ひ「...はい。出来たよ。」

瞳「ありがとう...ございます...」

つきちゃんは消え入るような声でお礼を言った。

涙は止まっていた。




ひ「ねぇ?怒る気は無いし、無理に聞こうとは思っては無い。でも、もし私に出来ることがあるなら、話を聞くだけでも楽になるとするなら、話してくれない?

瞳「...はい。」



そこからつきちゃんはぽつりぽつりと話し始めた。



初めは偶然だった。

自業自得のセンターになって、忙しい日々を過ごす中で、プレッシャーに押し潰されそうになった。



明日が来て欲しくない



毎日のようにそう思ってたら、気付いたら眠れなくなっていた。

みんなに黙って病院にも行った。薬も飲んだ。

でも寝れなくて。

そんな時にぼーっとしながら包丁を使ってた時、手が切れてしまった。

流れ出てくる血を眺めてたら「ちゃんと生きてる」ってほっとした。

そこからしんどくなったり苦しくなったりしたら自分で切るようになった。




ひ「そうだったんだ...気づいてあげられなくてごめん。」

瞳「自分でもいけないとは思ってたんですけど...」

ひ「このこと、3期生の子達には言ってないの?」

瞳「...言ってないです。合宿の時も私、無理して動けなくなったことがあって。その時にすごくみんなに心配かけちゃったから。言えなくて...。それに、3期生初のセンターだから、私が苦しい姿見せてたらいけないかなって...

ひ「じゃあ、このこと知ってるのは私だけ?」

瞳「森田さんだけではないです...」

ひ「え?誰か他知ってる人いるの?」

瞳「はい...。レッスンの日にどうしても苦しくなって。でも、その時カッターなんか持ってなかったから。何か切れるものを求めて、みんなが楽屋でわいわいしてる間に抜け出して、刃物類がありそうな部屋に行ったんです。その時に偶然見られて...。」

瞳「手首を切ろうとしてたら、“何してんの。”って止められて。怒られるかと思ったら、“足首がいいよ。”って言われました。」

瞳「その人は誰にも言わないって言ってくれました。“自分もそうだから...”って...」

ひ「え、それって...」







優「しー!!大丈夫!?」

愛「るんさん、しづき、大丈夫そうですか?」

ひ「あ、ああ...。うん、怪我はそんなに酷くなさそうだよ。ね?」

瞳「はい。森田さんの処置のお陰でこの後も動けそうです。ゆーづ、愛季、心配してくれてありがとう。」


つきちゃんの方を見ると、「言わないでくれ」というような目で見つめられた。


「あ、その事なんですけど、今日はもう終わりにして休息の日にしようってことになりました!」

愛「なので、各々帰る支度とかしてますよ〜」

ひ「!」



それを聞いて私は頭の中に浮かんでいる彼女のことが気になった。

つきちゃんのこの状況を知っている人物。

そして、つきちゃんと同じ状況だという人物。

彼女のことを考えるといてもたってもいられなくなった。



ひ「2人とも!つきちゃんのこと、頼んだよ!」

優「はーい!お疲れ様でした!」



楽屋までダッシュし、ドアを開ける。

天「おー!ひかる、瞳月大丈夫?」

ひ「と、とりあえず、大丈夫...あれ?」

松「もう数人帰ったよ〜!第1弾の早い組。笑」

ひ「分かった!私も帰るけ!またね!」

天「またね〜!ってはやっ!」



楽屋に行くともうその姿は無かった。

車両を待ってる暇は無いと思い、またまたダッシュで彼女の家へ向かった。














ピンポ-ン

チャイムを鳴らすがなかなか出てこない。

ピンポンピンポ-ン

ピッ

あ。出た。

しかし、音声と映像は繋がってる感じがするが、ひと言も相手は話そうとしない。



ひ「開けて。











     ...夏鈴。」

夏「なに?もう風呂入ったんやけど。」

ひ「いいから。開けてよ。」

夏「...はぁ。もう。」


ため息をつきながらドアを開けた夏鈴の髪はまだ湿っていて、本当にお風呂上がりなのが分かる。


夏「...どしたん。なんか用?」

ひ「ねぇ。夏鈴に聞きたいことあるんやけど。つきちゃんのこと。」

夏「つきちゃん?あぁ。山下ちゃんか。山下ちゃんがどうした?」

ひ「つきちゃんが自分で切ってたこと、知ってるんでしょ?」

夏「...ひかるも気付いたんだ。今日のレッスンのとき?」

ひ「うん。で、」

目線は夏鈴と合わせたまま、無言で夏鈴の細い手首を掴む。


ひ「...これは何?」


案の定、夏鈴の手首には切った跡が残っていた。

最近のものでは無い、古い傷っぽいが。


夏「あ。やば。お風呂上がりだから隠せてないや...笑」


なぜか夏鈴は笑っていた。


ひ「...いつから...」

夏「んー。これは欅坂入る前かな?昔の傷だよ。流石にアイドルしてるのに見えるところに傷があっちゃダメかなって思って、ここは切らないようになったなぁ。普段は化粧で隠してる。笑」

ひ「“ここは”?」



“ここは”という言葉に引っかかった。



ばっとしゃがみこみ、ズボンの裾を捲るとやはりそこにも傷が。

つきちゃんにアドバイスしたくらいだもんね。


夏「おぉ。すごいね、見つけるの。ここなら靴下とか、衣装で隠れて見えないでしょ?笑」


そうやって笑いながら私を見てくる夏鈴の笑顔は何だか歪んでいて、苦しそうだった。


そんなとき、ふと上の服の腕のところに赤いシミを見つけた。


...まさか。


夏「...っ!」


急いで捲るとそこには真新しい傷が。

流石に痛かったのか、夏鈴の顔が歪む。


ひ「お風呂で切ってたの?」

夏「...ははっ。ひかるには全てお見通しなんやなぁ笑」

ひ「...手当しよ。」


夏鈴の手を取り、部屋へ入ろうと廊下を進む間にも、「着替えの時におーぞのちゃんに見られた時は、“犬にやられた”って嘘ついて乗り切ったのにな。笑」なーんて呑気に話していた。



ガチャッ


部屋のドアを開けてその景色に驚愕した。

夏「あ。片付けてへんかった。笑」



机の上には大量の薬が散乱していた。



ひ「...夏鈴も、寝れてないの?」

夏「んー。日によるかなぁ。眠れる薬だけじゃないけどな。」

ひ「...ちゃんと量を守ってないからじゃないの?」

夏「...へ?」

ひ「だってここには、色んな種類の袋がある。薬は見た感じ数種類だけど、違う袋から同じ薬が見えてる。ってことは、色んな病院に行って、症状伝えて薬もらって。量なんか守らずに飲むだけ飲んでんでしょ?寝たい、楽になりたい、って。」

夏「うわ。これがほのの言ってた、ひかるのマジレスか。笑」

ひ「なんなん!さっきから!笑ってばっかで!!!笑いごとやないんよ!!夏鈴、おかしいって!」

夏「笑えてるだけマシやと思うけどな。笑

ひ「...マシ?」

夏「ある時期なんか、笑うことすら出来へんかったもん。みんなの前で作り笑いしてなんとかバレんようにして。あ、これでも、切る回数減ってきてんで?笑」

ひ「...」

夏「でも、これのおかげでひかること、助けられたでしょ?だからいいんだー。」

ひ「あ...。じゃあ、あの時も...。」

夏「うん。寝れないし、苦しいし。だからひかるが寝れてない、苦しんでるのに気付けたんだよ。」






そう。

私も一時期追い詰められて、眠れない日が続いたことがあった。

でも、センターだし、3期生が入ってくることも分かってたし、みんな忙しそうにしてたしで、なかなか打ち明けられず、苦しかった。

そんなとき、正しく今回のつきちゃんと優ちゃんのように、夏鈴と寝落ち電話をして、久々に寝ることが出来たのだ。

...あの時、夏鈴がなんで起きてるんだろうなんて思う余裕はなかった。あの時、夏鈴も苦しんでいたなんて...。




ひ「...あの時はありがとう。」

夏「いーえ。どういたしまして。私はこの自分の苦しみが人の役に立ったから満足してる。ひかるを救えたから。だから。ね?ひかる、心配しないでね。私は大丈夫だから。あと、誰にも言わないで。みんなに心配かけたくない。今の櫻坂の勢いを止めたくないし、私自身も止まりたくないの。





ひ「...分かった。」

夏「...!ありがとう!「ただし、」」

ひ「ただし、約束して。もう無理はしない。もう切らない。私は夏鈴の身体が傷付くのを見たくない。切りたくなったら私に言う。眠れなくても私に言う。

夏「えぇ...

ひ「じゃあ、みんなに言う。きっと毎日毎日誰かが監視しに来るよ。もしくは病院にちゃんと行って休業...」

夏「わ、わかったから...。」

ひ「あと、今日は泊まるから。」

夏「...は?」

ひ「今日切ったってことは、今の夏鈴は不安定。そんな日は私がそばに居る。いつでも来る。助けて貰った分、今度は私に夏鈴を支えさせてよ。」

夏「...わかった。」

ひ「ひとりでよく戦ったね。」

夏「...っ」





私のその一言で夏鈴の中の何かが外れたのかもしれない。

まるで子どものようにしばらく泣きじゃくる夏鈴をそっと抱きしめた。










それからは、夏鈴も少しずつコントロール出来るようになったようだ。

もちろん、「...助けて。」って連絡が来たり、楽屋に居ないで有名な夏鈴が私の傍に無言で座ってきたりと、夏鈴なりのヘルプを出して、私がそばにいる日もある。

でも随分、その頻度も減ってきた。




つきちゃんはというと、あれ以降は切っていないらしい。

あとから聞くと、実は3期生の中にも心配してた子達が複数いたらしく、切っていたことがバレてしまい、「自分を傷つけちゃダメでしょ!」と怒られ、「そんなに私たち頼りない?」と泣かれ。後悔と申し訳なさから、もう切らないと約束したそうだ。







誰だって、「明日が来て欲しくない」と思う日はあるだろう。

でも、その「来て欲しくない明日」は、誰かにとって「来て欲しい明日」かもしれない。

それに、そんな辛い「今日」はいつかは終わって必ず「明日」がやってくる。

「明日」がどうなるかなんか、誰にも分からない。

分からないからこそ、自分なりにいい日にすればいいよね。




Fin.