名作は色褪せず、巨匠の腕も衰えず「犬神家の一族」2006年度版 | 忍之閻魔帳

忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)



■DVD:「犬神家の一族 (出演 石坂浩二、松嶋菜々子)」


角川映画の第1弾として大ヒットを記録した
「犬神家の一族」が公開されたのが1976年。
私に映画の面白さを教えてくれたのが市川崑監督であり、
横溝正史シリーズであった。
あれから30年が経過した2006年、
91歳になった巨匠・市川崑と、65歳になった石坂浩二が再びコンビを組み、
日本映画史に残る傑作ミステリーとして語り継がれている
「犬神家の一族」の復活に乗り出した。

【あらすじ】

信州でその名を知らぬ者はいない
犬神製薬の会長、犬神佐兵衛翁が死んだ。
佐兵衛は生涯正妻を迎えることはなく、腹違いの娘が3人いた。
莫大な遺産の分配に娘達は色めきたつが、
佐兵衛の残した遺言に書かれていた名前は、
佐兵衛とは血縁関係のない、野々宮珠世という娘の名前であった。
ただし、珠世の相続には条件があり、
3人の娘達の息子、佐清(長女の息子)、
佐武(次女の息子)、佐智(三女の息子)の
いずれかと結婚しなければならなず、
誰も選ばなかった場合は相続の権利を失うという。
数十億とも言われる遺産をめぐり、惨劇の幕が今あがる。


1976年度版からの続投組は、
石坂浩二(金田一耕助)、加藤武(橘警部)、大滝秀治(大山神官)の3人。
あとは総入れ替えで作られているにも関わらず、
出来上がって来たのは、紛う方無きあの「犬神家の一族」であった。
一言一句まで覚えているわけではないが、細かな台詞回しや
シーンの繋ぎ方、演出に至るまで、
ほとんど手を加えていないのではないかというほど全てがそのままで、
メインテーマはもちろん、大野雄二の「愛のバラード」。
ここまで来ると、リメイクというより
「キャストを変えたリマスター」と言った方がしっくり来る気がする。
しかも、困ったことにこれが驚くほど面白いのである。
完璧な作品のリメイクであれば、原作に無いキャストや
エピソードを追加しなくとも名作になり得るということを、
2006年度版の「犬神家の一族」は証明している。
いくつかのシーンがカットされているようだが、
本編に深く関わって来ないシーンなので気にはならない。
むしろ、余分な贅肉が削ぎ落とされテンポもグッと良くなった。

27年振りに金田一を演じる石坂浩二は、
若さとインテリ臭さが抜けた分、目の前の事件ではなく、
事件全体を見渡すような視点の高さを持つ老練な私立探偵に。
女優としてあまり魅力を感じたことの無かった松嶋菜々子に
珠世役はどうかと思ったが、口数の少なさもあってか予想以上の好演。
「呪怨」を彷彿させる奥菜恵の怪演や、清々しいまでの大根ぶりが
かえって可憐さを際立たせる深田恭子も見逃せない。
そして何より、犬神家の長女・松子を演じた富司純子が素晴らしい。
格式を重んじる名家の長女であり、息子を溺愛する母親でもある松子を、
1976年度版の高峰三枝子をも上回るしなやかさで見事に演じ切った。
私の中で、2003年公開の「解夏」あたりから富司純子株が
上昇しっぱなしで、今年だけでも「寝ずの番」「フラガール」など、
話題作への出演が目白押しとなっている。
ちなみに、本作では息子である尾上菊之助と初共演を果たし、
近日公開の「愛の流刑地」「待合室」では娘の寺島しのぶと共演。
愛息、愛娘の目覚ましい成長が活力の源なのか。

久々に登場した本格ミステリー作品として楽しむもよし、
1976年度版と比較しながら違いを楽しむもよし、
豪華キャスト勢揃いの華やかさも手伝って、年末年始にぴったりの1本だ。



■DVD:「犬神家の一族 コレクターズ・エディション (初回限定生産)」


角川映画第1弾の1976年度版。
ストーリーは全く同じなので、当然結末も同じ。
市川監督独特の色使いは既に確立されており、
今観ても全く色褪せていない。



■DVD:「金田一耕助の事件匣 市川崑×石坂浩二 劇場版 DVD-BOX」


角川から発売された「犬神家の一族」を除く
「悪魔の手毬唄」「獄門島」「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」の
4作に特典ディスクをセットにした5枚組のBOX。
「犬神家」とセットで揃えておきたい。


かあちゃん
■DVD:「かあちゃん」


山本周五郎の人情時代劇を、市川作品常連の岸恵子主演で映画化。
市川監督に口説かれて
「老い」を受け入れた岸恵子のかあちゃんぶりが見物。
是枝監督の「花よりもなほ」に通じる心地良さを残す名作だ。



■DVD:「ふくろう」


市川監督とは関係ないのだが、
90歳を過ぎた現役の映画監督は他にもいるという意味で紹介。
新藤兼人監督が本作を撮ったのが2003年で御歳91歳。
「犬神家の一族」のリメイクを手掛けた市川監督と同じ年である。
匠の技を見せる市川監督とは異なり、
91歳にしてこの毒気とエロ爺ぃっぷりは驚異的。見習いたい。
大竹しのぶの芸達者ぶりは相変わらず。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:犬神家の一族
    配給:東宝
   公開日:2006年12月16日
    監督:市川崑
    出演:石坂浩二、松嶋菜々子、富司純子、松坂慶子、萬田久子、他
 公式サイト:http://www.inugamike.com/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★