ブラインドタッチ | いつもどこかへ

ブラインドタッチ

SAG

ことの始まりは国境前に車内で記入した申告書だった。その中に生物の項目があったけどNOにチェックをつけ、さらにカラファテの町で買ったリンゴがまだザックに残っていたのをすっかり忘れていた。それが運悪く見つかったというわけ。


小さな隣室へ通され、向かい合って座る。人は悪くなさそうな眉毛の下がった7:3分けのオジサン係官が早口で説明するスペイン語はさっぱりわからない。質問らしきものをされるけどそれも意味不明。


「パサポルテ」


それだけは聞き取れた。さっき押し込んだポケットから、パスポートを引っ張り出して渡す。さっきまでいた隣の部屋とはドアと窓でつながっており、スピード違反で捕まったドライバーを見るような目でこちらを眺めるバスの乗客たち。


ことの元凶リンゴをキッチンスケールに乗せると、きっかり200g。壁には罰金額の一覧表らしきものがある。

内心これが一番心配だった。トンデモナイ金額だったらカード払いは出来るのか、それを思うと背筋に冷や汗が走る。ここまで節約してきたのもバッパーにありがちな貧乏自慢ではなく、必要に迫られてのケチケチ生活だった。話のネタとしては面白いけど、これは自分の身に今起こっている現実。好奇心と冷や汗両方が交互にやってくる。

一通り説明らしきことを終えてから、書類作成に入った。




・・・遅い。

遅すぎる。





パソコンのモニタを覗くと、人差し指で一つ一つキーを探しながら入力している。しかも慣れていないらしくあちこちのファイルをひっくり返しては真剣に調べている。補助の若い係官がパスポート№を読み上げると、今度はそれについてゆけず、またパチ…パチ…となる。できることなら自分で入力させてほしい。


ヒマをもてあまし、回転する腰掛をくるりと回すと、窓の外は馬が草をはむのどかな風景があった。