周防正行監督作品ということは忘れるべし「それでもボクはやってない」 | 忍之閻魔帳

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発売中■DVD:「それでもボクはやってない スペシャル・エディション」

「ファンシイダンス」(1989年)
「シコふんじゃった。」(1991年)
「Shall We ダンス?」(1996年)

あまり取り上げられない題材にスポットを当て、
エンターテイメントに仕上げることを手法として来た
周防正行監督の最新作は「裁判」、それも「冤罪」がテーマである。
2009年から施行される裁判員制度を見据えてのこととは思うが、
これまでのような「理屈抜きに楽しめる周防作品」ではなく、
司法への「怒り」を感じさせるシリアスな仕上がりになっている。

【あらすじ】

ある日、フリーターの金子徹平(加瀬亮)は
就職を希望する会社の面接を受けるため電車に乗っていた。
目的の駅に到着し、電車を降りた瞬間、
ひとりの少女に呼び止められ、車内で痴漢をしたと非難される。
身に覚えのない撤平は否認するも、駅員達には信じてもらえず
そのまま警察に通報、拘留されてしまう。

無罪である以上すぐにも釈放されると思っていた撤平を
待ち受けていたのは、否認は拘留期間が長引くだけだと言う警察官、
素直に罪を認めて示談金を払ってしまえとそそのかす弁護士など、
「痴漢をした」と決めつけている人間達のみ。
撤平の無罪を信じてくれる人間は誰一人としていなかった。

理不尽な取り調べを受けながらも無罪を主張し続ける撤平は
やがて検察から起訴されてしまう。
法廷で闘う決意をした撤平を助けてくれたのは、
母・豊子(もたいまさこ)と友人の佐藤(山本耕史)、
新人弁護士の須藤(瀬戸朝香)と、その上司である荒川(役所広司)。
彼等の力を借り、無罪を勝ち取ることが出来るのだろうか・・・


「Shall We ダンス?」の撮影後から取材を開始し、
脚本を仕上げるために3年を費やしたというだけあり、
本作で描かれている拘置所内の様子や裁判の流れは非常に説得力がある。
詰め込まれた細かなエピソードも全て事実らしく、
試写を観た本職の弁護士が
あまりのリアルさに舌を巻いたというのも頷ける話だ。

ただ、観終えてみて私が率直に感じたのは、周防監督の立ち位置が
あまりにも被告の側に偏り過ぎてはいないか、ということであった。
監督は、この数年間で200を超える裁判を実際に傍聴し、
当事者への取材を行なったという。
綿密な取材を通して、冤罪をかけられた側の主張だけに
過剰に肩入れしてしまったのではないか。
本作は劇場で「この映画を見て、あなたは主人公を有罪と思ったか、
それとも無罪と思ったか」というコメントカードを配布する予定らしいが、
この内容で「有罪」と思う人などほとんどいまい。
むしろ、「痴漢のほとんどは冤罪で、すぐに騒ぐ女が悪い」と
誤解する方も少なからずいると思う。
そもそも、タイトルに「それでもやってない」と付けている時点で、
観客に解釈の自由など与えられていないのだ。

主人公がフリーターというのは、仕事を持たせたり
妻子を持たせたりすると肝心の裁判部分が薄まってしまうために
敢えて身辺を軽くしたのだとは思うが、
物語としての説得力は弱まってしまった。
映画のヒントになった事件の当事者は妻子のある会社員で、
事件をきっかけに会社は解雇、家族も白い目に晒されるなど、
何が何でも無罪を勝ち取らなければならない理由が
いくつもあったのだが、本作の主人公の場合、
闘う原動力が「プライド」しか無いのだ。
せめて、母親や元カノ(鈴木蘭々)との関係ぐらいは
もう少し丁寧に描いて欲しかった。

周防監督は、「今回は面白い映画を撮ったつもりはない」と言う。
確かに、「Shall We ダンス?の周防監督最新作」などという
謳い文句に踊らされて観に行くと
手痛いしっぺ返しを喰らうほど大真面目に作ってある。
それが悪いことだとは言わないが、
司法に対する怒りにとらわれ過ぎて、周防監督らしい緩さや優しさが
ほとんど見られなかったことは少々残念であった。


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2時間半に渡り、ただひたすら理不尽な仕打ちを受け続ける
主人公役の加瀬亮はこれ以上ないぐらいのハマり役。
華があり過ぎても演技力が足らなくても成立しない難役を好演している。
「茶の味」「アンテナ」「パッチギ!」「誰も知らない」といった
単館系の作品を中心に実績を積み、
「硫黄島からの手紙」「ハチミツとクローバー」など、
昨年は6本もの作品に出演した彼にとって
2007年は大きな飛躍の年となりそうだ。

難点ばかりあげてしまったが、
周防作品に下手な固定観念が無ければ、得られる物の多い、
出来の良い法廷モノとして素直に受け入れられると思う。
フジテレビが製作に一枚噛んでいるため
プロモーションでは「Shall We ダンス?の周防監督最新作」が
前面に押し出されているが、
「Shall We ダンス?」のイメージはバッサリ捨てて、
どっしりした日本映画を観に行くつもりで劇場へ。



■Book:「お父さんはやってない」矢田部孝司+あつ子



■Book:「彼女は嘘をついている」小泉知樹


どちらも冤罪と闘った記録で、周防監督が参考にしたという2冊。
「お父さん」の筆者については、
以前ニュースでも特番が組まれていたので良く覚えている。


それでもボクはやってない
■CD:「それでもボクはやってない オリジナル・サウンドトラック」


メンテーマが秀逸なサントラCD。
1月10日発売。

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  タイトル:それでもボクはやってない
    配給:東宝
   公開日:2006年1月20日
    監督:周防正行
    出演:加瀬亮、瀬戸朝香、役所広司、他
 公式サイト:http://www.soreboku.jp/
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