夏「…ぶはっ!天!大丈夫!?」

天「うん!大丈夫だよ!!夏鈴大丈夫?」

夏「大丈夫!さぁ…っ!」

天「夏鈴?!」

夏「…大丈夫大丈夫。ちょっと左腕やっちゃっただけ…。」



窓から飛び降りるなんて経験、初めてで。天を守ることを第一に考えたら、少し左腕を痛めてしまったようだった。

夏「それより、ひかる!!来て!!」



次はひかるの番だ。

そう思い、上を見上げた。



そこには、大粒の涙を目にうかべたひかるがいた。

夏「…ひ、かる?何してるの?早く!」

天「怖かったけど怖くないよ!大丈夫だよ!」

ひ「…ない。」

夏「え?」

ひ「私はいかない。」

天「なんで!!」

ひ「この後絶対お父さんが来る。私は、ここで時間稼ぎをするよ。その間に2人とも逃げて。」

夏「ダメ…。ひかるも一緒に…!」

ひ「いいからっ!!2人には悪いことしちゃった。2人のことを騙した。傷つけた。これで許されるとは思ってないけど。ケジメ、つけさせてよ。」


ひかるは歪んだ笑顔で私たちを見下ろしていた。


天「嫌だよっ…ひかるのお味噌飲みたいよ…梅干し探しの旅に行こって約束したじゃん!ねぇ!」

ひ「ごめんね。約束守れるか分かんないや。でも。ちゃんとケジメつけて、それから会える時があったら…」

博「ひかるっ!!どこだっ!!どこにいる!なにしてる!!!!」

ひ「…っ!!ほら!来ちゃうから!早く!!

にゃんっ!!!

夏「…分かった。天。行くよ!」

天「いやだっ!ひかるとレオンも一緒に!」



駄々を捏ねて暴れる天を抱きかかえて、私は施設に背を向けた。




天「ひかるーっ!ひかるーーーっ!!」













ひ「…ばいばい。」































天「やっほ!来たよ!夏鈴!

夏「ん。いらっしゃい。ってあー!もうなんでそんなに濡れてるの!!傘は!!

天「傘あるけど、濡れたい気分?笑」

夏「そんなことしたら風邪ひくでしょ!もうっ! お風呂入っておいで!」





あの事件から1ヶ月たった。

あの後、森の中を駆け抜け、道路に出たところで地元の方に助けてもらった。

その足で警察へ行き、事情を全て説明した。

警察が急いで工場へ行くともぬけの殻だったそうだ。

実験道具も壊されており、人も猫もいなかったそうだ。

…もちろんひかるも。





夏鈴はというと、やはり左腕は折れていた。天を抱えてダッシュしたけど、あれはアドレナリンのおかげかな?

天は警察で話を聞かれてる時に、身体の傷を発見され、保護された。

そして、ネグレクトと虐待の疑いで母親は逮捕されることになった。

身寄りが無くなった天は今は施設から学校に通っている。

だけど、今日みたいによく事務所に遊びに来るんだ。






天「お風呂ぬくかったー!!夏鈴の服、ぶかぶか~!笑」

夏「ん。そらそうやろ。」

天「てか、夏鈴、また痩せたんじゃない?ちゃんとご飯食べてる?」

夏「食べてるよ。今日は…」

天「…?」

夏「…食べるん忘れてたわ。」

天「もーっ!なんか作っていい?」




そう言うと天はキッチンで料理を始めた。

最近よく天は事務所で料理をする。色々作って自分で食べたり夏鈴にくれたりする。

育ち盛りなのかな?


天「はいっ!お味噌汁だよ!ひかるの味に似せてみた!」

夏「ん~いい匂い。ありがとう。」



天の作るお味噌汁は美味しい。

…でも…。



天「ねぇ、そういえばなんだけどさ、研究所から逃げようってなったときにさ、ひかるが僕たちに警告してたのに気付かなかったって言ってたじゃん?あれ何?」

夏「あー。あれは、お味噌汁だよ。」

天「お味噌汁?」

夏「天、このお味噌汁の出汁はなに?」

天「えーっと、鰹節から取ったよ?キッチンにあったし。」

夏「それ。鰹節。“猫に鰹節”っていうことわざがある。意味は“油断出来ないこと、危険であることのたとえ”なんだよね。きっとひかるは苦しかったと思う。お父さんに認められたい、だけど私たちのことは傷つけたくない。あわよくば自分のことを助けて欲しい。色んな感情で苦しみながらここで過ごしてたんじゃないかなぁって今になったら思うよ。もっと早くに気づいてあげていればなぁ。」



天「ふーん。そっか。あ、そういえば!これ!拾った!」

夏「もー。何でもかんでも拾わんの!」

そう言いながら天が見せたものは週刊誌だった。

天「ここ!これみて!」

夏「なになに…」

そのページには何とあの研究所の写真と共に、あの博士の顔写真がどどんっと載っていた。




そして内容は夏鈴達を拉致し、実験を受けさせていたことや、その実験内容が事細かに記されていた。

もちろん、過去に夏鈴が子どもの頃に拉致されたことも。

こんな内部情報、密告できるのは彼女しか…




天「漢字が多くてよく分かんなかったけど、この研究所よくないとこだよー!って書いてあるんでしょ?」

夏「ふはっ。そうだね(笑)研究所も抑えられて、博士も捕まったんだって。色んな余罪があるんじゃないかって今調べられてるらしいよ。もちろんあの猫と話せる機会も製造中止。」

天「そっかぁ。ひかる、元気かなぁ。」

夏「…元気だといいね。」






あれからひかるとは会っていない。

もちろんレオンとも。




ねこちゃん達に話を聞いたり、探偵としていろいろ調査に出たりしてはいるが、特にこれといった情報は手に入らない。

ひかるがどうなっているかも分からない。




天「…はぁ。ひかるのお味噌汁、飲みたいなぁ。」



そう呟いてズズっと味噌汁をすすった時だった。






コンコンッ



事務所のドアが叩かれる。

夏「はい。依頼かな?こんな雨の日に。」

天「はーい!僕出るねー!」

夏「ん。お願い。」





天に任せてもう一度週刊誌に目を落とした。




天「夏鈴っ!夏鈴、夏鈴!!!」

夏「んもー。なに。」











?「あの…拾ってください。」







聞き覚えのある言葉。

雨の音。



顔を上げなくても、誰かすぐ分かった。








夏「…っ!おかえり。






Fin.