おばあさんと私
ソウルから5時間、ようやく着いたハフェマウル。バスを降りたのは5時近くなので、すでに日は暮れかかり宿を探さなくてはならなかった。シーズンなら客引きが来るらしいけど、そんな気配は全くなく村へ入る道を歩く。土塀で囲まれた民家が近づき始め、「へぇー、これがハフェマウルか」と宿探しついでに村見物をしようと思った矢先、後ろに気配を感じて振り向いた。そこにいるのはさっきバスで一緒だったおばあさん。運賃がわからないときに教えてくれた人だった。
とりあえず「アンニョンハセヨ~」
するとおばあさん、機関銃のように良く喋る。なんだかよく分からないけど楽しそうに話し掛けてくる。私も適当に相槌を打つ、でも何て言っているのかさっぱりわからない。そんな雰囲気に気づいたのか、
「イルボン?」と例の言葉。
「そうそう。」と頷くと、おばあさんの表情が一瞬暗くなった。
「やっぱりお年寄りは日本による嫌な記憶があるんだろうな…仕方ないけど…」
と思ったら、
頬に手が触れた。
おばあさんが何か言いながら、優しい目で頬をなでてくれた。
そして再びマシンガントーク再開。日本人とわかってもおしゃべりの相手には不足ないらしい。村の中を見たいけど、このままでは意味不明の言語によるおしゃべりをいつまで聞けばいいのかわからない。喋りつづけるおばあさんに「ちょっとここ見たいんで…」と切りだし、古民家を見て宿を探すことにした。
ところが数軒見たところでは既に先客がいるか、造りがイマイチかで決まらない。どうしようかと思いながら一軒の門を出ると、さっきのおばあさんがいた。
で、また話し掛けてくる。これはもう観念しようと、話しを聞きながらお供。日本人で言葉が通じないとわかっているはずなのに、ますます喋る。さらについておいでと手招き。どうやら知り合いの家に私を泊めてやってほしいと頼んでいるらしい。
ハフェマウルでは古民家に客を泊める「民泊」というものがあるけど、それ以外は普通の民家。おばあさんの知り合いも、突然の来客に驚き「無理、無理、うちにそんな設備もないし…」というような感じ。しかし、おばあさんはここでもマイペースぶりを発揮し、身振りで「ここで ご飯食べて 寝れるから!」と笑顔で言う。
家人の困った様子を見ていると、とても泊まれそうな感じではない。なんとか遠慮して退散。お次は大きくて立派な家。日は既に落ち、とっぷり暗くなってきたのでこの辺で宿を決めてしまいたい。
おばあさんが奥に行き、何か説明すると家人が出てきた。おばあさんは「ここは さむいよ」と身振りで言う。でも日も落ちたし、部屋で休みたかったのでここに泊まることに決定。
こうしてなんだかわからないまま、おばあさんのおかげでこの日の宿は決まった。
