熱意と執念の人。映画「リンカーン」(「声をかくす人」)紹介 | 忍之閻魔帳

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▼熱意と執念の人。映画「リンカーン」

ナオミ・ワッツが主演にノミネートされた「インポッシブル」は6月14日公開だが
先週末より「ハッシュパピー バスタブ島の少女」と「リンカーン」が公開されたことで
2012年度のオスカーで作品賞候補に挙がったものは全て出揃った。
大本命とされながら、結果は2冠(主演男優賞、美術賞)に止まった本作は
アメリカ史上最も愛された大統領であると同時に
アメリカ史上初の暗殺された大統領となったエイブラハム・リンカーンの足跡を
合衆国憲法修正第13条成立の秘話とともに描く伝記ドラマである。
監督は「シンドラーのリスト」のスティーヴン・スピルバーグ。
主演は本作で3度目のオスカー受賞となった名優ダニエル・デイ=ルイス。
共演はトミー・リー・ジョーンズ、サリー・フィールド、ジョセフ・ゴードン=レヴィット。



今回は予告編ではなく、補足説明の入った特別映像を紹介。
本編上映前にスピルバーグ直々による物語の背景説明が入るのも
私たち日本人にとってのリンカーン像が、アメリカ国内から観た
偉大な大統領像とは少し(かなり)温度差があるからだろう。
死者60万人超えという、米国史上最大の戦争被害をもたらした南北戦争についても
奴隷制度についても、日本から見れば「遠い国の歴史」に過ぎないことを
スピルバーグは把握していたに違いない。

さて、スピルバーグのチュートリアル付きで鑑賞した本編はというと
リンカーンの伝記ドラマというよりは、憲法修正第13条に関わった
政治家達の駆け引きにスポットを当てた政治ドラマといった方がいいかも知れない。
「プライベート・ライアン」を彷彿させる冒頭の戦闘シーンは
リンカーンが何故そこまで修正法案にこだわったのかの理由付けになっている。
日々流される若者の血を食い止めるために大統領として何を優先すべきなのか。
奴隷制度撤廃のために身命を賭して奔走するリンカーンは
正攻法での説得だけでなく、手段を選ばない議会工作を駆使しながら
徐々に多数派を形成してゆくのだが、一時的な応急処置ではなく
恒久的な問題解決を見据えた彼の行動には一貫性があり、強い説得力がある。
相手を見つめる眼差しの優しさ、真摯さとユーモアを併せ持つ人間味、
時折見せる険しい表情と怒声が醸すカリスマ性。
聖人ではなく、ひとりの人間として人々を束ねていった過程が非常にスムーズで
淡々とした演出にも関わらずスクリーンから放たれる熱量は凄い。

ただ、南北戦争終結までの最後4ヶ月に集中して物語を構成しているため
政治的な駆け引きに興味がない方には正直退屈な映画になってしまったのでは、とも思う。
「クイーン」や「英国王のスピーチ」や「マーガレット・サッチャー」に比べると
娯楽作品としての要素が極端に低く作られているからだ。
悪妻として知られるメアリー(サリー・フィールド)や
反対を振り切って入隊する息子ロバート(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)など
家族の物語にもう少しスポットを当てていれば、より重層的な楽しみ方も出来たのだろうが
さすがに150分でそこまでフォローするのは難しかったか。
本作で唯一、万人向けの感動的なエピソードを請け負っているのが
トミー・リー・ジョーンズ演じるスティーブンスで
彼の存在がリンカーン一家の描写不足をいくらか補ってはいる。

映画はフォード劇場で起きたリンカーン暗殺までを描いているが
後日談のようにさらりと流し、犯人像についても深くは言及されない。
映画を観れば、これほどの人物を一体誰が、何の目的でと思うだろう。
その答えは、後述する「声をかくす人」で知ることが出来る。

映画「リンカーン」は現在公開中。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:リンカーン
    配給:FOX
   公開日:2013年4月20日
    監督:スティーヴン・スピルバーグ
   出演者:ダニエル・デイ=ルイス、トミー・リー・ジョーンズ、他
 公式サイト:http://www.foxmovies.jp/lincoln-movie/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



発売中■DVD:「声をかくす人」

リンカーン大統領暗殺にまつわる知られざるエピソードを綴った
名優ロバート・レッドフォード製作・監督による法廷ドラマ。
大統領暗殺に関わったとされるアメリカ人初の女性死刑囚メアリー・サラットの
傍聴記録をもとにして練り上げられた力作。
メアリーには「ドラゴン・タトゥーの女」のロビン・ライト、
メアリーの弁護人には「つぐない」のジェームズ・マカヴォイ。



アメリカはしばしば、衝撃的な事件から数十年が経過した後に
「今明かされる真実」としてこういった作品(映画・書籍)を出して来るのだが
本作の製作元であるTAFC(アメリカン・フィルム・カンパニー)は
『米国の歴史を正しい史実に基づいて描き、広く学び直してもらうこと』を目的として
創立されただけあり、私達がそうだと思い込んでいる
リンカーン大統領暗殺事件にまつわる歴史認識が次から次へと打ち砕かれ、
これほど多くの事実誤認があったのかと唖然となる。

お恥ずかしい話、事件について私が知っていたのは
メアリーがアメリカで初の女性死刑囚だったことぐらい。
リンカーンの暗殺がアメリカに与えた衝撃がいかほどのもので
それを鎮静化させるためには、一刻も早い事件解決が望まれていたこと。
例えそれが『生け贄』であったとしても、真実を追求することよりも
国民の溜飲を下げることが優先されたということ。
法とは何を裁く場所なのかということまでを明らかにしてゆく。

結論ありきで進む裁判の中で、なぜメアリーが沈黙を選択したのか。
絞首台の階段を上るときのメアリーの心情を思うと、胸が張り裂けそうになる。
「リンカーン」がオスカーにノミネートされ
何故同等以上のクオリティを持った本作が完全にスルーされたのか。
私には、それだけ本作が真実を突いていたという何よりの証拠に思えてならない。

ロビン・ライトとジェームズ・マカヴォイはオスカーものの名演。
「リンカーン」をご覧になった方は、是非こちらもセットで。
「声をかくす人」は、現在DVDが発売中/レンタル中。




発売中■Blu-ray:「シンドラーのリスト 製作20周年アニバーサリー・エディション」
08月07日発売■Blu-ray:「バンド・オブ・ブラザース コンプリート・ボックス」

スピルバーグの「シンドラーのリスト」は20周年エディションが19日に発売になったばかり。
8月には製作をつとめた「バンド・オブ・ブラザーズ」が待望のBlu-ray化。




発売中■Blu-ray:「英国王のスピーチ」
発売中■Blu-ray:「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」
発売中■DVD:「クィーン」
発売中■Blu-ray:「チェ コレクターズ・エディション」

伝記ドラマをいくつか。
当BLOGでは紹介済みのものばかり、だと思うので
詳しい内容はサイドバーの過去ログ検索にて。



▼今週発売の新作ダイジェスト


04月24日発売■Blu-ray:「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 初回限定版」
04月24日発売■DVD:「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 初回限定版」
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04月26日発売■Blu-ray:「ジョジョの奇妙な冒険 Vol.4 限定版」
04月27日発売■HOBBY:「figma 新・光神話 パルテナの鏡 ピット」
04月27日発売■HOBBY:「figma 新・光神話 パルテナの鏡 ブラックピット」