江戸北町奉行、遠山金四郎の初映画化は大正13年と古く、片岡千恵蔵主演の遠山の金さん“いれずみ判官シリーズ”は、昭和25年から昭和37年までの11年間に東映京都で全18作製作されており、七つの顔の男シリーズとともに千恵蔵の十八番(代表作)となった。

 

主人公、遠山金四郎景元(1793~1855)は、江戸時代末期の江戸北町奉行。

景元は青年期の放蕩時代に彫り物を入れていたといわれる。奉行として入れ墨は論外なので諸説あるが、昭和42年・市川新之助(12代目・市川團十郎)主演のTVシリーズ「遠山の金さん」(渡辺邦男監督)でこのエピソードを観た記憶がある。

景元は当時から裁判上手の評判はあり、名裁判官のイメージの元になったエピソードも存在するようだ。

市井に紛れ込んで、桜吹雪の刺青と胸のすくような啖呵で難事件を解決する遠山の金さんは、やはり面白い。

<片岡千恵蔵(昭和28年)>

片岡千恵蔵「いれずみ判官」シリーズは白黒・スタンダード画面から、総天然色、さらにはワイド画面の東映スコープへと移り変わり、映画の歴史も窺える。

その昔、映画館の入口に貼られた上映中、次週上映のポスターや、映画の一場面を切り取ったスチール写真を飽きずに眺めていた団塊の世代(昭和23年生まれ)です。

初期の作品はなかなか鑑賞できませんが、懐かしい映画スターがいっぱいのポスター、スチール写真と共に、片岡千恵蔵のいれずみ判官シリーズを語ります。

 

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1 「いれずみ判官 桜花乱舞の巻

昭和25年(渡辺邦男監督)・東横映画(東映配給)

86分・白黒スタンダード

共演:花柳小菊、月形龍之介、大友柳太郎、進藤英太郎、沢村国太郎。

戦後、東横映画時代(東映配給)、最初に片岡千恵蔵が遠山金四郎を演じた八住利雄・ 渡辺邦男脚本による“いれずみ判官シリーズ”第1作で、前後作の前編として制作されています。

<「いれずみ判官」花柳小菊、片岡千恵蔵>

 

<「いれずみ判官」進藤英太郎、片岡千恵蔵>

 

<「いれずみ判官」片岡千恵蔵、旭輝子>

 

《渡辺邦男監督》

「いれずみ判官」の渡辺邦男監督(明治32年~昭和56年)は「早撮りの巨匠」と言われ、昭和27年東映に移籍しヒット作を連発。昭和28年・片岡千恵蔵主演の「大菩薩峠」三部作を神業的な中抜き撮影(同じようなアングルのカットやシーンを続けて撮影)し10日で撮ったという。

渡辺邦男監督の「明治天皇と日露大戦争」(昭和32年・新東宝)が封切りで8億円の配収をあげる史上空前の大ヒット。経営に苦しむ新東宝の負債を一気に返済させて “渡辺天皇”の異名をとった。

<渡辺邦男監督>

 

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2 「いれずみ判官 落花対決の巻

昭和25年(渡辺邦男監督)・東横映画(東映配給)

87分・白黒スタンダード

共演:花柳小菊、月形龍之介、大友柳太郎、進藤英太郎、沢村国太郎。

第1作「いれずみ判官 桜花乱舞の巻」の後編。

<「いれずみ判官」片岡千恵蔵>

 

<「いれずみ判官」加賀邦男、片岡千恵蔵、中野清>

 

《東横映画》

「いれずみ判官」製作の東横映画は昭和13年設立、東急資本のもとに映画館経営から出発した東映の前身の1社です。昭和26年に東横映画、太泉映画、東京映画配給の3社が合併して「東映」となり、東横映画撮影所は「東映京都撮影所」に、太泉映画スタジオは「東映東京撮影所」になりました。

<東横映画ロゴ>

 

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3 「女賊と判官」

昭和26年(マキノ雅弘・萩原遼監督)・東横映画(東映配給)

88分・白黒スタンダード

共演:宮城千賀子、喜多川千鶴、高田浩吉。             

「女賊と判官」は昭和13年「弥次喜多道中記」(日活)のリメイクで、遠山金四郎に片岡千恵蔵、怪盗紅燕に宮城千賀子。黒澤明作品の脚本家・小国英雄が原案。

<「女賊と判官」宮城千賀子、片岡千恵蔵>

 

<「女賊と判官」片岡千恵蔵、原健作(健策)、宮城千賀子>

 

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4 お馴染み判官あばれ神輿」

昭和26年(萩原遼監督)・エノケンプロ=東映京都 

78分・白黒スタンダード

共演:榎本健一、花柳小菊、香川良介、原健作。

「あばれ神輿」は昭和16年「昨日消えた男」(長谷川一夫主演)のリメイクで、遠山金四郎に片岡千恵蔵、榎本健一は目明し藤七役。

エノケンプロと東映での共同で制作された東映最初の作品で小国英雄が原案。

<「お馴染み判官 あばれ神輿」片岡千恵蔵、榎本健一>

 

<「お馴染み判官 あばれ神輿」片岡千恵蔵、榎本健一>

<「お馴染み判官 あばれ神輿」片岡千恵蔵>

 

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5 「飛びっちょ判官」

昭和27年(渡辺邦男監督)・東映京都

79分・白黒スタンダード

共演:花柳小菊、大友柳太朗、阿井三千子、伴淳三郎。

「飛びっちょ判官」から本格的にシリーズとして東映京都撮影所でスタートした。

原作は子母沢寛、監督・脚本は渡辺邦男。

<「飛びっちょ判官」花柳小菊、片岡千恵蔵>

 

<「飛びっちょ判官」堺駿二、片岡千恵蔵>

 

<「飛びっちょ判官」片岡千恵蔵、原健作(健策)>

<「飛びっちょ判官」山室耕、花柳小菊、片岡千恵蔵、清川虹子>

 

<「飛びっちょ判官」片岡千恵蔵>

 

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6 「血ざくら判官」

昭和29年(萩原遼監督)

90分・白黒スタンダード

共演:三浦光子、千原しのぶ、清川虹子、進藤英太郎澤村國太郎

江戸の贋小判事件に挑む遠山の金さん(片岡千恵蔵)の活躍。ワルは進藤英太郎と澤村國太郎。

<「血ざくら判官」片岡千恵蔵>

 

<「血ざくら判官」三浦光子>

 

<「血ざくら判官」澤村國太郎、進藤英太郎>

 

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7 「勢ぞろい喧嘩若衆」

昭和30年(佐伯清監督)           

83分・白黒スタンダード

「勢ぞろい喧嘩若衆」のポスターは第二東映で再映時のものです。

共演:大友柳太朗、中村錦之助、東千代之介、堀雄二、千原しのぶ。

川口松太郎の原作。内容はうる覚えですが片岡千恵蔵(遠山金四郎)、中村錦之助(弁天小僧)、大友柳太朗(日本駄右衛門)、東千代之介(南郷力丸)、堀雄二(忠信利平)、明智十三郎(赤星十三)など、東映の時代劇スターがたくさん出演していました。

<「勢ぞろい喧嘩若衆」千原しのぶ、片岡千恵蔵>

 

<「勢ぞろい喧嘩若衆」角梨枝子、中村錦之助>

 

《第二東映》

「勢ぞろい喧嘩若衆」のポスターは第二東映で再映時のものです。

東映は映画量産を目的に、昭和35年、第二東映株式会社を発足。その後、昭和36年にニュー東映株式会社と改称したが、10か月で東映に吸収合併されて製作を中止している。

第二東映発足当初、大川博(東映社長)は「1年間に東映が96本、第二東映が48本撮って、年間100億円の収入」を宣言したという。結果、量産による人員膨張や赤字が続き、映画産業が斜陽化に向かう時代に計画は大失敗、大川博は退陣している。

映画作品の本篇につながるトップロゴ、東映は「岩に波」ですが、第二東映は「山並に朝焼け」、ニュー東映は「火山の噴火口」(1961年)でした。

<東映ロゴ「岩に波」>

 

<第二東映ロゴ「山並に朝焼け」>

 

ニュー東映ロゴ「火山の噴火口」

カメラがズームインしてニュー東映ロゴが出る。

ニュー東映ロゴ「火山の噴火口」撮影は東映特撮の重鎮・矢島信男の仕事です。

『ニュー東映の火山マークは大きな規模でやった。成田君がセットをやりました。二間くらいのセットだったって成田亨君が書いている。なぜ火山かというと、東映が海だから、ニュー東映は山ってことになったんだそうだ』(「東映特撮物語・矢島信男伝」より)。

美術担当は「ウルトラマン」の怪獣デザインで有名な成田亨。オープンセットの光、重々しい噴煙、実景と見紛う活火山がミニチュアで表現されています。

 

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8 「喧嘩奉行」

昭和30年(佐々木康監督

92分・白黒スタンダード

共演:月形龍之介、片岡栄二郎、高千穂ひづる、薄田研二、加賀邦男。

時代小説家の陣出達朗がシリーズに原作で初参加、脚本は比佐芳武、ワル役は月形龍之介。

千恵蔵の娘・植木千恵が初出演。

<「喧嘩奉行」月形龍之介、片岡千恵蔵>

 

<「喧嘩奉行」高千穂ひづる、植木千恵、片岡千恵蔵、玉島愛造>

 

<「喧嘩奉行」月形龍之介、薄田研二、片岡千恵蔵、原健策>

 

<「喧嘩奉行」片岡千恵蔵>

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9 「荒獅子判官」

昭和30年(佐々木康監督)

81分・白黒スタンダード

共演:千原しのぶ 、浦里はるみ、入江たか子、小杉勇、進藤英太郎、片岡栄二郎。

陣出達朗原作の2作目、脚本は浪江浩。

<「荒獅子判官」高松錦之助、片岡千恵蔵、千原しのぶ>

 

<「荒獅子判官」進藤英太郎、片岡千恵蔵>

 

<「荒獅子判官」片岡千恵蔵>

 

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10「長脇差奉行」

昭和31年(小沢茂弘監督)

85分・白黒スタンダード

共演:千原しのぶ、浦里はるみ、片岡栄二郎、進藤英太郎、三島雅夫、江原真二郎 。

片岡千恵蔵が遠山金四郎と国定忠治の二役。原作は3作目の陣出達朗、構成は比佐芳武。

タイトルの長脇差は“ながドス”と読みます。江戸時代、武士は刀を2本腰に差していましたが、博徒、侠客など非武士階級は1本刀。ドスとは“脅す”を略した言葉のようです。

<「長脇差奉行」杉狂児、時田一男、片岡千恵蔵、浦里はるみ>

 

<「長脇差奉行」片岡千恵蔵>

 

<「長脇差奉行」片岡千恵蔵>

 

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11「海賊奉行」    

昭和32年(深田金之助監督)

91分・白黒スタンダード

共演:田代百合子、長谷川裕見子、薄田研二、片岡栄二郎、進藤英太郎。

深田金之助監督の参加1作目。原作の陣出達朗4作目、脚本は高岩肇。

<「海賊奉行」片岡千恵蔵>

 

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12 「はやぶさ奉行」

昭和32年(深田金之助監督)

93分・シリーズ初の総天然色・東映スコープ

<総天然色・東映スコープのロゴ>

ポスターの“画面3倍・興味100倍”東映スコープのキャッチコピーが懐かしい。

共演:大川橋蔵、大河内伝次郎、千原しのぶ、花柳小菊、進藤英太郎。

千恵蔵の後輩の主演スターである大川橋蔵がねずみ小僧役で出演。陣出達朗5作目、脚本は高岩肇

<「はやぶさ奉行」大川橋蔵、片岡千恵蔵>

 

<「はやぶさ奉行」千原しのぶ、片岡千恵蔵、大川橋蔵>

 

<「はやぶさ奉行」大川橋蔵、片岡千恵蔵>

 

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13「火の玉奉行」

昭和33年(深田金之助監督)

92分・総天然色・東映スコープ

共演:江原真二郎、月形龍之介、雪代敬子、桜町弘子、薄田研二、原健策。

深田金之助監督の最後の参加作。陣出達朗原作6作目、脚本は結束信二。

<「火の玉奉行」岡譲司、市川小太夫、月形龍之介>

 

<「火の玉奉行」原健策、片岡千恵蔵>

 

<「火の玉奉行」月形龍之介、片岡千恵蔵>

 

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14 「たつまき奉行 」

昭和34年(マキノ雅弘監督)

95分・総天然色・東映スコープ

共演:東千代之介、喜多川千鶴、山村聡、佐久間良子、月形龍之介。

佐渡島が舞台、遠山の金さんが竜巻で御用船が難破した事件の謎に挑む金さん。対峙するワルは月形龍之介、山村聰。陣出達朗原作7作目、脚本は鈴木兵吾。

千恵蔵と戦前からコンビ作が多い監督のマキノ雅弘は、「日本映画の父」と呼ばれた牧野省三の息子で、生涯に261本もの劇場映画を監督・製作しています。

<「たつまき奉行」片岡千恵蔵、東千代之介>

<「たつまき奉行」佐久間良子、東千代之介、片岡千恵蔵>

 

<「たつまき奉行」片岡千恵蔵、喜多川千鶴>

 

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15 「江戸っ子判官とふり袖小僧」

昭和34年(沢島忠監督)

95分・総天然色・東映スコープ

共演:美空ひばり、月形龍之介、喜多川千鶴、・雪代敬子、花園ひろみ。

美空ひばりがヒロイン役でシリーズ初参加し、ひばりとコンビ作が多かった沢島忠が監督。

原作は小国英雄、脚本は鷹沢和善。

<「江戸っ子判官とふり袖小僧」美空ひばり、片岡千恵蔵>

 

<「江戸っ子判官とふり袖小僧」美空ひばり、片岡千恵蔵>

 

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16 「御存じいれずみ判官」

昭和35年(佐々木康監督)

94分・総天然色・東映スコープ

共演:丘さとみ、木暮実千代、月形龍之介、薄田研二、山形勲、進藤英太郎。

ご存じ長屋の金さんが、孔雀長屋のお景(丘さとみ)、丑松(千秋実)連れて、加賀百万石に遠山桜!

豪華キャストも嬉しい痛快巨編。陣出達朗原作8作目、脚本は高岩肇。

<「御存じいれずみ判官」千秋実、丘さとみ、片岡千恵蔵>

 

<「御存じいれずみ判官」戸上城太郎、片岡千恵蔵>

<「御存じいれずみ判官」片岡千恵蔵>

過去の投稿「東映城の時代劇映画「御存じいれずみ判官」ご訪問ください。

 

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17 「さいころ奉行」

昭和36年(内出好吉監督)

90分・総天然色・東映スコープ

共演:東千代之介、青山京子、丘さとみ、黒川弥太郎、伏見扇太郎、進藤英太郎。

千恵蔵が遠山金四郎と、いぶしの銀次の2役を演じ、世直し党と呼ばれる不逞浪人に決然と立ち上がる金さんの明朗捕物篇。陣出達朗原作9作目、脚本は松浦健郎。

 

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18 「さくら判官」

昭和37年(小沢茂弘監督)

91分・総天然色・東映スコープ

共演:鶴田浩二水谷良重北条喜久、薄田研二、柳永二郎、山形勲、伊藤雄之助。

東宝から移籍してきた現代劇のスター鶴田浩二が松平直之介役でゲスト出演。

陣出達朗原作10作目、脚本は直居欽哉。時代劇スター片岡千恵蔵が主演した“いれずみ判官シリーズ”の最終作。

<「さくら判官」水谷良重、片岡千恵蔵>

<「さくら判官」北条喜久、片岡千恵蔵>

 

<「さくら判官」鶴田浩二>

 

<「さくら判官」片岡千恵蔵>

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片岡千恵蔵は戦前(昭和13年)のトーキー(発声映画)作品「弥次㐂夛道中記」(マキノ正博監督・日活京都)でも遠山金四郎を主演で演じており、いれずみ判官シリーズと合わせると24年間で生涯19作、映画で遠山金四郎を演じている。

「弥次㐂夛道中記」は、ひょんな事から出会った遠山の金さん(片岡)と、鼠小僧(杉狂児)が、お互いの素性を知らぬまま、弥次喜多に間違えられながら東海道を旅する道中もの。原作・脚本は小国英雄、音楽は古賀政男。DVD化されています。

 

<美ち奴、片岡千恵蔵>

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《東映・片岡千恵蔵主演「いれずみ判官」シリーズ》

1.いれずみ判官 桜花乱舞の巻(渡辺邦男監督)

2.いれずみ判官 落花対決の巻(渡辺邦男監督)

3.女賊と判官(マキノ雅弘・萩原遼監督)

4.お馴染み判官 あばれ神興(萩原遼監督)

5.飛びっちょ判官(渡辺邦男監

6.血ざくら判官 (萩原遼監督)

7.勢ぞろい喧嘩若衆(佐伯清監督)

8.喧嘩奉行(佐々木康監督)

9.荒獅子判官(佐々木康監督)

10.長脇差奉行(小沢茂弘監督)

11.海賊奉行(深田金之助監督)

12.はやぶさ奉行(深田金之助監督)

13.火の玉奉行(マキノ雅弘監督)

14.たつまき奉行(マキノ雅弘監督)

15.江戸っ子判官とふり袖小僧 (沢島忠監督)

16.御存じいれずみ判官(佐々木康監督)

17.さいころ奉行(内出好吉監督)

18.さくら判官(小沢茂弘監督)

 

いれずみ判官シリーズは、昭和40年に鶴田浩二主演によるリメイク「いれずみ判官」(沢島忠監督)が公開されています。

 

文中、敬称略としました。ご容赦ください。