社長はここ数年、明らかにおかしかった。
もともとあまり話し好きではなかったけれど、ますます無口になり、顔はどす黒くなり、体は痩せこけ、目だけがギョロっとしていた。
素人目にも肝臓が悪いのではないかと思った。
奥さまはお酒は全く飲めず、お酒の知識もほとんどないし、性格的におおざっぱなので、社長の変化にはあまり気にしなかったようだ。
ただ、最近、社長は痩せてはいるけれど、お腹だけがぽっこり出てきていると話していた。
(・・・・・・これは、肝硬変の末期症状。腹水だった・・・。)
ある日、社長は、
『体調が悪いから今日はお店は休む。』
奥さまにそう言った。
奥さまはひとりでお店に向かい、終日、従業員のかたと仕事をこなし、夕方には自宅に戻った。
そして、玄関を開けて、見た光景・・・・・・・・・。
・・・・血の海だった・・・・・・・・・・・・・。
その血の海の真ん中に社長は倒れていた。
奥さまは最初は強盗事件かなにかと思ったらしい。
それで110番通報をした。
救急車も来て、社長は病院に運ばれた。
警察の取り調べもあったらしい。
結局、死因は
『食道静脈瘤破裂』
肝硬変が原因のことが多い病気らしい。
社長はたぶん昼ごろに、この 『食道静脈瘤破裂』 のため、吐血して、そのまま出血多量で亡くなったと思われるとのこと。
奥さまの悲しみは半端ではなかった。
『なぜ、具合が悪い主人を残して私は仕事に行ったんだろう?』
・・・いえいえ。
奥さまが悪いのではありません・・・・・・・。
社長はまだ50代の若さだった。
子どもさんはまだ大学生。
社長は人徳があり、おおむね周りのひとには好かれていたと思うけれど、一部、批判するひとたちもいた。
『お酒に呑まれるなんて、意志が弱すぎる。』
『子どもがまだ独立していないのに、アルコールに依存するなんて無責任。』
たぶん正論だと思う。
・・・けれど、それだけでは片付けることはできないと思う。
そもそも、お酒は麻薬なんだから。