仕事は来るし、喰ってもいけると思っているようにしか見えない。
「リング」で生まれた貞子は、中田監督のもとを離れて
今や始球式に登場したり、写真集を出したりと
完全に女子高生のおもちゃと化しているが、過去の栄光に頼ることなく
新たな道を切り拓いているだけずっとマシだ。

放送中の「序章」と比較しても、エピソードによってはドラマの方が面白いぐらいで
これでは劇場版を任された中田監督も立つ瀬がないだろう。
1話あたり30分、2話で1エピソードが完結するドラマ版と
映画版のストーリーがほぼ同じ情報量しかないため
2時間も尺がある映画版に水増し感が出るのは仕方ない面もあるのだが
ホラー映画はココ一番のシーンに辿り着くまでの引っ張り方が腕の見せどころ。
何も起きない時間の長さが、観客の緊張感を高めることなく
そのまま間延びに繋がっているのは、やはり演出に問題がある。

縮み上がるような恐怖も、あっと驚くどんでん返しもない。
ドラマ版でひた隠しにしている「ミノル君が必殺技を出すシーン」も
わざわざ隠す必要があったのかというほどそのまんまで、何の感慨もなかった。
こうなると、もうシナリオのバカバカしさを笑うしか
楽しむ手段がなくなってしまうのである。
手塚理美演じる女性霊媒師が経を読み上げる際の滑稽さでクスクス、
「しっかりしろ!あれはお前の家族じゃない!」と
前田に思いっきり平手打ちを入れた直後に、今度は自分の恋人の声色をされ
あっさりドアを開けてしまう成宮の驚くべき間抜けさにクスクス、
極めつけは、ミノル君が何故死んでしまったのかの理由。

*以下は物語の核心に迫るネタバレにつき、読みたくない方は飛ばして下さい。

友達とかくれんぼをしていて、ミノル君が「ここに決めた」のが焼却炉。
ところが、うっかり鍵がかかってしまい、いくら叩いても出られない。
ミノル君はそのまま収集員にゴミとして回収されてしまい
燃やされてしまったのでした。顔に火傷の跡があるのはそのせいだったんですね。
OH、可哀想に。

ってちょっと待て。
いくら子どもとはいえ、人間ひとり持ち上げて気付かない収集員などいるのか。
眠っていたとしても、ゴミ袋に入れてるわけでもない生身の子どもを
何のためらいもなく裁断機に向かって放り投げたのか。
仮にそうだとしたら、ミノル君の亡霊は火傷跡どころの見た目じゃないと思うが。


以上、ネタバレ終わり。

貞子にしろ伽倻子にしろ、襲う理由が理不尽なのは構わない。
無差別に撒き散らす怨念こそが、Jホラーを世界的に有名にしたからだ。
しかし悲劇の根本をぞんざいにしてはいけない。

劇中で女性霊媒師がこんな台詞を吐く。
「いい?死んだ人の時間は止まってるの。だから死んだ人とは関わっちゃ駄目」
中田秀夫の時間は「仄暗い水の底から」を撮った2001年で止まっている。
真の死者はミノル君ではなく中田秀夫だったのである。
ヒットにこそ結びついていないが、「ラビットホラー」などで
何とか新味を出そうと苦心している清水崇に比べて何という体たらくか。
しかも、「貞子3D」に続き本作も大ヒット中というWの悲劇。
あれほどもてはやされたJホラーが世界の市場から見向きもされなくなったのは何故なのか。
関係者は今いちど考え直してみる必要があるのでは。

映画「クロユリ団地」は現在公開中。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:クロユリ団地
    配給:角川映画
   公開日:2013年5月18日
    監督:中田秀夫
   出演者:前田敦子、成宮寛貴、他
 公式サイト:http://kuroyuri-danchi.jp
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



発売中■DVD:「伝染歌 プレミアム・エディション」

【紹介記事】秋葉原限定上映で良かったのでは。映画「伝染歌」

確か以前に紹介したなと思って検索をかけ、読み返してみると
そのままタイトルを「クロユリ団地」に置き換えても良かったと思うほど似ていた。
秋元康の時間も止まっていた、ということか。



映画 仄暗い水の底から 黒木瞳 水川あさみ 中田秀夫
発売中■DVD:「仄暗い水の底から」

古びた団地と、そこで起こる怪現象など「クロユリ団地」との類似点も多いが
血飛沫を使わずに恐怖を盛り上げる上質な演出や
母性愛を盛り込んだ哀しい結末など、圧倒的にこちらが上。



THREE 死への扉 映画 going home 回家
発売中■DVD:「THREE 死への扉」

韓国・タイ・香港の3人の監督が手掛ける作品を収録したオムニバスホラー。
当BLOGでも何度が取り上げたと思うので、ご記憶の方も多いかも知れない。
冒頭の「memories」は割とオーソドックスなコリアンホラー。
真ん中の「the wheel」はタイの宗教感が色濃く出ているため分かり辛い。
ここまでならアジア版の「世にも奇妙な物語」だが、トリを飾る「going home」が凄い。
短編にも関わらずレオン・ライ、エリック・ツァンなど実力派が出演し、
監督は「捜査官X」のピーター・チャン。撮影はクリストファー・ドイルが担当。
ネタバレになるので詳しくは書かないのだが、後半にあっと驚く展開が待っている。
わずか40分ほどの短編に「クロユリ団地」の何倍ものドラマや哀しみが詰まっていて
私はこの1話のためだけにDVDを買った。
品揃えの悪いレンタル店などではあまり見かけないかも知れないが
ホラー好きならばチェックしていただきたい作品。