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夫、堂本光太郎(こうたろう)が死に、妾の子の剛が正式に跡目を継いだ時、光太郎の正妻、光一の母親、堂本冴子(さえこ)は狂ってしまった。
元々強気な性格なのだが、弱い所がある女性で、それが一気に爆発した。
『お前さえ、お前さえ居なければーーー!!』
『姐さん?!・・若!!』
『やめてー母さん!』
『放しや光一!あの子さえ、あの子さえ居らんかったら!!』
『落ち着いて母さん!お願いやから落ち着いて!!』
その瞬間だった。
冴子が持ってた刃が冴子自身の胸に刺さったのは・・・
『う、わぁああああ・・・・!!』
『こう!!』
『あ・・あ・・・』
『なん・・で?・・なん・・・で?・・こう・・い・・』
『かあ・・さん・・』
『姐さん!姐さんしっかり!!』
『う・・う・・・ああああーー!!』
『しっかりしろ光!・・・お前の責いやない・・お前の責いやないから!』
『つよ・・・僕・・かあ・・さん・・を・・・』
『ちゃう!お前の責いやない!お前は悪くない!・・・俺が悪いんや・・』
『光は悪うない!』
ガチャ
地下室の扉が開く音が聞こえると光一はハッとした。
「ミャ~」
リョウは愛らしい鳴き声を上げながら、入ってきた人間の方に歩く。
「リョウ。・・ええ子にしてたか?」
入って来た人間はひょいっとリョウを抱くと、光一に近寄った。
「・・つよ・・し?」
光一は声だけで入って来た人間を当てる。
「ああ・・・」
名前を呼ばれると剛はクスッと笑って、リョウを下に下ろして、光一の頬に手を伸ばした。
ひんやりした手に頬を撫でられて光一はゾクッと体に寒気が走った。
そうじゃなくても地下室には暖房器具がないから冷える。
「もう・・パーティ終ったん?」
「いや・・まだ皆ホテルに居る」
「え?・・」
「抜け出して来たんや」
そう言うと剛は唇を近づけてそっと光一の唇を奪った。
「んっ・・・ふ・・」
光一は避けたいのに避ける事が出来ない。
唇を離すと剛はボソッと呟いた。
「なんでやろ?・・・なんで俺は・・こんな事が出来るんやろうな?」
「え?・・・」
「なんでもない・・・それより、約束のプレゼントや」
そう言うと剛は光一の目を覆っていた布を解いた。シュルっ・・と。
「?!」
光一は吃驚した。二日ぶりに見る明るい世界だ。なんだか電気の光が目に染みる・・。
「どうや?・・・やっぱええやろ?見えるって・・」
「・・・うん」
光一はコクンと頷く。その瞳から涙が零れる。その涙を見ると剛の胸は痛んだ。
しかし
「光一」
剛は光一の名前を優しく呼んだ。
「?」
光一は剛の方に視線を向けた。
その瞬間
その瞳に映ったのは長い針だった。
「こーちゃん」
「う?・・」
チキンを頬張りながら光一は後ろを振り返った。その耳には銀のピアスが光っている。
「若・・しらないか?」
「ふう?!」
光一はキョロキョロと辺りを見回した。するとさっきまで近くに居た剛の存在が見当たらなくて・・
「ど・何処に行ったんだあいつ?!」
チキンを口から出して、逆に正に問い返す光一だった。
「つよ・・し?」
光一は目の前に迫ってくる針と剛の顔を交互に見つめる。
「覚悟はええか?」
「・・え?・・・」
やっぱりそうなんだ・・と光一は思う。やっぱり・・
「僕の目を潰すの?」
剛は無言で頷く。こうするより道はない。亮二を殺った奴を只で許すわけにはいかない。
「・・やっぱ・・そっか・・」
光一は小さな声で呟くと諦めた様に目を伏せた。
しかし
「やるなら早くしろよ」
すぐに目を開けて剛の顔を見つめた。覚悟が決まってる目やな・・と剛は思う。
出来るなら本当にこんな事はしたくなかった!
助けてやりたかった・・・
でも
「すまんな・・こう・・」
こうするより道はもうない!
「お前が・・腕が良すぎるからあかんのやぞ?・・」
せやからあんな叔父に利用されるんや!・・・
「つよ・・」
「お前は・・大人しく本でも読んどったら良かったんや!・・・親父はお前の事をほんまに大切にしてたのに・・・!」
「・・・・」
「誘うんや・・なかった・・」
光一に銃を習う事を勧めたのは他ならぬ剛だ。幼い剛だ・・
『こうおにいちゃんもいっしょにしようよーなんでおにいちゃんはしないの?』
『え?・・・』
『光一も・・するか?』
『あ・・・はい!おとうさん』
『そうか・・・習いたいか・・』
『はい、ぼくもならいたいです!』
『そうか・・分かった』
『やったぁ~!おにいちゃんもきょうからいっしょや~♪』
それから光一は剛と共に父親から銃を習いだした。しかし光一には元からその素質があったのだろう。
見る見るうちに上達していき、弱冠13歳にして堂本組一のスナイパーになってしまった。
13歳の頃には狙撃において光一の右に出る者は誰も居なくなった。
「ほんまに・・計算外やった・・って親父よう言うてたで?」
「・・・・・・」
「お前親父に言われたよな?・・・その力は守る為に使えと・・堂本組と自分の身を守る為だけに使えと!」
「・・ごめん・・」
「・・・・・」
剛は光一の顎をぐいっと掴んだ。
「家を出る時に・・この事も条件に含めとけば良かったな?」
「・・・・・」
「そうすれば・・・・・出来へんかったやろ?」
「・・・・・」
「きっと・・断ってた筈や。そうやろ光?」
剛は光一の顔を覗き込んだ。光一はじっと剛の瞳を見つめる。
「最期に・・見たい景色はあるか?」
「ない」
もう・・見えてるから・・
瞳の中に剛の顔を映して光一はふわっと微笑んだ。
「そうか・・」
剛は改めて光一の顎を掴み直した。
そして
一気に刺し貫いた。
「え?!・・・・・」
光一は吃驚した。正の言った言葉を聞いて・・・
なんだっ・・・て?!
今二人は正の運転する車で家に急行している。
「だから・・こーちゃんから一言若に言ってやって欲しい。一言「許す」と!」
俺の父さんを殺ったのは・・・あの・・光一?
「そうじゃないときっと若は・・!」
「ほんとに?」
「頼むこーちゃん!若を助けられるのはこーちゃんしかいねぇ!」
「ほんとにほんとにあの光一?」
「ああ・・だから頼む!許してやって欲しい!」
「・・・・・・」
嘘だろ?嘘だろ?と光一は思う。信じられない。
あんなに綺麗な奴が・・・父さんを殺したなんて・・
「そうじゃないと若は絶対光一様に何かする!皆に示しがつかねぇと思って・・・ご自分で絶対何かする!」
「・・・・・・」
「こーちゃん、憎い気持ちは分かる!けれどそこを曲げて頼む!お二人を許してやってくれねぇか?」
「・・・・・・」
「こーちゃんが一言「許す」と言えば、絶対若も思い止まって下さる!」
「・・・正さん・・」
光一は正の顔を見つめた。正は前を気にしながら深く頷く。
許すって・・・
俺はもうとっくの昔に許してるのに・・
確かに初めは凄く憎かったけど・・剛の人柄を知って行く内に・・・
こいつは父さんを殺したくて殺したんじゃないんだなーって分かって・・
「・・剛の馬鹿野郎・・」
光一はボソッと呟いた。
「こ・こーちゃん?」
「なんで一言俺に相談してくれねーんだよ!!一緒に寝てたのに!!」
「こーちゃん?」
「なんで・・・」
光一の目から涙が零れた。
何故か分からないけど、悔しくて・・
「明日の朝になったら許してやる。それまでここで辛抱しとけ」
「・・ん」
元通り布を光一の目に巻いてやると、剛は言った。
「ミャ~」
その足下にリョウがやってくる。
「今・・治療したら・・ひょっとしたら治るかもしれん・・」
「分かってる・・・僕はこのままでええよ」
「・・・後の事は心配せんでええ。・・・俺が一生面倒みてやる」
「!・・うん・・・ありがと・・」
「・・俺の事・・恨んどるか?」
「・・・いいや・・」
光一は静かに首を横に振った。それはこっちの台詞だ・・
「そっか・・・ちょっと安心したわ」
ボソッと呟くと剛は光一に背中を向けた。その目には涙が光っている。
「剛」
「ん?」
部屋から出て行こうとする剛を光一が呼び止める。
そして
「好き」
初めて口にした。瞬間剛は吃驚した。思わず我が耳を疑ってしまう。
「え?・・・・」
なに?
「僕・・今までお前の事ずっと「大嫌い」言うて来たけど・・・ほんまは・・」
光?
「好き・・やったんや・・ずっと・・」
!!
「・・・・・・・・」
剛は吃驚の余り何も返せない。
「あ、せやけど安心しろや?・・・兄弟としてやから・・」
光一はキュッと唇を噛んだ。無意識に唇が震える。
初めて口に出来た本当の思い。
もう半分は墓場まで持って行こうと思う・・
「せやから・・僕は・・お前を恨んだりせーへん。・・だから安し・」
光一の言葉は途中で途切れた。剛に唇を奪われて・・
「んっ・・ふ?」
「ほんまに?ほんまなんか光!?」
「え?・・」
「俺の事ほんまに好きなんか!?」
「う・・ん」
光一はコクンと頷く。それを見ると剛の顔は満面の笑みに変わった。
なんだ・・そうだったのか・・
剛は思う。
俺はこの言葉を聞き出したかっただけなんや・・・
なんで光にだけ冷たく当たってしまうのか・・
今漸く心の謎が解けた。
嬉しい、ほんまに嬉しい!!
剛はギュッと光一の体を抱きしめた。
これからは優しく出来ると思う。いや優しくしてやりたい。今までの罪滅ぼしも含めて・・・
「こう・・・俺もす・」
その時だった。
いきなり「ドタドタドタドタ!!」と天井から人の足音が聞こえてきて
「「剛!早まるな!若!早まらないで下さい!」」
光一達が現れたのは・・・。
「ひゃはは、ごめんなーラブシーン邪魔しちゃって」
「いや・・それはええけど・・・聞いたんか?」
今剛と光一は剛の部屋のベランダから一緒に夜空を眺めている。
「うん・・全部正さんから聞いた・・・全く水臭いよな~剛は」
「・・すまん」
「別に良いけど・・・でもまさかあの光一が・・」
「光に代わって謝る。・・・ほんまにすまんかった」
剛は深々と光一に向かって頭を下げた。光一はクスッと微笑む。
「別にいいよ、もう・・・俺は恨んでないから・・」
「・・光一?」
「実を言うとね、お前が子猫の名前に「リョウ」を挙げた時から、許してたんだ・・」
「・・・・」
「こいつは・・父さんを殺したくて殺したんじゃないんだな~って気づいて・・・」
「光一・・」
「リョウは“亮二”のリョウだろ?」
「ああ・・」
「でもあんたが意地になって言うから・・気づかない振りしてた。・・本当は結構辛かったんだぜ?」
光一は剛に向かってにっこり微笑んだ。その笑顔に釣られた様に剛の顔も笑顔になる。
「そうか・・」
「うん。でももうこれで嘘付かなくていいな・・」
「光一」
「ん?」
「好きやで」
「!?・・・」
突然の剛の言葉に光一は思わず息を飲んだ。
「へ?・・・」
「せやけど・・・光の方が好きみたいやねん・・」
「!・・・・・」
「・・ごめんな?」
光一はクスッと微笑む。いきなり何言いやがるんだか・・・
「バーカ。・・んなの初めっから分かってるよ!・・俺を舐めんな!」
「んふふ・・そうか?」
「ああ・・」
だってあんたはいつも俺を通してあいつを見てたじゃないか・・・
「ハァーなんか冷えてきたな?・・もう中に入ろうぜ?」
「あ?ああ・・そうやな」
先に部屋の中に入る光一の姿を黙って見送りながら剛は心の中でひっそりと呟いた。
ありがとう、光一
それから一週間後
トントン。
小気味よいノックの音が光一の部屋の中に響き渡る。
「はい」
剛は手を止めて椅子から立ち上がり、ドアを開けた。光一もその方角を見つめる。
「お邪魔しまーす」
入って来たのは光一だった。お盆に三人分のケーキセットを載せて
「二人とも三時のおやつだぜ~」
「もうそんな時間か?」
光一に手を貸して椅子から立たせると、剛はそのまま手を引いてテーブルの所まで連れてきた。そして自分の隣に座らせる。
光一は手際よく、光一の分のケーキを食べやすいように一口大に切ってやり、光一の前に置いた。
「いっただきまーす!美味そう~」
光一は勢いよくぱくんとケーキを食べる。
「ほら、口開けろ」
「ええよ、・・自分で食える」
前からそんなラブラブな会話が聞こえて来たけど、光一はもう慣れっこなので、気にせずケーキを口に運ぶ。
「どう?点字進んでる?」
「ああ・・この分やったら来学期から、盲学科に編入出来そうや」
実は青嵐学園は目が見えない生徒もちゃんと通える学科があったりする。
「へぇ~すげぇじゃん。良かったね~光一」
「ありがとう、荒木君」
「俺の教え方がええからな~」
「ふふっ・・そうやな」
「俺に感謝せぇよ」
「はいはい」
光一はにっこり微笑んだ。ああ、やっぱり綺麗だなーと光一は思う。
なんだか笑顔が光って見える。
幸せなんだ・・
「俺で出来る事があればなんでも協力するから気軽に言ってね、光一v」
「うん、荒木君。ありがとう」
「お前も点字勉強するか?」
「え?・・お邪魔なんじゃな~い?」
「あーほ何ゆうてんねん」
「ふふっ、そうだよ」
「へへっ」
光一は屈託なく笑った。
その笑顔に釣られるように剛も光一の顔も笑顔になっていた。
元々強気な性格なのだが、弱い所がある女性で、それが一気に爆発した。
『お前さえ、お前さえ居なければーーー!!』
『姐さん?!・・若!!』
『やめてー母さん!』
『放しや光一!あの子さえ、あの子さえ居らんかったら!!』
『落ち着いて母さん!お願いやから落ち着いて!!』
その瞬間だった。
冴子が持ってた刃が冴子自身の胸に刺さったのは・・・
『う、わぁああああ・・・・!!』
『こう!!』
『あ・・あ・・・』
『なん・・で?・・なん・・・で?・・こう・・い・・』
『かあ・・さん・・』
『姐さん!姐さんしっかり!!』
『う・・う・・・ああああーー!!』
『しっかりしろ光!・・・お前の責いやない・・お前の責いやないから!』
『つよ・・・僕・・かあ・・さん・・を・・・』
『ちゃう!お前の責いやない!お前は悪くない!・・・俺が悪いんや・・』
『光は悪うない!』
ガチャ
地下室の扉が開く音が聞こえると光一はハッとした。
「ミャ~」
リョウは愛らしい鳴き声を上げながら、入ってきた人間の方に歩く。
「リョウ。・・ええ子にしてたか?」
入って来た人間はひょいっとリョウを抱くと、光一に近寄った。
「・・つよ・・し?」
光一は声だけで入って来た人間を当てる。
「ああ・・・」
名前を呼ばれると剛はクスッと笑って、リョウを下に下ろして、光一の頬に手を伸ばした。
ひんやりした手に頬を撫でられて光一はゾクッと体に寒気が走った。
そうじゃなくても地下室には暖房器具がないから冷える。
「もう・・パーティ終ったん?」
「いや・・まだ皆ホテルに居る」
「え?・・」
「抜け出して来たんや」
そう言うと剛は唇を近づけてそっと光一の唇を奪った。
「んっ・・・ふ・・」
光一は避けたいのに避ける事が出来ない。
唇を離すと剛はボソッと呟いた。
「なんでやろ?・・・なんで俺は・・こんな事が出来るんやろうな?」
「え?・・・」
「なんでもない・・・それより、約束のプレゼントや」
そう言うと剛は光一の目を覆っていた布を解いた。シュルっ・・と。
「?!」
光一は吃驚した。二日ぶりに見る明るい世界だ。なんだか電気の光が目に染みる・・。
「どうや?・・・やっぱええやろ?見えるって・・」
「・・・うん」
光一はコクンと頷く。その瞳から涙が零れる。その涙を見ると剛の胸は痛んだ。
しかし
「光一」
剛は光一の名前を優しく呼んだ。
「?」
光一は剛の方に視線を向けた。
その瞬間
その瞳に映ったのは長い針だった。
「こーちゃん」
「う?・・」
チキンを頬張りながら光一は後ろを振り返った。その耳には銀のピアスが光っている。
「若・・しらないか?」
「ふう?!」
光一はキョロキョロと辺りを見回した。するとさっきまで近くに居た剛の存在が見当たらなくて・・
「ど・何処に行ったんだあいつ?!」
チキンを口から出して、逆に正に問い返す光一だった。
「つよ・・し?」
光一は目の前に迫ってくる針と剛の顔を交互に見つめる。
「覚悟はええか?」
「・・え?・・・」
やっぱりそうなんだ・・と光一は思う。やっぱり・・
「僕の目を潰すの?」
剛は無言で頷く。こうするより道はない。亮二を殺った奴を只で許すわけにはいかない。
「・・やっぱ・・そっか・・」
光一は小さな声で呟くと諦めた様に目を伏せた。
しかし
「やるなら早くしろよ」
すぐに目を開けて剛の顔を見つめた。覚悟が決まってる目やな・・と剛は思う。
出来るなら本当にこんな事はしたくなかった!
助けてやりたかった・・・
でも
「すまんな・・こう・・」
こうするより道はもうない!
「お前が・・腕が良すぎるからあかんのやぞ?・・」
せやからあんな叔父に利用されるんや!・・・
「つよ・・」
「お前は・・大人しく本でも読んどったら良かったんや!・・・親父はお前の事をほんまに大切にしてたのに・・・!」
「・・・・」
「誘うんや・・なかった・・」
光一に銃を習う事を勧めたのは他ならぬ剛だ。幼い剛だ・・
『こうおにいちゃんもいっしょにしようよーなんでおにいちゃんはしないの?』
『え?・・・』
『光一も・・するか?』
『あ・・・はい!おとうさん』
『そうか・・・習いたいか・・』
『はい、ぼくもならいたいです!』
『そうか・・分かった』
『やったぁ~!おにいちゃんもきょうからいっしょや~♪』
それから光一は剛と共に父親から銃を習いだした。しかし光一には元からその素質があったのだろう。
見る見るうちに上達していき、弱冠13歳にして堂本組一のスナイパーになってしまった。
13歳の頃には狙撃において光一の右に出る者は誰も居なくなった。
「ほんまに・・計算外やった・・って親父よう言うてたで?」
「・・・・・・」
「お前親父に言われたよな?・・・その力は守る為に使えと・・堂本組と自分の身を守る為だけに使えと!」
「・・ごめん・・」
「・・・・・」
剛は光一の顎をぐいっと掴んだ。
「家を出る時に・・この事も条件に含めとけば良かったな?」
「・・・・・」
「そうすれば・・・・・出来へんかったやろ?」
「・・・・・」
「きっと・・断ってた筈や。そうやろ光?」
剛は光一の顔を覗き込んだ。光一はじっと剛の瞳を見つめる。
「最期に・・見たい景色はあるか?」
「ない」
もう・・見えてるから・・
瞳の中に剛の顔を映して光一はふわっと微笑んだ。
「そうか・・」
剛は改めて光一の顎を掴み直した。
そして
一気に刺し貫いた。
「え?!・・・・・」
光一は吃驚した。正の言った言葉を聞いて・・・
なんだっ・・・て?!
今二人は正の運転する車で家に急行している。
「だから・・こーちゃんから一言若に言ってやって欲しい。一言「許す」と!」
俺の父さんを殺ったのは・・・あの・・光一?
「そうじゃないときっと若は・・!」
「ほんとに?」
「頼むこーちゃん!若を助けられるのはこーちゃんしかいねぇ!」
「ほんとにほんとにあの光一?」
「ああ・・だから頼む!許してやって欲しい!」
「・・・・・・」
嘘だろ?嘘だろ?と光一は思う。信じられない。
あんなに綺麗な奴が・・・父さんを殺したなんて・・
「そうじゃないと若は絶対光一様に何かする!皆に示しがつかねぇと思って・・・ご自分で絶対何かする!」
「・・・・・・」
「こーちゃん、憎い気持ちは分かる!けれどそこを曲げて頼む!お二人を許してやってくれねぇか?」
「・・・・・・」
「こーちゃんが一言「許す」と言えば、絶対若も思い止まって下さる!」
「・・・正さん・・」
光一は正の顔を見つめた。正は前を気にしながら深く頷く。
許すって・・・
俺はもうとっくの昔に許してるのに・・
確かに初めは凄く憎かったけど・・剛の人柄を知って行く内に・・・
こいつは父さんを殺したくて殺したんじゃないんだなーって分かって・・
「・・剛の馬鹿野郎・・」
光一はボソッと呟いた。
「こ・こーちゃん?」
「なんで一言俺に相談してくれねーんだよ!!一緒に寝てたのに!!」
「こーちゃん?」
「なんで・・・」
光一の目から涙が零れた。
何故か分からないけど、悔しくて・・
「明日の朝になったら許してやる。それまでここで辛抱しとけ」
「・・ん」
元通り布を光一の目に巻いてやると、剛は言った。
「ミャ~」
その足下にリョウがやってくる。
「今・・治療したら・・ひょっとしたら治るかもしれん・・」
「分かってる・・・僕はこのままでええよ」
「・・・後の事は心配せんでええ。・・・俺が一生面倒みてやる」
「!・・うん・・・ありがと・・」
「・・俺の事・・恨んどるか?」
「・・・いいや・・」
光一は静かに首を横に振った。それはこっちの台詞だ・・
「そっか・・・ちょっと安心したわ」
ボソッと呟くと剛は光一に背中を向けた。その目には涙が光っている。
「剛」
「ん?」
部屋から出て行こうとする剛を光一が呼び止める。
そして
「好き」
初めて口にした。瞬間剛は吃驚した。思わず我が耳を疑ってしまう。
「え?・・・・」
なに?
「僕・・今までお前の事ずっと「大嫌い」言うて来たけど・・・ほんまは・・」
光?
「好き・・やったんや・・ずっと・・」
!!
「・・・・・・・・」
剛は吃驚の余り何も返せない。
「あ、せやけど安心しろや?・・・兄弟としてやから・・」
光一はキュッと唇を噛んだ。無意識に唇が震える。
初めて口に出来た本当の思い。
もう半分は墓場まで持って行こうと思う・・
「せやから・・僕は・・お前を恨んだりせーへん。・・だから安し・」
光一の言葉は途中で途切れた。剛に唇を奪われて・・
「んっ・・ふ?」
「ほんまに?ほんまなんか光!?」
「え?・・」
「俺の事ほんまに好きなんか!?」
「う・・ん」
光一はコクンと頷く。それを見ると剛の顔は満面の笑みに変わった。
なんだ・・そうだったのか・・
剛は思う。
俺はこの言葉を聞き出したかっただけなんや・・・
なんで光にだけ冷たく当たってしまうのか・・
今漸く心の謎が解けた。
嬉しい、ほんまに嬉しい!!
剛はギュッと光一の体を抱きしめた。
これからは優しく出来ると思う。いや優しくしてやりたい。今までの罪滅ぼしも含めて・・・
「こう・・・俺もす・」
その時だった。
いきなり「ドタドタドタドタ!!」と天井から人の足音が聞こえてきて
「「剛!早まるな!若!早まらないで下さい!」」
光一達が現れたのは・・・。
「ひゃはは、ごめんなーラブシーン邪魔しちゃって」
「いや・・それはええけど・・・聞いたんか?」
今剛と光一は剛の部屋のベランダから一緒に夜空を眺めている。
「うん・・全部正さんから聞いた・・・全く水臭いよな~剛は」
「・・すまん」
「別に良いけど・・・でもまさかあの光一が・・」
「光に代わって謝る。・・・ほんまにすまんかった」
剛は深々と光一に向かって頭を下げた。光一はクスッと微笑む。
「別にいいよ、もう・・・俺は恨んでないから・・」
「・・光一?」
「実を言うとね、お前が子猫の名前に「リョウ」を挙げた時から、許してたんだ・・」
「・・・・」
「こいつは・・父さんを殺したくて殺したんじゃないんだな~って気づいて・・・」
「光一・・」
「リョウは“亮二”のリョウだろ?」
「ああ・・」
「でもあんたが意地になって言うから・・気づかない振りしてた。・・本当は結構辛かったんだぜ?」
光一は剛に向かってにっこり微笑んだ。その笑顔に釣られた様に剛の顔も笑顔になる。
「そうか・・」
「うん。でももうこれで嘘付かなくていいな・・」
「光一」
「ん?」
「好きやで」
「!?・・・」
突然の剛の言葉に光一は思わず息を飲んだ。
「へ?・・・」
「せやけど・・・光の方が好きみたいやねん・・」
「!・・・・・」
「・・ごめんな?」
光一はクスッと微笑む。いきなり何言いやがるんだか・・・
「バーカ。・・んなの初めっから分かってるよ!・・俺を舐めんな!」
「んふふ・・そうか?」
「ああ・・」
だってあんたはいつも俺を通してあいつを見てたじゃないか・・・
「ハァーなんか冷えてきたな?・・もう中に入ろうぜ?」
「あ?ああ・・そうやな」
先に部屋の中に入る光一の姿を黙って見送りながら剛は心の中でひっそりと呟いた。
ありがとう、光一
それから一週間後
トントン。
小気味よいノックの音が光一の部屋の中に響き渡る。
「はい」
剛は手を止めて椅子から立ち上がり、ドアを開けた。光一もその方角を見つめる。
「お邪魔しまーす」
入って来たのは光一だった。お盆に三人分のケーキセットを載せて
「二人とも三時のおやつだぜ~」
「もうそんな時間か?」
光一に手を貸して椅子から立たせると、剛はそのまま手を引いてテーブルの所まで連れてきた。そして自分の隣に座らせる。
光一は手際よく、光一の分のケーキを食べやすいように一口大に切ってやり、光一の前に置いた。
「いっただきまーす!美味そう~」
光一は勢いよくぱくんとケーキを食べる。
「ほら、口開けろ」
「ええよ、・・自分で食える」
前からそんなラブラブな会話が聞こえて来たけど、光一はもう慣れっこなので、気にせずケーキを口に運ぶ。
「どう?点字進んでる?」
「ああ・・この分やったら来学期から、盲学科に編入出来そうや」
実は青嵐学園は目が見えない生徒もちゃんと通える学科があったりする。
「へぇ~すげぇじゃん。良かったね~光一」
「ありがとう、荒木君」
「俺の教え方がええからな~」
「ふふっ・・そうやな」
「俺に感謝せぇよ」
「はいはい」
光一はにっこり微笑んだ。ああ、やっぱり綺麗だなーと光一は思う。
なんだか笑顔が光って見える。
幸せなんだ・・
「俺で出来る事があればなんでも協力するから気軽に言ってね、光一v」
「うん、荒木君。ありがとう」
「お前も点字勉強するか?」
「え?・・お邪魔なんじゃな~い?」
「あーほ何ゆうてんねん」
「ふふっ、そうだよ」
「へへっ」
光一は屈託なく笑った。
その笑顔に釣られるように剛も光一の顔も笑顔になっていた。