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◆14◆◇ 嘘みたいな話やけど、翌朝起きると武ちゃんからこんなメールが来ていた。 『自信を無くしました。暫く旅に出ます。探さないで下さい。 昇』 マネジャー“また”失踪だ。。。 「光一!こーいち!」 大声で名前を呼びながら剛はドンドンと光一の部屋のドアを叩いた。 のんびりなんて寝て居られない。一大事だ。 なのに 「こいちーーーーーぃ!!!」 光一は一向に出てこない。剛がどんなに叫んでも出てこない。 もしかして昨夜帰ってなかったか? と剛はふと思ったが、確か・・会った。 ものすっーーーごい不機嫌な顔でリビングに入って来た。 お陰で「おかえり」を言い損ねた。 あんな不機嫌な面、何年振りかに見た。 とっても怖かったな~・・・ と剛が昨夜の光一を思い出していたその時 突然家の電話が鳴った。 「も~なんやねん?!」 ブツブツ文句を零しながらも剛はリビングに走って行くと電話を取った。 すると相手は 「今すぐに事務所に来なさい。ユーも光一も」 社長だった。しかも凄く怒ってる様子だ。 「はい・・ジャニさん」 これからの事を思うと剛は胃が痛くなってきた。 ◇◇◇◇◇ 「光ちゃん!光一さん!堂本光一~~!・・オラ!さっさと出てこんかい!!居るのは分かっとるんやぞー!!!」 腹の底から大声を上げて、剛は力尽きて壁に凭れて肩で息をした。 あれから何度も呼んでるのに全然出て来ない。 早く事務所に行かんとあかんのに! なのに光一は出てこない。部屋からウンともスンとも反応が返ってこない。 まさか! 剛は青ざめた。 ・・俺ならまだしもあの光一に限って“それ”はないと思うけど・・・ “それ”を考えると剛の心臓はドクンドクンと速さを増して来た。なんだか息も苦しく・・ ヤバイ! 慌てて頭を振ってその考えを頭の中から追い出すと剛は体を起こしてドアノブに手をかけた。 ドクン。 心臓が跳ねる 今まで一度も入った事がない部屋。聖域のような部屋。 俺にとってのボーダーライン・・・・ ・・・・・。 よし!と気合いを入れると剛は力強くドアノブを回して開けた。 そして光一の部屋に一歩足を踏み入れた。 その瞬間 「さむっ!」 思わず剛は叫んでいた。急に体に寒気が走った。 一体ここは何度やねん?!と思う。 まるで南極に来たような気分だ。と言っても一度も行った事はないが! 兎に角この部屋は寒すぎる。 クーラーが効き過ぎてる! と思うと勝手に体が動き出していた。 まず窓に走って掛かっている分厚い遮光カーテンをえいっと開けると外の日差しを部屋の中に取り込んだ。 そして次にクーラーのリモコンを探してベットの下から拾い上げるとぴっとストップを押して止めた。 で、最後に窓も全開した。 フルオープンだ。 そこで漸く剛はホッと落ち着いて部屋の中を見渡した。 その時 「てっ!」 背後から何かが頭に飛んできた。拾って見るといつぞやのわんこのぬいぐるみだった。 なんや・・やっぱりこいつの部屋にあったんか~ 振り返って剛は投げてきた奴を見つめた。 奴は不機嫌な顔でベットの上で胡座を掻いている。しかも全裸でだ。 「お前・・起きとるんやったらさっさと出て来んかいコラ!」 剛は腹が立って来て光一に向かってぬいぐるみを投げつけた。 ひょっとして自殺でもしてるんじゃないかと心配した自分がアホらしい! 「投げんなアホ!」 ・・って先に投げて来たのはどっちやねん?! 投げ返されたぬいぐるみを大切そうに抱きしめると光一は鋭い眼差しを剛に向けた。 剛はムカっ!~と来る。 「一体俺が何遍呼んだと思っとるんや?!・・お前には耳が付いてないんか!?」 「いたっ!」 光一の側に近づくと剛は光一の左耳を思いっきり上に引っ張ってやった。 このまま泣かしてやろうか?と思う。 この巫山戯た野郎を・・・。 「放せっ!痛いっ!」 「そりゃ痛いやろ・・引っ張っとるんやから・・」 時々だけど。本当に時々だけど。 こいつを見てるとサドスティックな気持ちになる事がある。 思いっきり泣かせてみたい。叫ばしたい。 俺の自分勝手な欲求・・ 「剛痛い!」 「ほんならごめんって言え。“狸寝入りしてごめんなさい”って、言いなさい光ちゃん」 後半から父親のような優しい口調で言うと幾分力を緩めて耳を掴んだまま剛は光一の顎も掴んだ。 光一は涙目で剛を睨んでいる。 「ちゃんと聞こえとったんやろ?なのに君は僕の声を無視した。・・この場合どっちが悪いんや?」 「・・・・・・・・」 「謝る事が出来ない悪い子はお仕置きするけど・・・ええんか?」 「勝手にしろや」 「!・・・」 剛の目が鋭く光った。 その時 又しても家の電話が鳴った。 しかし剛はそれを無視すると光一の体を押し倒して上に覆い被さった。 そして 「誘ったのはお前や」 そう言うと光一の唇を手で塞いで、弱い耳を責め始めた。 光一はギュッと目を瞑った。 まるで処女のように体を強張らせて目を瞑っている光一を見ると剛は意地悪く笑って心中で呟いた。 お前が男を知っとるのは知ってるんやで・・俺は・・ なのに今までアホみたいに手を出さなかったのは、やっぱり先に心が欲しかったから。 光一も同じように俺の事が好きなのか・・ 愛してくれてるのか・・・ 確かめてから抱きたかったからや! 剛の目から涙が零れた。 なんで俺は好きな人を強姦してるんやろう? なんでこいつは抵抗せんのやろう? そんな考えが行為の最中ずっと剛の頭の中をグルグル駆け廻っていた・・・ 行為が終ると 「男も出来る奴やったなんて・・知らんかったな・・」 シーツに顔を伏せたまま光一はポツリと呟いた。その声は心なしか震えていた・・。 ドキッ。 剛は心臓をえぐり取られるような思いだった。 強烈な後悔の気持ちが心の中に押し寄せて来た。 なのに 「お前こそ・・・よかったみたいやん」 口から出たのは皮肉な言葉だった。 光一に謝る事も光一に告白する事も出来ない。 意気地がない俺・・。 「・・そうやな・・確かに・・よかったな」 そう言うと光一はムクッと顔を上げて起き上がり平然と剛を振り返って微笑んだ。 その目には何の感情の変化もない。 いつも通りの目で光一は剛を見つめていた。 「先にシャワー使ってええ?」 「へ?・・ああ・・うん」 だから剛は拍子抜けしてしまった。こんなもんやったんか?と思う。 こんな事なら長い間我慢せんでさっさと体だけでも頂いとったら・・ とふと思ったが、それは違うやろ俺!と思う。 俺が本当に欲しかったのは体やない・・心や! 「・・他になんかないんかお前?」 着替えを持って部屋から出て行こうとする光一の背中に剛は静かに問いかけた。 頼むからお前の感情を教えてくれ! しかし光一は立ち止まると 「・・別に。やって今の・・“お仕置き”なんやろ?」 そう言って微笑を浮かべて静かに部屋から出て行った。 アホ!!仕置きなんかで男が抱けるか~~!! と瞬間、剛は憤慨したが、まぁいいか・・と思う。 そう思われていた方が いい・・。 「っ・・・」 浴室に入ると光一は平然さを解いてシャワーを浴びながら泣いた。 ずっと堪えていた涙。 まさか最後までやられるなんて思わなかった。挑発したのは俺だけど・・ やっぱり好きな人でも気持ちのない行為は辛い物でしかなかった・・。 長瀬の時とは違う。 あまりに違う。 やってる事は同じなのに、こんなにも違う! 「くそ・・っ・!」 バン!と浴室の壁に両手を付くと光一はシャワーの温度を冷水に変えて頭から浴びた。 自分の醜い欲望を洗い流すかのように・・ 剛に謝罪するかのように・・ ごめん剛。 だけど嬉しかったよ。抱いてくれてありがとう お陰で目が覚めた どうやら俺はお前相手やったら“見返りのない愛”でもええみたいや。 その方がええみたい・・ もう俺と同じ気持ちをお前に望む事は止める。 今のままでええよ。 俺はどんなお前でも好きやから・・ 愛してる剛。 このままずっと一緒に歩いて行こう お前に望む事はもうそれだけ・・ ◇◇◇◇◇ 「ユー達は一体何を考えてるんだ!?一体何度!武石を失踪させたら気が済むんだ!!」 バン!と机を叩く音が社長室に響いた。 何度って・・まだ三回目やん・・。 心の中で剛は突っ込んだ。 二人は今、漸く事務所に来て、社長ことジャニさんからお叱りを受けていた。 あの後タクシーを飛ばして来たのだ。 「そんな事僕らに言われても~勝手に・」 「黙りなさい!原因はユー達以外何がある?他に原因が有るというのなら言ってみなさい!」 「・・・」 剛は押し黙った。確かにジャニさんの言う通りだ。原因は俺達以外無い。 武ちゃんに失踪癖がある事をしっかり忘れとったな~・・。 剛を庇うように光一は一歩前に出ると社長に向かって深々と頭を下げた。 「すみませんでしたジャニさん。俺達も負担にならないように気をつけてはいたんですが、気が付かない所で心労を掛けてしまってたようです。本当に申し訳ありませんでした」 「申し訳ありませんでした!」 渋々剛も光一と一緒になって頭を下げた。 社長は深~く溜息をつく。 「全く・・ユー達には困ったものだ。他の子達は上手くいってるのに・・一体今まで何人のマネジャーを心労で辞めさせた?・・答えてみなさい光一!」 「え~・・・20人ですか?」 「“21”人だ!」 ・・あんまり変わらへんやん。 剛は心の中で突っ込む。 「全く・・デビューしてたった6年で21人もの人間が辞めている!これは一体どういう事だ?!」 「さぁ~?・・どういう事なんでしょう?」 「僕らのスケジュールがきつ過ぎるんじゃ?」 「馬鹿者ぉ!!」 社長の大きな怒鳴り声が二人の鼓膜を揺らした。 二人は同時に顔を顰める。 「それで・・武石さんが居ない間はどうしたら?」 恐る恐る光一は社長に訊ねた。 すると社長から帰って来たのはとんでもない言葉だった。 「ユーが責任を取って武石の代わりを務めなさい!」 ・・・・・・・・・へ?! 一瞬光一は何を言われたのか分からなかった。 ◇◇◇◇◇ 「おい光一!待て、待てって!」 先をさっさと歩いて行く光一を剛は必死になって呼び止める。 しかし光一の足は止まらない。どんどん先を歩いて行ってしまう。 走れば難なく追いつくだろうけど、今の剛はそんな簡単な事さえ思いつかない程、気が動転していた。 「なんであっさり引き受けたんや?!マネージャーなんか!嫌やって云えば良かったやん!お前が責任を取る必要は何処にもないんやぞー!?」 事務所の長い廊下に剛の声が虚しく響いた。 光一の姿はもう見えない。角の会議室に入ってしまった。 マネージャーとしてのノウハウを今からみっちり叩き込まれる為に・・。 「くそ・・!」 剛の目から涙が零れた。自分が情けなくて・・。 いつもいつも光一に迷惑ばかりかけてしまう自分が情けない。 本当は守りたいと思ってるのにいつも守られてしまう。 あいつは強いから、僕よりも強いから・・・そう思ってつい甘えてしまう・・。 本当は我慢強いだけで、心は誰よりも繊細なのを知ってるのに・・。 『分かりました。俺が責任を取って武石さんが戻って来るまでの間、KinKiKidsのマネージャーを努めます』 どんな気持ちで云ったんや・・お前・・ 「まずはこれを一時間で頭に叩き込みなさい。大変だと思うが、ユーなら大丈夫だろう」 社長は国語辞典ぐらいの厚さの本を光一に渡した。 光一はそれを両手で受け取るとペラッペラッと捲った。 そして 「基本的な事ですね。・・これぐらいなら30分もあれば覚えられます」 そう云うと机に着いてそれを黙読し出した。その目は真剣だ。 その姿を見ながら社長は思う。 惜しいな~と。 光一の頭は只のアイドルにしとくのは勿体ない。 ・・いい機会だ 「ユーさえ良かったら・・もっと裏の事も学んで見るかい?」 「ジャニさんうるさい」 ・・性格は可愛くないがな・・・。 つれない光一の返事を聞くと社長は少し凹んだ。 そんなに怒らなくてもいいじゃないかと思う。 私だって別に憎くて云ったんじゃないんだから・・ 「怒ってるのかい?」 「・・今覚えてます」 「恨むなら・・武石を恨めよ!」 「俺は誰も恨みません。与えられた事をするだけです」 「しかし今回ユーは・・いやユー達は私に逆らったじゃないか!」 例の「新曲」について云ってるのだ。案外根に持ってるジャニさんだった。 「・・・あいつがそれを望んだからです」 「では、あの子が望まなかったら?」 「素直に書き直しましたよ。・・ジャニさんが気に入るように・・」 「成る程・・。ユーは私よりもあの子の方が大切という訳か?」 「・・・そう言う事になりますね。そんな風に育てたのは、貴方ですよ」 光一は顔を上げて社長と目を合わすとにっこり微笑んだ。 いつもいつも剛の代わりに叱られていた。あいつが悪くても俺が呼び出されて・・。 その度に俺はあいつを守る事を教えられた。 「ははは、これは・・育て方を間違えたかな?」 「今頃後悔しても遅いですv」 それが嫌じゃなくなったのはいつだっただろ? 光一は昔を振り返る。 あいつの代わりなら叱られても良いと思い出したのは・・ あいつを痛い目に遭わすぐらいなら、俺が代わってやると思い出したのは・・・ “僕は光ちゃんが僕の事嫌いでも、僕は好きやから!・・せやから僕は絶対光ちゃんの敵にならん!ずっと味方や!信じてやぁー!” ・・そうだ。 うん、あの時からや・・ そう心の中で呟くと光一は微笑を浮かべた。 その瞳は何処までも優しく穏やかだった・・ Page: [ 1] [ 2] [3] [ 4]

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「ワンv」 ケンシロウがタッタと尻尾を振って玄関にやって来た。 ご主人様がなかなか上がって来ないから心配になったらしい。 「ははは、・・ごめんケンちゃん」 ケンシロウの姿を見ると剛は苦笑いしてよっこらしょと立ち上がり靴を脱いで玄関から上がった。そしてケンシロウを抱き上げるとリビングに歩いた。 「光ちゃんは、今夜は長ちゃんとデートやでvせやからケンちゃんは、パパと一緒に大人しくお留守番しとこうな~」 剛の少し寂しそうな甘ったるい声が家の中に虚しく響いていた。 ◇◇◇◇◇ 「あいつの方が昔は優等生やったで、ほんで俺は劣等生で、その上態度が悪かった」 光一はグラスを傾けながらMステでの剛の話題を出して来た智也に云った。 智也は首を傾げる。 「そうだったっけ??」 「そう。・・でもあいつは一度もそんな俺を叱った事はなかった。いつも優しい言葉を掛けてくれてたわ・・」 「なんか・・信じられねぇな~・・・そんなにお前態度悪かった?」 「うん。本番中でも喧嘩吹っ掛けてたからなv」 「マジ?!」 ふふっと照れ臭そうに笑うと光一は伏目がちに言葉を続ける。 「今思うと、・・きっと寂しかったんやろうな~・・剛が急に相手にしてくれんようになったから・・大人みたいに嘘つくようになったから・・」 KinKiKidsという名前を貰ってからは二人の間から「喧嘩」の二文字は消えた。剛が相手にしなくなったのだ。 急に仲良しを演じるようになった。自分達に求められているイメージ通りに光一と接するようになった。 「嘘?」 「まぁ・・建前と同じようなもんなんやけど・・な。・・あいつの方が先に大人になってしもうたんや・・」 「・・・」 「やからそれがきっと悔しく、歯痒くて、・・・当時の俺は寂しかったんやろうな~・・」 光一はカランとグラスを傾けた。グラスの中で氷が踊る。 “俺はお前が嫌いや” “僕は光ちゃんの事好きや” 「だから俺も早う大人にならんとと思ったけど、なかなか慣れんでな・・・ほんで剛に八つ当たってばかりやった・・」 “お前よくあんな事出来たな?気色悪くないの?” “なんで?別に気色悪くないよ?相手は光ちゃんやん” “俺は気持ち悪い!あんな事もう二度としてくるな!” “君もプロやろ?いい加減割り切ったら?僕らに求められているイメージは・” “五月蝿い!俺はお前なんかと仲良うしたくない!お前も嘘なんかつくなっ!!” “嘘やないって何遍云うたら分かってくれるんやろうな~・・光ちゃんは~・・” 光一の脳裏に向日葵の様に笑っていた剛の笑顔が蘇る。 理不尽な怒りをぶつけても自分を温かく包んでくれていた。 あの優しくて何処までも穏やかだった、温かい笑顔。 忘れる事が出来ない・・・ 「だけどあいつはいつも笑ってた。・・・ガキやった俺を、笑って許してくれてたよ」 「・・・」 長瀬はゴクッと酒を飲んだ。こんな話聞いたのは初めてだ。 光一は手元のグラスを見つめるとボソッと呟く。 「なのに俺は酷い事を云った」 「え?」 ご免。なんて云ったんだ?聞き取れなかった・・ 「あいつから笑う事を・・許す事を教わったのに!・・俺はっ・・!」 「!?」 智也はドキッとした。光一の目が涙で光っている。 綺麗なアーモンドアイが涙で揺れている・・・ 「本当になんでやろうな?・・なんでいつまでもっ!」 自分が歯痒くて無意識にドンとテーブルを叩くと光一はその手でグシャッグシャッと頭を掻きむしった。 顔が苦渋の色で染まっている・・。 「光一・・」 「本当は傷つけたくなんかなかった!・・・あんな酷い事云いたくなかった!・・そやけど・・あいつ・がっ・!」 『俺はお前を・・“精神の弱い可哀想な奴”だなんて思いたくない。・・そんな風に見たくない』 『俺の相方はそんな弱くない!そんな奴であって堪るかっ!!』 良かれと思って云った言葉でも後で考えてみると後悔してしまう言葉がある。 ・・あいつの本当の苦しみなんて俺に分かる筈ないのに!勝手に決めつけて! 俺はあいつを傷つけた 「光一・・・」 頭を抱えてしまった光一の肩に智也はそっと手を置いた。 何を言ったのか知らないけどそんなに苦しむ必要はないと思う。 「分かるよ光一。あんな態度取られたら俺だったらその場で殴ってるかもしれないもん」 本当に可哀想だったな・・・と智也は振り返る。今夜のMステは。 偶然家に居て光一が出るから見たけど、本当に可哀想だった。 辛辣な言葉を笑顔で交わして、隣の無愛想な剛を一生懸命守って、自分達のイメージが悪くならないように、笑顔を最後まで絶やさずに喋っていた。 何も喋ろうとしない剛の代わりに・・一生懸命に・・。 ・・見ていて凄く痛々しかった・・ 「光一は優しいよ。本当に優しいよ!・・つよちゃんだって光一は優しい!って絶対思ってると思うよ!」 もし思ってなかったら俺がぶん殴ってやる。 「・・おっちゃん」 光一は顔を上げるとギュッと長瀬の肩に腕を回して抱きついた。 何故か昔からこいつにだけは素直に甘えられる・・気を使わないで居られる・・・ なんでやろう? 光一は心の中でそっと呟く。 ・・やっぱ親友やからかな? 「ありがと・・」 「・・ほら、・涙拭けよ」 優しく微笑むと智也は光一の目から零れた涙をそっと指で拭ってやった。 愛しい光一。 大切な光一・・ 「もう泣くなよ」 嫉妬心を抑えて優しい声で囁くと智也は光一の肩に腕を回してふっくらとした唇にそっと口付けた。 光一は拒む事無く素直に目を伏せてそれを受け入れていた。 ◇◇◇ 「今夜ホテルに泊まる?」 唇を離すと智也は冗談ぽく云った。それに光一は笑って答える。 「ひゃはは、バーカ。お前今彼女居るやろ」 「フリーだって云ったら?」 「え?・・もう別れたん?!」 「・・光一声が大きい」 「あ、ご免」 慌てて光一は片手で口を押えた。二人はこれでも芸能人だ。 何処にゴシップ記者が居るか分からない。 幾らココが穴場で、地下にあると云っても・・。 「ふふっ、おかわりどうですか?」 その時今まで黙って二人の会話に耳を傾けていたマスターが口を開いた。 上品な涼やかな声だ。 「あ、・・じゃ貰おうかな。光一お前は?」 「うん、じゃ・・もう一杯だけ」 「畏まりました」 「俺ちょっとトイレ行って来るね」 「おお・・」 トイレに立つ智也の背中を見送って、光一はマスターに視線を向けた。 「すみません、変な話聞かせちゃって・・」 「いいえ。でも珍しいですね、堂本さんが愚痴を零すなんて・・」 「愚痴・・だったんですかね?」 「私はそう思いましたが?」 「・・だったらそうなんでしょうね~・・俺自分でもよく分からないから・・」 「ははっ」とから笑いすると光一はばつが悪そうに頭を掻いた。 マスターは優しい目で光一を見つめる。 「お相手の方の事をとても愛していらっしゃるんですね」 「そう・・思ってたんですけどね。・・・なんかよく分からなくなりました」 「・・と言うと?」 手を止めてマスターは光一を見つめた。光一は苦笑する。 「今日俺・・“憎まれて良い”って思ったんですよ」 「!」 「普通本当に愛してたらそんな事思いませんよね・・故意に傷つけたりしないでしょ?」 「・・それは・・時に寄るかと思いますけど」 「え?・・そうなんですか?!」 光一は吃驚してマスターを見上げた。 マスターは光一から視線を逸らしてカウンターの一番角に座っている男に視線を向けると静かな声で云った。 「見返りを求めずに他人を愛せる方は素晴らしい人だと私は思います・・」 見返りを求めずに・・他人を愛せる・・ スラスラと自分と差ほど年が変わらない様に見えるマスターの口から出て来た言葉に光一はドキッとした。 マスターは光一に視線を戻すと涼しげな目元を優しげに細めた。 「堂本さんはきっと・・お相手の方には、自分と同じように愛して欲しいなんて思ってないんじゃないですか?」 「いいえ。・・出来れば・・思いが伝われば良いなと思ってます・・」 「それでも相手の方を思って、傷つける言葉を云ってしまったんですね・・・ひょっとして我を失って?」 「いいえ!怒りを静めてから考えて・・」 それだけはもう二度と繰り返したくないから・・。 「憎まれる事を承知で、傷つける言葉を云ったんですね?」 「はい・・」 だから俺は怖かった。本当は怖くて堪らなかった。 今まで築いてきたものを自分で壊すようなもんだったから・・・ 剛が謝ってくれるまで、俺は本当は怖くて堪らなかった・・。 「じゃ大丈夫ですよ。きっとお相手にも貴男の心は伝わってると思いますよv」 「!」 あっけらかんと云ったマスターの言葉に光一はドキッとしてマスターを見つめた。 本当にそうなんやろうか?俺の思いは剛に伝わってる? マスターは涼しげな目元を細めてにっこり微笑むと云った。 「もし伝わってなかったら、そんな人忘れてお終いなさい。・・貴男が愛する価値もない人間です」 「!・・」 思わず光一はギロッとマスターを睨み付けた。 その時 「あ~すっきりした~」 智也が脳天気にトイレから戻ってきた。 光一はハッと我に返るとマスターから視線を逸らして智也に向けた。 マスターはそれぞれ好みの酒をグラスに注ぐと二人の前に置いた。 「どうぞ。おかわりです」 「あ、どうも~♪」 上機嫌でグラスを取ると智也はゴクゴクと飲んだ。 一方隣の光一は 「・・どうも」 不機嫌なんだけどそんな心を顔に出さずにグラスを取ると一気に飲み干した。 そして 「先に帰るわ。マスターご馳走様」 そう云うと代金をテーブルの上に置いてさっさと店から出て行った。 「おい?どうしたんだよ?!」 突然店から出て行ってしまった光一に訳が分からず吃驚しながらも 智也も慌てて財布を取り出すとテーブルの上に代金を置いて店から飛び出して行った。 ・・少し私情が入ったな・・ 二人が居なくなった後、カウンターから出て、テーブルの上に置いてあるお金を集めて手の中に握りしめるとマスターは苦笑いしながら心の中で呟いた。 その時 「今のはお前が悪いな~蓮(れん)。もう彼奴ら来ないかもしれないぜ?」 カウンターの一番角に座っていた男がニヤニヤ笑いながらマスターに近寄ってきて、その肩に腕を回しながら耳元で囁いた。 マスターは振り返ってギロッと男を睨み付ける。 「・・誰の責いだと思ってる?」 「おや?・・俺の責いだって云うのか?」 「・・自分の胸に聞いてみろ」 つれなく云うと、顎を掴もうとする男の手を金を持ってない方の手で叩き落として、マスターはカウンターの中に戻って行った。 「お~いてぇ~」 男は手をフリフリ今夜もつれない恋人に甘えるような視線を投げていた。

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夫、堂本光太郎(こうたろう)が死に、妾の子の剛が正式に跡目を継いだ時、光太郎の正妻、光一の母親、堂本冴子(さえこ)は狂ってしまった。


元々強気な性格なのだが、弱い所がある女性で、それが一気に爆発した。



『お前さえ、お前さえ居なければーーー!!』



『姐さん?!・・若!!』



『やめてー母さん!』



『放しや光一!あの子さえ、あの子さえ居らんかったら!!』



『落ち着いて母さん!お願いやから落ち着いて!!』



その瞬間だった。



冴子が持ってた刃が冴子自身の胸に刺さったのは・・・



『う、わぁああああ・・・・!!』



『こう!!』



『あ・・あ・・・』



『なん・・で?・・なん・・・で?・・こう・・い・・』



『かあ・・さん・・』



『姐さん!姐さんしっかり!!』



『う・・う・・・ああああーー!!』



『しっかりしろ光!・・・お前の責いやない・・お前の責いやないから!』



『つよ・・・僕・・かあ・・さん・・を・・・』



『ちゃう!お前の責いやない!お前は悪くない!・・・俺が悪いんや・・』




『光は悪うない!』





ガチャ




地下室の扉が開く音が聞こえると光一はハッとした。




「ミャ~」



リョウは愛らしい鳴き声を上げながら、入ってきた人間の方に歩く。



「リョウ。・・ええ子にしてたか?」



入って来た人間はひょいっとリョウを抱くと、光一に近寄った。



「・・つよ・・し?」



光一は声だけで入って来た人間を当てる。



「ああ・・・」



名前を呼ばれると剛はクスッと笑って、リョウを下に下ろして、光一の頬に手を伸ばした。


ひんやりした手に頬を撫でられて光一はゾクッと体に寒気が走った。


そうじゃなくても地下室には暖房器具がないから冷える。



「もう・・パーティ終ったん?」


「いや・・まだ皆ホテルに居る」


「え?・・」


「抜け出して来たんや」



そう言うと剛は唇を近づけてそっと光一の唇を奪った。



「んっ・・・ふ・・」



光一は避けたいのに避ける事が出来ない。


唇を離すと剛はボソッと呟いた。



「なんでやろ?・・・なんで俺は・・こんな事が出来るんやろうな?」


「え?・・・」


「なんでもない・・・それより、約束のプレゼントや」



そう言うと剛は光一の目を覆っていた布を解いた。シュルっ・・と。



「?!」



光一は吃驚した。二日ぶりに見る明るい世界だ。なんだか電気の光が目に染みる・・。



「どうや?・・・やっぱええやろ?見えるって・・」


「・・・うん」



光一はコクンと頷く。その瞳から涙が零れる。その涙を見ると剛の胸は痛んだ。


しかし



「光一」



剛は光一の名前を優しく呼んだ。



「?」



光一は剛の方に視線を向けた。



その瞬間



その瞳に映ったのは長い針だった。








「こーちゃん」


「う?・・」



チキンを頬張りながら光一は後ろを振り返った。その耳には銀のピアスが光っている。



「若・・しらないか?」


「ふう?!」



光一はキョロキョロと辺りを見回した。するとさっきまで近くに居た剛の存在が見当たらなくて・・



「ど・何処に行ったんだあいつ?!」



チキンを口から出して、逆に正に問い返す光一だった。







「つよ・・し?」



光一は目の前に迫ってくる針と剛の顔を交互に見つめる。



「覚悟はええか?」


「・・え?・・・」



やっぱりそうなんだ・・と光一は思う。やっぱり・・



「僕の目を潰すの?」



剛は無言で頷く。こうするより道はない。亮二を殺った奴を只で許すわけにはいかない。



「・・やっぱ・・そっか・・」



光一は小さな声で呟くと諦めた様に目を伏せた。


しかし



「やるなら早くしろよ」



すぐに目を開けて剛の顔を見つめた。覚悟が決まってる目やな・・と剛は思う。


出来るなら本当にこんな事はしたくなかった!


助けてやりたかった・・・


でも



「すまんな・・こう・・」



こうするより道はもうない!



「お前が・・腕が良すぎるからあかんのやぞ?・・」



せやからあんな叔父に利用されるんや!・・・



「つよ・・」



「お前は・・大人しく本でも読んどったら良かったんや!・・・親父はお前の事をほんまに大切にしてたのに・・・!」



「・・・・」



「誘うんや・・なかった・・」




光一に銃を習う事を勧めたのは他ならぬ剛だ。幼い剛だ・・




『こうおにいちゃんもいっしょにしようよーなんでおにいちゃんはしないの?』



『え?・・・』



『光一も・・するか?』



『あ・・・はい!おとうさん』



『そうか・・・習いたいか・・』



『はい、ぼくもならいたいです!』



『そうか・・分かった』



『やったぁ~!おにいちゃんもきょうからいっしょや~♪』




それから光一は剛と共に父親から銃を習いだした。しかし光一には元からその素質があったのだろう。


見る見るうちに上達していき、弱冠13歳にして堂本組一のスナイパーになってしまった。


13歳の頃には狙撃において光一の右に出る者は誰も居なくなった。




「ほんまに・・計算外やった・・って親父よう言うてたで?」



「・・・・・・」



「お前親父に言われたよな?・・・その力は守る為に使えと・・堂本組と自分の身を守る為だけに使えと!」



「・・ごめん・・」



「・・・・・」




剛は光一の顎をぐいっと掴んだ。



「家を出る時に・・この事も条件に含めとけば良かったな?」



「・・・・・」



「そうすれば・・・・・出来へんかったやろ?」



「・・・・・」



「きっと・・断ってた筈や。そうやろ光?」



剛は光一の顔を覗き込んだ。光一はじっと剛の瞳を見つめる。



「最期に・・見たい景色はあるか?」



「ない」



もう・・見えてるから・・



瞳の中に剛の顔を映して光一はふわっと微笑んだ。



「そうか・・」



剛は改めて光一の顎を掴み直した。


そして





一気に刺し貫いた。














「え?!・・・・・」



光一は吃驚した。正の言った言葉を聞いて・・・



なんだっ・・・て?!



今二人は正の運転する車で家に急行している。



「だから・・こーちゃんから一言若に言ってやって欲しい。一言「許す」と!」



俺の父さんを殺ったのは・・・あの・・光一?



「そうじゃないときっと若は・・!」


「ほんとに?」


「頼むこーちゃん!若を助けられるのはこーちゃんしかいねぇ!」


「ほんとにほんとにあの光一?」


「ああ・・だから頼む!許してやって欲しい!」


「・・・・・・」



嘘だろ?嘘だろ?と光一は思う。信じられない。



あんなに綺麗な奴が・・・父さんを殺したなんて・・



「そうじゃないと若は絶対光一様に何かする!皆に示しがつかねぇと思って・・・ご自分で絶対何かする!」


「・・・・・・」


「こーちゃん、憎い気持ちは分かる!けれどそこを曲げて頼む!お二人を許してやってくれねぇか?」


「・・・・・・」


「こーちゃんが一言「許す」と言えば、絶対若も思い止まって下さる!」


「・・・正さん・・」



光一は正の顔を見つめた。正は前を気にしながら深く頷く。



許すって・・・



俺はもうとっくの昔に許してるのに・・



確かに初めは凄く憎かったけど・・剛の人柄を知って行く内に・・・



こいつは父さんを殺したくて殺したんじゃないんだなーって分かって・・



「・・剛の馬鹿野郎・・」



光一はボソッと呟いた。



「こ・こーちゃん?」


「なんで一言俺に相談してくれねーんだよ!!一緒に寝てたのに!!」


「こーちゃん?」


「なんで・・・」



光一の目から涙が零れた。



何故か分からないけど、悔しくて・・







「明日の朝になったら許してやる。それまでここで辛抱しとけ」


「・・ん」



元通り布を光一の目に巻いてやると、剛は言った。



「ミャ~」



その足下にリョウがやってくる。



「今・・治療したら・・ひょっとしたら治るかもしれん・・」



「分かってる・・・僕はこのままでええよ」



「・・・後の事は心配せんでええ。・・・俺が一生面倒みてやる」



「!・・うん・・・ありがと・・」



「・・俺の事・・恨んどるか?」



「・・・いいや・・」



光一は静かに首を横に振った。それはこっちの台詞だ・・



「そっか・・・ちょっと安心したわ」



ボソッと呟くと剛は光一に背中を向けた。その目には涙が光っている。



「剛」


「ん?」



部屋から出て行こうとする剛を光一が呼び止める。


そして




「好き」




初めて口にした。瞬間剛は吃驚した。思わず我が耳を疑ってしまう。



「え?・・・・」



なに?



「僕・・今までお前の事ずっと「大嫌い」言うて来たけど・・・ほんまは・・」



光?



「好き・・やったんや・・ずっと・・」



!!



「・・・・・・・・」



剛は吃驚の余り何も返せない。



「あ、せやけど安心しろや?・・・兄弟としてやから・・」



光一はキュッと唇を噛んだ。無意識に唇が震える。



初めて口に出来た本当の思い。



もう半分は墓場まで持って行こうと思う・・



「せやから・・僕は・・お前を恨んだりせーへん。・・だから安し・」



光一の言葉は途中で途切れた。剛に唇を奪われて・・



「んっ・・ふ?」


「ほんまに?ほんまなんか光!?」


「え?・・」


「俺の事ほんまに好きなんか!?」


「う・・ん」



光一はコクンと頷く。それを見ると剛の顔は満面の笑みに変わった。



なんだ・・そうだったのか・・



剛は思う。



俺はこの言葉を聞き出したかっただけなんや・・・



なんで光にだけ冷たく当たってしまうのか・・



今漸く心の謎が解けた。



嬉しい、ほんまに嬉しい!!



剛はギュッと光一の体を抱きしめた。



これからは優しく出来ると思う。いや優しくしてやりたい。今までの罪滅ぼしも含めて・・・



「こう・・・俺もす・」



その時だった。



いきなり「ドタドタドタドタ!!」と天井から人の足音が聞こえてきて




「「剛!早まるな!若!早まらないで下さい!」」




光一達が現れたのは・・・。











「ひゃはは、ごめんなーラブシーン邪魔しちゃって」



「いや・・それはええけど・・・聞いたんか?」



今剛と光一は剛の部屋のベランダから一緒に夜空を眺めている。



「うん・・全部正さんから聞いた・・・全く水臭いよな~剛は」



「・・すまん」



「別に良いけど・・・でもまさかあの光一が・・」



「光に代わって謝る。・・・ほんまにすまんかった」



剛は深々と光一に向かって頭を下げた。光一はクスッと微笑む。



「別にいいよ、もう・・・俺は恨んでないから・・」



「・・光一?」



「実を言うとね、お前が子猫の名前に「リョウ」を挙げた時から、許してたんだ・・」



「・・・・」



「こいつは・・父さんを殺したくて殺したんじゃないんだな~って気づいて・・・」



「光一・・」



「リョウは“亮二”のリョウだろ?」



「ああ・・」



「でもあんたが意地になって言うから・・気づかない振りしてた。・・本当は結構辛かったんだぜ?」



光一は剛に向かってにっこり微笑んだ。その笑顔に釣られた様に剛の顔も笑顔になる。



「そうか・・」



「うん。でももうこれで嘘付かなくていいな・・」



「光一」



「ん?」



「好きやで」



「!?・・・」



突然の剛の言葉に光一は思わず息を飲んだ。



「へ?・・・」



「せやけど・・・光の方が好きみたいやねん・・」



「!・・・・・」



「・・ごめんな?」



光一はクスッと微笑む。いきなり何言いやがるんだか・・・



「バーカ。・・んなの初めっから分かってるよ!・・俺を舐めんな!」



「んふふ・・そうか?」



「ああ・・」




だってあんたはいつも俺を通してあいつを見てたじゃないか・・・




「ハァーなんか冷えてきたな?・・もう中に入ろうぜ?」



「あ?ああ・・そうやな」



先に部屋の中に入る光一の姿を黙って見送りながら剛は心の中でひっそりと呟いた。




ありがとう、光一











それから一週間後





トントン。




小気味よいノックの音が光一の部屋の中に響き渡る。




「はい」



剛は手を止めて椅子から立ち上がり、ドアを開けた。光一もその方角を見つめる。



「お邪魔しまーす」



入って来たのは光一だった。お盆に三人分のケーキセットを載せて



「二人とも三時のおやつだぜ~」


「もうそんな時間か?」



光一に手を貸して椅子から立たせると、剛はそのまま手を引いてテーブルの所まで連れてきた。そして自分の隣に座らせる。


光一は手際よく、光一の分のケーキを食べやすいように一口大に切ってやり、光一の前に置いた。





「いっただきまーす!美味そう~」



光一は勢いよくぱくんとケーキを食べる。



「ほら、口開けろ」


「ええよ、・・自分で食える」



前からそんなラブラブな会話が聞こえて来たけど、光一はもう慣れっこなので、気にせずケーキを口に運ぶ。



「どう?点字進んでる?」


「ああ・・この分やったら来学期から、盲学科に編入出来そうや」



実は青嵐学園は目が見えない生徒もちゃんと通える学科があったりする。



「へぇ~すげぇじゃん。良かったね~光一」


「ありがとう、荒木君」


「俺の教え方がええからな~」


「ふふっ・・そうやな」


「俺に感謝せぇよ」


「はいはい」



光一はにっこり微笑んだ。ああ、やっぱり綺麗だなーと光一は思う。


なんだか笑顔が光って見える。



幸せなんだ・・



「俺で出来る事があればなんでも協力するから気軽に言ってね、光一v」


「うん、荒木君。ありがとう」


「お前も点字勉強するか?」


「え?・・お邪魔なんじゃな~い?」


「あーほ何ゆうてんねん」


「ふふっ、そうだよ」


「へへっ」



光一は屈託なく笑った。



その笑顔に釣られるように剛も光一の顔も笑顔になっていた。