ほどよい口どけのエア・イン・ジブリ。映画「借りぐらしのアリエッティ」 | 忍之閻魔帳

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借りぐらしのアリエッティ
2010 GNDHDDTW

スタジオジブリの抱える最大の課題が後継者問題であることは
もうずっと指摘され続けてきた。
「ハウルの動く城」では、一度決まっていた細田守監督が製作途中で降板し、
「ゲド戦記」では、息子である宮崎吾朗が監督を務めるも評価は芳しくなく、
結局、「やっぱりジブリは宮崎駿監督でないと」というところに落ち着いていた。
スタジオジブリ最新作の「借りぐらしのアリエッティ」は、
「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「崖の上のポニョ」などで
原画を担当してきた米林宏昌の初監督作品である。
完成版を観終えた宮崎監督は、「思っていたより3倍良かった。良くやった」と言って
米林監督と固い握手を交わしたと聞く。
果たして、ジブリ作品史上最年少監督の米林監督は、ジブリの春告鳥となれたのであろうか。

人間の暮らす家の軒下には、妖精達が住んでいる。
僅かな隙を狙って室内に忍び込み、生活に必要なものだけを、
必要な分だけ拝借してくる、「借りぐらし」の生活をしているのだ。
彼等には、人間にその姿を見られたら引っ越さなければならないという掟があった。
とある古い屋敷の軒下で、父・ポッドと母・ホミリーと供に暮している
14歳の少女・アリエッティは、好奇心盛んな年頃。
父の狩りに同行し、人間のいる部屋に忍び込んだまでは良かったが
病気療養のためにしばらく滞在しにやって来た12歳の少年・翔に姿を見られてしまう。
慌てて隠れたアリエッティだったが、翔の言葉や態度は
父や母から聞いていたような乱暴なものではなく、むしろ心惹かれるものがあった。
二人は次第に心を通い合わせてゆくのだが・・・。

原作はイギリスの作家メアリー・ノートンの児童文学「床下の小人たち」。
映画では、原作で舞台となっていた1950年代のイギリスを現代の日本に移し替えている。
声優陣は、主人公・アリエッティに志田未来。翔にはジブリの常連である神木隆之介。
アリエッティの両親には三浦友和と大竹しのぶ。
屋敷の婦人・貞子には竹下景子、小間使いのハルに樹木希林、
妖精族の生き残りであるスラピーに藤原竜也と、相変わらず豪華な顔ぶれが揃っている。
主題歌と音楽は、サンプルCDを作って自らジブリに売り込んだというセシル・コルベル。


アイスクリームの美味しさの決め手は空気である、と「美味しんぼ」で読んだことがある。
どれだけ選び抜かれた材料を使っていたとしても、
程良く空気が混ざっていなければ、滑らかな口あたりにはならないらしい。
今回の「借りぐらしのアリエッティ」は、
企画・脚本を務めた宮崎駿の影響が色濃く出てはいるものの、
宮崎監督から米林監督へ、久石譲からセシル・コルベルへとバトン・タッチしたことで
程良く空気が混ぜ込まれ、非常に口溶けのよい作品に仕上がっている。
「もののけ姫」は凄かった、「千と千尋の神隠し」も「崖の上のポニョ」も凄かった。
宮崎駿監督作品には、別にそれが悪いという話ではなく「面白い」よりも先に
「凄い」が来るような威圧感があったように思うのだが、
今回の「借りぐらしのアリエッティ」には、
観終わって素直に「あー面白かった」と言える、良い意味での気安さがある。
チャンネルは違うが、世界名作劇場の枠を復活させて、
半年から1年ぐらいかけて妖精一家のその後を描いて欲しいほど。

シナリオ運びは宮崎節全開なのに、どうしてこれほどふんわりとしているのか。
ふんわりの秘密が米林宏昌監督の持ち味なのだとしたら、
新生ジブリがいよいよここから始まるのかも知れない。



ストーリーは特別目新しいものではなく、
キャラクター設定や演出も、昔どこかで見たようなものばかりで構成されている。
映画の序盤、ポッドとアリエッティが屋敷内を探索するシーンは
まんま「トイ・ストーリー」(もしくは「ちびロボ」)だし、
病弱な翔の表情は「千と千尋の神隠し」のハクに瓜二つ。
藤原竜也が演じるスラピーの風貌は、「未来少年コナン」のジムシィを彷彿させる。
要するに既視感満載の作品なのだが、パクりや使い回しといったマイナスの印象ではなく
昔好きだった作品から詰め込めるだけ詰め込んで作ったような無邪気さがあって、
私としては好意的に受け止めることが出来た。
「サマーウォーズ」で美術監督を務めた武重洋二氏と
「崖の上のポニョ」の吉田昇氏をダブルで起用した効果がしっかり出ていて
美術方面の充実度が素晴らしいのも見逃せない。

私的に気になった点はひとつだけ。
それは、樹木希林が演じる小間使いのハルの存在。
妖精達を害虫のように思う彼女は、駆除専門の業者に生け捕りを依頼したり
捕らえた母親を瓶詰めにしたりとやりたい放題なのだが、
根幹にあるものが単なる興味には見えないため
「魔女の宅急便」のバーサのような微笑ましさが無い。
物語を引っ掻き回す存在としてアクの強いキャラクターが欲しかったのかも知れないが
全体的に薄味でまとめられた本作において、少々毒気が強過ぎたように感じる。

累計興収100億円突破が珍しくもないスタジオジブリの最新作なので、
公開後は様々な意見が飛び交うことと思うが、私は米林監督の次回作も是非観てみたい。
米林監督は、「時をかける少女」や「サマーウォーズ」は好きだけれど、
「ハウルの動く城」や「崖の上のポニョ」にはピンと来なかったというアニメファンを
もう一度ジブリに呼び戻すための橋渡し役になれるはずだ。



発売中■BOOK:「床下の小人たち」
発売中■CD:「Arrietty's Song / セシル・コルベル」
発売中■CD:「Kari-gurashi借りぐらし / セシル・コルベル」
07月14日発売■CD:「借りぐらしのアリエッティ サウンドトラック」
07月31日発売■BOOK:「ジ・アート・オブ 借りぐらしのアリエッティ」
08月23日発売■BOOK:「借りぐらしのアリエッティ ロマンアルバム」


発売中■BD:「崖の上のポニョ」
発売中■BD:「ルパン三世「カリオストロの城」
07月14日発売■BD:「風の谷のナウシカ」

【紹介記事】101分間の飛び出す絵本。映画「崖の上のポニョ」
【紹介記事】まさに横綱相撲。映画「ハウルの動く城」

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  タイトル:借りぐらしのアリエッティ
    配給:東宝
   公開日:2010年7月17日
    監督:米林宏昌
    出演:志田未来、神木隆之介、他
 公式サイト:http://www.karigurashi.jp/
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