これは、

 

私の友人が

 

実際に体験したという話です。

 

友人は写真を撮るのが趣味で、

 

休日になると一人で古い町並みや

 

廃線跡などを撮り歩いていました。

 

ある日、

 

以前から気になっていた

 

古い神社へ行ったそうです。

 

山の中腹にある小さな神社で、

 

参道にはほとんど人がおらず、

 

社務所も閉まっていました。

 

ただ、

 

境内だけは妙に綺麗だったそうです。

 

落ち葉も少なく、

 

古い鳥居もきちんと手入れされている。

 

「誰かが今でも掃除しているんだろうな」

 

その程度に考えて、

 

友人は境内の写真を何枚か撮りました。

 

その中に、

 

一枚だけ妙な写真がありました。

 

拝殿を正面から撮った写真です。

 

写真の右端に、

 

白い服を着た女の人が立っていました。

 

友人は少し驚きました。

 

撮影したときには、

 

そこに人はいなかったからです。

 

しかし、

 

写真を拡大してみると、

 

女性は普通に立っているだけでした。

 

顔もはっきりしません。

 

「まあ、誰か参拝者がいたんだろう」

 

そう思い、

 

その日は帰りました。

 

ところが、

 

その夜。

 

写真をパソコンに

 

取り込んで整理していると、

 

奇妙なことに気づきました。

 

同じ女性が、

 

別の写真にも写っていたのです。

 

鳥居を撮った写真。

 

手水舎を撮った写真。

 

境内の石灯籠を撮った写真。

 

どの写真にも女性がいる。

 

しかも――

 

写真を撮った場所によって、

 

女性の位置が違いました。

 

最初の写真では拝殿の右端。

 

次の写真では鳥居の向こう。

 

その次では石灯籠の横。

 

まるで、

 

友人の後を追っているように見えました。

 

友人は気味が悪くなり、

 

その写真を全部削除しました。

 

翌日。

 

友人から私に電話がありました。

 

パソコンに取り込んだ、

 

「昨日の写真、見てくれないか?」

 

私は送られてきた写真を見ました。

 

確かに、

 

どの写真にも同じ女性がいます。

 

私は冗談半分に、

 

「追いかけてきてるんじゃない?」

 

と言いました。

 

すると友人は、

 

「それなら、まだいいんだけどな」

 

と答えました。

 

「どういう意味?」

 

友人はしばらく黙ったあと、

 

「最後の写真だけ、見てないんだ」

 

と言いました。

 

「なんで?」

 

「怖くて開けない」

 

最後の一枚。

 

その写真だけは、

 

撮影した直後にカメラの画面が

 

一瞬だけ真っ暗になり、

 

保存されていることにも

 

気づかなかったそうです。

 

私は、

 

「じゃあ、一緒に見よう」

 

と言いました。

 

友人が写真を開きました。

 

そこには、

 

神社の境内が写っていました。

 

誰もいません。

 

女性もいません。

 

ただ、

 

画面の中央に、

 

友人自身が立っていました。

 

私は一瞬、

 

意味が分かりませんでした。

 

友人はその写真を撮ったとき、

 

当然カメラを持っていたはずです。

 

だから、

 

自分が写っているはずがない。

 

しかも、

 

写真の中の友人は、

 

こちらを向いていませんでした。

 

神社の拝殿に向かって立っています。

 

そして――

 

その肩には、

 

白い服の女性が手を置いていました。

 

友人が小さな声で言いました。

 

「……これ、撮ったの俺だよな?」

 

私は答えられませんでした。

 

すると友人が写真を拡大しました。

 

そこで、

 

私は気づきました。

 

女性の顔が見えない。

 

髪で隠れているわけでもない。

 

そもそも、

 

顔そのものが写っていない。

 

首から上だけが、

 

真っ黒に潰れていました。

 

友人は怖くなって写真を閉じました。

 

そして、

 

そのままカメラを処分しました。

 

それからしばらくして。

 

友人は神社のことを忘れていました。

 

ところが半年後、

 

実家の荷物を整理していたとき、

 

古いアルバムを見つけたそうです。

 

子供の頃の写真が何冊も入っていました。

 

何気なくページをめくっていると、

 

一枚の写真に目が止まりました。

 

友人が小学生の頃。

 

家族でその神社へ行ったときの写真でした。

 

境内で撮った集合写真。

 

父親、母親、兄、そして友人。

 

みんな笑っています。

 

友人は何となく違和感を覚えました。

 

写真の右端。

 

木の陰に、

 

白い服を着た女性が立っています。

 

友人は写真をじっと見ました。

 

そして気づきました。

 

女性の姿は、

 

半年前に撮った写真とまったく同じでした。

 

服装も。

 

立ち方も。

 

顔の黒さも。

 

何十年も前から、

 

同じ場所に立っている。

 

そこで友人は、

 

あることを思い出しました。

 

あの日、

 

神社で撮った写真。

 

最初の一枚では、

 

女性は拝殿の右端にいた。

 

次の写真では鳥居の向こう。

 

その次では石灯籠の横。

 

そして最後の写真では――

 

友人のすぐ後ろ。

 

つまり、

 

女性が友人に近づいてきたのではありません。

 

最初から、

 

写真の中にいた。

 

そして友人が撮影した順番に合わせて、

 

少しずつ、

 

写真の中で位置を変えていただけだった。

 

では、

 

最後の写真に写っていた「友人」は、

 

一体誰だったのか。

 

友人は、

 

もう一度最後の写真を確認しました。

 

そして、

 

初めて気づきました。

 

写真の中の自分の右手。

 

そこには、

 

カメラがありません。

 

代わりに、

 

白い女性の手を握っていました。

 

そして女性の反対側の手には、

 

小さなカメラが握られていました。

 

そのカメラは、

 

友人が半年前に捨てたものと、

 

まったく同じでした。

 

さらに写真の隅。

 

小さな鏡のようなガラスに、

 

撮影している人物が

 

ぼんやり映っています。

 

友人は拡大しました。

 

そこに映っていた顔を見て、

 

息が止まりました。

 

撮影しているのは、

 

白い女性ではありませんでした。

 

子供の頃の友人自身でした。

 

そして、

 

その子供は、

 

こちらを見て笑っていました。

 

友人は、

 

その写真を二度と開かなくなりました。

 

ただ、

 

一つだけ。

 

どうしても気になることがあります。

 

最後の写真の撮影日時です。

 

写真に記録されていた日時は、

 

友人が神社へ行った日ではありません。

 

半年後でもありません。

 

もっと昔でした。

 

友人がまだ生まれていない日。

 

そして、

 

その日付は――

 

アルバムに残っていた、

 

「最初の神社の写真」の

 

撮影日と同じでした。

 

つまり、

 

あの日、

 

友人が神社で撮った写真は、

 

その日に撮った写真ではなかった。

 

何十年も前から、

 

同じ写真が、

 

同じ場所で、

 

同じ人間を待っていた。

 

そして今も、

 

その神社には、

 

写真を撮る人が時々訪れるそうです。

 

もしその写真の中に、

 

白い服の女性が写っていたら――

 

その写真は、

 

あなたが撮った写真ではないのかもしれません。

 

あなたが撮るよりずっと前から、

 

誰かが、

 

あなたを撮っていたのです。