ひかるside


目を覚ますと夏鈴と天ちゃんの顔がすぐそばにあった。

2人の表情からすごく心配してくれているのがよく分かる。

でも、私なんかに心配しなくていいんだよ。

そんな気持ちも込めて、夏鈴と天ちゃんのテンションに合わせつつ、レッスンに行こうと言った。


…しかし2人は行かせてくれなかった。


天「ひかる、顔色めちゃ悪かった。今日朝ごはん食べた?ちゃんと寝てきた?」


あーあ。やっぱりバレたか。

流石にこの顔色じゃ、元気だよ、何ともないよ、と言っても信じては貰えないことはだいぶ寝てないこの頭でも分かる。

んー。どうしようかな。




ひ「…ばれた?笑」

天「もう!何笑って誤魔化そうとしてるの!」

ひ「いやいや、昨日、たまたまブレイクダンスの動画見てたらだいぶ朝方になっちゃって。そこからちょっとだけでも寝ようと思って寝たら、家出るギリギリになって、朝ごはん食べそびれちゃって?」

天「んー。もう。ダメだよ?ただでさえ、感染症予防で免疫力高めないといけないんだから、しっかり寝てしっかり食べないと!」

ひ「はーい…歳下に怒られちゃったよ笑…夏鈴?」

夏「…。天の言う通り。やけど、ひかる、寝てないんは昨日だけやないやろ?」

ひ「…はぁ。2人にはなんでもお見通しなんやなぁ…笑」

天「え!いつから寝れてないん!」

ひ「んー。摩擦係数のフォーメーション発表あったとき位からかな?」

これは嘘じゃない。

天「え!そんな長いこと!?」

ひ「いや!寝れる時は寝てるよ!だけどレッスン前は次の日の事考えてたら気付いたら朝で…笑」

これは嘘。

天「もう…心配なのは分かるよ?私たちのソロパートもあるし、ブレイクダンスも初の試みだし…。だけどちゃんと休んでからレッスン来ないと!」

ひ「はーい…気をつけます…」

天「じゃあ、みんな心配してるだろうし、楽屋戻ろっか!歩ける?」

ひ「ん!もう大丈夫!」







楽屋に戻ると案の定、天ちゃんから2期生のみんなに私が倒れた原因を伝えられてしまった。

みんな口々に「寝んと!今寝る!?」「お昼ご飯何がいい?弁当取ってきてあげるよ!」「寝れん時は言わんと!無理したらいかん!」と心配してくれた。



そこから数日間、2期生によるお世話が続いた。


保「ひぃちゃーん!ここおいで〜!ほのの隣で寝てていいよー!起こしたるから!」

ひ「ほんと〜?嬉しい!ほのちゃんの横ならぐっすり眠れそうだよ〜」


メイクが崩れないように気をつけながら机に突っ伏していると、トントンと優しく背中を叩いてくれるほのちゃん。





…だけど眠れない。




でも、そんなこと言えないから。


保「ひぃちゃ〜ん。ひぃちゃ〜ん。」

ひ「ん。あ、もう行かんといかん?」

保「うん!移動する3分前。どんな?寝れた?」

ひ「んー!あーよく寝れた〜!ありがとね、ほのちゃん!」

保「お易い御用よ!」


…嘘ついちゃってごめんね、ほのちゃん。





松「ひかる〜!新しい梅のお菓子見つけた!」

麗「え!私も!でも違うやつだ!食べてみて?」

武「えー。ちゃんとひかるご飯食べたん?ご飯食べずにお菓子はあかんのとちがう?」

松「食べたか食べてないかは置いといて、とりあえず動く前には食べとかないと!」

ひ「いただきまーす!ん!どっちもおいしいね〜」

麗「もっと食べていいよ?」

ひ「いや!あとはレッスン頑張ったご褒美にするよ!ありがとね!」

松「どういたしまして!」

麗「また良さそうなの見つけたら買ってくるね!」

ひ「ありがと!あ、ちょっとトイレ行ってくる〜!」




…やっぱり食べられない。

せっかくみんながくれるからその場では口にするけど、どうしても固形物を受け付けてくれなくて、すぐに戻してしまう。




…はぁ…





ガチャッ


楽屋に戻るとみんながわいわいと過ごしている。

「ひぃちゃん、最近寝れてるっぽいよ〜ほののおかげかなぁ〜」「梅のお菓子もいいかんじっぽいよ〜!」

なーんて。私の事を心配してくれてる。


ありがたい。





そう。



みんなはそうやって笑っていてくれればよかよ。


苦しむのは私だけでよか。









夏「…ひかる。」

ひ「っ!と、びっくりした〜夏鈴か!どうした?」

夏「これ、あげる。」

そう言って手渡されたのはパウチのゼリーだった。

ひ「ありがと。」

私が固形物を食べれないのに気づいて?

夏「ポケモンついてたから。ひかる。ポケモン好きやろ?」

…気のせいか。笑

ひ「ありがと!好き!ホゲータだ〜!」


だけど、なんだか、これなら飲める気がした。








…スッ…

ひ「ん?夏鈴どしたと?」

最近夏鈴が楽屋の私の隣の席にスっと座ってくる事が増えた。

夏「ん。別に。」

ひ「そっか笑」


隣に来て特別なにかする訳では無いけど。


だけど、なんだか、夏鈴の周りは時間がゆっくりな気がして。

眠れる訳では無いけど、心が落ち着く気がした。









2期生のみんながお世話をして、気にかけてくれる日々が続いていても、家での過ごし方に変化はなかった。



寝付けなくて

ぼーっとしていたらマイナスなことしか考えられないからスマホを見るけど

見たら見たで見たくなかったような言葉を見てしまって

ダンスの振り入れ見て気を紛らわせようとして動画を見始めると目が冴えて

気付いたら朝。




これの繰り返し。




だけど今日はいつも以上に疲れた。

頭も使う収録を乗り越え、何時間にも及ぶレッスンを頑張った。

流石に頭も身体もへとへと。



ちょっと長めのお風呂に浸かって体の芯まで温めて。


さて、今日こそは寝れそうだ!










…やっぱり寝れない。


ひ「なんで…なんでなん…」グスッ

もうなにもかも嫌になって気付いたら涙が溢れてきてしまった。

ピロンピロン

ん?こんな夜中…っていってももう3時だけど、誰?


通知を見ると夏鈴からだった。


karin:なぁ。どうせ起きてんねやろ?電話せん?


夏鈴の声が無性に聞きたくなって。


返信なんかするのもすっ飛ばして、気付いたら手が勝手に通話ボタンを押していた。



夏「やっぱ起きてたか。笑また寝れんの?」

ひ「…」

夏「ひかる?泣いてるん?」

ひ「…グスッ」

夏「ひかる、天と私にバレて、2期生みんなにバレてからも、寝れてないし、食べれてへんのやろ?」

ひ「…うん…」

夏「やっぱりなぁ。どうした?なんかあった?」

ひ「…」

夏「ひかるが。ひかるが話したいタイミングで話しや。夏鈴はいくらでも待つから。」








ひ「…こわい。」






夏「こわい?」

ひ「先輩方いなくなってく。りささん居なくなった。今残ってる1期生さんも、いつおらんなるかわからん。2期生からもおらんなるかも。アルバム嬉しいけど私がセンターでいいんかな。Wセンターの発表を、天ちゃんみたいに前向きには受け止めれんかった。ファンが、みんなが、離れていったらどうしよう…」



自分でも何言ってるか分からない。

話の順序もバラバラで。

だけど、夏鈴なら、夏鈴になら話せると思ったんだ。




しばらく2人の間に沈黙が続く。

…やっぱり夏鈴もこんなこといきなり言われたら困るし、怒るよね。グループ引っ張る立場が何弱音吐いてんだって、きっと呆れててなにも言えないんだ…


ごめん、なんでもない、


そう謝ろうとした時、考えてもいなかった答えが返ってきた。






夏「んー。そっか。ひかるはいっぱい考えたんだね。考えすぎるくらい考えちゃったんだね。それだけグループのこと考えてくれてるんだね。えらいよ。ひかる。ありがと。




「えらいよ。」「ありがと。」


その言葉に私の中につっかえていた何かが外れた気がした。

ひ「うぅ…」

夏「ひかる。大丈夫。私たちがいる。今は泣きな。思う存分泣きな?」












ひ「…ん。ん?」

夏「あ、起きた?」

ひ「あれ?朝?」

夏「うん。朝。笑」

ひ「え、私寝れた?」

夏「うん。寝落ち電話ってやつやな。笑寝落ち電話なんか、学生くらいの若者がするもんやと思ってたわ笑」

ひ「え!ずっと寝れてなかったのに!」

夏「よかったな。」

ひ「うん!夏鈴のおかげ!ありがと!」

夏「別に、大したことしてない…てか、昨日だいぶ泣いてたから、目腫らしたままやと困るで?冷やしてからおいでな?」

ひ「うわ!ほんとだ!急いで準備しないと!」

夏「ん。じゃ、また後で。」



夏鈴との通話を切り、カーテンを開けるといつも浴びる朝日とは違う、清々しい気分になる朝日を浴びることが出来た。







楽屋に行くと、やはり腫れていた目を隠し切ることは出来ず、問い詰められ、あれ以降も食べていたふり、寝れていたふりだったことがバレた。


夏鈴にも何故か矛先が向き、なぜ気づいているのに言わないんだ!と責められていた。

夏鈴は完全なる流れ弾。笑


だけど、あの日を境に心の中にある不安を少しずつ出すことができ、それに伴い食欲が戻ってきたり、眠れるようになったりした。


夏鈴のおかげだ。
























夏「んんっ…ひかる?」

ひ「あ、夏鈴起きた?どう?気分は。」

夏「大丈夫。ひかる、なんでそんなに夏鈴の頭撫でてるん?」

ひ「んー?夏鈴に助けて貰った日のこと思い出してたの。助けてくれてありがとうの思いも込めて。」

夏「寝落ち電話した時?」

ひ「そうそう。でも、、あの時私も気付いてたら…夏鈴は…」

夏「んーん。前もゆーたやろ?夏鈴はひかるを助けれて満足した。それだけ。」

ひ「最近はちゃんと薬の量も守って、自分傷つけてもないんでしょ?」

夏「うん。ひかるとのやくそくだから。」

天「あー!また天ちゃんだけ除け者にしてるー!」

夏「ふふっ。してないよ。」

天「だって久々のてんてんるんるんりんりんのフロントだよー!ひかるも懐かしいって言ってくれてたじゃん!なのに2人だけでなんかしてるの、天ちゃん、ヤキモチやいちゃう!」

ひ「そうやね!久しぶりのこの3人で嬉しいよ!ねぇ、2人とも?」

夏「ん?」

天「どした?ひかる。」



ひ「よろしくね。11th、そしてこれからも。」



天「もちろん!」

夏「ん。よろしく。」







誰かが闇に落ちても。
誰かが闇に惑いそうになっても。

私たちは誰ひとりとして見捨てず。

その闇から引きずり出して一緒に歩き続けていく。




Fin.