タブーの下の邂逅。映画「ザ・マスター」 | 忍之閻魔帳

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▼タブーの下の邂逅。映画「ザ・マスター」

5年振りにPTA(ポール・トーマス・アンダーソン)の新作が届けられた。
「マグノリア」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」と、
寡作ながら必ず大きな話題を集める同監督が今回目を付けたのが
トム・クルーズやジェニファー・ロペスなど
多くのスターを信者に持つ宗教団体サイエントロジー。
脱退者に対する強権的な行動などを原因として一部ではカルト認定も受けている
この団体にPTAがメスを入れると聞いて、胸がザワつかないはずはない。
主演は「ウォーク・ザ・ライン」のホアキン・フェニックス。
共演は「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマンと
「ダウト」「人生の特等席」のエイミー・アダムス。
本年度のオスカーでは、主要キャスト3人が揃って主演&助演にノミネートされた。



物語自体は決して入り組んだものではないが、サイエントロジーについて
少しだけでも知っておくとより理解が深まるはず。
というわけで本作に興味のある方は以下のウィキページ参照をお勧め。

・「サイエントロジー」(Wiki)
・「サイエントロジーの創始者であるL・ロン・ハバード」(Wiki)

劇中ではそのものずばりの「サイレントロジー」ではなく「ザ・コーズ」として登場する。
ホフマン演じる教祖もランカスター・ドッドという架空の人物だが
ドッドの掲げる教義やマインドコントロールの手法は
サイエントロジーを、というか新興宗教のそれと酷似している。
ドッドに絡んでくる人物が、ホアキン演じる主人公のフレディ・クィエル。
第二次大戦の後遺症からアルコール&セックス依存症になっている元海兵隊員という設定。
泥酔した勢いで教団の船に潜り込んだフレディがドッドと出会い
彼の教えに心酔してゆく様と、明らかな異分子である彼を危険視する
ドッドの妻(エイミー)との三角関係を描いている。

なるほどPTAだなと思わせるのが、ありがちな宗教批判に終始していないことだ。
宗教団体としての「ザ・コーズ」は全く境遇の異なる二人の男を
運命的に巡り会わせるための仕掛けのような扱いで、
物語の力点はフレディとドットを結ぶ、親子とも恋人とも違う、
非常にベタな言い回しをするならば親友にも似た絆に置かれている。
ただし、相当歪んではいるのだが。

表向きはドッド(強者)がフレディ(弱者)を導いているようだが
ドッドの作り上げた『カリスマ教祖』というイメージが虚構であることは
彼自身が誰よりも知っている。
実権を握る妻への畏怖を抱きながら、かりそめの教祖を演じ続けるドッドにとって
船に迷い込んだフレディはようやく見つけた友達だったのではないか。
粗暴なフレディがドッドに惹かれてゆくのも、彼の教えに共感したというよりは、
フレディにとってもまた、ドッドがようやく見つけた友達だったからだろう。
教団のメソッドを従順にこなしてゆくフレディの姿を見ても
過去のトラウマから救い出してくれるのが「ザ・コーズ」なのだと
本気で信じているようには見えない。
一番の善き理解者になることで、ドッドを救おうとしているようにすら見えてくる。
ドッドに批判的な人間や警察に対して手荒な手段で排除せんとする姿は
狂信的な信者ではなく、もっと純粋で幼稚な、友達を守りたい子どものようだった。
この奇妙な共依存関係によって舞台袖へと弾き出されてしまった
妻は当然面白くなく、フレディ排除に動くと同時に
夫へかけた手綱をさらに厳しく締め上げる。
三人の関係が最終的にどこへ着地するのかは、是非劇場で確かめていただきたい。

淡々としたリズムを保ったまま140分も続く物語から片時も目を離せなくしているのは
主要キャスト3人の素晴らしい芝居に他ならない。
「ウォーク・ザ・ライン」以来の名演をみせたホアキンも
相変わらず達者なホフマンも凄いが、私的にはエイミー・アダムスが驚きだった。
「魔法にかけられて」からわずか6年ほどでここまで来たか。
「ダウト」以来の共演となったホフマンもさぞかし舌を巻いたに違いない。
四十路を前にして大女優の風格を身につけたエイミーがオスカーを穫る日は近い。

映画「ザ・マスター」は現在公開中。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:ザ・マスター
    配給:ファントムフィルム
   公開日:2013年3月22日
    監督:ポール・トーマス・アンダーソン
   出演者:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、他
 公式サイト:http://themastermovie.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


発売中■Blu-ray:「最強のふたり コレクターズエディション」

「最強のふたり」が陽の友情モノならば、「ザ・マスター」は陰の友情モノ。
境遇の違う二人が関係を深めてゆくあたりに共通点も。




発売中■Blu-ray:「ダウト/あるカトリック学校で」

映画に何を求めるかによって作品の評価は十人十色だと思うのだが、
役者の演技力を重視する方ならば文句無しの傑作が、この「ダウト」。
ジョン・パトリック・シャンリィの戯曲「ダウト 疑いをめぐる寓話」を
シャンリィ自らの手によって映画化したドラマ。
主演は「プラダを着た悪魔」のメリル・ストリープ、
共演は「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマン、
エイミー・アダムス、ヴィオラ・デイヴィスなど。

「アマロ神父の罪」や「バッド・エデュケーション」など
教会関係者の性的な問題を扱った作品はこれまでにも数多く存在する。
しかし、本作は単なる教会批判の映画ではなく、
心に芽生えた小さな疑惑の炎に自らが呑み込まれ、火だるまになっていく様を
「1964年のカトリック教会」という舞台装置を使って効果的に見せている。
宗教批判で終わらない人間ドラマという点では「ザ・マスター」にも通じる。

疑いをかけられる神父(フィリップ・シーモア・ホフマ)も
疑いをかけるアロイシス(メリル・ストリープ)もオスカー受賞者ということもあり
二人の掛け合いは火花が散っているかのよう。
穏やかな口調と柔和な表情で多くの支持者を抱える狸と、
悪の存在を決して許さない女狐との化かし合いは思わぬ結末へと流れ着くのだが、
ネタバレになってしまうのでここまでで止めておこう。




発売中■DVD:「スルース」

同じく芝居で見せる映画といえばこちらも。
ジュード・ロウとマイケル・ケインという演技派二人によるサスペンス。
オチは弱いが舞台劇を観ているかのような臨場感・緊張感は一見の価値有り。