愛すればこそ。映画「愛、アムール」 | 忍之閻魔帳

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▼愛すればこそ。映画「愛、アムール」

ハリウッドに限らず、ここ数年「晩年をどう過ごすか」
「いかにして死を迎えるか」を題材にした映画が世界各国で製作されている。
不謹慎を承知で言うなら、ちょっとしたブームと言ってもいい。
今回紹介する「愛、アムール」も老老介護をテーマにした作品。
監督は「ファニー・ゲーム」「白いリボン」のミヒャエル・ハネケ。
人間の内面に潜む禍々しさを容赦ないバイオレンス描写で描き出す手腕は
作品を発表するごとに物議を醸しているが
私の中ではラース・フォン・トリアーと並ぶ二大鬼才監督である。
徹底した『静』の空間で紡がれる究極の愛とは。
カンヌ国際映画祭では最高栄誉のパルムドールを受賞し、
オスカーでも最優秀外国映画賞に輝いている。



ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)と
アンヌ(エマニュエル・リヴァ)は、どちらも80歳を過ぎた高齢の夫婦。
高級なアパルトマンに暮らし、共にコンサートに出かけるような
穏やかで恵まれた老後を過ごしていた二人に、ある日突然、病が襲いかかる。
意識を失う発作を起こしたアンヌが手術に失敗し、半身麻痺になってしまったのだ。
「二度と病院には戻りたくない」と訴えるアンヌの言葉を受け入れ
ジョルジュは自宅での介護を決心するが、現実はそれほど生易しいものでは無かった。


波乱に満ちた人生を送った夫婦にも、幸福で穏やかな老後を過ごす夫婦にも
等しく訪れるのが、パートナーを看取るということ。
私の母も、「私に残された大仕事は、夫を見送ることと
あなた達に迷惑をかけないように財産を整理すること」だと言っている。
ジョルジュとアンヌも、おそらく少しは考えていたはずである。
ただ、どちらが先だとしても大きな不安は持っていなかったかも知れない。
間取りや家具や調度品(フルコンピアノまで置いている!)を見れば
かなり裕福な生活を送っていたことは察しはつくからだ。
しかし、誰もが羨む豊かな老後を送っていた二人を
一気に奈落まで突き落とす出来事が起こってしまう。

かつてピアノ教師をしていた自分に対し、高いプライドを持っているアンヌは
体の自由が利かなくなっても、他人の世話になることに対し激しく抵抗する。
ましてや風呂の介助や下の世話など、屈辱的過ぎて耐えられないのだろう。
彼女は「二度と病院に戻さないで」とジョルジュに嘆願し
ジョジュルがこれを聞き入れた時点で、高級なアパルトマンは
二人を外の世界から遮断し、幽閉する牢獄と化してしまう。
物語がこのアパルトマンから一切移動しないことが
この部屋が二人にとって世界の全てになってしまったことを暗示している。

愛する妻のために懸命に尽くすジョルジュも次第に疲弊してゆく。
週3回の介護士と、買い物を手助けしてくれる隣人だけでは
日に日に悪化するアンヌを支え切れない。
健康体とはいえ、80歳を過ぎた夫が妻の面倒をひとりで看るなど
土台無茶な話なのである。
けれど、二度と病院に戻さないという約束を破ることも出来ない。
決して悪気はないのだろうが、たまにやって来る娘は
ジョルジュの苦労を理解せず、変わり果てた母の姿に泣き崩れるのみ。
ではどうすればいいのか。どうすれば。。。

長寿大国の日本では、老老介護の問題が随分と前から社会問題化していたので
本作のようなケースも日本の至るところで起こっているはず。
ジョルジュの下したある決断は、多くの選択肢から選びだしたものではなく
消去法として「それしか無かった」のだと思う。
愛する妻との約束を守りきり、これ以上苦しませず、独りにしない。
全ての条件を満たす回答は、これしかない。

劇中で二度部屋に迷い込んだ鳩は、最初は逃がしてやったが二度目は捕まえてしまう。
毛布にくるんだ鳩を愛おしく抱きしめるジョルジュの姿と
その後のある種ファンタジックな光景が何を意味するのか。
私なりの解釈もあるにはあるが、それが正解かどうかは分からない。
鳩が何(誰)を象徴していると見るかによって、解釈は随分と異なるはず。
ご覧になった方がそれぞれに考えてみていただきたい。

「サラの鍵」「灼熱の魂」「別離」といった重めのドラマを好む私でさえ
ちょっとヘビーに感じたぐらいなので、観る人をかなり選ぶ作品であることは間違いない。
完成度は保証するが、気軽には薦められない作品だ。

映画「愛、アムール」は現在公開中。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:愛、アムール
    配給:ロングライド
   公開日:2013年3月9日
    監督:ミヒャエル・ハネケ
   出演者:エマニュエル・リヴァ、ジャン=ルイ・トランティニャン、他
 公式サイト:http://ai-movie.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


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発売中■DVD:「サラの鍵」
発売中■DVD:「灼熱の魂」
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