堀場一雄 著 / 支那事変戦争指導史 / 1962年9月 / 東京:時事通信社
第二期・政略期間(其の一、中央政略期間)
第十章 日支調整協議内容(昭和十四年十二月八日)
324頁から350頁
1939年12月8日興亜院会議は、中央政権樹立工作に関し左の如き申合せを決定した。
これを汪兆銘側と協議を繰り返し、1939年12月30日、汪兆銘側は全部了解した。つまり、日本の傀儡政権と言われることを了承した。
前文
一、梅機関対注工作の経過より見るに去る11月1日興亜院会議決定に依る我が方要求を今直ちに全面的に確約せしめんとせば汪に依る新中央政府樹立は困難と見られ又新中央政府樹立を可能ならしむる為の汪側主張は我方に於てその儘之を容認し難きものあり
二、然るに国家内外の情勢は新中央政府を速に樹立するを有利と認めらるゝを以て此の際現交渉の程度に於ける彼我主張の開きの如きは一応梅機関の責任に於て之を呑込ましめ兎も角も速に汪政権を樹立せしむ
此の場合梅機関としては彼我意見の一致せざるの点に就ては将来正式交渉に移りたる場合更みて折衝の余地を存する如く出来得る限りの措置を講ずるものとす
三、政府は新中央政府樹立後諸般の情勢を考慮の上適当の時機に右政府と正式交渉す
四、11月1日興亜院会議の決定に就いては国内外の情勢を見極め且梅機関涯間の話合を考慮し要すれば修正することあるべし
総軍当局は、梅機関を促して日支双方の主張を妥協し、内協議を終結せしむ。1939年12月31日に至り日支新関係調整に関する協議妥結に至る。その内容は、日本側各種の主張及慾望竝支那側の関心及主張とする所を網羅せるものにして、日本側の大乗的根本理念と具体的実行面との径庭、支那側心理及国情の特性竝日支論争の焦点等甚だ歴然たり。
将来日支提携を議するもの、本内容に就て三思反省を要するものの洵に多し。依って以下其の全文を掲ぐることゝす。
第一節 日支新関係調整要綱
一、日支両国政府は別紙日支新関係調整に関する原則に準拠し新国交を調整すること
二、新国交修復以前に於て既成政府の弁じたる事項は差当り之を継承し事態之を許すに伴ひ第一項の原則に準拠して調整せらるべきこと
三、事変継続中は之に伴ふ特殊の事態の存在を諒解すること
右特殊事態は情勢の推移乃至事変の解決に伴ひ第一項の原則に準拠し整理せらるべきこと
其の一 基本原則
日満支三国は東亜に於ける新秩序建設の理想の下に相互に善隣として結合し東洋平和の枢軸たることを共同の目標と為す之が為基礎たるべき事項左の如し
〔左記〕
一、互恵を基調とする日満支一般提携就中善隣友好、共同防共、経済提携原則を設定すること
二、北支及蒙彊に於ける国防上竝に経済上日支間の緊密なる合作地帯を設定すること
蒙疆地方は前項の外特に防共の為軍事上姓に政治上特殊地位を設定すること
三、揚子江下流地域に於て経済上日支間の緊密なる合作を具現すること
四、南支沿岸特定島嶼に於ける軍事上緊密なる合作を具現すること
五、右諸項の具体的事項に関しては別紙第二に準拠し所要の協定を締結すること
其の二 具体原則
第一 善隣友好の原則に関する事項
日満支三国は相互に本然の特質を尊重し緊密に相提携して東洋の平和を確保し善隣友好の実を挙ぐる為各般に亘り互助敦睦の手段を講ずること
一、支那は満洲帝国を承認し日本は支那の領土及行政の保全竝に主権の独立を尊重し日満支三国は新国交を修復すること
二、日満支三国は政治、外交、教育、宣伝、交易等諸般に亘り相互に好誼を破壊するが如き措置及原因を撤廃し且将来に亘り之を禁絶すること
三、日満支三国は相互提携を基調とする外交を行ふこと
四、日満支三国は文化の融合創造及発展に協力すること
五、日満支善隣関係の具現に伴ひ日本は漸次租界、治外法権等の返還を考慮すること
第二 共同防共の原則に関する事項
日満支三国は協同して防共に当る
一、日満支三国は各疫其の領域内に於ける共産分子及組織を菱除すると共に防共に関する情報宣伝等に就き提携協力すること
二、日支協同して防共を実行すること之が為日本は所要の軍隊を蒙疆及北支の一定地域に駐屯すること
三、支那は駐屯地域及之に関聯する地域に存在する鉄道、航空、通信、主要港湾及水路に対し別に協定する所に従ひ日本の軍事上の必要事項に関し其の要求に応ずること
但し日本は平時に於ては其の行政権及管理権を尊重すること
第三 経済提携の原則に関する事項
日満支三国は互助及防共の実を挙ぐる為産業、経済等に関し長短相補有無相通の趣旨に基き平等互恵を旨とすること
一、北支、蒙彊に於ける特定資源就中国防上必要なる埋蔵資源に関しては共同防共及経済合作の見地より日支協力して開発し其の利用に関しては支那の需要を考慮し日本に特別の便宜を供与すること其の他の地域に於ても国防上必要なる特定資源の開発利用に関し経済合作の見地より日本に必要なる便宜を供与す但し利用に関しては支那の需要を考慮すること
二、一般産業に就ては日本は支那との協議に基き支那に必要なる援助を与ふること
三、支那の財政、金融(特に新中央銀行の設立、新通貨の発行等)、経済政策の確立に関し日本は支那との協議に基き支那に所要の援助を為すこと
四、交易に関しては関税の自主と双方の利益とを尊重し妥当なる関税及通関手続を採用する等日満支問の一般通商を振興すると共に日満支就中北支間の物資需給に就き各自給を妨げざる範囲に於て便宜且合理的ならしむること
五、支那に於ける交通、通信、気象測量の発達に関しては日本は支那との協議に基き支那に所要の援助乃至協力を与ふること
六、新上海の建設に付日本は支那との協議に基き所要の援助及協力をなすこと
第四 共通の治安維持に関する協力竝に撤兵に関する事項
日支両国は共通の治安維持に関し協力すること
一、日本は平和克復後約定以外の軍隊の撤去を開始し治安確立と共にニケ年以内に之を完了し支那は本期間に於て治安確立を保証すること
二、共通の治安維持を必要とする間の駐兵地域其他に関しては日支協議の上之を定むること
三、共通の治安維持の為の艦船部隊の駐屯、航泊に関する地域其他に関しては日支協議の上之を定むること
四、支那は駐兵地域及之に関聯する地域に存在する鉄道、航空、通信、主要港湾及水路に対し別に協定する所に従ひ日本の軍事上の必要事項に関し其要求に応ずること
但し日本は平時に於ては其の行政権管理権を尊重すること
第五 其の他の事項
一、支那は別に定むる所に依り日支協力事項に関し日本人顧問、職員を招聘採用すること
二、日本は事変の為生じたる支那難民の救済に協力すること
三、支那は事変発生以釆支那に於て日本国臣民の蒙りたる権利利益の損害を補償すること
(註)以上日支関係調整方針と比較し、特に撤兵、駐兵問題に関する支那側の関心を看取すべし。
第二節 秘密諒解事項
其の一 新中央政府と既成政府
第一 臨時政府との関係調整要領
一、北支とは内長城線(含む)以南の河北省及山西省竝に山東省の地域とす
二、中央政府は北支に於て北支政務委員会を設置す
三、臨時政府の名称は之を廃止し其の政務は北支政務委員会に依り継承す
四、北支政務委員会の権限、構成等に関する具体的事項は中央政治会議に於て之を決定す
右権限構成は平和克復後左記条項を具現し得るを以て限度とし之を目途として速かに調整整理せらるべきものとす
〔左記〕
(一) 中央政府規定の範囲内に於ける日支協力事項に関する北支の地方的処理中防共及治安協力に関する事項
1、日本軍駐屯に伴ふ事項に関する処理
2、日支防共及治安協力に関する所要事項の処理
3、其の他日支軍事協力に関する処理
但し国防軍に関する処理は中央政府の北支に特設する軍事処理機関に依るものとす又北支政務委員会の保有する綏靖部隊の兵力に関しては別に定むる所に拠る
(二) 中央政府規定の範囲内に於ける日支協力事項に関し北支の地方的処理中経済提携就中国防上必要なる埋蔵資源の開発利用及日満蒙彊及北支間の物資需給に関する事項
1、日本に対し資源就中国防上必要なる埋蔵資源の開発利用に関し特別の便宜供与に関する処理
2、日満蒙彊及北支間物資需給の便宜且合理化に関する処理
3、日満蒙彊及北支間の通貨姓に為替に就ての筋力に関する処理
4、鉄道、航空、通信、主要海運に就ての協力に関する処理
(三) 北支政務委員会が上記各項を処理せし場合は随時之を中央政府に報告するものとし中央政府は右処置が規定の範囲を脱越せりと認むる場合は之が修正をなすことを得、但し日支協力事項に就ては日本大使と連絡協議すること
(四) 中央の関係法令に基き日本人顧問及職員の招聘任用に関する処理
(五) 中国聯合準備銀行制度及之に関聯する為替制度を存続するを必要とする間は中央政府は必要なる助成を為すものとす
其の具体的要領は中央政府に於て日本と協議の上別に決定す
(六) 其の他の事項の処理
1、北支政務委員会所要経費は中央政府に於て一括して之を交付するものとす
2、関税、塩税及統税は中央税とす
但し当分の間関税収入剰余の五割及塩税収入剰余の七割竝統税収入は北支政務委員会の財源とす
徴税及監督に就ては関税は中央政府塩税は中央政府より派遣せる人員が北支政務委員会と共同して之を行ひ統税は中央政府より北支政務委員会に委任す之が為北支政務委員会より徴税官及監督官を推薦し中央政府に委任す
3、北支政務委員会は内債に限り中央政府の認可を得て之を募集することを得
4、北支に在る官有財産中国家に属するものは中央政府に帰属し北支政務委員会之を管理す又北支各省、市等に属するものは夫々省、市政府等之を管理す
5、海関、郵政及航空は中央政府成立後速かに其の統一管理下に入らしむるものとす
有線電報に関しては右に準ず
6、特任官及簡任官は中央政府に於て任免す
但し当分の間簡任官は北支政務委員会之を推薦するものとす
7、北支政務委員会は日満との純粋なる地方的処理に関する交渉に限り之を行ふことを得
但し随時中央政府に報告するものとす
8、中央政府の決定せる範囲内に於て蒙彊との地方的連絡に関する処理は北支政務委員会之を行ふことを得
但し随時中央政府に報告するものとす
(註) 北支政治干与は一旦解消せるに拘らず、臨時政府への拘泥に由り再現に陥り、廔々本協議の危機を醸成せり、
第二 維新政府との関係調整要領
一、維新政府の立場を尊重し其の動揺を防止し中央政府成立迄は安んじて政務を継続せしめ且中央政府と融合帰一する如く考慮するものとす
二、維新政府をして中央政府成立後政務委員会等を設置せざることを納得せしむるも其の主要人物の体面と地位とに関しては之を考慮す
三、中央政府成立し維新政府解消せる場合は中央政府は維新政府の弁じたる事項に対し差当り現状を維持し速かに之を調整するものとす
四、揚子江下流地帯に於ける日支間の緊密なる合作を具現する為日支経済協議会(名称未定)に於て日支協議し中央政府又は上海市政府に於て適当なる方法を講ずるものとす
五、上海に就ては別に協定する所に拠る
(註)維新政府に対する日本側一部の拘泥は、支那側必死の努力に依り緩和せり。
第三 蒙古聯合自治政府との関係調整要領
一、蒙疆とは内長城線(含まず)以北の地域とす
二、蒙彊は国防上、経済上日満支三国強度結合地帯たる特殊性に鑑み現状に基き広汎なる自治権を認めたる高度の防共自治区域とす其の権限は中央政府の規定する内蒙自治法に依るものとす而して内蒙自治法の制定に就ては予め日本側と協議するものとす
三、中央政府と蒙古聯合自治政府との新関係設定の為中央政治会議開催前汪精衛又は其の代表者と徳王又は其の代表者との会見に於て左記各項を文書を以て約定するものとす
左記
(一)中央政府は現状に基き蒙古聯合自治政府の高度防共自治権を認むること
(二)中央政府と蒙古聯合自治政府との関係調整に関しては本諒解に基き中央政府成立後別途協定すること
四、前項の諒解成立せる際は蒙古聯合自治政府は中央政治会議に代表者を出席せしむるものとす
五、中央政治会議に於ては第三項諒解の範囲外の論議は行はざるものとす、
第四 廈門
中央政府は廈門特別市を設く
廈門特別市に於ける日支協力事項に関しては日支間に於て別に協定すること
(註)本項は、海軍の主張なり。
第五 海南島及附近の諸島嶼
中央政府は海南島及附近の諸島嶼を以て一省となす
中央政府は専員を駐派し日支協力事項中左記事項に関し円滑に処理し得る如く措置すること
一、軍事協力に関する事項
二、経済提携に関する事項
(註)本項亦海軍独自の主張なり。
其の二金融、財政関係事項
一、中国聯合準備銀行(以下聯銀と略称す)制度及之に関聯する制度に関する件
聯銀を存続するを必要とする問は左の如く処置す
1、聯銀券の正貨準備率に関しては中央の認可を受く
発行額及準備金額は随時之を中央政府に報告し中央政府は随時又は常時人を派して検査す
2、聯銀券の行使区域は北支を以て限界とす
聯銀券と新法幣との免換等に関しては別に適当の処置を講ず
3、北支の為替統制は中央政府の政策に則り之を行ふものとす
(備考)
一、日本は支那の財政金融の自主権を尊重す
二、中央政府は聯銀制度の存続を必要とする期間中之を認む
三、通貨の動揺を生ずべき原因を醸成せざることに就き善処すること
二、華興商業銀行に関する件
華興商業銀行は継続して存在することゝす
新中央銀行成立し新法幣発行せらるゝに至らば華興商業銀行の発行権を取消し既発行券は之を回収すること
三、軍票に関する件
軍票に関しては日本側は必要以上の増発を避け其の価値の維持に努め之を以て日本より輸入する物資の決済に充当する等之が回収に関しては遺憾なき方法を講ず
回収以前の軍票と新法幣との流通面に於ける調節に就ては相互に充分考慮するものとす
其の三 経済関係事項
一、日支合弁国策会社の合弁目的を促進達成せしむる為其の事業に関し中央政府は適宜日本大使と協議し緊密なる連絡を保つものとす但し中央政府に属する右会社の行政監督権を尊重すること
又北支に於ける地方的処理事項に関しては中央政府の定むる範囲内に於て北支政務委員会は前記要領に準じ処理す
二、支那は対外貿易に関し統制を必要とする場合は自主的に之を行ふも日支新関係調整要綱第三経済提携に関する原則と抵触せざるべきこと
(註)以上支那側の要請に出づ。
其の四 交通関係事項
全支に於ける航空の発達、北支に於ける鉄道、日支間及支那沿岸に於ける主要海運、揚子汪に於ける水運及北支竝に揚子江下流に於ける通信は日支交通協力の重点とすること
之が為具体的方案左の如し
全支に於ける航空に就ては中国、欧亜及中華各航空会社の制度を参照して合弁とす
全支鉄道は国有国営とす但北支に関しては別に定むる所に拠る海(水)運は現事態に対し合理的調整を加ふ北支及揚子江下流に於ける通信に就ては日本は支那と協議し支那に援助乃至協力を与ふ
有線電報は国有国営とし事態之を許すに伴ひ調整す
(註)日本側の交通進出に対し、支那側は国有国営原則を以て応酬す。
其の五 揚子江下流地帯関係
一、日支両国は揚子江下流地帯特に上海に於ける貿易、金融、産業及交通等経済上の問題に就き協議をなし相互の提携を緊密ならしむ日支経済協議会(名称未定)は右工作を担当す
日支経済協議会は日支協定に基き官民練達堪能の士を以て組織す而して本会の決議事項は其の性質に鑑み中央政府又は上海特別市政府に於て採択し之を実行するものとす
日支経済協議会は議長を除き日支人同数とす議長は支那側とす
二、思想、教育、宣伝、文化事業及警察に関しては日支間緊密に連絡協力す 之が為上海特別市政府の社会局、教育局及警察局に日本人連絡専員を招聰す
三、特務工作に就ては日支当事者は絶えず緊密なる連絡を保ち且協力す
四、支那側は上海特別市の対外交渉に就ては絶えず日本側と緊密なる連絡を保ち且協力す
五、支那側は上海租界工部局内日本人参事会員及幹部職員の増加に関し協力す
六、上海特別市は其の新都市建設の為日本人の技術顧問及技術員を招聴す
七、日支合弁事業の分野竝に日支産業の生産及販路協定等経済協力に就ては日支経済協議会の意見を充分考慮し公正なる基礎に於て其の準則を定むるものとす
八、上海居留の日本人協議会(名称未定)を組織し市政府に対し日本人の居住営業に関する意見を具申し市政府は之に対し充分の考慮を払ふ
九、日本軍駐屯に伴ふ事項中上海に於ける地方的処理に就ては中央政府の定むる処に従ひ上海特別市政府之を処理す 其他の地域に在りては中央政府又は省政府に於て之を処理す
十、上海特別市の財源に就ては中央政府に於て充分考慮し建設に支障なからしむること
(備考)
日本は大阪市役所の社会局、教育局に支那人連絡専員を招聰す
(註)中支に対する日本側の進出気構と、支那側の警戒予防との交錯なり。中支経済進出の過望は、支那側の疑心暗鬼を発生ぜしむ。
其の六 日本人顧問、職員
一、支那中央政府は財政、経済、自然科学の各技術顧問を招聰することを得
北支政務委員会は経済技術顧問を、県政府以外の地方行政機関は自然科学技術顧問を招聰することを得
北支政務委員会には連絡専員を置く
上海特別市政府には社会局、警察局及教育局に連絡専員を置く
廈門特別市政府に於ては技術顧問中一名をして連絡専員を兼務せしむ
(備考)
一、連絡専員は其の服務機関と当該地方駐在の日本側機関との連絡任務に当り一般行政には参与せざるものとす
二、連絡専員は特に独立の機関を設けざること
三、連絡専員は簡任又は薦任とす
四、北支政務委員会連絡専員は八名を限度とす
五、北支政務委員会連絡専員は必要の場合所属の各省政府及各特別市政府に出張し服務することを得
二、支那最高軍事機関は軍事顧問を招聰することを得
其の職権は支那一般国防軍事の施設及日支防共軍事協力事項の立案を輔佐するにあり
日支防共軍事協力事項の立案を輔佐する顧問は最高軍事機関の派遣に依り防共軍事上必要ある地点に於て服務することを得第三国の軍事顧問は日支軍事協力事項に参与せしめず
三、支那軍隊及警察の教育機関は必要ある場合教授、教官を招跨することを得
其の職権は教授及訓練に限るものにして行政に参与せず
四、支那軍隊には外国人顧問、職員を招聴せず但し北支に於ける緩靖部隊は此の限りにあらず
五、支那警察には外国人顧問、職員を招聰せず但し北京、天津、青島、上海及厘門の各警察局に於ける日本人職員任用に就ては日支別に協議の上決定す
六、支那中央政府直属機関は必要ある場合日本人教授、教官、海関吏及専門技術官等を任用することを得
七、地方行政機関及其の所属機関には外国人職員を任用せず
但し北支政務委員会直属の重要経済建設機関、上海及厘門両特別市は必要ある場合中央関係法令に従ひ日本人専門技術官を任用することを得
八、前記各項の顧問の職権及服務規定は中央政府に於て秘密諒解事項(第六)同(第八)の関係各項に基き日支協議の上之を定む
九、前記各項の職員は総て支那一般行政法規の支配を受くるものとす
十、蒙古聯合自治政府は顧問職員の招聰に関し適宜の措置を為すことを得
但し政治顧問招聴に関しては中央政府に報告するものとす
(註)従来顧問制度の余弊及支那側の顧問防止観念より以上の如く発展せり.
其の七 主権尊重原則に関する回答
第一 政治
一、日支両国政府の協議に関する件
支那は中央政府に政治顧問を招聰することなく日本政府が支那に於て支那政府と協議を要する事項は支那駐在日本大使之に当る
支那は日支善隣結合関係を具現する為両国の協力事項に関し齪鶴遺漏なき様密に日本大使と連絡すること
二、日本軍と省政府、特別市政府、県政府、普通市政府等との協力に関する件
支那は対日本軍一般商議及渉外事項処理の為臨時的に各省政府及各特別市政府に交渉専員を又各県政府、各普通市政府に交渉秘書を置き日本軍は専任人員を指定し各々其の責に任ぜしむること日本軍は右諸政府と協力する場合には外交的手続を以てし命令式文書又は口頭通知を以てせざること但し事変継続中の已むを得ざる特殊事情に即する措置に就ては別に商議すること
三、各県宣撫班の解消に関する件
日支双方の努力に依り事態の鎮静に伴ひ中央政府成立後成るべく速に之を解消すること
第二 軍事
一、支那復帰軍隊の駐屯区域に関する件
中央政府に復帰する支那軍隊には之が便宜を考慮し日支協議の上其の駐屯の為地域を移譲すること
二、第三国人軍事専門家等招聰に関する件
支那が第三国人たる軍事専門家等を招跨する場合には日支協力の精神に鑑み日本と連絡すること
三、兵器製造工場に技師任用に関する件
必要ある場合日本人及第三国人の専門家を技師として任用することを得
但し第三国人の場合には第二項の趣旨に拠ること
技師の職権は技術方面に限り各工場の人事行政及経理には参加せざること
第三 経済
一、軍管理工場、鉱山及商店に関する件
目下日本軍に於て管理中の公営、私営の工場、鉱山及商店は占領又は没収せしものに非ず敵性あるもの竝に軍事上の必要等已むを得ざる特殊事情あるものゝ外財産保護の措置として管理したるものに対しては速かに日支新関係調整の原則に即し合理的方法に依り支那側に移管すること
其の細目に就ては日支別途具体的に協議すること
二、日支合弁事業の調整整理に関する件
日支合弁事業にして固有資産の評価適正を欠くもの在るに於ては日支間に委員を設け再評価せしめ善処すべきこと又不当と認めらるゝものあらば日支協議の上之を是正すること
三、合弁事業の出資割合に関する件
北支の国防上必要なる特定事業の日本側出資割合は百分の五十五を超過せざることゝし其の実行細目は日支別途協議すること
前項以外の合弁事業の日本側出資割合は100分の49を超過せざること但し合弁起業の際已むを得ざる事情ある場合には日支協議の上必要なる措置をなすものとす
蒙彊は適宜の措置をなすことを得
(備考)
第二項但書の場合の日本側出資割合は百分の五十とし支那側の出資金不足分は日本側より貸付の形式にて融通するものとす
四、既成政府の弁じたる事項に関する件
臨時維新両政府の弁じたる事項は一応中央政府に於て継承すべく若し日支新関係調整の原則に反するものあるに於ては再審査し日支協議の上調整整理すること
第四 財政
一、税収機関に関する件
日本は支那の財政の独立を尊重す
支那の各種税収機関に就き軍事上特異の状態を発生しあるものに関しては速に之を調整整理すること
二、中央政府成立以前に於ける上海海関収入及関税剰余に関する件
横浜正金銀行上海支店に保管しある上海海関の関税収入中より中央政府成立前に借款形式を以て融通すること
新中央銀行成立以前に於ける国税剰余に関しては前項の処理と共に融通に付充分考慮すること
以上の融通金額は勘くも4000万元とし尚別途協議す但し其の内成る可く多額を新中央銀行準備金の一部に充当し中央政府の政費は成る可く速に新法幣に依る如く努むること
三、中央政府成立後関税収入保管に関する件
横浜正金銀行は現在の儘関税預託銀行たるべきも中央政府の収入たるべき関税剰余の若干部分に付ては中央政府の指定する銀行に預託換へすること
新中央銀行成立せば関税剰余は之を移譲す 国庫代理設立せらるれば之に準じ別途協議すること
四、外債及賠償金の基金保管に関する件
横浜正金銀行に於て既往の協定及慣習に拠り之を保管すること
五、統税に関する件
北支に於ける統税に付ては別に定むる所に準拠すべきも其の他の各省の統税局は中央政府成立せば財政部之を接収し税収は国庫に納むること
六、塩税に関する件
中央政府成立せば塩務行政及塩税納税弁法に付事変中生じたる特殊事態は日支協議の上改訂せる事項を除き速に事変前の状態に恢復せらるべきこと
第五 其の他
一、長江開放に関する件
日本側としては之に関し充分考慮しあり
二、京滬鉄道通行証首都停車場等の検査に関する件
現地関係日支髪方責任者を定め速に協議を開始すること
(註)以上支那側の関心及警戒心を看取すべく、又日本側現地施策を反省すべし。
其の八 雑件
一、秘密諒解事項(第一)中第一の四の左記中eに関する件
1 日本軍駐屯に伴ふ事項に関する処理とは兵営、演習、移動、給養及軍需整備に関する事項なり
2 日支防共及治安協力に関する所要事項の処理とは警備、配置、相互救援、軍隊相互の連絡、情報交換及宣伝等に関する事項なり
3 其他日支軍事協力に関する処理とは顧問、職員の招膀採用、武器の供給及非常事変時の処置等に関する事項なり
二、支那軍隊及警察隊建設の為日本は日支協議に基き武器の供給をなすこと但し支那の自製及第三国よりの購入を防げず
三、支那は日本軍駐兵地域内に於ける軍隊、警察隊等武装団体の配置姓に軍事施設には相互協調の為慎重なる注意を払ふこと
四、秘密諒解事項(第六)に関する件
1 支那は日支新関係調整要綱に基く日本人顧問、職員を招聰採用することを日本に要請し日本は之に応ずるものとす
2 顧問の招聘は総て支那側の実際上の必要に基ぎ自発的に之を行ふものとす
3 顧問は一般行政に参与せず其の主要任務は所在機関主管長官の諮詞に備へ其専門的意見を提供するにあり
4顧問の職務上処理すべき事務は支那の法令及通常の慣例に従ひ当該主管長官の指揮及監督に服従すべきものとす
五、秘密諒解事項(第一)の第四廈門に関する件
1 慶門特別市の区域に関しては支那は日本側の希望を考慮するものとす
2 日支協力事項は概ね海南島に準ずること
六、秘密諒解事項(第一)第五海南島及附近の諸島嘆に関する件
1 海南島及附近諸島嘆に於ける軍事協力に関する事項とは共通の治安維持上必要とする問の駐屯配置、警備、軍事施設、教育訓練、移動及連絡、相互救援、給養、情報宣伝、武器軍需品供給、非常時変時の処置、顧問の招聰、軍機保護、其他協定せる事項等に関する事項なり
2 海南島及附近諸島喚に於ける経済提携に関する事項とは一部資源(主として護誤、麻、棉の如き農産資源)に関し日支経済提携の原則に準拠し日支協力して其の生産を計り支那の需要を考慮し日本に対し利用上の便宜を供与すること竝に国防資源(主として鉄、錫、銅の如き鉱産資源)に関し日支協力して開発し支那の需要を考慮し日本に対し利用上の特別の便宜を供与することを謂ふ
(註)以上支那側の警戒心より出づ。
第三節 機密諒解事項
其の一 防共駐兵地域
一、防共駐兵の実施は蒙駿の外正太鉄道以北の山西省、北部河北省及膠済鉄道沿線の地方とす但し艦船部隊に就ては別に協定す
二、防共駐兵期間は日支防共協定有敷期間とす
(備考)
前記膠済鉄道沿線中には済南及其隣接地区を除くものとす
(註)本項は支那側の重大関心事たり。軍中央作戦当局の硬直は事変処理上の癌をなせり。
其の二 北支鉄道問題
一、北支鉄道は国有国営とし京山鉄道(支線京古鉄道を含む)京包鉄道及膠済鉄道は中央政府主管部と北支政務委員会とより成る北支鉄道管理委員会(名称未定)之が管理経営に当り之を華北交通会社に委託経営せしむ 委託経営の年限は二十年とす
華北交通会社は日支合弁、支那法人とし其の資本割当等は日支協力原則に基き所要の調整をなす
二、華北交通会社は受託鉄道の収支状態を北支鉄道管理委員会に報告し其の監督を受く
華北交通会社は受託鉄道より生ずる利益金より所要の社内留保及配当等を控除せる剰余を先づ借款元利支払に充当し更に剰余ある場合は之を政府に上納す
三、国営鉄道と委託経営鉄道とは協議の上相互通車をなし以て運輸の円滑を図る
四、国営鉄道たる北支各鉄道に対する日本竝に華北交通会社の投資及融資は担保附借款の形式に改む
五、華北交通会社の経営する以外の北支各鉄道管理局は別に協議する処に従ひ職員中に日本人を採用すること
六、各鉄道の管理局の職員には成る可く華北交通会社の日本人現在員を採用し以て人心の動揺を防ぐこと
七、軍事若くは資源開発の為必要なる鉄道の建設及改良は日本人より成る鉄道建設委員会(名称未定)に於て議決し北支鉄道管理委員会之を採択すること
但し中央政府の計画に基く新鉄道建設は此の限りにあらざるも前項の建設改良計画との摩擦を避くるものとす
八、軍事輸送及物資輸送を適正円滑ならしむる為日本人より成る運輸連絡委員会(名称未定)を設置すること同蒲(大同-蒲州)、正太(石家荘-太原)及滄石(滄州-石家荘)(予定)各鉄道の連絡に関しては特に右委員会内に特別委員会を設置すること
委員会の議決事項は関係機関に於て之を採用すること
九、前各号の経営方式の実行に就ては日支間に細目協定を締結すること
(備考)
第五項に基き当分の間職員中に採用する日本人左の如し
一、同蒲及正太各鉄道管理局
1 運輸主任、会計主任(日支人併用)及会計補助者各一名とし会計主任の任用は該鉄道に対する借款の存在する期間とす
2 運輸及工務人員各約三名
二、津浦及京漢各鉄道管理局
運輸、工務及会計人員各約三名
(註)本項亦支那側の重大関心事たり。日本側の鉄道慾求は支那側に甚大なる悪印象を与へたり。長日論議の末本案となる。
其の三 南支沿岸関係
支那海の交通路を維持し其の安全を確保することは日支両国共通の利益なることを認むるに依り日支両国は互に軍事上の協力をなす為
一、日本は前記目的達成に必要なる中国の軍事施設蚊に中国海軍の建設に協力すること
二、別に協定する地点島嗅に於ける日本の軍事施設に関しては別に日支専門委員会を設置し之が管理又は使用等具体的事項に付協議の上定むること、
三、前項措置の如何に拘らず中国は日支両国又は其の敦れかの一方国が第三国より戦争又は国際的事変の脅威を受け若くは之と交戦状態に入る場合日本の要請する時機に於て前諸項の軍事施設を支障なく日本の作戦用途に使用又は維持せしめ得る為必要なる措置を執ること
四、日支夫々の軍事施設は日支別に協議する所に基き相互に使用し得ること
五、目本は前諸項地方に於て別に協定する期間其の艦船部隊を維持し得ること
(註)海軍独自強引の抜駈案なり。
第四節 中央諒解の取付
其の一 陸軍中央関係
以上本章第一節乃至第三節は、今夏以来迂余曲折を経たる日支新関係調整に関する協議書類の全貌なり。昭和15(1940)年正月早々影佐少将等梅機関は、之を携行して上京し中央の承認を求む。総軍よりは、之を支持するの態度を明示するため特に板垣総参謀長右に同行す。
1940年1月5日省部会議開催、富氷作戦部長及渡辺交通部長等依然として権益強硬論を吐き、左の如き意見を提出し、次長大臣等亦之を是認するのみ。
今や中央には大乗道義論影を没したる感あり。
一、機密諒解事項(防共駐兵地域)は、之を絶対に発表、説明せざるのみならず、未だ決定しあらざるものゝ如く装ふ。
二、日支新関係調整要項の説明に方りては、具体原則中
第二の二――北支の一定地域云々は必要と定めたる地域と解す。
第四の一――平和克復後撤兵云々は帝国の自主的見地に基きて実施すべきを明かにす。
治安確立と共には、治安確立後の意味なり。
三、交通関係の取扱に関しては、軍務課案に同意なるも、特に興亜院会議に於ける説明等に方りても、日本軍の運用補給通信を自主的に確保する為国営移管の時機に就ては軍の要求に応ぜしむるの必要を力説し置くこと。
其の二 政府関係
次で翌1月6日中央政権樹立に関聯する対処要綱として、興亜院会議の決定せる所左の如し。
梅機関の対汪工作の現況に鑑み、左記諒解の下に諸工作を促進するものとす
一、昭和14(1939)年12月30日梅機関汪精衛間に内約せる事項(即ち日支新関係調整に関する協議書類に示す事項)は昭和14(1939)年12月8日興亜院会議決定「中央政府樹立工作に関する申合せ」の趣旨に基き一応之を諒承し中央政府を樹立せしむること
二、新中央政府を相手とする正式国交調整交渉開始の時期竝に国交調整条件は該政府の発育及内外の情勢を見極めたる上追て之を決定すること
三、我が戦時経済確立の為必要なる経済建設は新中央政府と正式に国交調整条件の妥結せらるゝ迄は概ね既定方針に基き急速に之を促進するも戦時経済関係薄き事項就中日支新関係調整要綱の主旨に反するが如き施策に付ては之が調整に努むること
四、汪側をして日本側に協力し速に重慶屈伏に其努力を指向せしむること
五、梅機関と汪精衛間の内約事項(即ち「日支新関係調整に関する協議書類」)を発表するに当りては内外に及ぼす影響を考慮し支那側とも協議め上適宜善処すること
六、新中央政府に対する指導機構は別途研究の上之を定むること
七、梅機関と涯精衛間の内約事項「日支新関係調整に関する協議書類」の秘(機)密取扱に関しては別紙第一に依ること
備考
閣議に対しては興亜院総裁より右協議書類の要旨を適宜説明し其の諒解を求むるものとす
別紙第一「日支新関係調整に関する協議書類」の秘(機)密取扱に関する件
12月30日梅機関に於て汪側との問に交渉成立せる「日支新関係調整に関する協議書類」は軍事、外交及経済等の諸点より之を秘密扱し更に其の一部は機密扱するを必要とするを以て之が取扱に関しては左記各号を厳守するものとす
〔左記〕
一、該協議書類全部の複写を厳禁すること
二、該協議書類別冊(機密諒解事項)を機密扱とする外左の分をも機密扱となすこと
(1) 「日支新関係調整に関する旦ハ体原則」中第二の二(防共駐屯地域の件)
(2) 「日支新関係調整に関する具体原則」中第四の一(撤兵の件)
(3) 秘密諒解事項(第二)(金融財政関係)
(4) 秘密諒解事項(第四)(交通関係)
(5) 秘密諒解事項(第七)中第三の三(合弁事業の出資割合に関する件)
三、今後の事務処理上必要ある場合け前項の機密扱事項を除きたるものを必要最少限に印刷すること
四、閣議説明案は別に適宜作成すること
