また会いましょう。映画「クラウド・アトラス」 | 忍之閻魔帳

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▼また会いましょう。映画「クラウド・アトラス」

アクション映画におけるハリウッドのビジュアルをたったの1本で激変された
「マトリックス」から14年、シリーズ完結編の「レボリューションズ」からは
今年でちょうど10年になる。
一躍時の人となったウォシャウスキー兄弟(The Wachowski Brothers)も
兄のラリー・ウォシャウスキーが性転換を経てラナ・ウォシャウスキーとなったことで
今や姉弟コンビ(The Wachowskis)だったりする。
「Vフォー・ヴェンデッタ」も「スピード・レーサー」も私は大好きな作品なのだが
世界的にはそれほどヒットした印象はなく、ライトな映画ファンにとって
ウシャウスキー兄弟は、未だに兄弟のままで
下手をすると一発屋といったイメージかも知れない。
そんな姉弟が「パフューム ある人殺しの物語」のトム・ティクヴァと組み
3人体制で作り上げたのが、今回紹介する「クラウド・アトラス」である。

時代も場所も異なる6つの短編をザッピングしつつ
やがて大きなへと束ねられてゆく壮大な人間ドラマ。
トム・ハンクス、ハル・ベリー、ベン・ウィショー、ジム・スタージェス、
ペ・ドゥナ、ジム・ブロードベント、ヒューゴ・ウィーヴィング、
スーザン・サランドン、ヒュー・グラントなど。
主要キャスト全員が全てのエピソードで何らかの役を演じているのも見どころのひとつ。



ウォシャウスキー姉弟が大の日本好きであることは良く知られている。
代表作の「マトリックス」にも日本文化の影響は色濃く出ているし
「スピード・レーサー」(監督)や「ニンジャ・アサシン」(製作)といった作品を
手掛けているのもその表れだろう。
だからなのか、ウォシャウスキー作品は私にどれも良く馴染む。
その贔屓目を差し引いても、この「クラウド・アトラス」は傑作である。

手塚作品に慣れ親しんだ世代なら10人中8人ぐらいが思いつくはずだが
そこを避けては通れないので私も名前を出してしまうと
本作のコンセプトや作りは、手塚治虫の「火の鳥」に良く似ている。
乱暴な言い方をすれば、「黎明編」や「未来編」や「鳳凰編」を
同時進行させただけでなく、緻密に練り込まれた脚本と編集によって
1本の映画にまとめ上げてしまったのが「クラウド・アトラス」なのだ。

呑み込みの早い方なら予備知識なしに観ても楽しめるとは思うが
まずは6つのエピソードの背景を簡単に説明しておこう。

1849年:南太平洋:若き弁護士と奴隷商人の友情物語
1936年:イギリス:自身も作曲をする筆記者の名曲誕生にまつわる悲劇
1973年:カリフォルニア:原子力発電にまつわる陰謀を探るジャーナリストのサスペンス
2012年:イギリス:特別養護施設に監禁された老編集者の脱走劇
2144年:ネオソウル:自我に目覚めたクローン人間ソンミ451が革命軍に加わるSF
2XXX年:ハワイ島:文明が崩壊した地球に最期の時が迫るドラマ

一見独立したように見える6つの物語全てに主要キャストが参加しているのは
単なるお遊びや話題作りではなく、前世でやり残した悔いが
次の世代で報われるという、輪廻や業(カルマ)の思想に基づいて
構築されているためであり、1849年から約500年間に渡るこの壮大な叙事詩を
映像化する上でどうしても必要だったのだろう。
この無理難題に対し、キャストは皆満点の演技で応えて魅せてくれている。
エンドロールにはキャストがそれぞれのエピソードに何役で登場していたのかを
ネタバレしてくれる洒落た演出が付いているのだが
食い入るように観ていた私でも見抜けなかった『変装』がいくつもあり
すぐにもう1回観たくなる衝動に駆られてしまった。

キャストについては、事実上の主演としてクレジットされている
トム・ハンクスやハル・ベリーはむしろ狂言回しとしての役割に過ぎず
観客に強烈な印象を残すのはベン・ウィショー、ジム・スタージェス、ペ・ドゥナの3人。
繊細な作曲家が「パフューム」以来のハマり役であるベン・ウィショー、
正しく生きようとする若者にぴったりなジム・スタージェス、
「空気人形」に続いて心を持たないキャラクターに挑んだペ・ドゥナ。
ベン・ウィショー演じる作曲家の物語と
ジム・スタージェス&ペ・ドゥナによるSFの2編は
そのまま2時間に拡大して単独公開して欲しいほどのクオリティ。
3時間の尺に収まりきらなかった映像がまだまだ山ほどあるそうなので
Blu-ray化の際には根こそぎ入れて欲しい。

これほどの傑作でありながら、先行公開された海外では
米TIME誌の選ぶ2012年のワースト映画トップ10で
「ジョン・カーター」を抑えて1位の不名誉を獲得してしまったり
(ちなみにベストの1位は「愛、アムール」)
興行的にも大コケしてしまったりと散々な結果に終わっている。
輪廻やカルマといったアジア的な思想がピンと来なかったのだろうが
オタク文化の先進国である日本ならば、本作を「面白い」と感じる映画好きは多いはず。

アニメやゲームに興味がない方でも
「ラブ・アクチュアリー」と「トータルリコール」と
「チャーリーとチョコレート工場」と「ブレードランナー」を詰め込んで
松田聖子と郷ひろみが別れた時の名台詞「生まれ変わったら一緒になろうね」を
地でいく実は王道のラブストーリー、と聞けば興味が湧くのでは。
かなりざっくりした説明だが、根っこは意外とシンプルな作品なのだ。

熱狂か酷評かで二分する可能性もあるが、私は熱狂派だった。
さて、あなたはどうだろうか。

映画「クラウド・アトラス」は明日15日より公開。


発売中■BOOK:「クラウド・アトラス 上」
発売中■BOOK:「クラウド・アトラス 下」



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  タイトル:クラウド・アトラス
    配給:ワーナー
   公開日:2013年3月15日
    監督:ウォシャウスキー姉弟、トム・ティクヴァ
   出演者:ベン・ウィショー、ジム・スタージェス、ペ・ドゥナ、他
 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/cloudatlas/
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