「殺人の追憶」以来の衝撃作。映画「チェイサー」 | 忍之閻魔帳

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チェイサー
■DVD:「チェイサー ディレクターズ・エディション」

ヨンだのビョンだのが散々食い散らかしていったせいで
一過性のブームになってしまった感のある韓国映画。
日本で公開される作品の数はめっきり減ってしまったものの、
昨年公開された「シークレット・サンシャイン」然り、
強烈なインパクトを与える作品は相変わらず定期的に登場している。

今回紹介する「チェイサー」は、2003年から2004年にかけて
21人を連続して殺害した、韓国史上最悪の事件を映画化したものである。

警察を辞め、今ではデリヘル嬢の斡旋業をしているジュンホ(キム・ユンソク)。
彼が斡旋しているデリヘル嬢が、このところ立て続けに二人も連絡が取れなくなっていた。
初めのうちは手付金泥棒だと思っていたジュンホだったが、
失踪前の二人にある共通点を見つける。
それは、下四桁が「4885」の携帯電話から着信を受けていたこと。
ジュンホはこの男が失踪に関わっていることを警察時代の勘で察知、
たった今斡旋したばかりのミジン(ソ・ヨンヒ)の客も
この番号の主だったことに気付いたが時既に遅く、
留守番電話に居場所を連絡するようメッセージを残し、独自に調査を開始する。


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本作は韓国で500万人を動員し、2008年度のNo.1ヒットを記録したと聞いた。
事件のあらましについて、私より遥かに詳しいはずの彼等なら、
犯人の柳永哲(ユ・ヨンチョル)が未だに生きていることも当然知っていたはずである。

*2005年6月に死刑判決が下されてはいるが、韓国では1997年を最後に
 死刑が執行されていないため、今も獄中生活を続けている。

そんな状態で、これほど容赦のない映画を観に500万人が押し寄せるとは、
韓国という国の(エンターテイメントに対する)貪欲さには改めて驚かされる。

連続殺人事件を扱った韓国映画と言えば、
やはりソ・ガンホ主演、ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」であろう。
「殺人の追憶」は、1980年代に発生した華城連続殺人事件を元に
映画としてのフィクション要素を加えた作品で、未解決事件特有の
「もやもや」を逆手に取って、絶妙な余韻を残すことに成功した大傑作であった。

本作の大まかな枠組みも「殺人の追憶」と同じ(=フィクション要素をプラス)だが、
こちらの事件は犯人逮捕によって既に解決しているため、
映画も同じように、最後に犯人は逮捕される。
しかし、無事に事件が解決したというのに、このやるせなさは何だろう。
無表情のまま、何のためらいもなくハンマーを振り下ろす
ヨンミン(ハ・ジョンウ)に身を震わせつつも、それでも最後には「逮捕」という
すっきりした結末が待っていると思いながら観ていたのだが、
犯行現場に警官が乗り込んでも、犯人に手錠をかけても哀しみしか残らない。
「犯人を逮捕したところで、失われた命は戻らない」ということを、
まるで自分が遺族になったかのようにリアルに思い知らされる。

猟奇的な犯罪が起きた時、
メディアは良く「とても人間の仕業とは思えない」という表現を使う。
事件が報道される度に、司会者やコメンテーターは「一体何故・・・」と、
どこへともなく疑問を投げかけ、答えを待たずに次のニュースへと移っていく。
生い立ちを調べても、精神鑑定を行っても、導き出されるものは全て憶測でしかない。
自分に関係さえ無ければ、ものの数日で忘れてしまう事件が少しずつ積み重なり、
気がつけば今の日本も、常識では考えられない猟奇的な事件が増えてきた。
特に変わったところのない人間が引き起こす、人間の仕業とは思えない凶行は、
予めそうと察知出来ないからこそ、逃れる術がない。
この映画は、ひとりの殺人鬼を描いた作品というだけではなく
現代社会の歪みそのものを描いているように感じた。

ちなみに本作は、レオナルド・ディカプリオによるハリウッド・リメイクも決定している。
しかし「ディパーテッド」がそうであったように、
この映画は薄暗い望遠(マンウォン)の街並や、
アジア映画特有の湿度の高さがなくては成立しないのではないかと思う。

演出や音楽などで「殺人の追憶」を意識した部分は多く見受けられるものの、
デビュー作としては文句なしの仕上がり。
観賞後にどっと疲れてしまうようなヘビーな作品ではあるが、
クライム・サスペンスが好きなら絶対に劇場で観ておくべし。

■DVD:「殺人の追憶」

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:チェイサー
    配給:クロック・ワークス/アスミックエース
   公開日:2009年5月1日
    監督:ナ・ホンジン
  キャスト:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、他
 公式サイト:http://www.chaser-movie.com/
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