映画「終の信託」紹介、他 | 忍之閻魔帳

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▼愛が”迷い”を生んだのか。映画「終の信託」

映画 終の信託 草刈民代 役所広司
(C)2012フジテレビジョン 東宝アルタミラピクチャーズ

痴漢冤罪事件について描いた「それでもボクはやってない」から5年。
周防正行監督が最新作に取り上げたのは、尊厳死に端を発したひとつの事件。
重篤な患者から「せめて最期ぐらいは静かに逝かせて欲しい」と依頼されたら
医師としてどう対応すべきなのか、法はどこまでを『治療』とみなし
どこからを『殺人』とするのか、その線引きについて描いた問題作である。
主演は「Shall we ダンス?」での出会いが縁で監督の妻となった草刈民代。
共演は役所広司、浅野忠信、大沢たかお、細田よしひこなど。



呼吸器内科に勤務するエリート医師の折井綾乃(草刈民代)。
患者からの信頼が厚い彼女だったが、プライベートでは
長期に渡る同僚・高木(浅野忠信)との不倫関係に疲れきっていた。
ある日、若い女との密会現場を目撃した綾乃が激しく高木を非難すると
特に悪びれる様子もなく、あっさり別れを告げられてしまう。
ショックを受けた綾乃は飲み慣れないアルコールと睡眠薬の過剰摂取で
自殺を図るが、ボロボロの綾乃に優しい言葉をかけたのが
重度の喘息で入退院を繰り返している患者・江木泰三(役所広司)だった。
二人は患者と医師の関係を超えた信頼関係を築いていき、
やがて、回復の見込みがない江木が綾乃にひとつの頼み事をする。
「その日が来たら、静かに逝かせて欲しい」
身体的な苦痛と妻への愛を誰よりも理解していた綾乃は
江木の頼みを聞き入れ、そして・・・


二作連続で重い題材を選んだなと思ったら
「それでもボクはやっていない」の製作過程で出会った
作家の朔立木から原作本をプレゼントされたのがきっかけらしい。
確かに、本作は「それボク」と良く似ている。
客観性をそれほど重視せず、事件に対して「私はこう考える者である」という
周防監督の立ち位置がはっきりしているのだ。

以下、過去ログから一部引用。

【紹介記事】周防正行監督作品ということは忘れるべし「それでもボクはやってない」

あまり取り上げられない題材にスポットを当て、
エンターテイメントに仕上げることを手法として来た
周防監督の最新作は、これまでのような理屈抜きに楽しめる作品ではなく、
司法への「怒り」を感じさせるシリアスな仕上がり。
<中略>
ただ、周防監督の立ち位置があまりにも被告の側に偏り過ぎてはいないか。
綿密な取材を通して、冤罪をかけられた側の主張だけに
過剰に肩入れしてしまったのではないか。
「それでも・・・やってない」のタイトル通り、
この映画は観客に解釈の自由を与えていない。


これと全く同じことが本作でも起こっている。

間違えてはいけないのは、本作で行われたのは医療行為ではない、ということだ。
呼吸器を外せば静かに死を迎えると思っていた江木がふいに息を吹き返し
猛烈に苦しみ始めたために、致死量と把握していながら
大量の安定剤を投与した『殺人事件』である。
しかし、監督の目線は「どうですか?皆さん」とは言っていない。
問いかけになっていないのである。

映画 終の信託 草刈民代 大沢たかお 細田よしひこ
(C)2012フジテレビジョン 東宝アルタミラピクチャーズ

映画は大きく分けて二部構成。
綾乃と江木の出会いから、江木が亡くなるまでを一部、
亡くなってからの取り調べが二部になっている。
「Shall we ダンス?」の二人を再会させて

「傷ついた者同士が惹かれ合う大人のラブストーリー」

という、なんとも昼ドラ臭いストーリーにたっぷり時間を割くことで
その甘ったるさに流されてしまった女医の判断ミスを
大沢たかお演じる検事がグイグイと締め上げる形をとっている。

ところが、ここで大きな疑問がひとつ。
二人の関係は、果たしてラブストーリーと呼べるものなのか、ということだ。
2時間半もの尺を使っていながら、綾乃と江木が「友情も愛情も超えた
強い信頼関係で結ばれた二人」と思わせるためのエピソードが弱いのである。
例えば、綾乃が不倫していた若い男性医師・高木との関係が
短いベッドシーンでしか描かれておらず、ただのセックスフレンドにしか見えない。
そのため、睡眠薬の過剰摂取で自殺を図るシーンが
「年下の男に入れあげた挙げ句に結婚まで夢見ていた年上女の醜態」と映ってしまう。
江木が5歳まで満州にいた話や妹を亡くした話、子守唄を懐かしむ話なども
上手く機能しておらず、決定打となるはずのオペラですら、
二人を結びつける理由としては弱い。
私は原作は未読なのだが、聞いた話によると原作の綾乃は
同僚からも煙たがられるような高慢な女性として描かれているらしい。
片や病院で居場所のない女医、片や家庭で居場所のない患者であれば
心の隙間を埋め合う二人の関係が、余命幾許もない男の悲劇を加速装置にして
ついには医師としての重要な判断ミスを引き起こした理由にも説得力が出てきたはず。
愛する妻をそこまで嫌な女にしたくなかったのかも知れないが、
綾乃というキャラクターに加えた監督の「手心」が
結果的に物語をどっちつかずにしてしまったように思う。

取り調べに入ってから登場する大沢たかおがまたややこしい。
綾乃を呼び出しておいて待合室でさんざん待たせて疲弊させ
主導権を完全にこちら側に置いておく。
いかなる些細なミスも見逃さず、綾乃の主張をことごとく潰しながら
目指した着地点に向かって誘導してゆくテクニックは
「なるほど、こうやって警察は事件をデッチ上げるのだな」と思わせる。
さらに、大沢の芝居があからさまに「THE・悪役」であり
補佐役の細田が少々戸惑いの表情を見せたところで
綾乃とのやり取りが完全なワンサイドゲームになっていることは変えられない。
(大沢もほんの一瞬だけ苦い表情を見せてはいるが)
ラブストーリーを絡めつつ『医療』か『犯罪』かを問う作品のはずが
監督の思い入れと大沢の過剰芝居で
警察の行き過ぎた取り調べを糾弾する映画になってしまった。

綾乃が江木の親族から訴訟を起こされる
きっかけが曖昧なままというのも解せない。
金銭目当てか、警察にそそのかされたか、病院関係者からふいに聞いたか。
突然思い立ったならそれでもいいが、いずれにせよ事の発端に触れられていないので
最後の最後までモヤモヤが残ってしまう。
取り調べ後の裁判内容こそが知りたかったのに
エンドロールと共に駆け足でテロップで説明して終わり。
説明不足と蛇足が混在し、長い割にはまとまりが悪い。

愛が迷いを生んだのは、劇中の綾乃だけでは無かった、ということなのか。

映画「終の信託」は10月27日より公開。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:終の信託
    配給:東宝
   公開日:2012年10月27日
    監督:周防正行
    出演:草刈民代、役所広司、浅野忠信、大沢たかお、他
 公式サイト:http://www.tsuino-shintaku.jp/
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